僕の眠り姫
***BL***いつも寝てばかりの君が、大好きです。夏休みにしか会えない、俺の大好きな琉生。ハッピーエンドです。
いつも寝てばかりの君が、大好きです。
*****
ばあちゃん家で一緒に昼寝もした。
夏休みにしか会えない、俺の大好きな琉生。
小学生の頃は二人で海に遊びに行った。
ばあちゃんの家の前は大通りを挟んで海だったから。
浮き輪を持って、海に行く。
広い道路を信号まで歩き、信号の手前の駄菓子屋でお菓子を買う。
朝から昼までずっと、海で遊ぶ。
海に入る時は、水着が隠れてる深さまでしか行かない。大人の決めたルールだ。
琉生は体力が無いのか、すぐに陸に上がり、俺は一人でいつまでも泳いだ。
お腹が空くと駄菓子屋で買ったお菓子を食べる。
太陽が真上に来ると、二人でばあちゃんの家に帰る、そう言う約束になっていた。
その後はお昼ご飯を食べて、昼寝か夏休みの宿題をする。
エアコンの効いた部屋、畳の上でウトウトする。
琉生はすぐ眠りにつく。俺は寝顔を見ながら彼の寝息に刺激されて眠る。
*****
中学生になって部活に入ると、ばあちゃんの家に行くのはお盆の3日位だった。
中1日しかゆっくり出来ないから、海に行く事も無くなり、三年生になると受験を理由に行かなかった。
*****
春、入学式。
新しい制服を着ると背筋が伸びる。まだネクタイが結べない。
父さんがネクタイの結び方を教えてくれた。
「随分背が伸びたな」
と笑い、俺の尻を叩きながら
「次からは自分でやれよ」
と言った。
入学式は母さんと二人。
クラスを確認して、生徒用の席に座る。保護者は後ろの方だった。
1クラス35名。男女比率は男子の方が多い。
俺は、安城孝紘で出席番号一番。後ろの扉から入り、自分のクラスの列まで歩く。先生に誘導され、自分の席に着き皆んなが着席するのを待った。
入学式が始まる。
祝辞を聞き、一人一人名前を呼ばれる。
俺のクラスに、「宮田琉生」がいた。
声も琉生だった。
俺は顔も確認したかったけど、キョロキョロする訳にいかない。教室に移動するまで、待つしか無かった。
*****
ホームルームが終わり、俺は琉生の席に近寄る。
「孝ちゃん」
ニッコリ笑う。
「琉生、同じ高校だったんだ」
「うん、受験の時、孝ちゃんの事チラッと見かけたよ。でも、受かったかどうかは分からなかったし、ここに来るかも分からなかったから、びっくりしちゃった」
「母さん達は知ってたのかな?」
「多分ね」
「琉生、連絡先交換しようよ」
「良いよ」
やった!やっと、琉生と連絡先を交換出来る。
「でも、僕、昨日買って貰ったばかりだから、やり方分からないよ?」
*****
保護者会も終わり、母さんと琉生のおばさんと合流した。四人で何か食べようと言う話になり、母さんの車で移動する。
母さん達は俺と琉生が同じ学校だった事を知っていた。俺達を驚かせようと黙っていたらしい。
「まさか、同じクラスになるとはね」
「本当、びっくり」
母さんとおばさんは姉妹で、仲が良い。
俺と琉生は後ろの席だった。琉生は俺に寄り掛かって寝ている。
この感じ、懐かしいな。
「あら、琉生くん寝ちゃった?」
「昨日は緊張して眠れなかったみたいでね」
琉生は少し繊細な所があって、イベントの前日は絶対眠れなくなる。
俺の肩に頭を乗せて寝ている。寄りかかられているのに、軽い。
スー、、、スー、、、と寝息が微かに聞こえて来ると、小学生の頃を思い出す。
店に着くと、俺は琉生の無防備な手を包み、揺らし声を掛ける。
「琉生、着いたよ。起きて」
「ん」
と言いながら顔を上げる。
覗き込んだ俺の顔に、唇が触れそうな位近い。
「孝ちゃん、おはよう、、、」
んー、、、と、身体に力を入れて目を覚ます。
何だか猫みたいだ。
四人で車を降りて、お店に入る。
母さんとおばさんは前を歩きながら
「お腹空いちゃった」
と話していた。
お昼を大分過ぎていたから、すぐに案内して貰えた。俺が席に着くと琉生は当然の様に横に座る。
二人で一つのメニューを見る。
「琉生は何食べる?」
「チョコレートパフェ」
「え?ご飯じゃ無いの?!」
「、、、だって、チョコレートパフェ食べたいんだもん」
「ご飯、ちゃんと食べないと、、、」
「でも、ご飯食べたらチョコレートパフェ、食べられないよ?」
琉生は少食だからな、、、。俺なら両方食べられるのに。
「小ちゃいチョコレートパフェがあるよ」
琉生は俺を見て
「孝ちゃん、ちゃんと見て?大きい方はアイスが入ってるの。小さい方は生クリームだけ。どっちが美味しいと思う?」
「大きい方です、、、」
「ね?」
ね?って首を傾げて、可愛いな、、、。
俺はハンバーグステーキとポテト、唐揚げを頼んだ。
琉生とジュースを取りに行き、料理が来るまでスマホを見る。琉生が
「孝ちゃん、どんなゲーム入れてるの?」
と覗き込む。フワッとシャンプーの香りがした。
「ん?今はコレ、知ってる?」
「知らない、やってみて」
「良いよ」
琉生は昔からゲームとかやらない。あまり上手く無いらしくて、直ぐに飽きてしまう。どちらかと言うと、俺がやっているゲームを横から見ているタイプだ。
スマホの画面が小さくて見辛いのか、俺の肩に頬をくっ付けて見ている。
料理が運ばれてくると、ハンバーグと唐揚げ、ポテトの匂いにお腹が刺激された。
「はぁ〜、良い匂い!」
と言うと、琉生も思いっきり匂いを嗅いだ。
「美味そうだろ?」
「うん!」
「ちょっと食べる?」
