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【短編】ウェブ小説家の彼女が虚ろな目でソシャゲの周回をしている件

作者: 生徒会副長
掲載日:2026/02/16



 この僕、東野星斗の彼女は、ちょっと変わった人である。

 高校の頃から付き合っていて、僕と同じ大学1回生。眼鏡をかけた黒いサラサラショートヘアの女の子。名前は雪村佐奈という。

 佐奈がスマホを高速でタップしながら泣いているときがあって、何事かと聞けば、


『自分で書いてる小説の展開に感動し過ぎて泣いてる』


 とのことだった。

 女性向け二次創作小説を書くのが趣味で、人に迷惑がかからない範囲でこだわりが強い女の子である。

 シンデレラより人魚姫派。

 美女と野獣より花嫁になった猫派。

 異世界転生よりマッチ売りの少女派。

 ご都合主義なハッピーエンドより納得がいくバッドエンド。

 花◯院が左で承◯郎が右。 

 僕は映画鑑賞が趣味だけど、女性向けで、しかも二次創作の小説となると、さすがによく分からないので佐奈の作品は読んでいない。ただ、白黒がはっきりしていて喜怒哀楽が豊かな佐奈のことが、僕は好きだった。

 しかし、である──。

 ここ3日、彼女が執筆アプリをスマホで開いている様子がない。

 虚ろな目で、パズル系のソーシャルゲームを周回している……。

 今は互いにお弁当を食べ終えた昼休み。ここは大学の空き講義室。

 たまらず僕は訊ねた。


「佐奈、最近小説書いてないっぽいけど、どうしたの?」


 佐奈は今まで、暇さえあれば執筆アプリを立ち上げて、構想を練ったり執筆をしたりしていた。それが何故、パズル系のソーシャルゲームをしているのか。

 別にパズル系のソーシャルゲームが悪いと言う気はない。僕も中学の頃に少しやっていたし。飽きて辞めたけど。

 対する佐奈は、重厚なストーリーのRPG系ソーシャルゲームを昔やっていた。しかしあるとき一念発起して、『運営や原作者が用意した物語をなぞるんじゃなくて、自分の思うがままに物語を駆け抜けたい』と言って、小説執筆の趣味を始めたはずなのに……。

 周回のキリがいいタイミングで、佐奈は僕の方に端正な顔を向けて、生気の抜けた声で言った。


「うん。小説は……。もう……いいかなって……」

「え? いや……。何があったんだ、佐奈?」


 そのソシャゲが楽しい訳ではないと思う。楽しければ、表情にはっきり出る子なのだ、佐奈は。


「星斗になら話しても、いいかな……」


 佐奈は「はぁ……」と溜息をついてから、どこか遠くを見つめて話した。


「ウェブ小説家のコミュニティでさ、話の流れで、私が今考えてる新作のアイデアを部分的に話したんだ。そしたらさ……。『作者の嫌いなものが前面に出過ぎてて不愉快』だとか『矛盾とダブルスタンダードが気持ち悪い』だとかって、ぶっ叩かれてさ……」


 それが悔しい出来事なら怒り、悲しい出来事なら涙ぐむのが僕の知る佐奈だ。しかし佐奈は、暗い顔と虚ろな眼をしている。感情の火が消えてしまったかのようだ。


「嫌いなものを嫌いと叫ぶ創作物なんていくらでもあると思うんだけどな……。矛盾とかダブルスタンダードを抱えた主人公が悩みながら生きていくストーリーが描きたかったんだけどな……」

