彩の日常2
キッチンで山城と茜が仕込みをやっている
「山城さんって、家でもお酒飲むんですか?」
「まあね。仕事終わってから、ちょっと一杯。」
「やっぱり、つまみとかも凝ってるんですか?」
「うーん、つまみっていうか……七味とか、クミンとか、コリアンダーとか、味の素とか。」
「……それ、ただの調味料とスパイスですよね?」
「ちゃんと塩と砂糖とかもまぶすから、料理だよ。」
「それ“まぶしてるだけ”って言うんですよ!」
「料理人なんて、みんなそんなもんだよ。」
「……料理人の道は厳しいです。」
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「山城さん、桃とかリンゴとか、この前はキウイも皮ごと食べちゃうんですね? ポリシーなんですか?」
「ん? ああ。メロンとかパインとか栗は食わないぞ。」
そう言って、山城は桃とナイフを茜に差し出した。
「……ほら、剥いたのもちゃんと食べられるところ、見せてやる。」
「ただのめんどくさがりだったんですね。」
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カウンターの上、仕込みの合間。
茜は山城が調味料を手づかみで振り入れるのを見て、思わず眉をひそめた。
「山城さん、調味料まで手づかみなんですか?
……よっぽどのめんどくさがりなんですね。」
山城はフライパンを揺らしながら、ちらりと茜を見やる。
「茜よ、軽量スプーンで毎回同じ量が測れると思ってないか?」
茜は思わず背筋を伸ばした。
「はっ……! つまり素手でまともな量を測り取ってるんですね!」
「いや、だいたいだよ。」
夜のカウンター。
グラスを傾ける武田の前に、白鳥がメモ帳を広げていた。
「なあ武田さん。レジスタンスとサポートって、要は“心理の壁”なんだよな?」
「まあ、そうだな。」
武田は氷をカランと鳴らしながら言う。
「人が“もうこれ以上は上がらない”“ここで止まる”と思う場所が、線になる。
その思い込みの集積が、抵抗や支えになる。」
白鳥はメモ帳に線を引き、ベクトルを描いた。
「つまり、ベクトルで言えば“上向きの力”と“下向きの抵抗”がぶつかってるわけだ。
でもな、人間の行動にも同じのがあると思うんだ。」
「ほう?」
「例えば、努力のベクトルを上に向けようとすると、
“これ以上やっても無駄かも”って心理が下から押し返してくる。
それが自分の中のレジスタンス。」
武田は少し笑いながらグラスを置いた。
「面白いな。
じゃあサポートは何だ? 他人の応援か?」
「いや、必ずしも他人じゃない。
“あの日の成功体験”とか、“昔の自分との約束”とか。
それが下から支えてる。過去のベクトルの残響だ。」
武田は目を細めた。
「……じゃあトレンド転換は?」
白鳥はニヤリと笑い、ペン先をくるりと回した。
「新しいベクトルが、古い抵抗を飲み込んだときだよ。
心理的レジスタンスが割れる瞬間、行動は一気に変わる。」
武田は静かにグラスを上げた。
「いい例えだ。
俺たちの人生も、チャートみたいなもんだな。」
白鳥「そう。どんな上昇も、サポートがなければ続かない。」