と聞くと、瞳を輝かせて、ウンウンと頷いた。
俺は取り皿にハンバーグと唐揚げ、ポテトを少しずつ装った。
琉生はハンバーグを一口食べると
「美味しいっ!」
と喜んだ。
小学生の頃と変わらない。
「琉生、明日から駅で待ち合わせしようよ」
「駅?」
「駅から学校まで一緒に行こう?」
「良いけど、、、寝坊したらごめん」
「大丈夫だよ。10分待って来なかったら、先に行く。何かあったら、スマホで連絡して」
「お待たせ致しました」
店員さんが、パフェを持って来てくれた。
「うわっ!」
思った以上に大きくて、美味しそうだった。
「ね、二人並んで!パフェと写真撮って上げる」
母さんに言われて、パフェを真ん中に二人で写真を撮って貰った。
*****
翌日、琉生は時間通りにちゃんと来た。
「お早よう」
挨拶がこんなに嬉しいなんて、不思議だった。
「お早よう、孝ちゃん。コンビニでパン買っても良い?。朝ごはん食べて無くて」
恥ずかしそうに笑った。
「え?大丈夫?」
「うん、ちょっと寝坊しちゃって」
「昨日寝られなかった?」
「やっぱり緊張したみたいで」
「そっか、、、」
今日から色々始まるからな。
二人でコンビニに入る。琉生はどのパンにしようか悩んでいた。
本当に寝坊したんだな、後ろに寝癖が付いてる。
俺がそっと触ると
「何?」
と振り向いた。
「寝癖」
「嘘っ!?」
慌てて、髪の毛を触る。耳を真っ赤にして慌ててる姿が可愛い。
「今朝は自分で起きたの?」
「ううん、亮、、、ちゃんに起こして貰っ、、、た」
「りょうちゃん?」
「え、、、っと、幼馴染」
「ふうぅ〜ん、仲が良いんだ」
何だか、妬けた。
**********
大好きな孝ちゃんに、亮ちゃんの存在を知られたくなかった。
それは、何と言うか、孝ちゃんの事大好きなのに、他に好きな人がいると思われたく無い、、、みたいな、、、。
僕は、小さい頃から孝ちゃんの事が大好きだった。
でも、孝ちゃんは僕の事、きっと弟だと思ってる。
僕は夏休みが来るとドキドキするし、孝ちゃんに会える前日の夜は全然眠れないんだ。
だから、ばあちゃんの家では昼寝ばかりしていた。
昼寝をして、目の前で孝ちゃんが寝ていると嬉しかった。
孝ちゃんの寝顔は綺麗で、ずっと見ていたい。
無防備な孝ちゃんにしがみ付き一緒に寝るのが大好きだった。
亮ちゃんは幼馴染、もう一人幼馴染がいる。梨花ちゃん。
僕達は同じマンションで同じ幼稚園だった。二人は僕が孝ちゃんの事、好きだって知っていて、いつも相談に乗って貰う。
梨花ちゃんは女の子らしく、僕の気持ちを理解してくれるし、亮ちゃんは僕と梨花ちゃんのお兄さんみたいな存在だ。
孝ちゃんが受ける高校を知った時、同じ高校に行きたかった。だけど、僕の学力では無理だった。
二人に相談したら、亮ちゃんが勉強を見てくれる事になった。中学二年の夏頃だ。
梨花ちゃんは、亮ちゃんに勉強を見て貰うとどんどん成績が上がった。僕は二人に取り残された様で淋しかった。
それでも、梨花ちゃんにフォローをして貰いながら、亮ちゃんに勉強を教わり、何とか受験に間に合った。
亮ちゃんは、僕が基礎の基礎が出来ていないからと、小学校の勉強から始めた。
「今、ちゃんとやらないと大好きな孝ちゃんと同じ高校に入れても、勉強に着いて行け無くなるからな」
と、辛抱強く見てくれた。
僕は、孝ちゃんに朝一緒に行こうと誘われて、凄く嬉しいのに、凄く不安だった。寝坊しそうで怖かったんだ。
だから、亮ちゃんに頼んだ。
母さんは、もう起こしてくれない。
中学までは起こしてくれたけど
「高校生になったら自分で起きれる様にならないとね。母さん何があっても、絶対に起こさないよ」
と言われていた。
案の定、僕は前日全く寝る事が出来なかった。
その前の日も、入学式かと思うと中々寝付けなかったのに、2日連続で眠れないとなると、寝坊する自信があった。
**********
琉生に幼馴染がいてもおかしくない。でも、モーニングコールを頼むリョウちゃんってどんな女なんだ?琉生の彼女か?めちゃくちゃ気になる!
何だか悔しい、、、。
「俺が朝、起こそうか?」
つい口から出た。
「え?!いいの?」
「良いよ。だって、俺だって起きるんだから。今日は何時に起きたの?」
「、、、7時。本当は6時半の予定だったけど、起きられなかった」
「じゃあ、6時半に電話すれば良い?」
「あ、、、でも、、、やっぱりいいや」
「え?大丈夫?」
「うん、自分でちゃんと起きれる様にならないと」
とか何とか言って、本当はりょうちゃんに起こして貰うんじゃない?
**********
孝ちゃんが朝電話をくれると言った時、嬉しかった。
でも電話に緊張して、夜眠れなくなるんじゃないかと不安になった。
だから、つい断っちゃったんだ。
毎朝、孝ちゃんの声を聞けるなんて、凄く嬉しくて堪らないのに、、、。
今更ながら、残念だな、、、。
*****
「ねぇ、亮ちゃん、一週間だけ朝起こしてくれない?」
「え?やだよ。琉生、なかなか起きないんだもん」
「夜、寝られる様になれば自分で起きられるからさ」
「まぁ、そうだろうけど、、、。授業中は大丈夫なのか?」
「うん、休み時間寝る様にしてるから」
「授業中は絶対寝るなよ。勉強に着いて行けなくなるからな」
「うん」
「週末までは朝、電話するよ」
「ありがとう」
通話を切ると、スマホの画面が孝ちゃんと撮った写真に切り替わる。
孝ちゃん、大人なったな、、、。
あれ?孝ちゃん、もしかして彼女とかいるのかな?
