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付録 西村の論文

サイサイ理論(Psy-Sci Theory)


― 欲求力学としての人間行動の新しい統合枠組み ―

著者:西村 沙耶香(Risa Nishimura)

心理行動エネルギー研究所(Behavioral Energy Dynamics Lab, Tokyo)



要旨(Abstract)


本研究は、人間行動を「根源的欲求の相互作用によって生じる動的力学系」として定義する新しい統合枠組み――サイサイ理論(Psy-Sci Theory, Psychological-Scientific Theory)を提示するものである。

行動は、5つの内発的エネルギー(Life, Safety, Unite, Rank, Learn)が方向と大きさをもつベクトルとして相互に干渉し、その合力が個人の行動を決定する。


外的要因は二種類に分類される。

第一は「強制ベクトル(Enforcement Vector)」であり、外部の命令・罰則・評価圧などによって一時的に行動を駆動する力である。

第二は「逆エナジー(Reverse Energy)」であり、貧困・差別・孤立・教育機会の欠如などにより、本来の欲求エネルギーの方向を反転させる阻害要因である。


さらに、行動成立を妨げる抵抗因子として「摩擦(μ)」「最大摩擦(Max)」「上限(Cap)」を導入した。

また、体内物質分泌はベクトル合力の生理的反映であるという仮説を提示し、心理学と神経科学の接続を試みる。

本理論は、鬱・依存症・動機づけ・教育・社会行動を単一の動的モデルで説明することを目的とする。



序論(Introduction)


従来の心理学理論は、人間行動を「欲求」や「動機」といった静的な概念構造で説明してきた。

マズロー(1943)の欲求階層説はその代表であり、他にも報酬理論や社会的学習理論が提唱されてきた。

しかし、これらは行動の方向性と変化量を定量的に扱うことができず、同一の刺激に対して異なる反応が生じる理由を説明しきれなかった。


本研究はこの限界を超えるため、行動をベクトルとして扱う。

すなわち、「行動とは、複数の欲求エネルギーが異なる方向で作用した結果としての合力である」と定義する。

この枠組みを「サイサイ理論(Psy-Sci Theory)」と呼び、心理・社会・生理の三領域を統一的に記述することを試みる。



理論枠組み(Theoretical Framework)


1. 選択エナジー(Intrinsic Energies)


人間の行動を生み出す内的エネルギーを「選択エナジー」と呼ぶ。

以下の五つが基盤である。

1.Lifeライフ:生存・快楽・活動維持を促すエネルギー。

主な生理的対応はドーパミンやエンドルフィンの分泌である。

2.Safetyセフティ:危険を回避し、秩序や安定を求める反作用的エネルギー。

コルチゾールやアドレナリンなどのストレス関連物質が対応する。

3.Uniteユナイト:所属・共鳴・共感・つながりを求めるエネルギー。

主な生理的対応はオキシトシン分泌である。

4.Rankランク:評価・承認・優位性を求めるエネルギー。

テストステロンおよびセロトニンの調整が関連する。

5.Learnラーニン:理解・探究・成長を求めるエネルギー。

ドーパミンの予測誤差信号が主な生理的反映である。


行動の合力ベクトル(B)は、五つのエナジーベクトルの総和として定義される。

すなわち、「行動とは、方向性(vector)と強度(magnitude)を持つエネルギーの合成結果である」。



2. 外的要因(External Factors)


外部から加わる力は二種類に分類される。

1.強制ベクトル(Enforcement Vector):

 命令・罰・制度的圧力などによって一時的に行動を駆動する力。

 短期的な行動変化には有効であるが、長期的にはエネルギー効率を低下させ、ドレイン(精神的消耗)を引き起こす。

2.逆エナジー(Reverse Energy):

 貧困・差別・孤立・教育機会の欠如などにより、

 本来の欲求方向を反転・抑圧する外的要因。

 この状態が長期化すると、個人のエネルギーは「防衛」へ集中し、創造性や成長ベクトルが停止する。



3. 抵抗因子(Resistance Factors)


