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第11話、VS良輔。

巨大な風船が弾け飛ぶ様な音が鼓膜を打ち、それに伴って巻き起こる爆風。

部屋の中には熱を持っている訳でもないのに不自然に空気が歪んでいるように見えるところもあった。


「痛ってぇ…、アリスッ!?」


自分が起こした爆発に吹き飛ばされ、受け身に失敗し地面を軽く転がったせいで腰を打った蓮だが、自分と共に爆心地付近にいた妹を思い出して慌てて安否を確認する。


「ん、大丈夫。」


しかしこうなることを直前になって気付いたアリスは魔術を発動するよりも自らも魔力を放出した方が良いと判断して、完璧とはいかないが、その威力をいくらか相殺し、しっかりと踏ん張り身構えることで爆風をやり過ごしていた。

今起きた爆発は拡張術式を組み込んでいない魔方陣が必要な魔力量を大幅に上回る量の魔力を一気に注ぎ込まれ耐えきれずに崩壊、縛りを内側からぶち破った魔力が勢いそのまま撒き散らされた結果であった。

故に爆風は熱を持たず、部屋の中には魔力の層によって奥が歪んで見える現象が起きたのだ。

その為、それを知っているアリスは時間が無かったため、体内で圧縮した魔力を一気に前方に放出するという一種の荒業的な対処方を選んだのだ。


そして、その爆風のさなか、アリスと同じく爆発を予期していたアーサーは、アリスの先日買ってもらったばかりの薄桃色のワンピースの裾が捲れ上がるのを見逃すまいと目を見開き、しっかりとその脳内記憶メモリーに焼き付けていたのだった。

さらにそのバカ親父は現在予想通りの結果に腹を抱えて笑っていた。


「わっはははッ!んふふ、…ひーっ、魔方陣が一回で作れてもなぁ、肝心の魔術がそんなんじゃあ…、あっはっはー」


どうやら先ほど蓮が過去の自分よりも早く魔方陣を作る事に成功したことを根に持っていたアーサーは蓮が魔術の起動に失敗したことにかなり悦に入っているようだった。


「うるせぇ、次はちゃんと起動してやるよ!悪かったなアリス」


直ぐに立ち上がった蓮はアリスのもとへ向かい、頭を撫でながら謝罪していた。

アリスから返事は無いがチャンスとばかりに蓮に抱きつき、気持ち良さそうに目を細めるアリスの顔は返事なんて無くとも良いと思わせる。


「ん、アリス…?」


不意に違和感を感じる腰。

先ほどコンクリートで打ち付けた腰の痛みが不自然に引いていく。

下を見れば蓮に抱きついたアリスが今しがたアーサーが自ら打ち付け、裂傷を起こした額に押し付けていた物と同じ青白い光が蓮の打ち付けた腰を包んでいた。

アリスは起き上がるときに蓮が腰をさすっているのをちゃんと見ていたのだ。

小さな事だが、こういう気遣いをしてくれる人がいるというのは幸せなものである。


それにしても今にして思えば血が出るほどに頭を打ち付けるだなんてアーサーの悔しがり方は異常なものがあった。

これも日本人にくらべ気性が荒いと言われる外国人だからこそなのだろうか。


「さんきゅ、アリス」


アリスはまた返事をすること無く、ただ顔を上げ満足げな笑みを見せたあともう一度しっかりと蓮に抱きついたのだった。


「イチャイチャするのはもうこの際何にも言わねーけどなぁ、魔術の訓練は今日はこれで終りだ。次はまた明日にするんだな」


アーサーようやく壁から背を離し立ち上がる。


「なんでだ?また俺がすぐに成功さしちまうのが怖いのか?」


「ちげぇよハゲっ!今のはちょっと魔力使いすぎだからな、あんましアリスに迷惑かけんなよ」


そういうとアーサーはひらひらと手をふり解散を告げると部屋を出ていった。


「…。アリス、あがるか?」


「ん」


二人もアーサーの後をついてよろず屋の飲食店部にあがっていった。






「そう落ち込むんじゃないよ、蓮」


「いや、別に落ち込んでる事ないんですけどね」


カウンター席に座り夕食を口に運ぶ。


「やっぱり一朝一夕に修得出来るようなものじゃないのはわかってましたし」


「でも、お兄ちゃんは魔術創始者のマリス以外では、一番速いペースでここまできてる…」


「…、らしいぞ親父。」


さすがの蓮も驚きのあまり口に入れかけていたシューマイを一度さらに置いてアーサーに事実確認も踏まえ、感想を求める。


「知らねぇな。」


これまで保ってきた親としての威厳がよもやアーサー自信が最も得意とする分野で脅かされることになるとは思ってもみなかったアーサー。

当然それは親としても男としても面白くないのだろう。


「ふんっ」


まさに一瞬の事だった。

まるでボクシングのジャブの様に気合いと共に放たれたアーサーの右手と箸は二人の間にいるアリスの晩飯を跨ぎ、一直線に蓮が食べようとして皿の上に戻したシューマイに突き刺さっていた。

