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プロローグ~彼の日常~

「河口、おい河口起きろよ授業終わったぜ」


 入学式から1ヶ月ほどしか経っていないにも関わらず、すでに学習に対する意欲、塾や自宅での学習時間の差、元々の頭の出来、つまり理解力や集中力の差など様々な理由でクラスの中でも明らかに学力の差をつけられ始めている生徒がぽろぽろと出始めていた。


 友人をおこそうとしている彼もそんな世間一般に落ちこぼれと呼ばれる生徒の一人である。

 無論、授業中爆睡し授業が終わってもなお寝続ける河口と呼ばれる生徒もまたその一人であるが。


「ん、吉田今何時間目?」


 机に突っ伏し、惰眠を貪っていた少年の名は河口蓮かわぐち れん

 身長は173センチほど、髪の毛は茶色のストレートで鋭い目付きにクールな性格は小中学校を通して女子から人気があり、特に年下の女子からの人気は絶大だった。

 身長は母親の遺伝子のためか、中学後半に入ると伸び悩みを見せてはいるが、蓮の外見はどこに行っても他人に見劣りすることはなかった。イギリス人の父親と、その父親が一目ぼれしたという日本の女性を両親にもっていることがその最たる要因だろう。

 さらに蓮は小さな頃から父親の教えで種々格闘技を学び、小学5年生になると体のトレーニングも本格的に始め、激しさを増した格闘技の訓練によってその戦闘力は常人離れしている。そのため上級生と揉め事が起きたときも、一度たりとも敗北はなかった。

 そんな蓮だが、中学を卒業してから、親の都合で東京に引越し、東京の高校に入学して一ヶ月がたつ。

 高校を選んだ基準は、学力的な余裕と、単に引越し先の家からの通学距離の短さだった。

 基本的につまらない事と面倒な事は極力避け、楽しい事にだけは真剣に取り組むという性格柄とくに勉強する気も無かった。しかし親の勧めに加え、自分でもこれまでの自分の学力なら苦も無く入れるレベルだっので、どうせなら偉いクラスに入った方が後々得だろうと思って特進クラスに入ったのだが、授業時間はいつの間にか睡眠時間へと変わりゆき、今日とて1時間目から眠り続け、今が何時間目の休み時間なのかすらわからないのだ。


「もう昼休みだよ。寝すぎ。」


蓮を起こした吉田優太は、蓮にとって東京に越してきてからの初めての友人だった。そのクールさがかもし出す一匹狼の雰囲気にかまわず、蓮に気軽に話しかけてくる数少ない人物だ。長めの黒髪を整髪料で器用に逆立て、蓮と同じく長身で、全体的にみてモデルのような雰囲気のある所謂イケメンと呼ばれる部類の男だ。


「飯いこー。腹減ったー。」


「どこで食べるんだ?」


「屋上行かね?」


「いいけどそんなところ開いてんのか?」


 中学の時は屋上は危険なので上がるなと言われていたので少し心配だ。

 とはいえ蓮が中学の時は、友人が毎回鍵を開けてくれるので屋上は蓮たちにとって開放されていたようなもので、一度ピッキングのせいでドアノブの鍵が壊れて南京錠を掛けられたこともあったが、その時は南京錠を開けたあと自前で南京錠を取り付け、何時でも出入り出来るようにし、更に先生が南京錠を開けようとすれば鍵が変わっている事がばれてしまうので、バレないように職員用の鍵も自分達の買った南京錠の物とすり替えるという完全犯罪をやってのけたりもしていた。

 ちなみに未だその南京錠と鍵は後輩に受け継がれているという。


「開いてる開いてる、この前あっくん達と一緒に行ったからな」


 あっくんと言うのは渋井明良しぶい あきらと言う名のこの学校で一番の不良で本人もそれなりには強いのだがそれもさることながら、彼のバックはヤクザや暴走族など尋常では無いのだ。

