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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

目玉焼きの逆襲、振りかざすエッグイーター

作者: 大成大器
掲載日:2026/03/13

「死因は……目玉焼きです」

「そ、そんな……うそでしょ!?」

「見たらわかるでしょう。この蠢いている、プルプルとした目玉焼きが、あなたの主人を殺した犯人です」

俺は、ミステリーでも使い古された、よくある殺人現場の状況に辟易しながら、テレビの電源を切った。

 目玉焼きが人を殺すようになってから、早五年。二〇二四年の三月四日の今日は、ちょうど目玉焼きが独立浮遊するようになった忌むべき日として、多くの人に知れ渡っている。

「ちょうど、こんな日だったな」

俺の妻が難度三級の目玉焼きに食い殺された日も、こんな土砂降りの夜だった。いつものように仕事から帰宅した俺に待っていたのは、卵の黄身をすするように、妻の生き血をすする目玉焼きだった。

 俺はその時偶然、反目玉焼きエネルギーが覚醒して、目玉焼きを追い払うことはできたが、妻は出血多量で意識不明、その後病院に搬送されて、命を落とした。

 その後、反目玉焼きエネルギーに覚醒した俺は、日本目玉焼き掃討令の一環として、目玉焼き掃討作戦の一員として迎え入れられた。それからは過酷な日々の連続だった。ホワイト企業で、妻と楽しく暮らしていた日々は一変、目玉焼きを殺して回り、血で血を、いや、目玉焼きの黄身で血を洗うような過酷な日々を繰り返し、俺はとうとう難度特級の目玉焼きを殺すことができるようになっていた。

 そして、今回俺が戦うのは、最近名を上げだした、四卵王のうちの一人、【黄身の君】の直属の部下、【黄身麻呂】という、女の生き血をこぞってすする、難度特級の中でもとびぬけて強いとされている目玉焼きだ。

 今日、俺は死ぬかもしれない。決死の思いで家を出たのはこれでもう何度目かすらも分からない。妻亡き今、自分の身にこれっぽっちも価値を見いだせなくなっていた。あるのはただ、目玉焼きに対する強い殺意のみ。殺意によって俺の感覚も、雨音一つ一つを認識できるのではないかと思えるほどに冴えていった。

 暗い夜道、傘もささず、反目玉焼きエネルギーの疼きを頼りに、目的地周辺へとたどり着く。

「他の反目玉焼きエネルギーは……全滅か」

 どうやら、今回の討伐作戦で待機していたメンバーは、皆、黄身麻呂に殺されたらしい。

「アァ……滾るな」

仲間を殺られて悲しい心情とは打って変わって、体は目玉焼きを殺せることに歓喜し、震えていた。

「来る…………ッ!!」

物凄い速度でこちらに向かってくる目玉焼きの因子に反応し、俺は、咄嗟に自身の得物を構える。

「起きろ。いただきますの時間だ」

俺が自身の両腕に呼び掛けると、指先一本一本が枝のように細くなり、腕全体が木の箸のように固くなる。俺の特殊外装エッグイーターは、両腕が箸のような形状と材質に変わる。しかし、その硬度は鉄よりもはるかに硬く、動くスピードは常人より速く、力も百倍以上出る。

「らんららんららん!」

不気味な笑い声とともに現れた、半透明な物体に対し、俺は、迷うことなく、自信の特殊外装エッグイーターを振り放つ。

「らん!?」

放射状に延びていた半透明の液体は、俺の箸のような腕に触れた瞬間、勢いよく吸収されていく。

一度距離を取り、互いに仕切り直しとなる。そして、気づく。

「ま、まさかお前は……」

「らん? お前、どこかで見覚えがあるらんねぇ……。らん!? 思い出したらん! 急に覚醒して、まろのせっかくの極上の食事を邪魔したやつらん!!」

「俺がこの日をどれだけ待ち望んだことか……」

これまで、どれだけの悲しみや理不尽にさらされたか分からない。それも、今この時のためだったのだと思うと、自然と笑みが口からこぼれる。

両腕に力を籠めると、俺の闘志に反応して、特殊外装から煙が漏れ始める。

「お前のために、使ってやる。錯卵モード、起動!!」

瞬間、今まで特殊外装が食らってきた目玉焼きたちが、走馬灯のように脳裏に流れ始める。

 反目玉焼きエネルギーとは、目玉焼きを食らう力だ。それは、個々によって秘められた力は異なり、大抵の場合卵を食らう能力のみの場合が多い。しかし、俺の特殊外装の力は、食らって強くなるだけでなく、一度切りのみ、力を無理やり消費し、、限界を超えた力を引き出せるのである。

