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25歳の誕生日のプレゼントは地下負債物件  作者: シンリーベクトル


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義理人情

山本のソロ居酒屋デビュー(苦い原体験)


まだ「彩」が生まれる前のこと。

山本は仕事帰り、勇気を振り絞って街の居酒屋の暖簾をくぐった。


(よし……ソロデビューだ。大丈夫、大人なら普通のことだ……)


しかし、カウンターに座った瞬間から居心地の悪さが押し寄せる。

右隣は会社帰りのサラリーマン三人組が大声で乾杯。

左隣はカップルが親しげにグラスを合わせている。


山本は声が裏返りそうになりながら注文した。

「す、すみません……枝豆とポテトと、生一つ……」


店員の事務的な返事のあと、サラリーマンの笑い声が一層大きく響いた。

(……なんか俺だけ浮いてないか?)


枝豆を口に入れる。

「……しょっぱ」

小声が自分の耳に跳ね返り、さらに居心地が悪くなる。


ふと、左隣のカップルの視線を感じた。

「ソロで居酒屋とか、ちょっと寂しくない?」

「まあ、自由でいいんじゃない?」

――実際には何も言われていないのだろうが、心が勝手にそう聞き取ってしまう。


(おまえらのラブラブ会話をBGMにして食う枝豆の味を知ってるかよ……!)


結局、ビールを半分も飲まずに「お勘定で……」と立ち上がる。

夜風が妙に冷たかった。


(……二度とソロ居酒屋なんかするもんか)


この苦い経験が、のちに「彩」での “ソロ客をどう迎えるか” を考える原点となる。



理沙と茜 ― スイーツ研究部の芽生え


別の日、カウンターの端。

理沙と茜が小声でスイーツを分け合っていた。


佐伯が嬉しそうにスプーンを掲げる。

「ねえ茜、このプリンめっちゃ美味しくない? トロける系!」


茜は一口すくい、少し間を置いてから答えた。

「……うん。悪くない。卵のコクがちゃんと出てる。」


理沙はむっとした顔。

「ちょっと! “悪くない”って褒めてるの? けなしてるの?」


茜は頬を赤らめ、視線を逸らした。

「……私は、山城さんのケーキに勝ちたくて修行してるから。簡単に“美味しい”って言いたくないの。」


理沙は目を丸くした後、ニヤリと笑う。

「わかった! 茜はツンデレスイーツ評論家なんだ!」


「ち、違うから!」


「じゃあさ、今度二人でスイーツ巡りしよ? 私が“キャピキャピ感想”担当で、茜が“辛口評論”担当!」


茜は思わず吹き出した。

「……あんた、ほんと変な役割分けするよね。でも……行ってもいいかも。」


理沙はウィンクしてグラスを掲げる。

「決まりっ☆ 彩スイーツ研究部、発足〜!」


笑い声と甘い香りが、夜の店内をやわらかく包んだ。



常連と義理人情


カウンターでビールを飲み干した常連のサラリーマンがつぶやいた。


「結局さ、人って欲求だけじゃ動かないんだよな。

 酒なんて体に悪いってわかってるのに……“店長に顔見せないと悪いかな”とか、

 “同僚に誘われたら断れない”とか。そういう義理とか人情で来ちまうんだ。」


佐伯が元気にうなずく。

「それそれ! “顔出さないと寂しいと思われるかな”って思って来るお客さん、けっこういます!」


そこで西村が箸を置き、冷静に語った。


西村

「それって、サイサイセオリーで言えば“関係のベクトル”なの。

 義理は ランク欲求――“約束を守る自分でいたい”“人から認められたい”。

 人情は ユナイト欲求――“つながりを切りたくない”“仲間でいたい”。

 つまり、“飲みたい”とか“お腹すいた”じゃなくても、人は動くのよ。」


客は目を見開いた。

「なるほど……俺は義理人情だと思ってたけど、実はランクとユナイトか。」


白鳥が茶化すように笑う。

「要は“義理で動く俺カッコいい”って自己承認と、“仲間を大事にする俺”って帰属感だな。」


理沙はにっこり笑って唐揚げを差し出した。

「つまり! この唐揚げは“義理人情味”ってことですね!」


客は吹き出し、店内に笑いが広がる。

重い話題も、結局は温かい空気に変わっていった。


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