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引きこもりのお飾り妻は悪妻になって離婚したい  作者: 赤城ハルナ/アサマ


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9/15

悪妻作戦その二【浮気妻を演出】(そもそも男に出会えね~)

 散財がダメなら次はお色気作戦。堂々と浮気をしてやるわ! あっちだって浮気してるんだもの、わたしがしてはいけない理由はない。

 悪女や悪妻というと妖艶なお姉様を想像する(愛人二人は論外)。露出の多いドレス姿で殿方を誘惑するわけ。


 フフフ、これでいくわ。


 浮気して離婚なら慰謝料を払わなければならないかな。分割払いでいいのかな。十年ローンくらいで払えれば問題ないわ、生活は質素になるけれど。

 そもそも引きこもりのわたしがどこで殿方に会えるのかしら。パーティーではフィンと一緒だからほかの男性と接触できないし、フィンがわたしと離れるときは強制的に婦人方の中に入れられるし。


 とりあえず形から入ることにして、大胆露出多めドレスを買おう。


 疲れが取れた頃合いでアンと再び街へ。高級商店街のショーウインドーを眺め、キラキラで派手なドレスが飾られている洋品店に入る。

 こ、これは。前世のキャバ嬢が着るような雰囲気だわ、ここはどういったお店なんだろう?


「アイネ様、本当にこんなドレスを買うんですか? これは……イブニングドレスというよりは、どう見ても夜のお仕事……」

「アンがそう思うのならこれでいいのよ、なるべく真っ赤で露出の多いドレスが欲しいわ」

「えぇ……」


 何着か試着後、わたしは胸と背中がぱっくり開いた深紅のドレスを購入した。ノースリーブで背中はウエストまで開いている。まさしく悪妻。もちろんライリー家のツケで。

 今までこういった大胆なドレスを着たことがない。マケナニー家でもライリー家でも。わたしのために用意されたパーティードレスはどれも淡い色で、胸や背中はもちろん、首や手首までレースでしっかり覆われていた。

 特にフィンは肌の露出を嫌うから。


 ともあれ勝負ドレスを用意した。あとは適当なパーティーへGO!


「ねえアン、わたしにパーティーのお誘いはないかしら?」

「え~と、いくつかお茶会の招待状はあります。ですがパーティー関係はすべてご主人様のところで止まりますので分かりません」


 そうだった、わたしへの手紙はフィンによって必ずチェックされるのだ。実家からの手紙でさえも。まるで『妻』という名の囚人みたいだ。これではひとりでパーティーなんて夢のまた夢、殿方を誘惑なんて不可能。


 それならどうする? というか、お茶会へ行くしか選択肢はない。


「お茶会へ出席してみようと思うの。招待状を渡してもらえる?」


 二通来ていた。どれも来週開催。近い方の屋敷でいいかな。

 今までお茶会の招待状は内容を見ずにそのまま執事に返していたけれど、フィンがお断りの返事をしていたのだとしたら、ちょっと反省。


 それはアハーン子爵家の若奥様、オーラ様主催のお茶会だった。ライリー家の若奥様にご挨拶したいと一筆したためてあった――聞いたことのある家名。


「フィンに知られたくないから、これはアンが先方に直接届けてくれる?」

「かしこまりました」





 当日。


「アイネ様、こんな姿でお茶会へ行くんですか!? もう秋になりますよ。せめてストールを……」

「いいのよアン、これでいいの(だってわたし、もうすぐ離婚するんだもの)」


 先日購入した大胆ドレスで人生初めてのお茶会。胸と背中がス〜ス〜するけれど気合で乗り切るつもり。にしても、さ、寒い……今日は霧が出て気温が低い。この世界には天気予報なんてないから、前もって服装の調節ができない……ストールを羽織るべきだったかも……馬車は出発したからもう遅い。

 大丈夫、お茶会のあいだ我慢するだけ。


「アン、御者に迎えの時刻を伝えたら、しばらく控えていて」

「かしこまりました、アイネ様。楽しいお茶会を」


 豪華なサロンに案内され、初めてのお茶会へ。


「ようこそアハーン家のお茶会へ、ライリー家の若奥様、アイネ様」

「この度はお茶会に招待していただき、誠にありがとうございました。これはほんの気持ちでございます」

 あらかじめ用意した高級菓子店の箱を、アンが女主人に渡す。

「まぁっ、あなたがライリー様の奥様なのね。わたくしの夫はライリー様と同じく王宮儀式に携わっておりますの。先日のマロイ家パーティーへはわたくし出席できませんでしたので、なかなかご挨拶する機会がございませんでした。可愛らしい方ですのね……その……お寒くなくて? よろしければストールをご用意いたしますわ」


 招待客が一斉にわたしを見て驚いた。


 おおう、みんな肩にストールをかけている。わたしだけ素っ裸な気がする。でもいいのだ、わたしは悪妻だから。開き直った奥様は強いのだ。


「大丈夫ですわ、お気遣いありがとうございます、ホホホホ」

「今回のお茶会には首都にお住まいの若奥様をご招待しておりますの。ご紹介いたしますわ、右からバノン家の奥様、夫は法務官ですのよ。次にサリバン家の奥様、夫は陸軍大尉ですのよ……」


 皆さん立ち居振る舞いがものすごくお上品ね、当たり前だけど。それに皆さん大人の色気が……。

 わたしに対してどう接すればいいのか迷っていそうだわ。適当でいいのよ(だってわたし、もうすぐ離婚するんだもの)。


 ――さて、男はどこに?

