ボッチの称号
山本は最初、居心地が悪そうにカウンターの隅で飲んでいたが、何度も足を運ぶうちに少しずつ笑顔が増えてきた。
今日も演奏を聴きながら、小さく手拍子を打っている。
それを見ていた西村が、隣の白鳥に耳打ちする。
「……あれはユナイトの強化ね。」
白鳥が首を傾げると、西村はグラスを持ち上げて続ける。
「ユナイトした瞬間、それはもう自分の“帰属”になるのよ。
たとえば――」
そこでニヤリと笑い、例えを出す。
「大谷がホームラン打ったことを、なんであなたが自慢げに語るのよ?ってやつ。
でもそれが人間の本能。『あの店は俺の店』って感じで語りたくなるの。」
白鳥が笑って頷く。
「なるほどな……じゃあ山本も、もうすっかり“彩”の一員ってわけか。」
カウンターで小さく乾杯している山本の姿が、その答えを物語っていた。
カウンターに集まったメンバー。山本がPCを広げて得意げに発表する。
「えー、本日提案するのは……『ソロ強化週間』! さらに『ソロポイント5倍デー』です!」
白鳥がすかさず眉をひそめる。
「で、そのポイントでどうなるんだよ?」
山本は少し照れながらも、画面をクリックしてスライドを切り替える。
「……“ボッチの称号”でも与える?」
場が一瞬静まり、次の瞬間、西村が吹き出す。
「称号ってゲームじゃないんだから!」
しかし涼子だけは腕を組んで真剣に頷いた。
「でもね、ソロ客に焦点を当てるやり方は新しいわ。
大抵の店はグループ客を優遇する。
逆に“ひとりで来ても居場所がある”を打ち出せば、差別化できる。」
白鳥は苦笑いしながらグラスを置いた。
「……まさか本気で“ボッチ認定”がブランディングになるとは思わなかったな。」
山本は小さく拳を握って、心の中でつぶやいた。
「……これで俺みたいなソロも、堂々と来れるはずだ。」
店頭に貼り出された新しいポスター。
《彩 ソロ強化週間! ソロ来店ポイント5倍!》
横には小さく「ボッチ称号ゲットのチャンス!」と添えられている。
最初のうちは冷やかし半分で覗いていた客も、しだいに“ソロ優遇”に惹かれて足を運ぶようになった。
カウンターには一人飲みの客が並び、それぞれが静かにグラスを傾けている。
ある客がポイントカードを差し出しながら言った。
「これで“孤高のソロ”称号、いただけます?」
山本は得意げにスタンプを押しながら答える。
「はい、今のでランクアップです! 次は“孤高のソロマスター”を目指してください!」
そのやり取りを見ていた白鳥が呆れ顔でぼそり。
「……何のゲームだよ。称号集めてどうするんだ?」
すかさず涼子が横から補足する。
「いいのよ、ソロ客同士の小さな競争心がユナイトを生むの。
『自分は何ポイント貯めた』って語り合うだけでコミュニティになる。」
西村が笑いながら頷いた。
「なるほどね……ソロでも孤独じゃないってことか。」
カウンターに並ぶソロ客たちの間から、自然と「おひとり様談義」が広がり始める。
山本は胸の奥で静かにガッツポーズを決めた。
「……俺の“ボッチ称号”作戦、まさか本当に機能するとは……!」




