4話 リィカ=サーナ
強めの暴力表現あるのでお気を気をつけて。
リィカ=サーナは廻歴975年にテリア公国ルーサン村で生まれた。彼女はとても健康的な赤子だった。髪色にみられるように父方の血を色濃く受け継いでおり、活発な子だった。
彼女は3歳上の姉であるサロメと一緒に遊びながら育った。姉はとてもおっとりとした性格だったが、気が合った。姉妹喧嘩も時たまあったが、とても仲が良かった。ただし、彼女が姉の言いつけを聞くことは5歳まで無かった。
こんなエピソードがある。
彼女が5歳になって少し経ったある日、彼女たちの父、ラウス=サーナが狩りに出かけた。そして、日が暮れても帰ってこなかった。彼女はひどく父の心配をしたが、姉も母も「大丈夫よ」としか言わなかった。彼女は怒った。
「お姉ちゃんもお母さんも、『大丈夫』ばっかり!なんでしんぱいしてあげないの!?お父さんのことがきらいなの!?」
「リィカ、そうじゃないの。私たちは……」
「もういい!私がさがしにいく!」
そう言って彼女は家を飛び出した。
ーーーーーーーーーーーーーーー
「はぁ、はぁ、」
彼女たちの家は森の中にあった。彼女たちにとってこの森は住処であり、食料を提供してくれる場であり、恰好の遊び場であった。
しかし、真っ暗になった今は違う。そこは、死と隣り合わせの恐ろしい場所となった。
「お父さん、どこ……?」
彼女は少し怯えていた。
すぐ近くで、ガサガサと物音がした。
「お父さん!?よかった!」
彼女は喜び、そちらに向かって走って行った。
しかし、それが駄目だった。
「ガアアアアアアア!!!」
「ひっ!?」
物音の主はレッサーウルフだった。
レッサーウルフは森の狼の中で最も低級だが、子供たちにとっては恐怖の対象だった。彼女も母に『夜に森に出ちゃだめよ。レッサーウルフに食べられちゃうわ』と言われていたが、所詮狼、と考えていた。
しかし、実際に目の前に現れた狼に対し、彼女は恐怖のあまり身動きを取れなかった。
「ウガアアアアアアアアア!!」
「いや、やめて!こっちこないで!どっかいってよ!!」
彼女の叫びは、狼には通じない。
彼女の目の前には大きく開かれた狼の口があった。
「いやああああああ!!」
その時、狼に向かって水弾が飛んできた。
目にも留まらぬ速さだった。
「ガッ!?」
狼は、そのまま倒れ、絶命した。
「・・・えっ?」
「もう、リィちゃん、勝手に外に出ちゃダメじゃない」
「お姉ちゃん……うわあああああん!!」
「もう大丈夫よ、よしよし」
彼女を助けたのは、姉のサロメであった。
この時から彼女は姉のいうことをちゃんと聞く様になった。
ちなみにこの時サロメも勝手に家を飛び出してきたのだが、それは置いておこう。
ーーーーーーーーーーーーーーー
この世界では、10歳になると自分の能力を発現させる儀式を行う。それは成人式より、結婚式より重要な物だった。
10歳の誕生日、彼女は儀式のために街まで出掛けていた。
リィカの能力は『軽騎兵』であった。この能力を持つ者は、軽装備の馬に乗り、戦場を素早く移動することができる。彼女の猪突猛進な性格にピッタリだった。彼女はこの能力に満足していた。
しかし両親の反応は微妙であった。
それもそのはず、3年前に出現したサロメの 能力は『奇術師』だった。
これは一般的な能力である『魔術師』の上位互換のようなもので、魔力をより精密に操ることができる。また、特別な魔術を使用することもできる。
彼女は姉と比べられ、劣っていると思われたのである。いや、自分が姉より劣っていることは彼女だって分かっていた。だが、両親にあからさまにそんな態度を取られるのが屈辱だった。
そして、膨れ上がった負の感情の矛先は嫉妬の相手、姉のサロメに向いた。
両親は誰かと話す用事があるらしく、姉妹2人で先に家に帰ることになった。雰囲気は険悪であった。