 性格は気さくなので仲さえ良ければ何の問題もないのだけど。


 ここで蓮と明良の馴れ初めを挿入しよう。

 高校の入学式から翌日の事だった。容姿抜群な上に、地毛ではあるが茶髪の蓮はごく自然な流れで真っ先に目を付けられた。蓮は放課後に学校の裏手から広がる林にお呼び出しされ、特に知り合いもいなかったので、無策単身で指定された林に出向いた。林といっても狭くはない。場所については詳しく伝えられなかったので、行ったところで見つからないのではないかという不安もあったが、それはそれで蓮にマイナスはないので気にせず学校の裏門に向かうと、そこでばったり蓮は明良とそのお連れ数人と鉢合わせた。

 林に入ってからの話は実に単純。

 蓮と明良は一対一のタイマンで勝負することになった。そこに特に理由はない。ただ力関係を明らかにするためだ。

 しかし、「戦闘力が常人離れしている」蓮と、「それなりには強い」明良では勝負は初めから決していた。

 蓮はこの手の輩の扱いに慣れていた。あまり手を出さず、しかし自分の力量ははっきり理解させる。そうすることがベストであるといままでの経験で知っていた。それでわからない人間なら次には痛い目を見せてやればいいのだ。

 明良の指からはじかれたタバコが林の湿った地面に着いたその時が喧嘩の始まりだった。

 どっしり構えた蓮に明良はトップスピードで殴りかかった。

 それがかわされたとわかると、二撃、三撃と追撃を重ねた。

 三撃目のアッパーが軽くスウェーでかわされた時に、ようやく明良は自分が喧嘩を売った相手の実力に気づいた。そしてその事実を知ったために、明良の胸の奥から焦りと恐怖が漏れ出した。

 危険を感じ取った明良は距離を離そうと、スウェーで若干まだ仰け反った体勢の蓮に前蹴りを放つ。

 しかしその片足で立つという体勢を明良が作り出した瞬間が、蓮にとっては好機でしかなかった。

 かなりの近距離から放たれた前蹴りすら蓮の胸を捉えることはなく、蓮は自分を突き飛ばさんとする明良の右足に体を滑らし、明良が両足で地を踏む前に軸足を払った。

 倒れこむ明良にすかさず馬乗りになり、両手を押さえ込む。蓮の筋力には明良は到底及ばず、そこで蓮は静止し、明良は静止せざるを得なかった。


「もうえーか?」


 その蓮の言葉で喧嘩は終わった。

 越してきてからまだまだ日も浅く、あまり人としゃべることのなかった蓮はまだ標準語に慣れず、関西弁のなまりを残したままだった。


「自分関西弁やねんな!」


 喧嘩の後、蓮と明良は関西弁であることに共感し仲良くなっていた。

 明良も中学の途中にここに越してきたらしい。父親は運送業をしているそうな。

 そんなこんなで結果から言うと林を出た頃には、蓮と明良は互いに認め会うと言うには実力の差が大きすぎるが、友達になることが出来たのだった。

 ケンカになったこと事態は不幸だったが、その後仲良くなれたことと、明良の友達になれたことで上の学年の奴らも髪の毛が茶色の蓮につっかかってくることもほとんど無くなったことを考えるとむしろラッキーだったと蓮は思っている。

 というのが二人の交流の始まりである。

 蓮と吉田の馴れ初めはそう語るほどのものでもなく、今日と違って昼休みもクールに決めていた蓮に、今日と同じように吉田が話しかけたまでのことであった。


「そうか、そうと決まればさっさと屋上に行こうぜ、腹がへった」


「寝てただけのくせに何いってんだか」


 




------------------------------------





(吉田とかあっくんといるのは楽しいけどそれでもやっぱり学校つまんねーなぁ……)


 陽もほとんど落ちかけた夕方ころ、都会と夕暮れということもあって若者達の喧騒の中、学校からかえった俺は家からいつものランニングコースまでの道を歩いていた。

 ランニングは蓮の日課だ。子供の頃からやっていたことだから少々めんどくさくはあるが、いまさら苦にも思わない。

 そうして特に何かするでもなく、ただボーっと目的地に向かって歩いていた俺の視界の端、チラッとビルとビルの間に長い銀色の髪をした小さな女の子が写った気がした。

 だが次にそこに目を向けたときにはその姿はすでに消えていた。


(…?いまの子は…?)