「うおおおおおおおおお!!」

「ら、らん!? なんらんか、この力は!?」

髪の毛は逆立ち、全身から、赤黒いオーラが逆巻く。俺の今の姿は、怒りの権化、絶卵状態と言っても過言ではなかった。俺は自身の身に余る力に、体の崩壊を、俺の存在の消滅を、かろうじて残った自我と精神力で食い止め、黄身麻呂を睨む。

「これまでの恨み、晴らさせてもらうぞ!! 黄身麻呂ォォオオオ!!」

「ら、らん……」

思わず後ずさる黄身麻呂に対し、俺の踏みしめる一歩は、地面を砕き、空気を震わせ、圧倒的な殺意と力を持って、その場を蹂躙せんとする意思を持って、前に進む。

「ま、まろだって、負けるわけにはいかないらん!!」

 黄身麻呂から、黄金のオーラがあふれ出す。白身から手足が生え、透明から白に変わり、黄身は硬質化、全身に赤黒い血管のようなものが浮かび上がる。

「くらええええええええええ!!」

「らんんんんんんんんんんん!!」

ぶつかる拳と拳。火花が散り、衝撃波があたりに波及し、黄金と赤黒いオーラが入り乱れる。

「うおおおお!!」

「ら、らん……!」

ギリギリと音を立ててせめぎ合う拳。互角に見えたその攻勢は、少しずつ俺に傾きつつあった。

「な、なら!!」

黄身麻呂は、白身から半透明の身をせり出し、新たに拳を二つ作り出す。

「う、うぐ……」

新たに拳が二つ追加されたことで、均衡が崩れ始め、今度は俺の方が押される。

「らんららんらん。大人しくあの女と一緒に死ぬと言い!!」

「く、くそ……こんなところで……俺は……ッ!!」

思い返す、妻との楽しかった日常。

「子供は、男の子がいい? それとも女の子?」

「二人とも別々がいいかな。女の子と男の子。名前は、麗奈と正人にしよう」

「楽しみね。この子たちが生まれてくるの」

「そうだな……」

約束されたも同然だった二人の幸せ。それを……こいつが……。こいつさえいなければッ!!

 俺の頬には、怒りと悲しみがないまぜになった涙が、自然とこぼれていた。

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

「な、なに!?」

感情に従い、体の奥底から力の奔流が湧き出てくる。

「くたばれええええええええ」

「たまごおおおおおおおおおお」

俺の拳が、徐々に黄身麻呂の体を吸収していく。

「こんなことがあってたまるたまごかぁあああああああ!!」

徐々に俺の体も、崩れ始める。奴はここで仕留める。

持てるすべての力を振り絞り、俺は……ッ!!

「間に合ええええええええええ!!」

「らん!いやだいやだいやだ!!」

 その瞬間、妻の笑顔が見えた気がした。雪子、俺も今からそっちに行く。

「はああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」

「らああああああああああああああああん!」

そうして、俺と黄身麻呂は、同時に崩壊していく。

「こ、こんなところで、死んで……たまるらん……か」

上半身だけになった黄身麻呂を背に、俺も死期を悟る。

「あなた……」

「雪子……! 雪子なのか!?」

「一緒に行きましょう」

「ああ、そうだな……」

黄身麻呂が消滅し、あたりが静まり返る中。確かな幸せとともに、俺は妻と再会できたことに喜び、死んでいった。













後から駆け付けた隊員によると、その場の荒れようはすさまじく、周囲一帯が更地になっていたという。

その後、男の墓が、妻の墓の隣に建てられ、男の名は、英雄として語り継がれることとなった。


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