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許されぬ恋

 イシュケルはイセリナ達と黒龍山へ向かっていた。

いくらイセリナの好意とは言え、本来ならば敵同士。

 イシュケルの不安が払拭出来た訳ではない。

いつ何時イセリナに正体がバレようとも限らない。

 そんなイシュケルの不安をよそに、イセリナは優しく接してくる。

 イシュケルは思った。


〈その時が来たら、イセリナと戦えるのか〉と。


 何も見返りを求めないその姿は、正に真の勇者そのものだ。

 イシュケルは自らの運命を呪った。

何故ならば、この僅かな間にイセリナに惹かれかけている自分がいたからだ。

 しかし、それは叶わぬ恋。

愛してはいけない人。

 これから先、これがきっかけで苦悩するとは、イシュケルはまだ知らない。



◇◇◇◇◇◇


 広い荒野を抜けると、強大な岩が行く手を遮る。


「離れてくれ、これくらい朝飯前だ」


 素早く詠唱したウッディは雷の魔法を放ち、大岩を木っ端微塵に砕いた。


「な? 楽勝~、楽勝」


 イセリナはいつものことと言わんばかりに、ウッディの言葉に耳を傾けず言った。


「さぁ、進みましょう」


 ウッディは褒めてもらいたかったのか、一瞬不満そうな顔を見せるが黙ってイセリナの後を追った。

 一歩遅れて二人の背中を追うイシュケルに、イセリナは質問を投げ掛けた。


「実太は何処から来たの?」


 旅を続けるに当たって、極当たり前の質問だ。


「俺は……魔、いや、何処から来たかわからないんだ」


「そう。よくあるモンスターの毒気による記憶喪失かもね」


〈モンスターの毒気で記憶喪失になることがあるのか〉


 何も知らないイシュケルに取っては、思ってもみなかった情報だ。


「質問を変えるわ。何故、実太は黒龍石を必要とするの?」


 さすがに、その答えには参った。


「それは……」


「イセリナ、敵だ!」


 幸いににも、敵が現れ話は中断された。


「実太、あなたは下がっていて」


 イセリナはそう言い添え、現れたモンスターに一目散に走っていった。

 初めて見るイセリナの美しい剣さばきにイシュケルは見とれていた。


「あぁ、イセリナよ。君は何て美しいんだ」


 イシュケルはもはや完全なまでにイセリナに心を奪われていた。


 ウッディの援護もあり、イセリナはあっという間にモンスターを蹴散らした。


「実太、もう大丈夫よ。怪我はない?」


「あ、あぁ」


 吐息を感じれる程に近付くイセリナに、イシュケルは頬を朱に染めた。


「実太、何赤くなってんだよ。まさか、イセリナに惚れたのか?」


「ウッディ! 冗談はやめなさいよ。実太が困ってるじゃない。ごめんなさいね、実太」


「い、いや……」


 本当は〈好きなんだ〉とイシュケルは叫びたかった。

しかし、それは許されぬこと。

イシュケルは言葉を封印するように、口を固く紡いだ。


 黒龍山の山頂へ着くと、ウッディが意図も簡単に黒龍石を見つけ道具袋いっぱいに持たせてくれた。

 このウッディという男も軽そうには見えるが、実際器の大きい男だった。

 ウッディの魔法で、一気に港街に戻ると二人とも優しくイシュケルを見送った。

黒龍石をイシュケルに渡したことが、自分達を苦しめるとも知らずに。


 イシュケルは見送る二人が見えなくなると、再び魔界のマデュラの待つイシュケル魔城へと戻った。

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