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These Dreams

特に注意が必要な描写は無いと思いますが、百合要素が苦手な方はご注意を。

××××× ×× Oh.Baby...


暑苦しい八月、快晴の日。

やけに重ったるいヘッドフォンから溢れ出る女性シンガーの歌。誰が歌ってるのか知らないけど、きっと良いスタイルしてるんだろうなーなんて考えながら、煙草に火をつける。

セーラー服に火種を落とさないよう気をつけながらベッドに横になる。

目を瞑る。扇風機の風が前髪に当たり、少しこそばゆい。


うーん不味い。

慣れない煙草の毒に冒される脳内。

曲がサビに入った頃に、不意に額をつつかれる。


「こら。煙草はよしなさいと言ったでしょう」


そう言いあたしの口から煙草を奪い、一口吸ってから灰皿に押し付ける。

なんだこやつは、なんて憤慨したい。けどこの煙草もヘッドフォンもベッドも、ついでに言えば私もこの人のものだから。

揉み消す仕草を見ながら、煙草とは違ったにおいを嗅ぎ付ける。鼻腔をくすぐり唾液の分泌量を促進させるこのにおいは。


「お昼ごはんにしましょう」


どうせオメー腹減ってんだろ仕方ねぇな、とでも言いたげな優しい笑顔で促されれば、食べてあげなくもなくもないこともない。


「いただきます」

 

二人で言い、食事に手をつける。今日の献立はシンプルなお皿に盛ったナスとトマトとベーコンのスパゲッティ。それと氷の入ったグラスに注がれた麦茶。これが日本の代表的な昼食ですと告げれば、何人が笑ってくれるだろうかなんて考えた。

目の前で上品にくるくるとフォークに巻いて食べる姿に少し劣等感を覚える。私も対抗してくるくるとやってみたが、麺だけが絡まって具がなかった。

仕方ないので口に入れると、またもや劣等感を覚える。美味しいなあもう。しかし食べ物に罪は無いとよく聞くので、がっつく。下品な食べ方でもいいじゃない、面倒だもの。

 

食べ終えて、後片付けをした。

程よい満腹感に幸せを感じながら、ベッドに座って窓の外に目をやると、雲ひとつ無い空とビルと住宅に覆われる。窓の外から差し込んだ日光がフローリングを照らし、何とも言えない良い気分。これは何のご褒美なんだろーうと頭の中でのたまいながら横になる。

 

「ねえせんせ」

 

隣に座り煙草を燻らす先生に声を掛ける。

どうしました、と問われたので冗談混じりにこう言った。

 

「あたしのお嫁さんになって下さい」

 

出来るだけ晴れやかな笑顔でそう告げた。

先生は案の定苦笑する。

 

「あなたが私をお嫁さんにして下さいね」

 

料理なら教えてあげますから。と素敵な笑顔で言われて少し恥ずかしくなった自分が悔しい。歳の読めない綺麗な髪と可愛い顔の組み合わせなんて反則じゃないですか、とこの場に居ない誰かに問いたい気持ちが膨らんで、思わず唇を重ねてしまう。

先生の唇を割って入れた舌に、人の口内独特の熱が広がる。舌から頭に広がって、全身を駆け巡るその熱はいつだって新鮮だから不思議だ。

唐突なキスに驚くほど先生は無用心じゃないし、いい加減慣れたのだろう。

片手をあたしの頭に回し、舌が二人を行き来する。

あたしも両手を先生の頭に回し固定する。より深く熱を求めるように。何より離さないように。

大人のキスではなく、乳児が母親の母乳に吸い付くかのような幼稚な舌使いになってしまう。それを先生は上手に絡めとるのだ。ここでもやっぱり劣等感。はやく上手になりたいですね切実に。

全身に巡る熱だか毒だか分からないものを感じつつ、先生をベッドに押し倒す。

 

 

 

夢を見ている。先生とあたしが川原をポッキーを食べながら歩いてる夢だ。二人でひとつずつ持ったビニール袋の中身は、スーパーで買った夕食の材料。

ていうかこれ、一昨日の記憶じゃん。

と冷静になったころにはもう目は覚めていた。

窓の外は月が浮かんで、住宅からはぽつぽつと光が漏れている。入り込む風の静かな音と相まって、今が夜だと教えてくれる。

汗やらなにやらでべたつく身体に気付き、身体を起こす。

その拍子にずれたシーツから覗く、先生の寝顔。

少し開いた口から零れる可愛い寝息、いつも理知的な横顔が今は幼子のようで。

このままではまた発情してしまうと思い、起こさぬようにベッドから出る。

そして扉を開けて、浴室へと向かった。


昼の時よりもさっぱりしたことに清々しさを覚え、先生の眠る部屋へ向かう。

やはりまだ眠ったままで、その寝顔を眺めることにした。

隣に寝転び、先生の煙草に火を付けて、ヘッドフォンをつける。やっぱり流れてくるのは名も知らぬ女性シンガー。起きたらこの人の名前を聞こうと考えながら、あたしもまた眠りに落ちた。

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