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引きこもりのお飾り妻は悪妻になって離婚したい  作者: 赤城ハルナ/アサマ


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悪妻作戦その三【DV妻を演出】(使用人に文句を言う)

悪妻作戦を追加しました。メイド長がアイネを良く思っていなかった理由を入れました。

(くっ、散財も浮気妻もダメ……外出も禁止……こうなったらDV妻を演じるわ!)


 まず、どうやって使用人に(フィンに対してなんて無理)DVするのかを考え、箇条書きにする。


 ええと、前世で読んだ悪妻の話だと……。


・食事に文句を言う

・使用人を侮辱する

・使用人に暴力をふるう


 ウーン、どれもハードルが高すぎる。

 この中でできそうな事といえば……。


【食事に文句を言う】で決まりね!


 その日の晩餐で、さっそくわたしは食事を非難することにした。今回出された晩餐のメニューは……。


・コンソメスープ――文句なし。

・ロールパン――文句なし。

・魚のバターソース――焼いた魚がバターの海に浮いている――コレステロール注意報、いや、警報。

・ラムロースト――肉料理が苦手。少しだけなら食べられる。

・蒸し野菜――少なすぎ。

・フルーツプディング――おいしい。

・お酒――あまり飲めないのでレモネードに代えてもらっている。


 う~ん、よく考えてみたら毎日こんな感じだったわ。今までよくこれで満足していたわ――いや、満足していたわけではなくて、何の疑問も持たなかった。


 常日頃思っていたのだけど、脂肪分が多すぎない? 特にローストした魚がバターに浮いているやつ。どうしてこんなにバターを使うのか。しかもマケナニー家と比べて野菜が少なすぎ――家庭菜園をするべきかしら。

 これからは自分用のオリジナルレシピを考えた方がいいかも――いいえ、離婚するんだからライリー屋敷のメニューなんてどうでもいい。


「ねえ、今夜の料理はバターが多すぎるわ。もっと少な目にして」


 いきなりわたしが話し出したので、みんなに注目された。


 ホホホ、悪妻っぽかったかしら。


「珍しいね、アイネが料理に意見を言うなんて」と、少し驚いたフィンが言った。

「意見じゃないわ、これでは病気になってしまうわ」

「ですが奥様、他の屋敷でもバターの量はこのくらいかと。この屋敷が特に多いわけでは……」

 後ろに控えていたシェフが答えた。

「多すぎるわ! わたし太ってしまうじゃない!」

「……それじゃあもう少しバターの量を控えようか。お願いするよ、シェフ。可愛い奥様の体形維持のためにも」

 あくまでも微笑みをくずさず、フィンがその場を抑えようとした。

 どんなときでも冷静なフィン。別邸のことを言ったときも冷静だった。つまり後ろ暗いとか全然考えていないということね。


 何だかムシャクシャする。


「それでいいんだろう、アイネ?」

「え、ええ、まぁ……」

「意見を言うのはいいけれど、もう少し控えめに言った方がいいんじゃないかな。みんなが驚くだろう?」

「ハイ……」


 すんなりとわたしの意見が通ってしまったわ。こんなつもりで愚痴った訳ではないのよ。でも、今これ以上は文句を言えない。

 いいえ、次があるわ。次こそ!





 なぜか晩餐のための料理でバターの量を控えることに成功したわたし。

 それなら次はアフタヌーンティーかしら。


 翌日のアフタヌーンティーに出されたのは、いつものミルクティーにクロテッドクリームとジャム付きスコーンだった。実はここのスコーンはおいしいのだ。でも文句を言わなければならない。


「アン、メイド長を呼んで来て」

「はい?」

 アフタヌーンティーを用意したアンに言った。

「早く!」

「は、はい……」


 扇子越しにキッと睨みながら、やって来たメイド長に向かった。グッと気合を入れて文句を言う。


「わたし、スコーンじゃなくてマカロンを食べたいわ。今すぐ用意してもらえるかしら」

「マカロンですか?」

「そうよ」

「しかし今ありますかどうか……」

「それなら確認してくださる?」

「はい……」


 眉間に皺を入れながら、メイド長が厨房へ向かった。


「今まで文句なんて言わなかったのに、どうしたんですか、アイネ様?」

「別に……何だかわたし、ここにいるのが嫌になったの」

「ま、まさか、別邸の件で……」

「そうよ、あんなの許せる訳ないじゃない」

「で、ですよね。あり得ないですよね。酷いですよね。アイネ様……どんなことになっても、わたしはアイネ様の味方です……」

「ありがとう、アン」


 ちょっとウルッとした。アンだけはわたしを信じてくれるのね。


 ため息をついていたとき、メイド長が戻って来た。

「奥様、マカロンはございませんでした。その代わりということでシェフがご用意したものです」


 それはアイスクリーム付きフルーツタルトだった。


(いや~~ん、すっごくおいしそう!)


 じゃなくて。あくまでも文句を言わなければ。


 わたしは涙目になりながらクレームをつけた。


「わたしはマカロンが食べたいの!」


「奥様、いい加減にしてください! そりゃあ、わたしどもは伯爵家に仕えているわけで、このタウンハウスのご主人様はライリー家ご子息様です。奥様はそのお連れ様なわけですから、御用がありましたらちゃんとお聞きします。けれどもお出ししたお菓子にいちいち文句をつけられても困ります。お菓子をご用意するのにもそれなりの材料吟味や下ごしらえ、お時間がありますので!」


 こ、怖い。メイド長怖い。迫力が半端ない。さすがライリー屋敷歴ウン十年のベテラン! きざまれた皺が物語っている。


「ご、ごめんなさい!」

「お分かりになればそれでよいのです。マカロンは明日にでもシェフにご用意させますので」


 ……今回も悪妻になりきれなかった……。





 夕方、王宮から戻って来たフィンがわたしの部屋へやって来た。そのときわたしは不貞腐れてベッドに突っ伏していた。


「メイド長から聞いたよ。アフタヌーンティーに文句を言ったんだって? 今まで料理やお菓子に苦情を言ったことなんてなかったのに珍しいな。慣れない環境で疲れたんじゃないのかい? 結婚以来ずっと気が張っていたのかもしれないね」

「……」

「しばらく食事はここでするといい。自室で大人しくしていなさい。アンがいればいいだろう?」

「……」

「ときどき様子を見に来るよ」

「……」


 扉が閉まり、外から鍵をかけられた。


「アイネ様、当分は大人しくしていましょう。元々は絵を描いたりピアノを弾いていたりしたではありませんか。離婚したかったらその方法を考えてみましょう。わたしがいるから大丈夫です。どんなことがあってもアイネ様の側にいますから」

「アン……ありがとう……グスッ」


 悪妻を目指したら『お飾り妻』から『軟禁妻』にジョブチェンジしてしまった。当分部屋から出ることができない。

 わたしの離婚はどうなるのか……。

※次回は悩める女殺しフィン・ライリーのひとり言です。

※アイネはこれから毒を盛られるため、自室で軟禁されたまましばらくお休みです。

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