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25歳の誕生日のプレゼントは地下負債物件  作者: シンリーベクトル


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山城の覚悟

カウンターに並んだ二皿。

ひとつは、にんにくの香りと和風出汁をまとったサイコロステーキのアヒージョ。

もうひとつは、真っ赤なトマトをくり抜き、中にラタトゥーユを詰め直した一品。


「……また大胆なもん作ったな」白鳥が目を細める。


仲間たちの視線を受けながら、山城は腕を組んだ。

「俺の結論はシンプルだ。料理なんざ――出汁と油と甘みさえ押さえとけば、何でもうまくなる」


高橋が笑いながら箸を伸ばし、アヒージョを口に放り込む。

「……マジかよ。肉汁に昆布出汁とほのかな醤油が染みて、油が旨味をまとめてる。クセになる味だな」


理沙はラタトゥーユをすくい、トマトの器ごと崩して口に入れる。

「んん! 野菜の甘みと酸味がバランスしてる……見た目もオシャレで映えるよ!果物で甘みを足した?」


西村は分析的に頷いた。

「塩分を控えめにして、出汁で旨味を補完……それに油で舌の持続性を作る。確かに理屈に合ってるわ」


山城はわずかに笑みを浮かべ、低い声で続けた。

「俺は前の職場で人間関係に疲れて辞めた。だけど――料理は裏切らない。

 出汁と油と甘み。この三つの軸を外さなければ、どんな素材でも客を唸らせられる。

 ……“彩”で本気を出すのは、それを証明するためだ」


静かな決意が、皿から立ちのぼる湯気のように空間を満たしていった。

仲間たちはそれを噛みしめながら、次の一口に箸を伸ばした。

山城はうつむき、低く笑った。

「俺は、人間関係が上手くいかなくて前の職場を辞めた。料理は好きでも、人と組むのは向いてないと思ってた。

 ……でも、ここなら違う。彩なら俺の料理が“合力”の一部になれる。だから本気でやる」


その声には迷いがなかった。

試作品の皿から立ちのぼる湯気が、地下の空間をゆっくりと満たしていく。


涼子は頷き、ノートに書き込む。

「理論、音楽、IT、映え……そして料理。これで“彩”は本物になるわね」


山城は黙って次の食材を取り出した。

――彼にとって料理は、過去の挫折を塗り替える唯一の言葉だった。



店が落ち着いた頃照明が落ち、店内のざわめきが静まり返った。

高橋が椅子に腰をかけ、アコースティックギターを爪弾く。

聞き覚えのあるリフが、歪みを削ぎ落とされ、透き通った響きで空間を満たした。


――“Smells Like Teen Spirit”。


だがこれは、爆音のオリジナルではない。

高橋と山城が研究し尽くし、ターゲット客層に合わせて再構築したアコースティックバージョンだった。


山城のドラムはブラシで抑えられ、力強さの中に知的な緻密さがある。

高橋の声は、怒りのシャウトではなく、低く艶やかに抑制されていた。

荒々しいはずの曲が、居酒屋の地下空間にふさわしい“理性を帯びた熱”へと変わっていた。


客席のスーツ姿のサラリーマンが、思わず手を止めて聴き入る。

隣の学生は、リズムに合わせて指先を机で刻む。

本能を煽るより、思考を刺激する演奏――それが狙いだった。


サビで高橋の歌声が一段高く伸びる。

激情を抑え込みながらも、曲の核にある“鬱屈”と“解放”が伝わってくる。

爆音に頼らず、むしろ抑えたからこそ、歌詞の意味が鮮やかに浮かび上がった。


演奏が終わると、一瞬の静寂。

そして次の瞬間、店内は拍手に包まれた。

知的に構えていた客層までもが、心を揺さぶられたのを隠しきれなかった。


山城は汗を拭いながら白鳥を見る。

「……研究した甲斐、あったな。アコギでも十分刺さる」


白鳥はグラスを傾け、口元に微笑を浮かべた。

「音を削ぎ落とすことで、理論が際立つ。――これならインテリ層にも響くさ」


高橋はギターを抱えたまま、静かに笑った。

「爆音じゃなくても、俺たちの叫びは伝わる。

 これが“彩”のやり方だ」


歓声はまだ鳴り止まなかった。


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