ふと思った疑問に、僕は暫く頭を悩ませた。
**********
琉生と一緒のクラスになったのに、琉生は疲れているのか、寝不足なのか、休み時間は何時も寝ていた。
昼休み、お弁当を食べる時間だけ一緒に過ごせる。
「琉生、まだ夜寝られないの?」
お弁当を食べながら聞く。
「大分寝られる様になって来たよ」
「そっか、いつも休み時間寝てるからさ」
「授業中寝ちゃうといけないから、、、」
「りょうちゃんってさ」
「ん?」
琉生の箸が止まる。
「琉生の彼女?」
「ちっ!違うよ!」
あ、顔が赤くなった、、、。
「亮ちゃんは幼馴染だよ!」
何でムキになるんだ?
「琉生の好きな人?」
「違う、違う!」
そこまで否定されると何だか怪しい、、、。
「孝ちゃんこそ、彼女いるんでしょ?」
「いないんだな、これが」
琉生が「本当に?」って顔をした。
「ずっと好きなヤツはいるけどね」
「そうなんだ、、、」
琉生の事何だけどな、、、。
彼は、あむっと卵焼きを食べた。
「へへ、美味しい、、、」
声が淋しそうに聞こえるのは、俺の気の所為かな。
*****
琉生は、休み時間一人で寝るから、クラスに友達が出来なかった。まだ、一週間とは言え、俺は少し心配した。
彼が起きない様にそっと椅子を引き、前の席に座る。
サラサラの黒い髪。こんなに毎時間寝ていて、大丈夫かな?と思う。
「あれ、宮田くん、また寝てる」
女子に話し掛けられて、俺は小さく笑う。
「ね、二人って同じ中学?」
「違う、従兄弟同士なんだ」
「え!凄っ!偶然同じ学校?」
「そ」
「で、偶然同じクラス?」
「まぁね」
「そんな事ってあるんだね」
女子、緑川さんは通路を挟んで隣に座った。
「仲良いんだね。近所に住んでるの?」
「いや、結構遠い」
琉生が静かに起きて席を立つ。
「琉生?」
「トイレ」
「俺も」
一緒に椅子を片付け、緑川さんに
「またね」
と言って、教室を出た。
**********
孝ちゃんが女の子と話していたら、モヤモヤした。だから、孝ちゃんから離れたかったのに、孝ちゃんが着いて来てしまった。
孝ちゃんに好きな子がいると分かってから、僕は何だかやる気が無くなった。
孝ちゃんと同じクラスになれて、嬉しかったのに、どうしたら良いか分からない。
好きな人の事、知りたいのに、傷付くのが怖くて聞けないし、僕は休み時間いつも寝ているフリをして過ごす様になっしまった。
本当は孝ちゃんと沢山話しがしたいのに、、、。
手洗い場で手を洗っていたら、隣で手を洗っていた孝ちゃんが巫山戯て僕の顔にピッ!と水を掛けた。指先を弾いたんだ。
「目、覚めた?」
僕は訳も分からず腹が立って、孝ちゃんを睨んだ。
「琉生?」
「孝ちゃんなんて知らないっ!」
「ちょっと、琉生?」
チャイムが鳴って、僕達は気不味いまま席に着いた。
完全に僕の八つ当たりだ。
授業は集中出来なかった。先生に当てられても、話しを聞いていなかった。
いや、聞いてはいたんだ、でも、頭に入って来なくて
「、、、すいません、わかりません」
と答えて立ち尽くした。
孝ちゃんの方を見る事が出来ない。
*****
お昼休み、孝ちゃんはいつも通り僕の席に来てくれた。
「琉生、さっきはごめん。巫山戯過ぎた」
僕は首を振った。
「孝ちゃんは悪く無いよ。僕がイライラしただけ。ごめんね」
「一緒にお弁当食べても良い?」
と聞いてくれる。
僕はコクンと頷いた。
お弁当を食べながら、孝ちゃんはもう一度謝った。
僕達は、二人でモソモソとお弁当を食べる。
「今日さ、放課後遊びに行かない?」
孝ちゃんが誘ってくれた。
孝ちゃんの顔を見ると、少し淋しそうな顔をしている。
「、、、良いよ」
と返事をすると、ホッとした顔になる。チャイムが鳴って昼休みが終わると
「次の休み時間、放課後の話しようよ」
と言ってくれた。
休み時間、僕は孝ちゃんの席まで行った。
孝ちゃんはニコッと嬉しそうに笑い。
「何処か行きたい所ある?」
と聞いて来た。
「孝ちゃんは?」
二人で校門を出て、駅まで歩く。
部活動が始まる時間になっていたから、運動部がグランドを走っていた。
「孝ちゃんは部活入るの?」
「うーん、、、悩むな」
「中学の時は、陸上部だったよね?もうやらないの?」
「琉生は陸上部、入らないだろ?」
僕は、運動も苦手だ、、、。
「琉生が入らないなら入らない」
ん?どう言う事?
「折角琉生と同じ高校になったんだから、同じ事したい」
「僕、部活はちょっと、、、」
「じゃ、俺も入らない。部活は中学でやり尽くしたからな」
「でも、遊んでばかりいられないんだ、、、。僕、「ちゃんと勉強しないと、着いて行けなくなる」って言われてるから」
「幼馴染のりょうちゃん?」
「うん。成績も良く無いから、ずっと亮ちゃんに勉強見て貰ってた。亮ちゃんは頭が良いし、人に勉強教えるの上手いから、、、」
「お、俺だって琉生に勉強教えられるよ?」
「じゃあ、教えてくれる?」
「勿論!」
「それなら、今日は駅前で遊ぶっ!明日から一緒に勉強しよう!」
孝ちゃんが嬉しそうに笑った。
**********
と、約束をしたものの、琉生に勉強なんて教えられるかな、、、。りょうちゃんと比べられないかな?
