夢?現実?
正体を現したセイレーンは、魅惑的な姿でイセリナ達を見つめる。
イセリナ達は身構え戦いに備える。
「おい! 皆来てみろよ。何か姉ちゃん達が、ケンカしようとしてるぞ」
一人のギャンブラーが騒ぎ立て、イセリナ達の周囲は、はあっという間に野次馬で埋め尽くされた。
野次馬達は、ケンカ(戦い)を止めるどころか、どっちが勝つかなどとお金を賭ける者まで出る始末だ。
イセリナ達にとっては実にやりづらい状況だ。
イセリナは、やむを得ず鞘から剣を抜き、まずは小手調べと言わんばかりにセイレーンの上段部を斬り付けた。
セイレーンは特に素早さが優れている訳でもなく、イセリナの攻撃を避けきれず肩から流血した。
「おい! そっちの姉ちゃん、もうちょっと手加減しろよ」
野次馬達は、敵であるセイレーンを庇い、味方であるイセリナ達に罵声を浴びせた。
攻撃することに躊躇したイセリナに、セイレーンはニヤリと不敵な笑みを浮かべながら攻撃を仕掛けてくる。
普段のイセリナなら避けることが出来る攻撃を受け、ダメージを負った。
「どうしたんだよ、イセちゃん。あんな攻撃避けれるだろ?」
暁は、イセリナが野次馬達の野次の所為で、普段の力を出せないでいるのに気付いた。
「イセちゃん、気にするなよ。ったく……何処までお人好しなんだよ。僕がやるしかないか……」
暁はイセリナを気遣い、前に躍り出た。
地面を蹴りあげ、得意の空中戦に持ち込む。
突き上げた槍は、見事にセイレーンの右肩を貫いた。
「おい! やり過ぎじゃねぇか?」
野次馬達は、暁を非難するが、暁はそれに動じない。
尚も、攻撃を続ける。
実力から言ったら、完全に暁の方が上だ。
順当に雌雄は決するものと思われた時、セイレーンは奥の手を使った。
「己、このままでは……。やはり、幻覚を使うしかあるまい。記憶を書き替える力は残ってないが、それくらいなら……」
セイレーンは幻覚の術を放った。
野次馬達とイセリナは、術に掛かり右往左往している。
一方の暁は、辛くも空中にいた為、セイレーンの幻覚から逃れていた。
セイレーンに取っては失態だったが、イセリナを幻覚に陥れただけでも収穫である。
地面に着地した暁は、慌てふためいた。
野次馬達やイセリナが、暁の周りに集まり身動きが取れないまでに封じられた。
「くそ……おかしな術を使いやがって……」
セイレーンは、身動きの取れない暁に対して執拗に攻撃をした。
一方的に攻撃を受け、暁は気を失い掛けていた。
「……くっ……」
最後の力を振り絞り、纏わり付く野次馬達に峰打ちを喰らわした。
「あれ、私……」
暁の峰打ちのお陰で、イセリナ含む野次馬達は正気を取り戻した。
「イセちゃん……後はお願い」
暁は、イセリナに全てを託すと気を失った。
イセリナは状況把握すると、連続してセイレーンを斬り付けた。
術から解けたイセリナに取ってセイレーンは敵ではなかった。
セイレーンは最後の叫び声を上げた後、静かに目を閉じた。
「やったわ……」
一方ウッディはというと、大木に向かって口説いていた。
「……あれ? 俺、何してたんだ?」
ようやく正気を戻したのであった。




