7話 救世主と老人 後編
「次は、あなた様の能力の『救世主』についてです。あなた様の、、、」
欠伸が出そうだったが、俺の能力は『救世主』だというし、聞いておこう。
「その能力には、幾つもの効果があります。まず、特別な魔術を使うことができます。それが、『浄化魔法』です。これは、救世主には必須の魔術です。要するに、汚れた物の穢れた部分を消し去るのです……よく分からないですか」
『はい』
「まぁ、悪魔とでも会ったときにその魔法を使えば良いのです。かなり強力なので、扱いには細心の注意を払なければなりませんが」
『あの、その魔術ってどうやって使うんですか?』
「む、あなた様はまだ普通の魔術も使えないでしょう?」
なんだこいつ。あなた様とか呼んで来るのにディスるなよ。
「他には、治癒魔術の性能がかなり高かったりします。まぁ、専門の人には敵いませんけど。あと、全ての言語を理解し、喋ることができます」
あ、こっちの世界の言葉が理解できたのはそのおかげだったか。ん、あれ?
『能力が使えるのって10歳からじゃありませんでしたっけ?』
「さすが救世主様。鋭い。実はそこが『救世主』の特殊なところの一つです。『救世主』は、生まれつき使えるんです。先代救世主様も、そのおかげで3歳の時点で長く生きた龍と同じほどの魔術が使えたといいます。あ、そして救世主の存在理由は言うまでもなく民衆を救うことですが、そのためにあなた様は『奇跡』を起こすことができます」
奇跡。それは、能力の効力や世界の法則の一部を無視して人々が救われる現象。
『救世主』はそれを引き起こすことができるらしい。
あ、リィカさんが喋れる様になったのも『奇跡』だったのか。俺凄え。いや、凄のはこの能力だけか。
「いや、すごいのはあなたですよ」
フォローされた。
「大体わかったかな?最後に、先代の救世主様の話をしましょう」
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それは、『廻暦』というこの世界の暦が定められる数十年前。その時すでに世界は二つの大陸と一つの大きな島という、今と同じ状態だった。
その時に国なんてものはなかった。それぞれの種族がそれぞれで集まり、平和に過ごして均衡を保っていた。
だが、悪魔という種族が誕生した時にその均衡は壊れた。
世界中で悪意が渦巻き、争いが多発した。やがて争いは同族間でも起こる様になってしまった。
そんな混迷の時代に生まれたのが、救世主ニーナだったと言い伝えられている。
彼はあっという間に魔術を覚え、悪魔に対抗できる様になった。彼の周りでは常にありえないような奇跡が起こっていた。彼はすぐに疲れ切った人々の心を集めた。その時、彼はまだ10歳に満たなかったと言われている。
やがて、彼は天使を従える様になった。そして、人族、亜人、天使の皆で協力し、『諸悪の根源』と呼ばれる存在を討伐した。
この話は語り継がれ、今では子供に言い聞かせない親はいないほどのものになっている。
彼と共に悪と戦ったのが、『英雄』ギールである。彼の伝説も数多くあるのだが、ここでは割愛するとしよう。
ちなみに、廻暦を作ったのはニーナともう1人、あるいは1柱の人物/神だったとされている。
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そんな話を聞かされた。
その時、俺の心の中で何かが動いた。なぜか、俺は救世主なんだと納得することができた。
そして、心の中で動いたそれは、覚悟、そう、それは覚悟だった。
俺は口に出す。
『俺は、救世主なんだ。俺が、世界を救います。俺が』
「おお、受け入れてくれたか!!よかった、救世主君」
老人は目を輝かせた。
「けど、今世界がどんな感じか知らないでしょう?」
『うっ』
「いいさ、どうせお母さんが寝る前にお話ししてくれるよ。まぁ、頑張ってくれよ、救世主君」
老人は立ち上がる。俺は彼に抱き抱えられた。
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「あっ、何か話せましたか?」
「あのなぁ、サロメ……アダムは今日喋る様になったばっかなんだぜ?いくら救世主かもとは言え……」
「はい、とっても有意義なお話を」
父さんは、え、まじ?って感じに目を見開いた。面白い顔だった。
「では、帰ります。助けてくれ、ありがとう」
「いえ、本当に大丈夫です!!あの、私はこの子にどんな教育をすればいいでしょうか!?」
「焦って教育する必要はありません。まず、伝説とかについて寝る前にでも話してやってください。あとは勝手に育ちます」
「あ、ありがとうございます!!あ、最後にお名前だけ教えてもらってよろしいですか?」
「あー、名前かぁ。どうしようかなぁ。とりあえず、『ユリウス』とかで」
「……?ユリウス、さん。本当にありがとうございました!」
「じゃあ、ここらで。救世主君、さよなら」
「ばーばい!」
俺は覚悟を胸に、去っていく老人の背中をずっと見ていた。
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某国某所にて。そこには、二つの影があった。
「゜:=÷>、どうだった?」
「まぁ、成功でしょう。ちゃんと計画通りに」
「それは良かった。すまないね、いつも私事に付き合ってもらって」
「いえ、私は〒:+・様のためならばどのようなことでもやってのけますよ」
「はは、心強いよ。疲れ、、、てはいないか」
「はい。ぜひ、次のご命令を」
「ありがとう。でも、今は命令は特にないかなぁ。+:<とでもゆっくりしてきなよ」
「では、そうさせて頂きます」
「じゃあね」
片方の姿が一瞬にして見えなくなった。
「……いやぁ、よかった。ちゃんと覚悟できたみたいだ」
残った片方はそう呟き、笑みを浮かべた。
「いつ会おうかな、氷見 穂九斗さん」
いやー、主人公覚悟決めましたね。次回から世界を救うために旅に……なんてことにはしません。まだ日常回が続くんじゃい。
謎の人物たちの会話シーンの記号に特に意味はありません。適当に打っただけです。
では、また次のお話で。