人間の行動は、推進エネルギーだけでなく抵抗によっても規定される。

これを三要素で定義する。

1.摩擦(μ):行動遂行中に生じる心理的抵抗。疲労・不安・集中欠如など。

2.最大摩擦(Max):行動開始前の初期抵抗。決断や着手を阻む心理的エネルギー障壁。

 ストレス・環境負荷・自尊心の低下などで肥大化する。

3.上限(Cap):体力・時間・認知容量など、行動の絶対的制約。


これにより、鬱は「やる側のMaxが肥大して行動開始不能になる状態」、

依存症は「やらない側のMaxが肥大して停止不能になる状態」と定義できる。



4. リジェネと耐性(Regen and Tolerance)


「リジェネ」は心理的・社会的回復のエネルギーであり、

休養・趣味・対話・自然接触などによってMaxやμを低下させる。


「耐性」はストレスへの防御力や再生力の限界を意味する。

過度に高い耐性は、回復感を得られない“慢性緊張状態”を招く。

したがって、理想的な状態とは「適度な耐性と持続的なリジェネが循環する構造」である。



5. 神経内分泌的仮説(Neuroendocrine Hypothesis)


本理論では、体内の神経伝達物質分泌は行動ベクトルの生理的反映であると仮定する。

行動の方向と強度は、脳内化学物質の動的バランスに対応し、

ドーパミンやオキシトシンなどの変化は「結果」であり「原因」ではない。

すなわち、人の感情は脳内分泌によって生まれるのではなく、

ベクトル構造が生理反応を生み出すという逆転の因果を提案する。



考察(Discussion)

1.感情の力学的再定義

 不安はSafetyの過剰活性化と摩擦の増大であり、

 怒りはRank方向の衝突、

 喜びはLifeまたはUniteが低摩擦で流れている状態である。

 学習意欲はLearnがRankまたはLifeと整流した状態で最も高まる。

2.精神病理の統一モデル

 鬱は「やる側のMax肥大」、依存症は「やらない側のMax肥大」。

 不安障害はSafety優位かつLearn低下、燃え尽き症候群はRank過剰によるCap超過で説明可能。

3.教育・組織への応用

 強制ベクトルを初期導入に用い、選択エナジーへ移行させることで持続的動機づけを形成できる。

 挨拶・感謝・雑談などのユナイト行動はチーム全体の摩擦を低減し、リジェネ流量を増加させる。

 リーダーシップとは人を「動かす」ことではなく、人のベクトルを整える行為である。

4.努力とアドレナリンの位置づけ

 本理論は努力そのものを否定しない。

 意図的にアドレナリンを使用し、挑戦・集中・自己更新を行う行動は肯定される。

 ただし、目的を欠いた苦労や徹夜などの時間浪費は、

 摩擦を「努力」と誤認している状態であり、エネルギー効率を著しく損なう。



結論(Conclusion)


サイサイ理論(Psy-Sci Theory)は、人間行動を「五つの内的欲求エネルギーの相互作用によって生じるベクトル合力」として記述する新しい統合的理論である。

その枠組みは以下の通りである。

1.行動は五つの選択エナジーの合力として決定される。

2.外的要因(強制ベクトル・逆エナジー)は短期的有効性と長期的副作用を併せ持つ。

3.抵抗因子(μ・Max・Cap)は行動成立の主要制約である。

4.リジェネと耐性のバランスが心理的持続力を決定する。

5.神経内分泌は行動ベクトルの生理的反映である。


本理論は、心理学・教育学・神経科学を横断する

「行動のエネルギー方程式」として、

人間理解・メンタルヘルス・社会デザインへの応用可能性を持つ。



“人は変わるのではなく、整うのである。”

― 西村沙耶香(Psy-Sci Theory序文より)

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