山本の活躍
夜の居酒屋「彩」、再び熱気に包まれていた。
壁際に並ぶレッツノートの画面に、新しいインターフェースが映し出される。
「――これは何だ?」白鳥が画面を覗き込む。
そこには大きな文字でこう表示されていた。
『今日の”嘆き”を共有しよう!』
「ルールは簡単だ」山本が淡々と説明を始める。
「客はここに悩みや“これについてどう思う?”みたいなテーマを書き込む。
他の客は飲みながら回答できる。回答者は星三つまで評価されて、納得度に応じてポイントが入る」
「はあ? 飲みながら人生相談かよ」高橋が笑った。
「ソロ客の口実になるんだよ」山本は真顔のまま続ける。
「ひとりで入ってきても、“悩みを書きに来たんです”って思えれば気まずくない。
しかも回答が気に入れば星三つの評価がもらえる。10ポイント貯まったら――」
「――俺にリクエスト、だろ?」高橋が笑ってギターを構える。
「つまり“お悩み解決ソング”を即興で弾いてやるってわけだな?」
「それでいいよ。」山本がうなずいた。
実際に画面には、
『上司が説教ばかりで辛いです』
『推しが結婚したんですが立ち直れません』
といった書き込みが並んでいく。
隣のテーブルの客が軽妙な回答を打ち込み、星を三つもらった瞬間、周囲から小さな拍手が起きた。
理沙は目を輝かせて手を叩く。
「わぁ! 女子でも気軽に書き込める! これは受けるよ絶対!」
西村はメモを取りながら分析を口にする。
「居酒屋とSNSを融合させた“リアルタイム相談プラットフォーム”……。意外と新しい価値になるかもしれないわね。以前私達が話してた酒が入ると自分の主張で地位欲求を満たしたくなるという整合性もとれてる」
涼子は腕を組み、誇らしげに笑った。
「完璧よ。知的にも感情的にも満たされる空間――まさに私たちが目指したコンセプトだわ!」
カウンターで見ていた父は、もう笑うしかなかった。
「……こんなのが居酒屋なのか」
『彩』の隅で、山本がひとり黙々とキーボードを叩いていた。
レッツノートの画面には、見慣れないコードの羅列と、テスト用のUIが並んでいる。
「……完成っと」
彼は小さく息をついて、画面を切り替えた。
すると、全員の端末に同時にポップアップが現れる。
『“あちらのお客様からですサービス”を受けますか? → YES/NO』
「なんだこれ?」高橋が怪訝そうに目を丸くする。
「またお前のイタズラか?」
山本はニヤリと笑い、腕を組んだ。
「イタズラじゃない。俺が作った新システムだ」
「システム?」白鳥が眉をひそめる。
「バーでよくある“あちらのお客様からドリンクです”ってあるだろ。あれにはみんな憧れているはずだ。
あれをこの店のインターフェースに組み込んだんだよ。ソロ客が来たら、画面にこれが出る。
YESを選べば、誰かがログインボーナスとかもちろん現金でもいいし一杯奢ってくれる。NOならスルーできる。
要は“絡みたいけど声をかけにくい”って欲求を、俺のシステムで解決するってわけ」
「……へぇ」西村は感心したように頷いた。
「つまり、ユナイト欲求をデジタルで媒介する仕組みね。しかも拒否権もある。理にかなってる」
涼子も腕を組んで笑みを浮かべる。
「面白いわね。ソロ客が居心地よくなるだけじゃなく、店の雰囲気にも“人と人をつなげる仕掛け”が生まれる。リピーター戦略にもなるわ」
「わー! 女の子が一人で来ても安心だね!」理沙がはしゃぐ。
「YES押してくれたら、自然に会話始められるし!」
白鳥は苦笑しながら山本を見た。
「……山本よ。お前、ソロの寂しい気持ちをよく理解してるな」
「や、やめろ! 俺が寂しいみたいに言うな!」山本は顔を赤くして抗議したが、
その様子にテーブルは大きな笑いに包まれた。




