幻覚に消された記憶
緊急企画として、活動報告にて、主要キャラのインタビューを掲載します。
普段見られない、彼らの姿を見て下さい。
階段を降りるとそこは、四畳ほどの狭い空間があった。
「イシュケル様には、ここで一日過ごしてもらいます」
「こんな狭いところで?」
イシュケルは思わず、聞き返した。
「ここは惑いの間といいまして、様々な幻覚が襲ってきます。見事その幻覚に打ち勝った時は、驚くほど強靭な肉体と魔力が手に入ると言われています。イシュケル様、如何なさいますか? 決めるのはイシュケル様、ご本人です」
イシュケルに迷いはなかった。
二つ返事でマデュラに返すと、惑いの間での修行に合意した。
「それでは、二十四時間後お会いしましょう。ご武運を」
マデュラはそう言い残すと、階段をかけ登り入り口を塞いだ。
何もない空間に残されたイシュケルは、特にやることもなくただ目を閉じた。
「俺は何をすれば、いいのだ。幻覚とは何なのだ……」
一人ごとを発していると、誰かがイシュケルに囁いてきた。
「お前のせいだ! お前が悪い」
イシュケルの瞼の裏に現れた黒い影が、罵倒する。
何か言い返そうとするが、声は出なかった。
「お前は生きる価値がない。死ねばいい」
更に現れた黒い影が、イシュケルに言い放つ。
〈くっ、誰なんだ〉
「お前を許せない。消えろ」〈やめろーっ、やめてくれ〉
イシュケルは、心の中で何度も叫んだが、その声は黒い影達によってかき消された。
次第に呼吸することさえ困難になり、意識が飛びそうになる。
必死で瞼を開けようとするが、開けない。
やがて、黒い影達はイシュケルに纏わりつき、身体を引きちぎるかのように、強く絡み付く。
「苦しめ、もがけ」
〈許してくれ……〉
「許すはずないでしょ」
イシュケルは、聞き覚えのある声に反応した。
「イセリナ……か?」
今まで出なかった声が出た。
それと同時に、黒い影が正体を現した。
黒い影の主は、暁、ウッディ、そしてイセリナだった。
「皆、どうしたんだ? 何故、俺を責める」
そう発するイシュケルにイセリナは答えた。
「お前は、敵だ。私達の敵だ」
「違う! 俺は、俺は…………」
「イシュケル様、イシュケル様? お気を確かに」
「ま、マデュラ……か」
イシュケルが気が付くと、そこにはマデュラが立っていた。
「気が付きましたか? 約束の一日が経ちました。大丈夫ですか?」
「あぁ、何とか」
「イシュケル様、これをお飲み下さい」
マデュラは緑色の液体を、差し出した。
喉が渇いたイシュケルは、それを一気に飲み干した。
「うぬぬぬ……」
イシュケルの身体から、エネルギーが満ち溢れた。
「俺は何を迷っていたのだ。憎い、勇者どもが憎い。イセリナめ、殺してやる……」
イシュケルは有り余る魔力を解放した。
それと引き替えに、イセリナ達と過ごした日々、イセリナへの想いが吹き飛び、変わって憎悪が増幅した。
「マデュラよ、俺はイセリナ達が憎い。一刻も早く根絶やしにするのだ」
そこには過去のイシュケルの姿はなく、魔王本来の邪悪なイシュケルだけがいた。
「イシュケル様、仰せのままに……」
〈どうやら、うまくいったようですね〉
イシュケルはマデュラの思惑にハメられ、記憶を失ったとも知らずに、イセリナ達への逆襲を誓った。