俺は少し不安に思いながら、翌日からめちゃくちゃノートを取る様になり、どうやって琉生に教えたら良いか考えながら授業を受ける様になった。
授業が終わると琉生はノートを持って俺の席に来た。
「孝ちゃん、あのね」
「ん?」
「数学、分からないんだ」
「どれ?」
「さっきの授業のこの問題。途中まで分かってたんだ。ノート取ってる時も、、、。でも、見直したらわからなくなっちゃって、、、」
俺は自分のノートと見比べる。
「あ、1箇所書き間違えてるかも、、、どっちが?」
と言いながら、計算し出した。
間違った箇所が分かり、二人で納得すると休み時間が終わった。
**********
お昼ご飯を食べながら、今日は自習室に行く話になった。
「孝ちゃん、僕さ、本屋も行きたいんだけど良いかな?」
「自習室の後、駅前の本屋寄る?」
「うん、帰り遅くなるけど平気?」
「良いよ、良いよ。琉生と一緒なら母さんも平気だし」
「そっか」
僕は最近学校が楽しかった。
勉強はやっぱり苦手だけど、孝ちゃんの隣で、孝ちゃんのシャープペンが動く音を聞いていると、頑張らなくちゃって思う。
たまに、二人で自販機に行って、ジュースを買って休憩を入れる。
その時間はもっと楽しい。
孝ちゃんを独り占め出来るから。
*****
孝ちゃんと勉強するようになって、夜、布団に入るとすぐに眠れる様になった。
ちゃんと寝ると朝も起きられる様になって、朝ご飯もしっかり食べてから家を出る。
休憩時間に寝る事も無くなり、孝ちゃんと沢山話せる様になった。
*****
僕と孝ちゃんが話しをしていると、緑川さんが来て
「最近眠り姫じゃ無くなったね」
と笑う。
「眠り姫?」
「宮田くんは休み時間いつも寝てたから」
「姫じゃないよ」
といじけて孝ちゃんを見ると笑ってる。
「孝ちゃんも眠り姫だって言うの?」
ふふっと緑川さんに笑われて
「緑川さんは部活入るの?」
と誤魔化す様に聞いた。
「もう入ってるよ、美術部とイラスト部」
「え!二つも?」
「美術部は油絵を描けるし、イラスト部も入りたかったからね」
「じゃあ、休みなんて無いんじゃない?」
「まぁね。でも楽しいよ。二人も入れば?」
「イヤ、俺、絵は苦手だから」
と、孝ちゃんが言うと、昔、孝ちゃんが描いた絵を思い出した。
プーッ!
と思わず笑う。
「琉生?」
「孝ちゃんが小学生の時描いた猫の絵!」
「琉生!アレはもう忘れてって!」
孝ちゃんにちょっかいを出された。僕は身体を翻す様に逃げる。
「琉生!」
孝ちゃんが僕を捕まえ、脇腹を擽る。
「孝ちゃん止めて!」
笑いながら逃げる。
「仲が良いねぇ」
緑川さんが呟いた。
**********
夏休みが終わり、文化祭の準備が始まった。
俺と琉生はダンボールに色を塗っていた。二人でずっと黒いペンキを塗る、、、飽きた。
目の前がずっと黒いんだ、、、。
「琉生ぃ、、、飽きた、、、」
「孝ちゃんったら、、、」
「だって、ずぅーっと黒いペンキ塗ってるんだよ?メンタルやられる、、、。馬鹿みたいな蛍光色のオンパレードに触れたい」
って泣き真似をした。
「ちょっと息抜きに、ジュース買いに行く?」
「行くぅ、、、」
と言いながら、ペンキの刷毛を置いて琉生の膝に頭を乗せる。
琉生は俺にペンキが着かない様に、刷毛を持った手を上げた。
「そう言えばさ、、、」
「何?」
「今もりょうちゃんに起こして貰ってるの?」
「???。今は自分で起きてるよ?」
「そっか、良かった」
「、、、りょうちゃんが文化祭来たいって言ってた」
俺はイヤだな。と思いながら、りょうちゃんに会ってみたかった。
「誘えば?」
「良いの?」
「孝ちゃんは誰か誘う?」
「うーん、、、。そうだなぁ、、、」
友達呼んだら、琉生と一緒に回る時間が無くなりそうだな、、、。
*****
文化祭当日、休憩時間に琉生はスマホを弄っていた。りょうちゃんと連絡を取っているみたいだ。
やっぱりイヤだな、、、と思いながら、一緒にりょうちゃんを迎えに行く。
琉生の幼馴染の「りょうちゃん」は、めちゃ可愛いかった、、、。その横に立つ男は彼氏?
「孝ちゃん、幼馴染の亮ちゃんと梨花ちゃん」
ん?亮ちゃんと梨花ちゃん?
「りょうちゃんって男?」
と、小さな声で聞くと
「そうだよ?」
あっさり言われた。
そっか、、、男だったんだ。でも、背の高いカッコ良い人だった。梨花ちゃんは小さくて可愛い。私服もフワッとした感じでよく似合っている。
琉生が梨花ちゃんの事好きって可能性もあるか、、、。
「僕の従兄弟の孝ちゃんです」
*****
こう言う時の並び方って難しいよな。俺と琉生が並ぶと二人を呼んだ意味が無いし、琉生が亮ちゃんと並ぶと俺が梨花ちゃんと並んじゃうし、琉生が梨花ちゃんと並ぶのはイヤだし、、、。歩きながら、下らない事を考えていた。
ま、結局、取り敢えず俺と琉生が先を歩き、食堂に行く事にしたんだけど。
自販機が2台並ぶスペースに、椅子とテーブルが有ってゆっくり座れる。
その奥に入って行くと、広い食堂がある。
四人でパンフレットを見ながら、何処を見たいか二人に聞くと、梨花ちゃんは手芸部の作品展示と美術部に行きたがった。
行く場所が決まり、琉生と梨花ちゃんがパンフレットを見ながら先を歩く。
俺は自然、亮ちゃんと後ろを歩いた。
「琉生、授業中寝てませんか?」
琉生?
