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3月32日

次の日、ようやくこの日が来たのか。

昨日があまりにも長すぎたのかもしれないが、

とりあえず待ちくたびれた気分だ。


時計を見る・・・現在時刻は”9時14分”

・・・なぜ親は起こしに来ないんだ!

もう30分以上遅刻しているじゃないか!!


今日はいつもと様子が違う。

親は学校の1時間以上も前に起こしてくるほどの

早起き野郎なのに、なんで今日は起こさないんだ?


親を探しにまずキッチンへ向かったが、親の姿はいない・・・。

廊下やトイレの様子もうかがったが、見当たらない・・・。

親の布団を見た。父親もろ共姿を消していた・・・。


テーブルの上に手紙すら置いて行かずに、

どこかえ消えたのかもしれない。


だが普段からそういうことをする親ではない。

なんでだ、なんで急に消えたんだ?


時計をもう一度確認する、先ほどとほとんど変わらない”9時19分”

そしてカレンダーを見る。今日は間違いなく、3月32日である。


ん?”3月32日”・・・?

いや、あり得ない。今日は間違いなく4月1日のはずなのに、

そもそも3月32日が存在するわけもない。


うるう年にしても1か月遅い。そして何よりおかしいのは、

このカレンダーは、3月31日以降、全て3月表記であることだ。


ページをめくっても、やはり表記は3月。そして数字はみるみる大きくなっている。


最終的には3月311日まで存在した。なんだこれは・・・。


もはやわけがわからない。これはきっと夢なんじゃないか?


そうだ、これは夢だ!今すぐ目が覚めればそこにはいつもの風景が・・!


俺は頬をつねった。だが残るのは痛みだけ・・・。

頭をタンスにぶつけた。それでも夢から覚めない。


やはり何をしても目が覚めない上に、痛みが生々しい。

これは間違いなく「現実」だ・・・。


今日の日付は3月32日。

俺は、今まで過ごしたこともないような

日々をここで送ることになるのかもしれない。


その時机からなぜか取り出したのは、

授業で使う予定の日記。


その日付に”3月32日”と記し、

今日の様子を書くことにした。


「3月32日。今日は部屋の様子がおかしい。

 親は二人とも出かけているし、そもそもカレンダーが

 3月32日というのがあり得ない。これはきっと夢なんだ。」


普段から日記を書くこともない俺には、これが精いっぱいだ。

親が返ってくれば、全ては丸く収まるだろう。


それでいいんだ。何の問題もない。


とりあえず腹が減ったので、なぜか

独りでに炊き上がっている米を食べる。


俺は炊き上がった米を何もつけずに

そのまま食べるのが好きなのである。


米にもれっきとした味がある。

親はおかずと一緒に食べなさいなんて言うが、

ここまでおいしい食べ物は他にはない。

誰も米の本当のおいしさに気づいていない。


・・・と、そんなことを考えている暇はないはずだ。

とりあえず今は、この3月32日から一刻も早く脱出

することが先だ。


・・・11時2分。


今聞こえてくる音は、耳鳴りと、時計の音だけ。

親が返ってくる気配は全くない。


それどころか、外から聞こえてくるはずのガキ共の声すら

聞こえてこない。俺は一度様子を見る。


アパートの敷地には、この時間にはいつもガキが遊んでいるのだけど、

なぜか今日は人っ子一人いない・・・。


車の通る音すら聞こえてこない。


完全に無の世界と化している。


あまりにも気味が悪くなってきたので、外へ出ることにした。



・・・ない・・・人の姿が、何一つ存在しない。

犬の散歩をするじじいの姿も、道路工事をしてるおっちゃんの姿も、

道路の半分を占領するほどの巨大なトラックも、

一切存在しないのだ。


人の気配もなく、ひっそりとたたずむ無の町。

その無の町にただひとり、俺は存在していた。


とりあえずそこらへんを歩くことにする。

だが歩いても歩いても物音ひとつ聞こえやしない。

ただ一つの足音だけ、この町で響き渡っている。

足音がここまで大きい音だったなんて、知る由もなかっただろう。


あの駄菓子屋からも、おばさんの姿が消えていた。

おばさんに取り残された店の商品が、さみしそうに

たたずんでいた。


でもこのお菓子はまだいいほうだ。

君たちには仲間がいる。


でも俺は一人だ。今は誰にも相談できない。

いや、前から誰にも相談する必要なんてなかったが、

こんな時に限っていない相談相手。

一体誰に怒ればよいのだろうか。全く見当もつかない・・・。


・・・結局、今日は夜中になっても親の姿が

現れることはなかった。


物音ひとつ聞こえないアパートの一室。

何もない1日を終えることしかできなかった・・・。

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