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第17話、アリスの魔術訓練計画。

長らく放置して申し訳ないです。


「ごめんなさい、お兄ちゃん」


「へ?」


唐突の謝罪に驚いた蓮の間の抜けた声が訓練場に響く。

蓮の目の前ではいつものワンピースを着たアリスが深々と頭を下げている。


「な、何をいきなりあやまってるんだ?ほら、顔を上げて。」


蓮が片膝をついて、アリスの肩をもって体を起こさせるて目を合わせる。

その唇を固く結び少し瞳を潤ませていた.


「お兄ちゃんの魔力量が尋常じゃないのはわかってたのにまたあんな失敗しちゃって……。」


魔方陣を純粋な魔力量だけで破壊するということは、同時にそれが肉体強化であっても同じであるということにアリスはもっと早く気づかなければならなかった。

それに気づかなかったのは単にアリスの頭が回らなかっただけ、というわけではなくて、アリスは妄想の中で、ではあるが蓮に説明していたつもりだったのでまたしても魔力量の調整を怠ったまま膨大な魔力を集中させることになるとは思っていなかったからである。

とはいえ、どちらの場合にしても今回の事件は確かに蓮の魔術の導き手であるアリスに責任のあるものであった。

しかし、蓮もそのことはわかっていたが、もちろんアリスを責める気など毛頭なかった。


「やっぱり気にしてたんだな。良いんだ、それでもアリスのおかげで俺は脚がぶっ飛ぶことも死ぬこともなかった、ありがとうな。」


そして蓮はそのままアリスを胸に抱きしめた。

少し潤んでいたアリスの瞳からは蓮のやさしさに耐え切れなかった涙腺がしずくをこぼす。

魔術の修得には危険が伴う。

今回はアリスが直前に気づいて誰も大事には至らなかったが、またしても兄を危険にさらしてしまったことは、アリスにとって心を痛めずにはいられないことだった。


「だからな、アリス、また俺に魔術をおしえてくれ。俺にはアリスの手が必要だ。」


これまで強くなるために努力しつづけてきた蓮にとって、強くなる、という点だけにおいても魔術というものは願ってもない果報だった。

加えて母の復讐という確固たる目的を見つけた蓮にとって魔術はなくてはならないものになった。

魔術の訓練開始から立て続けに起こったこの二つの事件は蓮自身に死を意識させ、同時にこれから自分が手に入れようとしているものは人を傷つけ、死に至らしめる凶器であるということを再確認するいい機会だったと蓮は思っている。

アリスも蓮に必要とされることがうれしく、強くうなずいて涙をぬぐう。

そうして少し落ち着いてから、アリスは蓮から身を離す。


「じゃあ、早速はじめたいと思うの。」


そういうと、アリスは新たな訓練の説明を手短にする。

まず第一に今回の訓練で目的とすることはもちろん魔力量の調整をマスターすることである。

無論常人には必要のない訓練である。皆魔術の修得していく上で自然とその魔術に適切な魔力量を感覚として感じ取る。

蓮の魔術訓練は数々の段階をすっとばしているので、蓮は普通の魔術師と同じように、自らの内的魔力を感じる時間が極端に短い。

そしてさらにその魔力量が常人をはるかに超えて多い蓮だからこそ必要な訓練なのだ。

この訓練は実際にすることとしては至極単純で、蓮にとってはかなり難しいことであった。


「じゃあ、お兄ちゃん、あらためてはじめるの。」


アリスは右手をすっと前に伸ばした。

開いた手のひらから瞬くように魔方陣が出現し、同時に乾いた地面に水がしみこむかのようにいくつものルーンが魔方陣に広がる。魔方陣が完成するのにものの1秒もかからない。