「書かないの?」


 生憎、小説など書いたことがなく、その小説家コミュニティとやらも見ていない僕だが、訊かずにはいられなかった。

 しかし佐奈は力なく首を振る。


「何でかな……。山程あるアイデアのうちの1つをぶっ叩かれただけなんだけど……。私のアイデアと創作意欲、もう枯れちゃった」

「アイデアって、そんな簡単に枯れるものなの?」


 佐奈が前に話してくれたことがある。漫画家でも小説家でも、1つの作品や世界観に自分の全てを懸けてしまう人は、あまり居ないはずだと。

 実際に執筆しているアイデア以外にも、色々なアイデアが彼女の脳内やスマホには保存されているらしい。

 単なる走り書きのアイデア。

 プロットすら組まずにゴミ箱フォルダ行きになったアイデア。

 プロットを組んでみてしっくり来なかったアイデア。

 プロットだけ組んで一旦後回しにしているアイデア……などなど。

 それら全てが枯れてしまったと、本気で言っているのだろうか。

 佐奈が口ごもりながら答えた。


「なんて言えば星斗に伝わるかなぁ……。脳内に、アイデアを保存してるフォルダがあるとしたら、フォルダ自体が壊れて開かなくなった感じ? 図書館で例えると、本が無くなったんじゃなくて、図書館の扉が壊れちゃった感じ?」

「壊れたんなら、直すなり新しく作るなりすれば……」


 言ってからハッと気づいた。小説家でもない僕があまり無責任で適当なことを言うと、彼女が怒ったり、傷ついたりするかもしれない。

 しかし意外にも、佐奈は穏やかな表情で言った。


「単なる例え、だからね。いや、こんなの初めてだからさ、上手く例えられなくて。言うは易く行うは難し……というか……。いや、もう……無理かな……」


 こんな弱音を吐く彼女は初めて見た。大学受験でも、息抜きを一緒にすることこそあれ、弱音を吐くことはなく元気いっぱいだった彼女が、である。

 ソシャゲの周回を再開しながら、佐奈は言った。


「まぁ、別にいいでしょ? 所詮私は生み出す側じゃなく、消費する側だったんだ。私の物語なんて、生まれる意味のない物語だったんだ。小説執筆が趣味の人は珍しいけど、ソシャゲが趣味な人は珍しくないでしょ? そんな珍しくもない大衆の一人に戻るだけだよ」

「そのゲーム、楽しい?」


 僕は女性向け二次創作小説は守備範囲外だ。佐奈の趣味やプライベートにとやかく干渉する気も、束縛する気もない。

 ただ、僕は色彩豊かな佐奈の情動や日常が見たいだけなのだ。

 しかし──。

 佐奈はにこりと……生気の無い、雛人形のような笑みを浮かべて答えた。


「まぁまぁかな。余計なこと考えなくていい感じが、気楽でいいよ」


 そのとき、周回中のゲームから、何やら気分を強制的に高揚させるような効果音が鳴った。


「あ。レアドロップだ。ふふ。嬉しいなぁ……」


 なんだかその喜び方は、余命が迫った老婆が見舞いに来てくれた孫の顔を見て喜ぶような──老いと終わりを予感させるものに、僕の目には映ってしまった。


──※──


 その日の夜。

 僕はリビングで、兄──東野蒼汰と一緒に、カレーライスを食べていた。

 父と母は仕事で海外赴任していて、今の東野家は僕達兄弟二人しかいない。今日のカレーは僕が作ったものだ。

 兄との仲はそれなりに良い。社会人である兄の趣味はカードゲーム。僕は高校受験のときにそのカードゲームは引退している。しかし、兄は僕に復帰を促すこともないし、しつこく話題を振ることもない。僕の趣味──映画鑑賞を否定することもない。金曜日の夜は、たまにテレビで一緒に映画を観ることもある。

 僕は兄に聞いてみた。佐奈のスランプ──或いは断筆のことを。


「よくわからないよ、お兄。山程あるアイデアのうち1個を否定されただけで、あんなに絶望するものかな」


 言ってから僕は、カレーライスを頬張る。今日のカレーに使ったのは鶏もも肉だ。牛すじ肉で作った方が正直言って美味しいが、鶏もも肉の方が安いし調理しやすい。

 カレーの肉は牛すじ肉が無理なら鶏もも肉で替えがきく。それでもカレーとして成り立ちはする。

 しかしながら、なぜ佐奈の執筆意欲は、アイデアを1つ否定されただけで枯れてしまったのだろうか。

 カレーを嚥下し終えた兄が答えた。


「佐奈ちゃんの気持ちは、まぁ分からんでもない」

「何? お兄、小説家だったの?」

「バカ言えっ、星斗っ」


 僕の軽い冗談に対し、軽い笑みで兄はツッコミ返してくれる。こんなやり取りが出来る程度には、仲が良い。

 兄は、「俺はあくまで、カードゲームのプレイヤー目線でしか話せねぇけどな……」と前置きしてから語ってくれた。


「俺だってデッキ自体は10個以上持ってるが、最新環境で真剣に戦えるデッキなんて2個か3個ぐらいだ。手も足も出ない惨敗をしたり、自分のプレイングが下手くそ過ぎて恥ずかしくなると、引退だって頭を過ぎることはある。それと似たようなもんかもな?」


