8話 伝説
神話と伝承。
俺が救世主かもしれないということが分かってから1年近く経った。サロメは毎日寝る前にお話をしてくれるようになった。
こんな感じの話だ。
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この世界は、無から始まった。
あるとき、無から突然『有』が生まれた。
それが、『創造神』と呼ばれる神だった。
創造神は最初に、この星を作った。
その時この星の表面は水で覆われていた。
それをつまらないと感じた創造神は、2つの大陸を生み出した。
その余ったところが海だった。
次に、神は龍、人族、亜人、その他の順に生命を生み出した。
しかし、生命は争いを始めた。
それを止めるために生み出されたのが、天使だった。
天使の働きによって、争いは世界から消えた。
だが、人族らが星の環境を自分たちの都合で無理やり変え始めた。
それに怒った創造神は、自らの力をいくつもの分体に分け、世界中に配置した。
それが、いわゆる『神』であるとされている。
しかし、それでも環境破壊は止まらず、なんと神を殺す者まで現れた。
諦めた神はこの星を見捨て、また別の星を作った。
また、この星の欲深き住人が他の星に干渉することがないよう、星の外に出られない呪いをかけたとされている。
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「かみさまって、どこにいるの?」
「うーん、その他の星じゃないかしら?」
「かみさまって、おおきい?」
「そうなんじゃない?だって、この星を作ったんだもの。そりゃとてつもなく大きいわ」
「ふーん」
「アダムったら、本当に賢いわね!こんな説明も理解できるなんて」
「ぼく、かしこい?」
「ええ、本当に賢いわ」
「やったー」
小角族は成長がかなり早いらしく、2歳にもなるとかなり喋っていいらしい。
にしても、神が自分たちの星を見捨てる神話がずっと言い伝えられているなんて面白い。
あと、神を殺せるほどの人間がいたって、本当なんだろうか。神がどれくらい強いかは知らないが、眉唾物である。
そういえば、かなり前のことだが俺は自分の姿を知った。緑髪で、角は一本だった。母さんの方の血を濃く受け継いだらしい。自分で言うのも何だが、賢そうな顔だった。
母さんは、こんな話もしてくれた。
悪魔についての話だ。
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世界で最初に生まれた悪魔は、『諸悪の根源』と呼ばれており、魔王として言い伝えられている。
彼は『創造神』と同じように無から生まれたとされている。
その誕生とともに、世界中の悪意が暴走し始め、争いが至る所で勃発した。
最初の戦争は、龍と人族の間で起きたと言われている。
『諸悪の根源』と彼が生み出した悪魔は、それには加勢せず、ただ高みの見物をしていた。
だが、『救世主』ニーナが現れたことによって、悪魔たちは自分たち以外のすべての種族と戦うことになった。それが俗に言う第一次天魔大戦である。
その結果『諸悪の根源』は殺され、全ての悪魔がとある島に封印された。
それが、今では『地獄』と呼ばれる島、『諸悪の根源』の誕生とともにその膨大な魔力によって出来た島である。
悪魔達は『地獄』で特に暴れずに暮らしていたが、廻暦666年、一体の悪魔が生まれた。生まれてしまった。
その悪魔は『諸悪の根源』にも劣らないほどの魔力を持っていた。
その悪魔は結界を壊した。
そして、あろうことか彼の『固有能力』を用いて、数人の天使を堕天させてしまったのだ。
当時、救世主も勇者もいなかったため、人族は危機に陥った。
誰もが悪魔、そして堕天使に怯えていた。
そんな時、空から人柱の神が舞い降りた。
いや、正確に言うと天使だったのだが、それは限りなく神に近い存在だった。
その天使は『熾天使』。
その天使は大勢の天使を引き連れて『地獄』に向かった。
結界を壊した悪魔は戦うつもりでいたが、ほとんどの悪魔がそれに反対した。
『熾天使』は、好戦的で狡猾な悪魔にさえ恐れられるような存在だったのだ。
結局、第二次天魔大戦は起きることが無かった。
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熾天使。それは、天使の頂点。限りなく上に近い存在。実在するかは知らないが、ロマンのある存在だ。まさにアブノーマルな存在と言えるだろう。
前世ではそうでもなかった気がするが、どうやら俺は神話の類が好きなタイプらしい。神やら天使やらが実在するのなら、会ってみたいものだ。
いや、少なくとも天使は実在するのか。五つの種族(5大種)のうちの一つだからな。
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その日、俺は父さんと二人で家にいることになった。
というのも、母さんが知り合いに会いに町へ出かけるらしい。リィカもそれに同行するようだ。
そしてついでに、俺の誕生日プレゼントを買いに行くのだとか。一歳の頃はプレゼントは買えなかったのに、、、父さんが頑張って護衛の仕事をしていたのだろう。
そうそう、時の流れは早いもので俺は先日3歳の誕生日を迎えた。プレゼントは間に合わなかったため今日買いに行くということだ。
「おかーさん、ばーばい」
「アダム、じゃあね」
「あだむちゃん、いってきます」
「サロメ、リィカ、気をつけるんだぞー」
「勿論!」
「もちろん、です」
そんな言葉を交わし、母さんたちは出て行った。
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「そういや、アダムと二人きりになるのって初めてか」
「はじめてー」
「おお、教えてくれてありがとうな」
「えへへー」
「さぁ、昼飯でも準備するか」
レメクがキッチンに向かう。
「あれっ?おかしいなぁ、、、」
「ぱぱー?」
「あれー、何でだー?」
「ねぇ、ぱぱ、どーしたのー?」
そして彼は、衝撃の事実を告げる。
「肉が、ない」
※神話はあくまでも神話。事実とは限りません。創造神が本当にいたのかどうか、それを知る生命はいません。
では、また次のお話で。