惨劇!
イセリナは、剣を左手で握り構えた。
盾を持たず、利き手じゃない手に剣。
誰が見ても、結果は見えていた。
「あ、暁。盾をお願い……」
イセリナは、力なく暁に伝説の盾を託した。
暁は、素早く伝説の盾を拾い上げ、左手に構える。
普段、盾を装備しない暁に取って、お荷物以外の何物でもない。
暁は、焼け爛れた右足を庇いながら、槍を構える。
ウッディはというと、道具袋から特製の薬草を引っ張り出していた。
イセリナにしても、暁にしても、もはや薬草で直せるレベルではなかったが、ウッディは少しでも回復出来ればと思い、二人を気遣い準備に取り掛かっていた。
「死ぬ覚悟は、出来たか?」
イシュケルは肩に嘆きの剣を抱え、イセリナに問う。
対してイセリナは、イシュケルにこう返す。
「残念だわ……こんな形になるなんて……」
イセリナは諦めにも似た、言葉を述べながら涙を浮かべた。
剣を握り締めた左手は、震えが止まらず、爛れた右手からは血が滲んでいた。
やがて、イシュケルに向けていた剣先は、吸い付くように地面に向けられた。
「イセちゃん、駄目だよ! 死ぬなんて僕が許すわけないだろ! 構えろよ! 可能性はゼロじゃないんだ! 諦めんなよ!」
「暁……もういいの。もういいのよ……私の負けよ……」
「そ、そんな……そんなの悲し過ぎるよ。僕は、そんなイセちゃん何かキライだ~!」
イセリナは、暁の言葉に何も返さず、ただニッコリと笑って見せた。
「戯れ言は終わりか? ならば、行くぞ! 死ぬぃ!」
イシュケルは、目を血走らせながら、イセリナの頭上目掛け剣を降り下ろした。
刹那。
砕けるよな鈍い音が、辺りに溶け込む。
「……かはっ!」
イセリナの前に、ウッディは身を投げ出し、犠牲になった。
「ウッディ!」
「死ぬのは……俺……一人で……いい……諦めん……なよ」
「目を開けて、ウッディ……ウッディ!」
ウッディは、イセリナに薬草を渡すと、静かに息を引き取った。
「ウッディ……私が間違っていたわ。暁の言う通りゼロではない。例え限りなくゼロに近くても、可能性があるなら……私、やるわ」
イセリナは、ウッディから受け取った薬草を右手に塗り込むと、右手に剣を握り締めた。
「イセちゃん、これを」
涙を流しながら、暁は伝説の盾を、イセリナに返した。
「暁、ウッディをお願い……亡骸を傷付けたくないわ」
「う、うん……」
暁は、嗚咽を吐きながらウッディを抱え下がった。
「おい、おい。そんな汚い死体どうするのだ? ザコが一人死んだからと言って何になる?」
「見損なったわ……もう、過去の記憶に縛られないわ。……やはり、私達にとって貴方は敵。それ以上でも、それ以下でもないわ……。イシュケル……正義の刃を受け取りなさい。イセリナ、参ります!」
イセリナは地塗られた剣を、振りかざしイシュケルに向けて走り出した。
イシュケルも、それに答えるように嘆きの剣を振りかざす。
激突する二つの金属音。
「やるではないか!」
「そっちこそ!」
イセリナとイシュケルの、本気のバトルが今始まった。