 アイデアを何個持っていようと、小説家としての雪村佐奈を否定されてしまうと、断筆を考えてしまうということだろうか。

 小説家コミュニティで言われたことは、それだけ佐奈にとってショックだったのだろうか……。


「お兄は今まで、どうしてきたの?」


 僕がそう訊ねると、兄は「何が?」と聞き返してきた。


「結局引退してないじゃん、カードゲーム」

「うーん、俺の場合はなぁ……」


 数秒考えた後、兄は答えた。


「最後にモノを言うのは負けん気っていうか? 負けたまま終わりたくない、やっぱり勝ちたいって思う……デッキとか、ライバルとか、仲間がいるから……かな? うーん、なんかこう言うとアニメっぽいなー!」


 恥を隠すように、兄はカレーを慌てて頬張る。あまり噛まずにカレーを飲み込んでしまった後、兄は補足した。


「しかしこれは、佐奈ちゃんには応用できないかもな。小説の世界に勝ち負けなんて、あんまり無いんじゃないか?」

「うーん……」


 それは……どうだろう……?

 僕と佐奈は恋人同士ではあるけれど、小説家の仲間でもなければ、作者と読者という関係でもない。僕は佐奈と同じ土俵に立ってすらいない。

 佐奈は前に、そのことについて「別にいい」と言っていた。「無理に読者と作者の関係になると、今の距離感が壊れそうで怖い」とかなんとか。


(それでも……)


