5話 占い老人
祝福と客人、そして発覚。
「まぁ、リィちゃん……!!」
「おね、おねえちゃん」
「よかった、本当に良かった…」
「うん、よかった、よかっ、た」
喋ることのなかった、喋ることのできなかったリィカがついに喋った。おめでたい。とてもおめでたい。けれど、そのせいで俺の1歳の誕生日が全く祝われないのは違くないか?虚しい。
「あだ、むちゃんが、なまえ、よ、んでくれてしゃべ、れるようにな、った」
「まぁ!リィちゃんだけじゃなくアダムも喋れるようになったのね!すごい、すごいわ!!1歳の誕生日にこんなこと……はっ!!」
どうやらやっと思い出してくれたらしい。今日のビッグイベントのことを。よかった。
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「アダムは1歳になり、リィカも、喋れるようになった。今日は素晴らしい日だ!!乾杯!!」
普段の飲み物は水だが、今日は奮発してお酒のようなものを飲んでいる。主役の俺の飲み物は水だが。
食事も豪勢だ。特別デカい獣を狩ってきたのだろう。歪な机は肉で埋まっている。
……今までクソ不味離乳食しか食べてこなかったが、俺はこの肉を食べていいのか?
「アダムも食べていいぞ!今日からお前は離乳食卒業だ!」
やったぁぁぁぁぁ!
肉を食べれるという喜びよりも、もうあの離乳食を食べなくてもいいことへの喜びが大きい。
……やっぱあの離乳食終わってるな。
ん?母さんがいないな。もしや……
「アダム!誕生日おめでとう!」
「わー!」
「おめでとう!」
「おめで、とう、ございます」
俺には祝福と共にプレゼントが渡された。
なんだろう、これは。木のボール?
「アダム、見ててね。これはこうやって遊ぶのよ」
そういって母さんはボールを床に転がした。
コロコロ。ボールが壁に当たった。すると、
「わっ!」
「ふふん、すごいでしょう?」
ボールの形が一瞬にして変わった。球形から立方体へとかわったのだ!
魔術でも使っているのか。そういえば母さんの能力では魔力を精密に扱えたっけか。
これはすごい。形の変わり方も何種類かあるようだし、しばらくの間暇つぶしには困らなそうだ。
「あいがと」
「まぁ!もうそんなことも言えるようになったの!?ホント、うちの子は賢いわね!」
ふふん、なにせこっちは精神年齢17歳だからな。これだけで褒められるとは、参っちまうぜ。
「はーい、アダムちゃん。お口を開けてー」
「あー」
「はい!よくできまちた!」
俺は転生して初めて肉を食った。お世辞にも美味いとは言えなかったが、久々に口にする肉の味に感動した。
にしてもこの人急に甘やかしてくるな。情緒不安定?
まあ。そんなこんなで祝宴は終わった。リィカの笑顔が見れて俺も嬉しかった。
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サロメとリィカが宴の片付けをしている時、扉をノックする音が聞こえた。その音は、ものすごく弱々しかった。
「あら?誰かしら。うちに用がある人なんて思い浮かばないけど……」
そう言って彼女は玄関に向かう。
ドアを開けると、そこにはボロボロな姿の老人がいた。この家のボロさに匹敵するだろう。
「あぁ、小角族か……良かった……」
老人はそう呟き、倒れた。
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余っていた肉と水を与られた老人は、少し回復したようだ。
「小角族よ、本当に感謝する。私は放浪しながら占い師をやらせてもらっている者だ。そこらを彷徨いていた所狼に襲われてしまった。そこを助けて頂いたという次第だ。いやはや、この恩をどうやって返すべきか」
「いや、困ってる人がいたら助けるのは当たり前だし、そんなの大丈夫ですよ。それよりうちでゆっくりしていってくださいな」
「では、お言葉に甘えるとしよう」
老人がしばしくつろいだ後、彼の身元の話となった。
どうやら彼はソロモン帝国生まれの人族らしい。家族との仲は最悪だったようだ。
彼は、固有能力の『占い師』の持ち主であった。それが発現してから直ぐに家を飛び出し、放浪の旅を始めた。その道中で占いをして路銀を稼いでいたらしい。
彼の占いは確実だったのだが、その胡散臭げな容姿のせいで客が寄ってこなかったため、極貧生活を送っていた。
そんなある日、異変が起こったという。その日の唯一の客を占っていたときだった。今までは視えなかった情報が見えるようになったのだ。それもかなり詳しく。
これは何だ。彼は自分を視てみた。すると、能力が『運命師』へと変わっていた。
これは、間違いない。究極能力だ。固有能力が進化したのだ。
この究極能力を持つ者は世界に100人もいないとされている。
彼は、有頂天になり、町中で大声で宣伝した。
究極能力持ちのこの私が、あなたの運命を視て差し上げよう!
しかし、それを信じる人はいなかった。
逆に大ホラ吹きだと思われ、ただでさえ少なかった客が一人もいなくなった。
大ホラ吹きの男の噂はあっという間に広がり、彼はどこに行っても無視されるようになった。
彼は人間不信になり、さらに長い間放浪を続けた。人に会わないように。
そんな旅を何十年もしており、今に至るという。
この話を聞いたサロメは泣き出していた。
「うう、世の中って世知辛いわね……」
「はは、全くその通り。いや、こんな老いぼれの話を聞いてくれてありがたい。そうだ、お宅には赤ちゃんがいるね?その子の能力を教えてやろうか?あと9年待つのは辛かろう」
「えっ、教えていただけるんですか?!さすが、『運命師』さま!ぜひ、ぜひ!」
「ふむ、けれど、我が子がこんな能力だなんて信じられなかろうの」
「いや、何と言われても信じます!」
「そうか、じゃあ教えてやろうかの。家族を呼んできて下さらぬか?」
「はいっ!」
というわけで、マーシー家の一同と老人がダイニングに集まった。今から行われるのは誕生日以上のビッグイベントだ。俺でもそう分かっていた。
「では、一つ言うが、今から言うことはあんたらには到底信じれないだろう。でも、わしがなんて言おうとも信じるんだ。いいかい?」
全員が頷いた。あ、勿論俺以外の。
「ではーーーー」
ゴクリ。
「ーーーこの子の能力は、『救世主』。固有能力の救世主』じゃ」
『ーーーは?』
次回は明日の朝に投稿する予定です。
では、また次のお話で。