そしてさらに無駄に素早い動きで引き戻されたそれはなんの躊躇いもなくアーサーの口に収まった。


「あちゃー。」


第一声を発したのは何故か藤井だった。


「てんめぇ、親父ッ――「ゴフッ!?」えぇっ!?」


特にシューマイが惜しかった訳ではないが、いきなり強引におかずを奪われれば当然誰でも怒るだろう。

しかし、その怒りも、まだシューマイを飲み込んですらいないはずなのに何故か気管に入りかけたときのように咳き込むアーサーの不可解な行動にどこかへ飛ばされれる。

とても藤井が噎せ返るような料理を作るとは思えないからだ。


「まさかアーサーが食べることになるとは思ってなかったよ」


「つまり俺が食べるべきだったと?てか中身なんだったんだ…」

娘の手前、一度口に入れたものを吐き出すのも憚られるため何とかシューマイと混入された異物を飲み込んだアーサーが赤くなった顔を上げる。


「…、ワ……サ「ビ。」……」


リズム悪くも間を開けず最後を締めくくるのは蓮の声。

途端、自分の皿に乗っているシューマイに恐怖を孕んだ目で見つめるアリスがいた。


「落ちとってんじゃねぇぞゴルァァ!?」


「いや、むしろこれが落ちだ」


もはやふざけすぎて父の威厳などどこ吹く風である。


「…。なんて親不孝な息子だ。アリス、これからは二人で生きていこうな…」


「お兄ちゃんと?」


「ちがっ!?パパとだよーパパとー」


「お兄ちゃんは…?」


アリスは悪気など全くなく、素でそう言ったのだろう。

それが蓮をさらに喜ばせる。


「…、わかっていたことだ」



そしてこの顔である。



どの顔かは想像にお任せします。


それからのアーサーはそれはもう惨めな姿だった。

自らワサビを食し、息子にはバカにされ、さらには娘にも見放されて親の威厳を失った男は虚ろな目をして黙々と皿に乗る栄養達を消化し、家に帰宅するまで一言も発しなかった。

誰かに声をかけられたのならば返事をすることもあっただろうが、無情にも店内にいた客はもちろん、その場にいた四人も誰一人としてアーサーに話を振らなかった。

蓮と藤井は完璧な悪戯心で無視、アリスは蓮とゆっくりしたかっただけ、山中はアーサーの異常な態度に気を使っていたが異常過ぎるために声をかけることが出来なかった。

一人だけでもアーサーを心配しているものがいたのはせめてもの救いであった。


ちなみに藤井が蓮の皿にワサビシューマイをのしたのは訓練場で蓮が藤井にも「うるせぇ」と暴言を吐いたことに、目上の人に対する言葉遣いを教えてやろう、という子供じみた仕返しの様な理由からだったそうだ。