呼び捨てにされて、イヤだなと思った。
俺の琉生なのに、、、。
幼馴染だし、悪気が無いのは分かるけど、モヤモヤする。
「琉生が亮ちゃんは勉強が出来るし、教え方も上手いって褒めてましたよ」
「中学二年の時、泣き付かれたんです。どうしても行きたい高校がある、でも、僕の頭じゃ行けないって、、、。琉生、めちゃくちゃ頑張ってこの高校に入ったんです」
「そんなに、この高校って良いですか?」
俺は偏差値と、家からの距離で選んだからな。
「あなたがいるからね」
俺がいるから?俺がこの高校受験するから、琉生も受けたって事?
亮ちゃんは笑った。
「受験日に孝ちゃんを見掛けた、同じクラスになった、そう言って喜んでました。子供の頃から、あなたに会う前日は眠れないと悩んでいたっけ」
ふっと笑った。
俺に会う前日は眠れない、、、。
「琉生は、三人の中で一番小さいし、誕生日も遅かったから何と無く弟みたいで、、、」
梨花ちゃんと琉生が手芸部の作品を見ながら悩んでいる。
俺と亮ちゃんは、少し離れた場所からそれを見ていた。
「孝ちゃん、まだ、彼女がいなかったって喜んでましたよ」
ん?それって、つまり、、、。俺の事、、、。
「孝ちゃん!来て来て!」
俺は、ペコリと亮ちゃんに頭を下げて琉生の横に立つ。
「見て見て、これ凄いよね」
犬の顔の刺繍がしてあった。
「へぇ、上手」
梨花ちゃんは亮ちゃんと他の作品を見ている。亮ちゃんが梨花ちゃんの頭をポンポンと叩くと、梨花ちゃんは嬉しそうな顔をしていた。二人でレジに行き、亮ちゃんがお金を払う。
「ねぇ、あの二人ってさ」
俺が小さな声で言うと、琉生は二人を見ながら
「両思いなのに、まだ付き合って無いんだよね」
小さな声で、ニコニコして言った。
あ、何かホッとした。
*****
美術部で緑川さんの作品を見た。
「凄い、、、、」
そんなに大きな絵じゃない。
青空に雲が描いてある。
水色が本当に空色で、雲が浮き出る様に立体感がある。
「本物の雲みたいだ、、、」
いつまでも見ていたくなる様な油絵だった。
*****
亮ちゃんと梨花ちゃんが
「琉生もゆっくり見たいでしょ?孝ちゃんも紹介して貰ったし、ココからは自由行動にしよう」
と言ってくれた。
本当は亮ちゃんからもう少し、琉生の事聞きたかった。琉生が俺の事好きかどうか知りたかったから。
でも、チャンスが無くて、そのまま別れてしまった。
「もし、あの二人が付き合ったらさ。琉生は淋しい?」
「?」
琉生は瞬きを一つして考える。
「淋しく無いよ。嬉しい」
「でも、仲良しの幼馴染なんでしょ?琉生だけになっちゃうよ?」
「何で?孝ちゃんがいるよ?」
ふはっ、、、!
「琉生!」
俺はめちゃ嬉しくて、抱き締めた。
**********
孝ちゃんの好きな人の事が、頭から離れ無い。
ずっと好きって言っていた。小学生の頃から好きなのかな、、、。
僕達は帰り道、いつもホームの一番端のベンチで電車を待つ。孝ちゃんは上り電車に乗り、僕は下り電車に乗る。
二人で勉強をした帰り道。駅のホームで聞いてみた。
「孝ちゃんの好きな子は、中学の友達?」
「違うよ」
「小学校?」
「もっと小さい頃から仲良しだよ」
「じゃぁ、幼稚園の頃から?小学校も中学校も同じだったの?」
「赤ちゃんの頃から知ってるよ」
「え!凄い」
そんな友達がいたんだ。
「可愛い子?」
「めちゃくちゃ、可愛いよ」
「そっか、、、今でも会う事あるの?」
「毎日会ってるよ」
ご近所さんなんだ。朝とか夜に会うのかな、、、。
「告白しないの?」
「告白したいけど、心の準備がね、、、」
良いな、、、孝ちゃんに告白されるなんて。羨ましい。
「琉生はどんな風に告白されたら嬉しい?」
「告白される状況って事?」
「うん」
「えっと、やっぱり二人きりの時が良いな」
僕は想像を膨らませる。
孝ちゃんに告白されるなら、ばあちゃん家の海が良いな。朝が良いかな?夜が良いかな?