 ひとりもいなかった~。


「まあっ、お義姉様、あの赤い方はどなたかしら!?」


 聞いたことのある声。


 お茶会に乱入して来たのは、な、な、なんとあの派手令嬢ではないか! フィンに言い寄っていた、わたしにワインを掛けようとした(もしくは自分に掛けてわたしを陥れようとした)女!

 そういえばこの人、アハーン家の令嬢だったのだわ。


「初めまして(皮肉)、ライリー伯爵家フィンの妻アイネでございます」

「まあっ、ライリー様の奥様(皮肉)? てっきりどこぞの職業婦人かと思いましたわ(皮肉)」

「セリア、失礼なことを言ってはいけませんよ(馬鹿義妹がっ、夫の出世に響くじゃないの!)。申し訳ありません、ライリー様の奥様」

「いいえ、お構いなく(ブルブルブル……暖炉はあるけど寒い……)」


 そのあとどんな会話があってどんなお菓子が出されたのか記憶にない。なぜなら、寒くて震えるのを我慢していたから。トイレに行きたくても行けない。何か飲むと余計辛い。どうすればいいのか分からない。


 もうダメかも、途中でお暇しなければ……と思ったとき、ライリー家から迎えが来た。


「いきなり申し訳ありません。妻がお邪魔していると聞きましたので、迎えに参りました。本日はおもてなし誠にありがとうございました。妻はまだ社交に慣れず、途中で退席することをお許しください」

「まぁっ、ライリー様。わざわざお出迎えですの。仲がよろしいんですのね(ゴマすり)」


 助かった! ナイスタイミング――が、そこにいたのは腹黒く微笑むフィン・ライリーと、オロオロしているアン。


「ライリー様、いらしていただいたのですね、わたくしお会いしたかったですわ」と、すかさずフィンの腕にくっつくセリア・アハーン。

「マロイ家のパーティーでは妻がお世話になりました(皮肉)。ですが申し訳ありません、レディ。今日は妻を迎えに来ただけですので……後日お礼を申し上げます」

 フィンのコミュニケーション能力は素晴らしい。どんな状況でも丸く収める。


 結局わたしはフィンにお姫様抱っこされてお持ち帰りされたのであった。


 どうしてこんなに優しくするの、離婚の決意が揺らぐじゃない。





 すっかり冷えて風邪をひいたわたしは、三日間起き上がれなかった。


「あんな服装で勝手にお茶会へ行って風邪をひくとは。お茶会へ行くときはあらかじめぼくに断るよう言っておいたよね? どういうことかな?」

「ええ~と(そうだっけ?)」

 お説教タイムがはじまった。


 散財するのは性格的に無理だった。

 毎週の観劇や演奏会は疲れる。

 大胆ドレスでお茶会へ行ったら、男はいなかった上に風邪をひいた。


 こうなったらヤケよ! 当たって砕けろよ!


「もうお分かりでしょうが、わたし、悪妻になったんですの。離婚したくなりまして?」

「フッ、何を言うかと思ったら、また悪妻の話?」

「もちろんです!」

「大胆ドレスでお茶会を驚かせて風邪をひいたぼくの奥様は、随分か弱い悪妻なんだな」

 苦笑するフィン。


「強くても弱くても悪妻は悪妻なんです、離婚したくなりまして?」

「だから、何をもって悪妻というのかな?」


 また理詰めで押し切るつもり?


「なので離婚して下さいな」

「アイネ……ロマンス小説の読みすぎなんじゃないか? 役所の書類を真似た紙に『り・こ・ん』と書けばいいのか?」

「そういうことじゃなくて!」

「フゥ、愚痴があるのなら晩餐のあとに聞くから、そんなことを気安く言葉にしてはいけないよ。特にパーティーでは気を付けること。お茶会は禁止だ。しばらくは外出も禁止する」

「えぇっ……そんな……」

「アイネはいつものようにピアノを弾いたり絵を描いたりしていればいいんだ」

「あの……だから……り、り、りこ……りこ……」


 当たって……砕けてしまった……。


 悪妻を目指したら『お飾り妻』から『外出禁止妻』にジョブチェンジしてしまった。



☆ ☆ ☆



 後日アハーン家からお茶会のお土産がライリー家に届けられ、社交界では『ライリー様の奥様ご乱心』という話題が奥様・お嬢様方の間に上るのであった。

※なろう的にはこの辺で都合よくアイネを気にする男性が登場するのでしょうが、フィン・ライリーで一気に男運を使い果たしたので、残念ながら現れませんでした。

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