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25歳の誕生日のプレゼントは地下負債物件  作者: シンリーベクトル


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先生の冷やかし

地下の「彩」にふらりと現れた国枝先生は、頬を赤らめてカウンターに座った。

グラスを傾けながら、いきなり声を張り上げる。


「おまえらなぁ……高校の時からそうだ! 理論だ理論だって――頭でっかちなんだよ!」


理沙がすぐに噛みつく。

「先生だって顔でっかちじゃん!」


「そんな言葉ねーよ……」山本がツッコミを入れる。


先生はさらに声を荒げる。

「なにをこの……尻でっかちが!」


「アウトです」涼子が冷静に止めを刺した。


笑いが広がる中、先生はふっと視線を落とした。

「……まあ、からかったつもりだったんだがな」

声が少し震えている。


「実はな、同僚の先生がパワハラで潰れかけたことがあった。

 上からの圧と下からの不満に挟まれて、眠れない日が続いて……酒に逃げて、授業も崩れかけていた」


グラスを置き、先生は深く息を吐いた。


「俺も何度か相談を受けたが、正直、どう声をかけていいか分からなかった。

 ……でもな、おまえらの“サイサイセオリー”が救ってくれるきっかけになった。

 『人は欲求のベクトルで動くが、摩擦に阻まれて立ち止まる』――そう考えると、その同僚の苦しみも“弱さ”じゃなく“自然な反応”に思えてな」


静まり返った空間で、先生はしみじみと言葉を継いだ。

「頭でっかちだなんて言ったが……あのとき救われたのは、むしろ俺の方だった」


仲間たちは黙って先生を見つめた。

誰も笑わず、ただグラスを掲げる。


「先生……」白鳥が小さく呟く。

その声に、先生は照れ隠しのように鼻をすすり、

「……すまんな」

とだけ言った。


地下の空間に、温かな余韻が広がっていた。


国枝先生の「……すまんな」という一言で、地下の空間は不思議な静けさに包まれていた。

そのとき、重い扉が軋む音がした。


階段の上から、ゆっくりと武田が姿を現す。

背後には二人の人影。

甲斐と広中だ。


武田は薄暗い階段を降りながら、振り返って言った。

「ここだ。表の喧騒とは無縁の、隠れ家だ」


コンクリートむき出しの壁、控えめに灯された照明、奥から漂う出汁の香り。

外の居酒屋とはまるで違う、知的で落ち着いた空気が広がっていた。


「……なるほど、これは隠れ家だな」

甲斐はメガネを押し上げ、カウンターや壁際のパソコンに目を走らせる。

学者らしい冷静な観察の中に、微かな興奮が滲んでいた。


「ふん、路地裏の地下にこんな場所があるとはな」

広中はジャケットを肩に掛けたまま、小さく口笛を吹いた。

「外じゃ絶対分からない。看板も目立たない……完全に知る人ぞ知る店だ」


武田は軽く顎をしゃくり、仲間に向かって言った。

「甲斐は大学で准教授をしている。知の切れ味は保証する。

 広中は現場叩き上げだ。虚飾を嫌い、口に合わなければ容赦なく斬る。

 ――おまえらの“彩”を試すには、ちょうどいい客だろう」


甲斐はグラスを手に取り、静かに微笑んだ。

「表から見えない場所で、理論と現場が交わる……面白い。研究室でも酒場でもない、こういう場を待っていた」


広中はカウンターに腰を下ろし、にやりと笑う。

「隠れ家ってのは、うまいもんと本音が出てくる場所だ。――じゃあ、腹を満たしてもらおうか」


調理場で山城が包丁を握り直す。

白鳥は思わず呟いた。

「……ほんとに、ただの居酒屋じゃなくなってきたな」


“彩”という隠れ家に、新たな挑戦者が加わった瞬間だった。

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