魔王の思惑
セイレーンを倒し、イセリナと暁が中央の噴水に戻ると、ウッディが待っていた。
「お~い! イセリナ、暁~」
ウッディはテンション高めで、大きく手を振っている。
その姿を見て、暁は不機嫌な表情を見せる。
「暁、どうしたんだ?」
ウッディは、それを察知し暁に問い掛ける。
「何かウッディに、ものすごくイヤな事を、言われた気がする。何を言われたかは覚えてないけど……」
何となく記憶が残っていたイセリナは、暁を宥め商業区画へ行こうと切り出した。
「二人共、お腹空いたでしょ? まずは美味しいもの食べて、それから伝説の武具の情報集めをしましょう」
「イセリナの言う通りにしよう。暁!」
何とか話をはぐらかし、ウッディは暁の機嫌を取った。
商業区画は、武具屋を初め、飲食店や宿泊施設などありとあらゆるものが充実しており、他国からの旅人を釘付けにした。
イセリナ達も、例外ではない。
イセリナとウッディは、暁の機嫌が悪くならないように、リクエストの肉料理のある店を探した。
「ここがいい」
暁が選んだ店は、アルタイトでも有名な高級レストランだった。
通常ならまた今度と言いたいところだが、何故かスロットで一山当てた大金があった為、イセリナはそれに了承した。
頬が落ちるほど旨味があり、とけてしまいそうな程柔らかい肉を山ほど食べ、暁の機嫌はようやく治まった。
「美味しかったわね。戦いが終わったらまた来ましょう。さて、今度は伝説の武具の情報集めよ。どんな小さなことでもいいから、手掛かりにするのよ」
イセリナはそう言うと二人に、手分けして情報集めをしようと提案した。
二人はそれに同意し、それぞれ街に消えて行った。
◇◇◇◇◇◇
一方魔王サイド
イシュケルはセイレーンの敗北を知り、激しく怒りに溢れていた。
「セイレーンめ! あと一歩の所を……使えん奴だ」
イシュケルは、王座を蹴りあげると魔界ゲートに向かった。
「俺の魔力が、まだ未熟ということなのか……」
イシュケルは自分を責めながらも、再び黒龍石を掲げ、祈りを捧げた。
「お呼びですか、イシュケル様。我輩、『マインドフレイム』と申します。炎を扱わせたら、我輩の右に出る者はいません」
「ほう、大した自信だな」
「良かったら、お見せしましょうか?」
「いや、いい。お前を呼び出してから、暑苦しくて敵わん」
「これは、失礼」
マインドフレイムは、全身に覆われた炎を萎縮させた。
「イシュケル様、我輩は何をすれば良いのですか」
イシュケルは、暫く考えた後、話し始めた。
「勇者イセリナを亡き者にして欲しい。但し、俺も同行する。良いな?」
「承知。イセリナ達は、いずこへ?」
「今はこの城の近くにある、アルタイトに居るようだが……」
イシュケルは、再び考え込み項垂れた。
「それならイセリナ達は、ガナン火山に向かう筈です。アルタイトやこの城からガナンは近いですし、伝説の武具が眠っていますからね」
「待ち伏せすると言うことか? マインドフレイムよ。お前は頭のキレる奴だな」
「もったいないお言葉。では、早速ガナン火山に赴きましょう」
「うむ」
イシュケルは、マインドフレイムの提案した作戦を尊重し、ガナン火山でイセリナ達を待ち伏せすることにした。
記憶を摩り替えられたイシュケルは、初めてイセリナ達とコンタクトを取ることになる。