 それでも、何となく、佐奈は兄と似た何らかの執念を持っているように見えてならない。

 佐奈は人に迷惑をかけない範囲で拘りが強く、小説の出来や評価に一喜一憂する。

 思ったよりウケただの、ウケなかっただの。台本形式は甘えだけど今回は仕方ないだの。今回は心理描写が上手く描けただの。

 それらは、勝敗に近い何かなのではないだろうか。

 読者でない僕が、佐奈に何を望むのか。僕が望む未来はどんなものなのか。その為に何が出来るのか。

 1週間後、僕はその答えを、佐奈に示すことになる──。


──※──


 先週と同じ光景。互いにお弁当を食べ終えた昼休み。ここは大学の空き講義室。

 違うことといえば、僕が佐奈にこう話を切り出したことだった。


「佐奈。200字ぐらいの、小説っぽいナニカを書いたんだけど、読んでくれない?」


 じーっと、彼女は黒い瞳で、咎めるように僕を見つめる。


「……私、好みにはうるさい方だけど」

「知ってるよ」

「気の利いた感想やアドバイスを送れるほど、今の私は心の余裕も筆力もないけど」

「それでもいいよ」


 僕が──東野星斗が小説家になりたくて見せる訳ではない。

 僕は自分のスマホを佐奈に差し出す。

 佐奈と違って執筆アプリは使っておらず、メールアプリで書いたものだ。

 僕が書いた小説モドキは、たかが200字前後で、その内容は──。


──※──


 ある国で、勇者の恋人のお姫様が、悪魔の操り人形にされてしまいました。


 操り人形になったお姫様は、笑顔を見せなくなり、悪魔の命じるまま、淡々と、人々を殺して回りました。


 お姫様の笑顔が好きだった勇者は、悪魔を倒してお姫様を救いました。


 ところが、お姫様は既に、悪魔の魔力が無いと生きられない身体になっていました。


 お姫様は最期に本当の笑顔を見せてから、勇者の腕の中で息絶えました。


 終わり。


──※──


「終わり──じゃないでしょうがっ!!」


 たった200字前後なので、佐奈はあっという間に読み終えて、机をバンッと叩きながら立ち上がる。そして久しぶりに張りのある声を上げた。


「これは小説じゃなくてせいぜいアイデアの走り書き……っていう野暮で処女作相手に言うようなことじゃない指摘は一旦置いとくとして!」


 “置いとく”ジェスチャーをする佐奈のイキイキとした動きは、僕からすると一流の漫才師にも劣らない。


「あのねぇ! 読者って生き物は基本的にご都合主義なハッピーエンドが見たいの! このストーリーラインならフツーにお姫様と勇者が幸せに暮らすエンドでいいの!」


 命令に盲目に従う将官のごとく、佐奈は悲痛な怒声を上げる。

 怒りの根源は、読者を思えばこそか。

 それとも──。

 読者を恨んでこそか……。


「あとさぁ! これ私に見せたってことはアレ? お姫様が私の隠喩で、悪魔がソシャゲの隠喩なのっ?」

「あぁ。佐奈、気づいたんだ?」

「うん、気づいた……じゃないっ! ソシャゲ憎しで筆を執るとか正気じゃない! 読者あっての作品であり作者なの! もっと読者感情とか市場の需要を考えないと!」

「佐奈……」


 この1週間、たった200字の小説モドキを書きながら四苦八苦して、やっと言語化できるようになった。

 僕が佐奈に何を望んでいるのか──。


「悪魔はソシャゲだけじゃなくて、佐奈に説教する小説家や読者のメタファーでもあるんだけど」

「ますます駄目でしょっ!?」

「バレなきゃいいでしょ」

「良くないっ!」

「あのさぁ……!」


 溜息を吐き、息をすぅっと吸ってから、僕は言葉を突きつけてやった。


「僕はねぇ! 虚ろな目でソシャゲの周回してる佐奈なんか嫌いだし! 佐奈から熱意や時間を奪うソシャゲや説教屋のことも嫌いだよ!!」

「……えっ!?」


 一瞬フリーズした後、再起動した佐奈は猛然とツッコミ始めた。


「いやっ……あのっ……。こういうときってアレでしょっ!? 『僕はどんなときでも佐奈の味方だよ……♡』とか『小説を書いてるときの君が好きだ!』とか言うところじゃないのっ!?」

「はぁ!? ただの平凡な大学生の彼氏に何を期待してるんだよ!」


 そりゃあそういう綺麗事を囁くことも考えた。

 しかし──。


「僕がそんな都合のいい綺麗事を言っても、佐奈には響かないだろ! だいたい佐奈はシンデレラより人魚姫派で、ご都合主義な綺麗事は嫌いだろ!」

「うっ……」


 たじろぐ佐奈を相手に、僕は立ちがってすかさず言葉の刃を追撃する。


「僕はカボチャの馬車を用意する魔法使いでもなければ、王子様でもないっ! 僕は小説家でもないし佐奈の読者でもないっ! だから、別に佐奈が断筆しようがしまいがどっちでもいいよ! でも虚ろな目でソシャゲを周回するのはやめろ! 僕が好きな佐奈は、自分で踏み締めた物語に一喜一憂する女の子なんだよ! 佐奈から笑顔とか涙とか怒りとかの色彩を奪う奴なんか、覇権ゲームだろうがプロ作家だろうが千人の読者軍団だろうが大っ嫌いだ! バーカ!!」

「えっ……えぇ……?」


 一気に言いたいことを全部言って、僕は肩で息をする。そんな僕に、佐奈は困惑しながら聞いてきた。


「星斗、そんなキャラだった……? どんな映画でも酷評や罵倒なんかしなかったのに……」

「それだけ佐奈のことに関しては真剣なんだよ! それで!? 佐奈はどうなんだよ!!」


 一歩踏み出し、佐奈に迫る僕。僕のほうが5センチほど身長は上なので、若干見下ろす感じで、佐奈に問い質した。


「そのソシャゲをやってる自分のことは好きか!? 運営が金儲けと脳内麻薬(ドーパミン)の為に用意しただけのゲームの世界をなぞるだけで満足してるか!? 自分の世界観やアイデアを否定した連中にやり返さないまま終わっていいのか!?」