「ねえ、リィちゃん」
「・・・」
彼女は姉を無視した。
「ねぇってば!!」
「うっさい!喋りかけないで!」
彼女は走り出した。サロメもそれを追いかけた。
……かなり走った。振り向くと姉はいない。撒けた。
自分は彼女に嫉妬しているというのに、どうして普通に話しかけてくるのだろうか。リィカはそう考える。余計に腹が立ってきた。
「お姉ちゃんなんか、大嫌い……!!」
堪えきれずにそう吐き捨てる。
すると、その瞬間とてつもない悪寒がした。
「……!??」
「おっ、気づいたか。勘のいいガキだな。嫌いじゃない」
そこには2メートルほどあると思われる、大きな人がいた。
いや、人間ではなかった。
「いい負の感情じゃないか。まあ、それのせいで俺を誘き寄せちまったから良くは無いか」
彼女は恐怖のあまり震えていた。
「ん?怯えなくてもいいぞ。確かに俺は悪魔だけどな」
悪魔。それはかつて人間・天使と壮絶な争いを繰り広げた種族である。龍と並んで最強の種族だとされている。そんな種族が、なぜこんな山の中に。
「何、対して害は加えないさ」
次の瞬間、彼女は吹っ飛ばされていた。
「少し、遊んでやるだけさ」
「……!?かはっ」
そのことを彼女の頭が受け入れるのには、少し時間がかかった。
「おうおう、この程度で血ぃ吐くのか?人間てのは弱えなぁ。ちょっと失望したわ。あー、どうするかな……ん?立ち上がるのか?」
こいつはヤバい。抵抗しないと殺される。いや、抵抗しても殺されるかも知れないが。彼女は人生で1番の痛みをこらえながら必死で立ち上がる。
しかし、無駄だった。
「がっ……あっ」
「そういや聞いたことあるな、人はちょっと首絞めただけで死ぬって。試してみるか」
「やめっ……誰かっ、助け……」
「黙れ」
「がっ……ああぁ」
1分間ほど首を絞められていただろうか。彼女は気を失っていた。
「そんなすぐには死なねえか。もういいや。飽きた。『能力吸収』。ついでに『気まぐれな呪い』。さーて、どうかな、って、は!?」
ドサッ。
彼女は放り投げられた。
うめき声を出す気力も残っていなかった。
「クソガキがよ、ゴミスキルじゃねえか!!あー、爆死だ爆死」
そう言って悪魔はどこかへ去って行った。
「・・・」
ーーーーーーーーーーーーーーー
「あ、リィカ!目が覚めたぞ!大丈夫か!?」
「リィカ……!よかった……」
「リィちゃん……ああ……」
ここは町の病院のようだ。
助かったのか。しかし全身が痛む。喉の苦しさも残っている。大丈夫なわけない。そう言おうとした。
しかし、家族にそう伝えることはできなかった。
「・・・ぁ……ぁ・・・」
彼女は、呪いによって喋れなくなっていた。
彼女は声だけでなく、手に入れたばかりの能力も奪われていた。
彼女は絶望した。
彼女は自分の部屋に閉じこもった。
彼女は何度も自殺を試みたが、全て父に止められた。
「頼むからやめてくれ、お前は奇跡的に生きているんだ。その命を投げ出すなんてやめてくれ」
こうなったのはお前のせいでもあるというのに、死のうとすると止めるなんて。クソ野郎だ。
生きている?それがなんだ。生きてて何が楽しいんだ。何の意味があるんだ。もう嫌だ。
……サロメが結婚した。自分は今こんなに苦しんでいるのに、どうして。幸せになろうとするの?
私はどん底にいるのに、貴女はどうしてさらに上に行こうとするの?
しかし、もはや何も感じなかった。『うちでお手伝いをしてくれる?』なんて言われてもすぐ承諾した。
生きてて何が楽しいんだ。彼女の考えが変わることはなかった。その瞬間まで。
^^^^^^^^^^^
「あー、りぃ、かー」
以上、リィカの過去でした。
アダムがリィカの過去を知るのは数日後のこと。本人から聞かされました。
明日投稿するお話で、物語が大きく進む予定です。
では、また次のお話で。