それから蓮はその日の夜は特に何をするでもなく、早めにベッドで眠りについた。



ちょうど蓮が寝静まってから30分ほどたったころ、アリスの部屋に足音を潜めて忍び寄る変質者…、いや、父親がいた。

新築住宅故か、それともアーサーの手腕か、アリスの部屋のふすまはほとんど音も立てずに開いた。

全ての動きが音を立てさせまいとしている様には見えないがそれでも音は立たない。

まさに無音の暗殺者…、いや、夜這い者。

そのロリコンは和室の畳の隅に置いてあるベッドの横まで行くと畳に膝をつき白を基調とした飾り気の少ない掛敷きお揃いの布団に包まれた銀髪幼女を近くで観察する。

ここだけ見れば子を心配する優しい親に見えなくもないが必要以上に音を立てまいとするその姿は例え彼女の父親であろうと不審者にしか見えなかった。

何せ親が娘に手を出すことも無いわけではないし手にかけることすら起こりうる。


「アリス、ちょっと起きてくれ」


しかし怪しげな行動もそれまでで、アーサーはアリスを起こそうとする。

アーサーはしっかりと分別をわきまえた親であり、娘に劣情を抱いたりはしない。


「ん……?」


まだ眠りも浅かったのか眠たげではあるが直ぐに目を覚まして顔を上げた…。




時は過ぎアーサーは自室のベッドに身を預ける。


「ったく、とんでもねぇ奴らを産ませちまったなぁ」


しかしその顔は言葉とは裏腹にどこか満足げな表情をしていた。



-------------------



「おっ、来とるやんけぇ。どっちが河口なんや?」


蓮と吉田は今渋井家にお邪魔していた。

リビングでゲームをしていたところだが蓮を呼びつけた人物によりそれも中断される。


「おかえり、兄貴。こっちが蓮やで」


リビングに入ってきたのは明良の兄の良輔だ。


「まぁそやろな」


というのも蓮の髪の毛が茶色だからだろう。

本人は余すとこ無く金髪に染め上げられている。


「んなら早よ外でようや」


「おいおい兄貴っ、やるつもりなん!?」


蓮が喋らずとも話は進んでいく。

喋ったところで事態が止まることはないだろうが。


「当たり前やんけ。ええやんなぁ河口?ちゃんとルールもつけるから大丈夫ゃ」

はっきりと明言した訳ではないが、流石にこの流れでくれば誰でも何をするかわかる。

しかしこの時ルールなんか有っても無くても蓮の実力的に結果が変わることは無いと明良は思った。

そしてその思考も分かる様に、明良の中に兄が勝つかもしれないという推測はほとんど無く、ほぼ間違いなく蓮が勝つだろうと思っていた。

止めようとしてるように見えるのは良輔のメンツを保とうとしているからだろうか。


「か、河口…?」


吉田は族のリーダーが今にも友達と喧嘩を始めようとしているのを目の前に普段の調子が出ないほどにビビっていた。


「あんまり喧嘩したくないんすけど…、しないとダメっすか…?」


喧嘩には自信があるから嫌と言うほどでも無いが、それでもなんの恨みもないような人と喧嘩をするのは気が引ける。


「おぅ。まぁそういう訳やからさっさと行こうや。お前が勝ったら今日は皆飯奢ったろ」


「俺が負けたらどうなるんすか?」


「そら俺が喧嘩しよ言うたんやからなぁ、やれるだけで俺は十分や」


それほどに良輔には自信があった。

いくら明良が負けたと言って四歳も年下の奴に負けるとは思う筈もなかったし、自分は族の頭だという肩書きが良輔の自信を確固たるものとしていた。

実の所、隣町の奴らをやったのも武器を使ったか運が良かっただけだろうとすら思っていたのだ。



-------------------



「ゲホッ…、明良があんだけ言うからどんなもんか思たらほんまエグいなぁ。内臓でるか思たわ」


良輔は鳩尾を押さえながら、蓮に手を引かれてよろよろと立ち上がる。

喧嘩は10秒と経たず終わってしまった。もちろん結果は蓮の圧勝だった。


「まじかよ…」


吉田は蓮の喧嘩を見たことがなかったので呆然とするばかりだった。


喧嘩のルールは、勝利条件として、相手のマウントをとるかギブと言わせるか気絶させるかという簡単なもの。

場所は明良の家の前だった。

開始の合図は明良のタバコ。

火がフィルター付近まできたタバコを明良が二人の間に弾く。


先手を打ったのは良輔だった。

素早く距離を詰め完璧な間合いでパンチを放つ。

しかしパンチは蓮には当たらない。

それどころかパンチを見切った直後に低い姿勢で左に大きく一歩踏み出した蓮によって放たれたクロスカウンターが良輔に迫っていた。

そこからは最早蓮の独壇場。

何とか蓮の一撃目を首を左に傾けることで避けた良輔だったがそれはまさに蓮にとって予定通で次の行動に移るのも早かった。

良輔が避けることを前提に甘めに放った拳を開き良輔の右肩の肩甲骨辺りの服を掴んで引き寄せ膝を鳩尾に叩き込む。

首を掴んで顔に膝を入れなかったのは敢えて当てれるパンチを避けさしたのと同じで顔にダメージを負わせたくなかったのだ。

顔にアザが残ると頭をやられた手下達が何を騒ぎ出すかわかったものじゃないしリーダーとしてのメンツもあるだろうと思ったからだ。

そしてモロに膝を食らい何とか一度距離を取ろうとした良輔だったが、蓮がそれを許す筈もなく膝蹴りをした右足をそのまま地面に下ろさず、良輔の足をかけるように良輔の足の後ろに右足を下ろし、さらに右手で良輔首を掴んで一気に押し倒してマウントポジション。


こうして良輔10秒と経たず蓮に破れたのだった。

評価ポイントって減るもんなんですね…。

今日昼頃にパッとケータイで小説情報みてみたらストーリー評価ポイントが8から7に減っててなんだか目から汗が落ちそうになるような予感がして急いで目をこすりました。


もっと精進したいと思います。

感想とかもお待ちしております。

それでは今日はこの辺で。

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