「うぐ……。そ、それは……」


 崖っぷちに追い詰められたかのように、佐奈は怯えと戸惑いの表情を見せる。

 しかし──。


「それは……!」


 彼女は拳を握りしめ、歯を食いしばる。

 そして──。


「嫌いに決まってんでしょうがっ!!」


 ダンッと、武道の踏み込みのように、佐奈は床を足で鳴らした。

 堰を切ったように、彼女の黒く鮮やかで、生々しく人間らしい色彩が溢れ出した。


脳内麻薬(ドーパミン)の分泌と雪村佐奈の幸福がイコールであってたまるか! 人サマが組んだプログラムのミッションクリアだのガチャだのに一喜一憂するお仕事はサルにでもやらせておけばいいんだ! アマチュアでも二次創作でもいい! 台本形式でも逆張りでもいい! 今まで紡がれてきた物語に対する返歌として、生まれることすら出来なかった物語への手向けとして、これから生まれる物語への道標として──」


 涙を一筋流してまで、彼女は魂で吼えた──。


「私は物語を創りたいんだよぉっっ!!」


 ビリビリと僕の肌と室内の空気さえ震わせた後──。

 彼女は『穴があったら入りたい』と言わんばかりに、勢いよく椅子に座り、顔を伏せてしまった。

 ズズッと水音が混じった佐奈の呼吸音を聞きながら、僕も椅子に座った。


「星斗さぁ……」


 彼女がそう切り出した。顔を僕から背けたままで。


「ホントに私なんかが恋人でイイワケ? 二次創作なんて著作権的には黒に近いグレーだし。負の感情が創作の原動力って自分でもどうかと思うし。こんな変な女の子より、ソシャゲや覇権ジャンルでインスタントな一喜一憂を摂取して満足してる女の子の方が、相手するのラクでしょ?」

「うーん……。でもなぁ……」


 しみじみと、今までの佐奈が見せてくれた表情や、今日の叫びを思い出しながら、僕は言った。


「白い潔白を選ぶべきなのに黒い罪を選びたくなってしまう。楽な道より苦難の道を選んで幸せになる。そんな矛盾が、僕は好きだし、それは人間らしい営みだと思うよ?」

「……私に負けず劣らず、変わり者な彼氏だこと」


 彼女が顔をこちらに向けた。その顔や眼は涙でうっすら腫れていたが、しかしその輝きが、どんな精巧な人形より、僕にとっては愛おしかった。


「さっきの操り人形のお姫様のヤツだけど」

「うん」

「ありきたりな展開として、人質を盾に戦っておいて、人質が助かる可能性を残している悪役はヌルいと、前々から思ってたんだよね。だから、人質を取って、確実に勇者を絶望させられる一手を打っているあの悪魔は、納得がいく良い悪役だと思う……」

「そう……」


 そんなことまで考えて書いてないよ?

 獲物を狙う猫のような顔で真剣に考えてる佐奈を見るのは面白いけどね?

 佐奈の思案はまだ続く。


「でも元となる原作や神話や史実がない以上、このまま書くと納得がいくバッドエンドじゃなくてご都合主義なバッドエンドになる。だからお姫様を生き返らせる続きを書くことで納得がいくハッピーエンドとして仕上げて……うーん……」


 財宝を狙う怪盗のように顎に手を当てて考えた後、佐奈は言った。


「星斗。その200字のヤツ、送信してくれない?」

「えっ……。書くの……?」


 僕は佐奈の一次創作は見たことがない。素人が書くなら一次創作より二次創作の方が読者需要があるから、殆ど書かないらしい。しかし──。


「虚ろな目でソシャゲ周回するより、それの執筆を考える方がよっぽど楽しい! よっぽど私らしい!」


 イキイキとした笑顔の花を咲かせる彼女に、僕は──。


「あぁ、もちろん送るよ! ご都合主義なハッピーエンドとインスタントな快楽が蔓延る世界に、一泡吹かせてやろう!」


 恋人として、共犯者として、不敵な笑みで応える。


 ──その時から、僕と佐奈は、流行や需要に振り回されない創作の世界へ、一歩踏み出した──。

 商業書籍化や大衆からの称賛なんて、僕達には手が届かないほど遠いものだろう。

 それでも構わない。

 僕達は、泥臭く、創作の苦しみ(歓び)と共に、歩んでいく──。






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