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引きこもりのお飾り妻は悪妻になって離婚したい  作者: 赤城ハルナ/アサマ


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7/15

秘密の別邸(あり得ね~)

 日中フィンは大抵出かけているので、朝の散歩や乗馬が終わったらアンと二人きり。次のパーティー関連やフィンの仕事に関する知識を詰め込むほかは、実家から持って来た趣味道具を広げて暇つぶしをしている。


 前世の記憶を辿り、絵を描いたりピアノを弾いたりしているのです。


 外で絵を描くのは恥ずかしいから、出窓から見た庭園を描くことにした――とても素敵な庭だもの。

 アンは時間があると刺繍をしている。わたしよりもアンの方が貴族のお嬢様みたい。侍女をしているといっても地主のお嬢様だものね。本当ならアンも婚約者がいて、将来は身元のしっかりした男性に嫁ぐはずだったのだけれど……理由があってそれはできない。


「アン、今日は暖かいし天気もいいから、庭に出るわ」

「はい、アイネ様。帽子と日傘をご用意します」

 というわけで、今日は外へ出て、前から気になっていた屋敷裏の森へ。

 前世では近所の林でどんぐりや栗を拾っていたっけ。ここには何があるのかな。鹿やリスがいるのかな。熊はいなそうだけど……。


「森の中には何があるのかしら。そういえば立ち入り禁止って言われてたっけ」

「アイネ様、入ってはいけません」


 森の入り口には鉄門があり、中が見えないようになっている。周りには背よりも高い木の柵。どう見ても怪しさマックスである。この先に野犬収容所や刑務所があっても不思議ではない。犬の鳴き声や人の叫び声はしないけれど。


「柵を越えることはできないし、こんな格好では藪に入ることもできないし……」

「入るのは止めましょうよ、アイネ様。立ち入り禁止ですよ、またご主人様に叱られますよ」

「……そうね」





『白い結婚だ〜!』と、喜び勇んで結婚生活に突入した半年後のこと。


 その日は暑過ぎない爽やかな夏の日だったので、わたしは珍しく庭園の東屋で絵を描くことにした。


「たまには外で描くのもいいかもしれないわね。でも、ほかの人に見られたくない」

「わたしが見張っていますから、安心して下さい」

「頼もしいわ、アン」


 二人でお茶しながら、フルーツケーキをつまみながら、おしゃべりしながら、楽しく庭園の絵を描く。モネやマネにはなれないけれど、文化祭で入賞するくらいには描けるかな……。

 サッサッと鉛筆でおおまかに下書き。その後は油絵の具で薄く下塗りをする。暑すぎず爽やかな夏の昼下がりだったので、絵の具の乾きも早かった。いつの間にかアンはテーブルに突っ伏して居眠りしていた。


 わたしはものすごく集中していた。

 だから、目の前に知らない人がいることに全然気付かなかった。


「あら、こんな所に子供がいるわ、二人も」


 突然聞き慣れない声がした。


「えっ、誰?」


 東屋に知らない女が二人近づいて来た。


「アン、起きて……」

「あっ、申し訳ありません、アイネ様……」

「いきなり伯爵家の庭に入って来るなんて、どなたなのかしら?」

「ええと、知らない人たちです……」


「何をゴチャゴチャ言ってるのかしら。こんな所でお子様がお絵描きしてるんだけど。何の絵かしら?」

 無駄にお化粧の濃い女が不躾に言った。

「どなたでしょうか?」

「わたしはダフネ、彼女はミケーレよ」

「……?」


 ダフネとミケーレとかいう女性。ギリシャ神話みたいな名前だな。お色気ムンムン、ボンキュッボンで胸とお尻が大きくお化粧の濃いお姉様たち。圧倒されてしまった。

 ダフネは茶髪茶目でキツめの顔をしたグラマーさん。ミケーレは黒髪ブルーアイのぽっちゃりさん。


 どうやってここへ無断で入って来たの、誰が通したの?


「も、申し訳ありません奥様、別邸のお二人がぜひとも奥様にご挨拶をと言われまして……」

「あなたは?」

「わたしは別邸を受け持っておりますメイドでございます、申し訳ありません……」

「別邸……?」


「あなたがライリー様の妻ね。わたしたちはあの方とはとても親しいの。多分妻と呼ばれるだけのあなたよりも。夜になるとライリー様は必ずわたしたちの所へ来るのよ。どういう意味か……分かるでしょう?」

「さて、どういう意味でしょうか?」

「まぁっ、お子様ね。あなた本当は妻なんかじゃないんでしょ。あの方と夜を共にしたことなんかなさそうね、ウフフフッ」

「よ、夜を共に?」

「何も知らないのね、お馬鹿な子」


 ま、まさか――フィンの愛人!?