告白して、、、キス、、、とかしてくれたら、、、
「琉生、真っ赤だけど大丈夫?」
「あ、あ、あ、、、あの、僕は二人きりの海がっ」
「そっか、そっか、海で告白されたいんだね」
笑われて、頭を撫でられると何だか恥ずかしくなって来た。
**********
海、海かぁ、、、。
11月の連休に、ばぁちゃん家行こうかな。
*****
琉生と一緒に過ごす時間が増えて、俺は琉生の事を独占したいと思っていた。
出来れば告白して、付き合いたい。
でも、従兄弟なんだよね、、、。
上手くいっても、いかなくても、親戚付き合いの事を考えると躊躇してしまう。
いとこ同士は結婚出来る。と言っても、琉生と上手く行かなくなった時の事を考えると、中々心の準備が出来ない。
それに、母さんや琉生のおばさんに、何て話したら良いんだろう、、、。
ただ一緒にいられるだけで良かった小さい頃が、一番幸せだったかも、、、。
あの頃はこんなに悩んで無かったな、、、。
**********
亮ちゃんに
「琉生はどんなデートしてるの?」
って聞かれたんだ。僕は、毎日孝ちゃんに会えたから、デートって発想が無かった。
「梨花をデートに誘おうと思ってるんだけど、どうしたら良いか分からなくて」
えー!亮ちゃんにも分からない事、あるんだ、、、。
「あ、あのさ、、、付き合って無いのに、デートしても良いの?」
「ダメかな?」
「亮ちゃんと梨花ちゃんは良いと思うけど、、、。僕は何時迄経っても、孝ちゃんから見たら弟だからさ」
「琉生が、デートしたかったら誘えば良いんじゃない?」
「そりゃあ、孝ちゃんとは休みの日にも会いたいけど」
「じゃあさ、四人で会わない?」
「四人で?」
「そう、それならお互い誘いやすいと思う」
「僕、孝ちゃんと映画に行きたいな、、、」
小学生の頃、毎年夏休みにばあちゃんが映画に連れて行ってくれた。
いつもは海ばかり行っていたけど、最終日の前日は、ばあちゃんの車で遠くの映画館に行った。
恒例の行事だった。
中学生になってからは一度も行っていない。
「何か、見たい映画ある?」
「映画は何でも良いんだ。みんなで決めた方が良いし」
何て、亮ちゃんと相談してたのに、孝ちゃんに映画を拒否されてしまった、、、。
**********
文化祭の後から、琉生の話題に亮ちゃんの名前が頻繁に出る様になった。
最初は気になら無かったのに、やっぱり頻度が高いとイヤだなと思う。
俺より亮ちゃんが大事なんだ、、、って感じるんだ。
「孝ちゃん、今度亮ちゃんと映画行くんだけど、孝ちゃんも一緒に行かない?」
えー、、、行きたく無い、、、。
俺より先に亮ちゃんと約束したと思うと、何だかな、、、と思う。
「いや、いいよ。遠慮しとく」
「え?、、、そうなの?、、、じゃあ、僕も辞めようかな、、、」
「何で?琉生は行きなよ」
「うーん、、、でも、、、」
「亮ちゃんと約束したんでしょ?」
琉生は、椅子に座りながら俺を見上げた。
下から俺を見る琉生は、小さな頃を思い出させる。
「分かった。亮ちゃんには話しておくよ」
**********
「亮ちゃん、映画の件なんだけど、、、」
「あ、梨花は行くって!」
「ごめん、孝ちゃんに行かないって言われちゃった」
「琉生は?」
「僕も孝ちゃんが行かないなら、家でゆっくりしようかな、、、。亮ちゃんは、梨花ちゃんとデート楽しんで!後で色々教えてね」
「琉生、大丈夫?」
「うん、、、楽しみにしてたから、ちょっと残念だなって思っただけだから、、、」
「そっか、、、」
*****
今日は孝ちゃん、何してるかな?
今まで休日は連絡した事が無かったけど、たまには良いかな?
そう思いながら、緊張してメッセージを送る。
「孝ちゃん、今日は何してるの?」
暫くしてから
「友達と遊んでる」
って返事が来た。
あ、孝ちゃん、好きな子とデートかも、、、。
そう思ったら、次のメッセージが送れなかった。
**********
琉生に映画に誘われた日だった。
初めて休日に琉生からメッセージが来たけど、亮ちゃんと映画に行ってるんだと思うと、つい友達と遊んでいるフリをした。
嘘を吐くのもイヤで、面倒だけど出掛けようと思い、上着を手にする。
一人で出掛ける所なんて無い、少し電車に乗って繁華街まで行く。ショッピングモールをうろうろして、本屋に入った。
「あれ?安城くん」
呼ばれて振り向くと緑川さんだった。
「珍しいね、一人?」
「まぁね。緑川さんは?」
「今から、画材屋さんに行くんだ」
「へぇ、、、。俺も行って良い?」
「興味有る?」
「画材屋って入った事無いから」
「時間があるならおいでよ」
緑川さんは気にする事無く、誘ってくれた。
「文化祭の展示見たよ。油絵。綺麗だった」
「本当?」
「うん、凄いなって思った」
「そう言われると嬉しいな」
「好きな事が有るって良いよね」
「、、、何かあった?」
「ん?」
「何時もと違うなぁって」
「そっかな、、、」
*****
翌日、緑川さんは俺と琉生がお弁当を食べている席に来て
「安城くん、昨日はありがとね」
と言った。
琉生が静かに俺達を見ている。
「こちらこそ、助かったよ」
返事をすると、緑川さんはいつも一緒にお弁当を食べている友達の席に行った。
琉生が何か言うかと思ったけど、何も言わなかった。
でも、何だか考え事をしている様な顔をしている。
「琉生?」
「え?」
「お弁当、めっちゃ溢してる」
「わぁ!」
さっきから、お米をポロポロ落としていた。琉生も気付いていると思ったけど、どうやら気付いていなかったみたいだ。
「えへへ、、、」
と笑いながら、お米を拾う。
**********
孝ちゃん、緑川さんと出掛けたんだ、、、。
何時の間に、そんなに仲良くなってたんだろう。
何だか、胸がチクチクする。
**********
やっぱり、琉生を海に誘おう。
告白出来るか分からないけど、、、二人で海に行きたい。
「琉生、11月の連休にばあちゃん家行かない?」
「、、、二人で?」
「うん、海、見に行こうよ」
ばあちゃん家には夏しか行って無い。お正月は父さんの実家で過ごしていたから。
「二人で電車に乗ってさ」
「泊まり?」
「ばあちゃんが良いって言ったらね」
「行きたいな、、、」
「じゃあ、今日帰ったら、母さんとばあちゃんに相談するよ」
「うん、ありがとう」
*****
連休の初日、琉生と待ち合わせをして電車に乗る。
ばあちゃんには、遊んで行くから夜着くと伝えてあった。
途中の駅で降りる。荷物をコインロッカーに預けて暫く歩くと小さな遊園地がある。ショッピングモールもあるけど、俺達は遊園地の中を歩いた。
大きな観覧車には、真ん中にデジタルの時計が有って、すぐに時間がわかる。
道路を挟んだ建物には映画館が入っているのか、大きな文字でcinemaと書いてあった。
「亮くんと何の映画見たの?」
つい聞いてしまった、、、。
「映画?行かなかったよ?」
「え?何で?約束したんでしょ?」
天気の良い11月の連休。子供連れや学生がたくさんいた。
周りは知らない人ばかりで、僕達の会話なんてどうでも良さそうだった。
「だって。孝ちゃんがいなかったから」
「そうなんだ、、、」
「亮ちゃんと梨花ちゃんは行ったよ。二人で初めてのデート、、、ふふっ。亮ちゃん、梨花ちゃんに告白して付き合う事になったんだ」
「、、、」
「亮ちゃんが僕に相談してくれて、四人で映画に行こうって話してたんだ」
「四人、、、」
「そ、亮ちゃんは梨花ちゃんとデート、僕は孝ちゃんとデート。でも、孝ちゃんに振られちゃった」
ふふっ、、、と笑う。
「だけど、四人でデートしてたら、亮ちゃん告白出来なかったから、孝ちゃんが断ってくれて大正解だよ」
「そうなの?」
「孝ちゃんは、好きな子と上手く行きそう?」
「、、、上手く行かせる」
琉生が笑った。
「頑張って、孝ちゃんならきっと上手に出来るよ」
その後二人で遊園地を歩いて回り、周辺の商業施設をゆっくり見て回った。
デートって、こんな感じかな?