アリスにとって当然のことだが、やはりまだ魔術に慣れていない蓮にとっては信じられない早業のように思え、しばし見とれてしまった。

アリスに呼ばれてその魔方陣に手をかざすように言われたときも、蓮の心は魔方陣に捕らわれていて驚いたような声をあげてしまった。


「訓練は簡単、この魔方陣に魔力を注ぎ込むの。」


「え、でも今回は大丈夫なのか?」


二度の魔力の爆発的な拡散の後である、蓮としてもさすがに警戒している。


「もちろんなの、そのためにアリスがお手製の拡張術式と付加術式を組み込んだの。」


アリスの作った魔方陣は最初に蓮が見た魔術、『アンバーランプ』である。

そして拡張術式と付加術式によって、魔力量に応じて火は大きくなり、色はオレンジから青へと変化していき、定められた量を超えた魔力は空気中に放出される仕様になっている。

視覚で自分の放つ魔力量を認識することができ、次はいくら魔力を注いでも魔方陣が破裂することはないというわけだ。

元々超初級魔術であるが、独自に、術式にここまでの可変性を与えるのにはかなりの技術と知識が必要となる。

それを八歳で成してしまうアリスはやはり神童というにふさわしかった。

しかし、ここまでしているが、それでも蓮が本気で魔力を注ぐとおそらく術式はまたしても破裂するだろうとアリスは踏んでいる。


といったような大まかな話を説明した上で訓練は始まった。


「最初はおっきくて、青い火がでるはずだからお兄ちゃんは自分の魔力量をちょっとずつ減らしてその火を小さくて赤い火になるようにするの。この魔術は一番初歩で魔力の消費もトップクラスに少ないから、小さな火を出せるようになれば、おにいちゃんもいろんな魔術を使う基礎の基礎ができたってことなの」


ついにまともな魔術の訓練ができる。そのことに蓮は口角が上がるのを我慢できない。

魔術の訓練をすることになった日から、毎晩寝るときも期待で体がうずき、授業中もアリスから教えてもらったルーンを少しでも覚えようと必死だった。

度々のアクシデントに中断されてきたが、ようやく期は熟したといったところ、体内の魔力に意識を傾けながら気合十分に右手を不自然に宙に在る魔方陣に向ける。


「よし、じゃあやらせてもらおう!……。」


「……、くすっ、『僅かな灯火を、』。」


「お、おう、『僅かな灯火を、アンバーランプ』!」


言霊と共に蓮は魔方陣に魔力を送り込んだ。

ほんの一瞬魔方陣に輝く。そして直後に生じたものは火ではなく炎。

10メートルの天井に優に達するほどの青白い炎だった。


「魔力を減らすの。」


この訓練では火は小さければ小さいほど、赤ければ赤いほどよい。

今の状態は訓練として、確実に不可である。

蓮は静かに頷き、送り続けている魔力を絞ろうとした。


「あ。」


とたん、炎は根元から消え、同時に役割を果たした魔方陣も霧散した。

もちろん蓮は炎を消すつもりではなく、小さくするつもりだった。

当然炎が一度に消えてしまったのにもわけがある。

たとえば魔力量を数字で表すとして、魔力量が1の人間と、魔力量が5の人間が同じように体内に感じる魔力を魔方陣にこめれば、後者のこめた魔力は前者の5倍濃いものになる。

そのことは前回までの訓練で十分に体感した。

そのため今回は蓮はあらかじめ十分に小さめの魔力をこめた。

それでも『アンバーランプ』のような非常に燃費のいい魔術にこめるとこのようなことになってしまう。

もちろん、アリスの付加術式によって魔術がもてあました魔力は排出している。

訓練の結果としては、もとより少なめに調節しているので、魔力にまだなじんでいない蓮はさらに魔力を減らそうとして魔力をとめてしまったということだ。


しかしここまではアリスも予想していたことなので特に何もいわずにまた新たに魔方陣を展開する。

アリスとしても今度こそ蓮の魔術訓練計画に抜かりはなかった。


「でもほんとに燃えねーんだな。」


蓮はしみ時と天井を見上げているが、その先に炎に焼かれたような跡も煤も見当たらない。

そのように設定しているとは聞いていたが、実際に見てみるとなんとも不思議な心地であった。

どうも中学校の理科でメタンハイドレートが燃えている映像を見たときに感覚ににていた。

しかしそれ以上に蓮にはついに魔術を起動させたという事実がうれしくてたまらなく、ついさっきまで炎が立ち上っていた空間を見つめ、目に焼きついた映像に心がひきよせられていた。