そう、この時女の子に目を引かれてよそ見したのが原因だった。


「いてっ!」


「あぁ!! 痛ぇのはこっちのほうだよ! 兄ちゃん!」


どうやらよそ見をしている間に正面から歩いてきたガラの悪い男達突っ込んでしまったようだ。


「悪いな、余所見してた」


「年上にぶつかっといてそんな謝りかた通用するわけねぇだろ!!ちょっとこっち来いよ、コラ!」


「いや、ほんと、そこのビルの間に銀髪のかわいい女の子がいてだな、」


「あー?ほー、じゃあちょっと皆でそんな女の子がいんのかどうか確認しにいくぞ!こい!」


 男達はかなりご立腹の様子だ。しかしこんな古典的な絡まれ方をするとは…、不覚。

 それでもまぁ暇つぶしにはちょうど良いかな、とか少々ひねくれた感想で、たいした抵抗もせず路地裏に連れ込まれる。


「えらくおとなしいじゃねぇか、兄ちゃん。ビビって喋れなくなっちまったか?」


「まぁ帰る頃には顎が外れて喋れなくなっちまうけどなぁ!!」


「アハッ、こいつそろそろちびるんじゃね!?」


「ぎゃはははっ!」


 男達は思い思いのことを口にしながら俺を取り囲んでいく。


(4人か…、話にならなさそうだな。)


 子供一人相手に袋叩きだなんて下衆なマネする奴らに手加減は必要ないと思い右足を半歩後ろにさげ、左手を顔の前まで、右手を胸の前まであげて構える。


「いいねぇ、兄ちゃん!この人数相手にやるきかい?」


「おっさん、仲間増やすなら、いまのうちだぜ?」


 正面にいる少しひげをはやした角ばった顔の20過ぎくらいの男に言う。

 瞬間、周囲の空気が変わった。


「おっさんじゃ…ねぇッ!!」


 気合の言葉? と共に正面の男がホームラン級の大振りで右ストレートをつきだしてきた。

 容易い。親父との訓練を思うと本当に子供だまし、明良のもっとマシなパンチをしていたと思う。

 男の拳通過するラインを的確に予想し、右でクロスカウンターを決める。綺麗にあごを捉え、男を踏み込んだ勢いのまま蓮の傍らに崩れ落ちた。

 ついでに突っ立ってる隣の男も適当に急所を狙ってすぐに沈めた。


「てっ、てめぇ!!おらっ!」


「この糞ガキがッ!」


 後ろに立っていた男二人は、ものの二、三秒にして仲間二人がやられるところを呆然と見ていたが、すぐに気を取り直し二人ほぼ同時に右の拳を放ってくる。

同時に放たれた二人のパンチは型も何もない。ただ大振りで攻撃の範囲がひろい。一人分なら完全にカウンターを合わせる事は造作もないが、それが二人だと、型がめちゃくちゃであるだけに見切り辛く、合わせ辛い。

 いったん引いて確固撃破。

 向かって左側の男には首元への回し蹴り、右側の男にはそのままの足で前蹴りで飛ばして壁に激突させた。

左の男は声も上げずに昇天、右側の男は壁につっこんで腰を抜かせたままこちらを見上げていた。


「な、なんなんだよお前!!」


「なんだと思う?」


男はずりずりと後ろに後ずさっていくが、歩いて男の前まで行きながら男に問いかける。


「ば、化けも、の゛ぉッ!?」


はぁ、とつまらないことを言う男の首元を蹴りつけて意識を刈り取ってからため息をつく。

さてこっから早く出ないといけない、下手すれば俺が連れ込まれるところを見ていたその辺の人が、俺の心配をして警察を呼んでくれてるかもしれない。

そう思いつつ服を調えながら路地裏から外に出ようとすると、


「あっ!?」


そこには男達に絡まれる原因となった銀色の髪をした美少女が立っていた。

2月14日、改稿。

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