何を見ても、何をしても楽しかった。
母さんからばあちゃんにお土産を買って、と言われて渡されたお金で、お菓子を買った。辺りが暗くなり始めた頃、電車に乗る。
窓から見える遊園地はライトアップされていて、キラキラしていた。
ゆっくりゆっくり電車が、走り出す。
最初は混んでいた電車も、徐々に人が入れ替わり俺達も椅子に座れた。
琉生はすぐにウトウトと眠り出した。後、40分電車に乗る。彼を寝かせたまま、窓の外を眺めていた。
琉生、映画行かなかったんだ、、、。
四人でデートって、、、。
フッと笑ってしまった。
肩に寄り掛かる琉生の髪に頬擦りをする。
デートって言ってくれたら、意地なんて張らなかったのに、、、。
亮ちゃんは告白したんだ。
偉いな、、、と思った。
告白したいと思う気持ちと、いつまでもこのままでいたいと思う気持ち、、、。
従兄弟だから、、、もし、万が一、琉生に拒否されたら、、、。
ずっと考えていた事。
でも、伝えないと伝わらない、、、。
そして、やっぱり俺の気持ちを知って欲しい。
ばあちゃん家に近付いて来た。
電車は、大通りと平行する様に走る。
民家と道路沿いに並ぶ街灯。
車のライト。
真っ黒な海。
遠くの対岸の小さな灯り。
琉生が、目を覚ます。
「うわ、、、真っ暗」
夜の海を電車の中から見た事が無かった。
「少し怖いね、、、」
俺が言うと
「うん、怖い、、、」
小さく言った。
「でも、孝ちゃんがいるから平気、、、」
寝ぼけた顔で、俺を見た。
そっか、、、俺と一緒なら平気なんだ、、、。
*****
終着駅で降りて、ばあちゃんの家まで歩いて戻る。
電車から降りて見る海は、波の音もしてさっきとは少し違った。
ばあちゃんの家に着いて、インターホンを押すと、ばあちゃんは相変わらず元気に迎えてくれた。
お土産を渡して、晩御飯を食べると、ばあちゃんは一頻り話しをして
「お休み。戸締りだけ、ちゃんとしてね」
と自分の部屋に入って行った。
「琉生、海、行かない?」
「今から?」
「小学生の頃、夜の海に行けなかったからさ」
「うん、孝ちゃんがいるなら」
自分の部屋に入ったばあちゃんに声を掛けて、静かに家を出る。
預かった鍵で戸締りをして、二人で海まで散歩する。
あの駄菓子屋さんは無くなり、コンビニになっていた。二人で店に入り、温かい飲み物を買う。
砂浜は、波打ち際に近づく程暗くて、違う世界みたいだった。
後ろを振り向くと、街灯とコンビニと飲食店の灯りが煌々としている。
二人で砂浜を歩く。
「孝ちゃん、あのね、、、」
「ん?」
「僕、孝ちゃんの事好きなんだ、、、」
少し後ろを歩いていた琉生が言った。振り向こうとしたら
「そのままで聞いてくれる?」
と小さく言った。
「孝ちゃんに好きな人がいる事知ってるし、孝ちゃんが僕の事、弟みたいだって思ってるのも知ってるんだけど、、、。やっばり好きなんだ。ごめんね」
そのままって、いつまで?
「へへ、、、言っちゃった、、、」
波の音が聞こえる。
「孝ちゃんが好きな人に告白して、上手くいったら、、、。僕、どうしたら良いか分からなくて。僕の気持ち、伝えたかったんだ」
「琉生、俺、弟なんて思った事無いよ」
「ホント?」
「本当、、、」
「そっか、、、良かった」
「まだ、振り向いちゃダメ?」
「あ、良いよ。ごめんね」
少し距離が有った。
「琉生」
手を繋ぐ。
いつも手を繋いで歩いていたのに、、、
「いつから手を繋が無くなったのかな、、、」
琉生が言う。同じ事考えてたんだ。
「従兄弟って結婚出来るって知ってる?」
「え!そうなの?」
「そう、、、結婚出来るんだよ。、、、俺、ずっと怖かった、、、。琉生と親戚だから、告白して良いのかな?って、、、。もし、告白して上手く行かなかったら、どうなるんだろうって怖かった。告白して付き合っても、母さんや琉生のおばさん、ばあちゃん達はどう思うのかな?って、、、」
琉生が繋いだ手に力を入れた。
「ごめんなさい、、、僕、何も考えないで告白しちゃった、、、」
「大丈夫、俺も告白したかったから、、、」
さっき買ったコーヒーは、もう冷たくなっていた。
11月の夜の海は寒い。
「ばあちゃん家、戻ろうか」
「うん、、、」
波打ち際から明るい道路沿いまで戻ると、違う世界から現実世界に戻って来たみたいだった。
琉生の顔を見ると、不思議そうな顔をする。
「何でも無いよ、、、」
手を繋いだまま歩く。
ばあちゃん家に着くと、戸締りをした。
一応、ばあちゃんが寝てる部屋に顔を出して、小さな声で
「ただいま」
と言う。ばあちゃんはぐっすり寝ていた。
部屋に戻って
「先にお風呂行きなよ」
琉生に言うと
「うん、、、」
と返事をして、着替えを持って風呂場に行った。
二人分の布団を敷く。
じわじわと琉生に告白された事を思い出す。
あれ?俺が告白する予定が、告白されてる?