 あぁ、フィンはこういうグラマラスタイプの女性が好みなんだ。わたしなんて鉛筆みたいな体型だし。ただ単に家格が合うからわたしを妻にしただけなんだ。前から思っていたけれど、利用されているだけなんだ。

 だからお飾り妻(?)なんだ。


「見かけだけの妻なんだから、フィンとは距離を取ってもらえるかしら。あなたはただそこにいればいいのよ」


 そこにいればいい……フィンと同じようなことを言ってる。





「ねえ、アン、あの二人って……まさか……」

「そのことなんですけど……今まで黙っていましたが……」


 それまでわたしは知らなかったんだけど、使用人からライリー家の噂を聞いているアンによると、フィンには愛人が二人いるんだって。没落貴族の娘で二人は従姉妹同士。森の中にある別邸に住んでいて、フィンはほぼ毎夜通っているらしい。


 毎夜って――絶倫かよ!

 ま、まさか、3ピィ〜っ!?


〈ゲ〜ッ!!!〉


「会ったことはなかったんです、噂を聞いただけで。二人は別邸から出て来ないというから、アイネ様には黙っていようと……使用人の皆さんからも、奥様の耳には絶対入れないよう言われていて……」


 わたしは嫉妬深くないと思っていた。けれど別邸に愛人二人にはさすがにキレた。

 フィン・ライリーには妻がいるという口実に利用されているわたし。その裏でフィンは愛人二人と浮気をしている。あの二人とあんなことこんなことをやっていると思うと……何だか……。


 キモチワルイ、キモチワルイ、キモチワルイ!


 わたしにお休みのキスをしたあと、あの二人の所へ行ってるんだ! 百本釘バットで殴り倒したい!


 そう思った途端、フィンに触れられたくないと思った。





 夕刻フィンが帰るとすぐ、今日起きたことを口にした。わたしは引きこもりだけれど気弱ではないのだ。


「愛人――というわけではないよ。別邸には女性が二人住んでいる」

「どうしてそのことを言ってくれなかったんですか?」

「特に伝えることもないだろう、アイネには関係のないことだから。彼女たちは去年没落したニール男爵家の関係者で、落ち着くまでということで保護している」


 な、なんですってぇ~! 保護ですってぇ~! 保護だけであんなことやこんなことをするわけ!?


「外にいるのならともかく、敷地内の別邸ですよ、妻が知っていてもよいのではないですか? それに、わたしはあの人たちから言いがかりをつけられたんです!」

「……それもそうだな。今まで知らせなくて悪かった。屋敷内には入らないよう言ってあったが、もう一度厳命しておくよ」

「それだけ?」

「それ以上何か?」

「……」


 ダメだ、この男。言葉が通じない。





 不躾な姑、屋敷内に愛人を二人も囲っている夫、上から目線の愛人たち。白い結婚は有り難いけれど、こんなことって……。

 ということは、愛人がいながらわたしにプロポーズして結婚したということ?


 あり得ね〜!!


 わたしが妻でいる意味は何よ。愛人に子供を産んでもらえば結婚する必要もないよね、子供の母を妻にすればいいんだもの――大奥がある将軍かよ!

 ま、まさか、後継者の心配はないって……そういうこと!? 愛人が産んだ子供をわたしたちの子にするつもり? そんなことができるの?

 恐ろしいわ。


 何度でも言う、あり得ね〜!


 わたしだけが知らなかった。フィンがわたしに知られないようにしていたんだわ。何が『ぼくの可愛い奥様』よ! フィンのことを王子様みたいなんて思っていたおめでたい妻ね。

 バカみたい。

 涙?

 そんなの出ないわよ、乾いた笑いが込み上げるだけ……グスッ。


 もうフィンとはサッサと別れる!


 今後は祖父母からもらった資産で細々と生きればいい。毎年そこそこの配当金が銀行口座に入るから。小さな家を買って、毎日絵を描いたりピアノを弾いたりして。ピアノ教師をするのもいいわね。アンが一緒なら尚いいわ。

 何を考えているのか分からない夫や愛人がいる屋敷で暮らすよりも、大好きなアンと一緒に楽しく年を取りたい。


 ならば――目指せ離婚!


 どうやって?


 こういうときは悪妻になればいいんじゃない? ネット小説にあるよね。そうすれば、フィンから離婚してくれるかもしれない。

※引きこもりアイネの涙ぐましい努力(悪妻をなめていた)がはじまります。

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