「おにいちゃん、またするの。」


Tシャツのすそを引っ張られ蓮の意識も現実に引き戻された。




それから十数回試したところで蓮がうめき声をあげる。


「うーん……。できねぇ。」


あれからも蓮の訓練は一歩も進んでいない。

何度も天井に届くほどの炎を出してはそのたびにすぐに消す。

その繰り返しだった。


「まだ成果が見えないのはしかたないの。それでも魔方陣が排出する魔力量はちょっと減ってるときもあるの。」


こめる魔力量を意識してへらしてみても、やはり余剰魔力の量が多い。

この調子だと火の大きさや色が変わるまでに結構な時間がかかりそうだった。


「今藤井さん達がごはんつくってくれてるはずだから、それまでがんばるの。」


アリスに笑顔で言われてはやめるわけにはいかない。

そして何より蓮自身もこの程度でやめるつもりはなかった。


「アリス、午後は予定、なんか入ってるか?」


「ないの。」


「しんどくないなら、午後も付き合って欲しい。」


もちろん、とアリスは大きく頷いた。



――――――――――



結局その後は、昼食を食べてからも夕方までひたすら同じことを繰り返していた。

見て取れる成果は一向に見られなかったが、それでも朝昼通してめげることなく訓練を続けれたのは、蓮の魔術に対する興味、執着、そして日々のトレーニングから身についた忍耐力のためだろう。

アリスは明日は新しいことをする、と最後に言って今日の訓練は終了となった。

まだ何の進歩もしてないのに新しいことをしてもいいのだろうか、と蓮は疑問だったが、アリスにも考えがあるのだろうし黙っておくことにした。


今は日課を終え、風呂も歯磨きも済まして布団の上に寝転がっていた。

人間、大きな力を手に入れると誰でも使いたくなるものだ。

蓮も同じである。少し意識を内側に向ければ鼓動よりも強く、魔力の流れを感じる。

蓮の魔力はとてつもなく多いとは言われていたが、改めて自分の魔力に意識を深くもぐらしても底など見つかりやしなかった。

魔力を使いたい、魔術を起動させたいという欲求も強くあるが、同時にアリスのいない今、魔力の暴発をとめるものはいない。

その恐怖が蓮の若くはやる気持ちをうまく抑制する。

明日の訓練も気になって仕方が無いが今はおとなしく時が過ぎるのを待とう、というわけでボクサーパンツにTシャツ一枚で布団に包まって寝る準備をしているのだ。

時間は10時半を少し回ったところ。

さすがにほぼ丸一日訓練とトレーニングに使ったために、すでに船を漕ぎはじめていた。

そのため蓮の部屋に近づいてくる小さな足音には気づきもしない。

足音が部屋の前で止まり、小さくノックをする音にも反応しなかった。

もちろん新築の新しいドアがたてるかすかな音にも気づかない。


「……、アリス。」


「おじゃましますなの。」


アリスがベッドに入ってきたところでようやく気づいた。

蓮はそれくらいに疲れていた。

アリスはここ数日ですっかり蓮になついていた。

両親共に物心ついたときからいなかったアリスにとって父親と、そして半分ではあるが血のつながった兄が見つかったことは本当に嬉しいことだった。

八歳のアリスがいつまでも子供っぽいしゃべり方をしているのも、血のつながった家族のいない寂しさからだろうか。


「アリス……、おやすみ。」


「おやすみなさい、おにいちゃん。」


それでも眠気を振り払えなかった蓮は少しだけアリスの頭をなでてからすぐに眠りに落ちた。




一年と半年ほど更新してなかったそうな。

本当にもうしわけない。

現在受験勉強に励んでおりますので、次回の更新は二月以降になるとおもわれます。


久しぶりの執筆でしたがやはり三人称は難しいです。

キャラの心情を自然に文章化することができない。


短い更新でしたが、また楽しんでいただける人がいればうれしいです。

ちょくちょく覗きますので、もちろんコメントも受付中です。

では。

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