お風呂上がりの琉生は、まだ、少し髪が濡れていた。
「ちゃんと乾かしな」
と言って、俺も風呂に入る。
風呂の中でも考える事は、琉生の事ばかりだった。
何時から俺の事好きだったんだろう、、、。
これから俺達、付き合うのかな?
みんなには何て言おう。
髪を乾かして、部屋に戻ると琉生は寒かったのか布団に入って眠っていた。
敷布団をくっ付けて、羽毛布団を重ねる様にする。
灯りを小さくして、布団に潜り込む。琉生の顔を見る。そっと頬に触れた。
もっとたくさん話しがしたかったのに、残念だな、、、。と思いながら、琉生を抱き締めて眠る。
早朝、まだ外は暗い。
俺の腕の中で琉生がモゾモゾしている。
「琉生、起きてる?」
俺の身体に腕を回し、腕の中で頭を擦り付けている。
はは、、、可愛い。
「琉生、朝の海、見に行く?」
「行くぅ、、、」
ギュッと抱き付いて来た。俺も抱き締める。
「じゃ、着替えよう」
「んー、、、」
と言って、俺の首筋に顔を付ける。
「孝ちゃん、良い匂い、、、」
俺は、琉生の髪にキスをして
「今からなら、日の出が見れるかもよ」
と促した。
ばあちゃんはもう起きていた。
声を掛けて、日の出を見て来ると話し、二人で家を出る。
昨日と同じ道を歩く。日の出まで、まだ時間があった。空が少しずつ明るくなって来る。
夜と朝が混じった様な不思議な空だった。
コンビニで買い物をした。
階段に座り、コーヒーを飲んでパンを食べる。
「ふふ」
「琉生?」
「楽しいね、、、」
「うん」
楽しい。
日の出が始まると、俺達は何も話さず身体を寄せ合って眺めた。
夜の海とは全然違う。何も無かった世界に、色が広がる。
「綺麗、、、」
「、、、」
「孝ちゃん、、、ずっと好きだった人の事、、、もう、いいの?」
「?」
「あ、、、れ?あ、、、僕、ちゃんと好きって言われて無いね、、、へへへ」
琉生が昨日の事を思い出して言った。
「琉生、好きだよ。ずっとずっと好きだった。幼稚園の頃からずっと、、、」
そっと手を繋いだ。
「孝ちゃん、、、」
「赤ちゃんの頃からずっと知ってるって話したでしょ?」
琉生と目が合った。
「あれ、僕の事だったの?」
「そうだよ」
「そっか、、、良かったぁ、、、」
琉生がいつもみたいに、俺の肩に頬をくっ付ける。
「孝ちゃんには好きな人がいると思ってたし、緑川さんとも仲が良いみたいだったから、少し淋しかったんだ、、、」
「琉生」
呼ばれて顔を上げる。
そっとキスをした。自然に瞼が閉じる。
彼は、ゆっくり瞼を開き、俺を見つめ
「孝ちゃん、僕もずっと好きだったよ。小学生の頃からずっと」
と言って、俺の肩に頭を乗せた。
「空って綺麗だね、、、。夏の空も好きだけど、夜明けの空って不思議な色だね。孝ちゃんと見れて良かった」
繋いだ手を俺のポケットに入れて、二人で太陽が昇るのを見ていた。
犬の散歩をする人。
朝のジョギングをする人。
時間が動き出したみたいで、俺達も立ち上がった。
「お腹空いた〜!」
琉生のセリフに、俺のお腹も音を立てそうだった。
「ばあちゃん家帰ろう!」
二人でゆっくり帰った。
**********
「帰りに映画でも見て帰りなさい」
ばあちゃんが二人にお小遣いをくれた。
借りた布団を押入れにしまい、荷物を片付ける。
「また遊びにおいで」
「うん、ありがとう」
そう言って9時過ぎには、ばあちゃんの家を出た。
始発の電車は人が疎だった。手を繋いで海を見ながら帰る。
ばあちゃんに教えて貰った駅で降りて、地図を頼りに歩く。いつもならばあちゃんの車で行っていた映画館。
「懐かしい、、、」
外観を見て、二人で盛り上がる。
駅から歩いた事は無かった。
「何だか新鮮だね」
と言いながら商業施設に入る。
子供の頃に来た映画館、何も変わって無かった。
二人で映画を選び、お店を見たり、ゲームセンターで時間を潰した。
ポップコーンとコーラを買い、座席予約した一番後ろの一番端、二人席に座る。
映画が始まり、館内が暗くなる。
俺は琉生の手を握り、そっと頬にキスをした。
「これからもずっと一緒にいようね」
と耳元で囁くと、琉生がチュッと口付けをした。
「僕、勉強頑張るから一緒の大学行こうね」
映画はアクション物で、スリル満点だった。子供の頃に見ていたアニメとは違うけど、二人で一緒にドキドキしたり、ビクビクして楽しかった。
映画が終わり、館内の電気が点いて、二人で手を握りながら見つめ合った。
「面白かったぁー!」
と言いながら、スマホの電源を入れる。
琉生のスマホの待ち受けが、俺と一緒に撮ったパフェの写真だった、、、。
海、行きたいです。




