32話 終戦、そして再びの謁見
流石は脳筋種族の大角族というべきか、国のトップが突然姿を消しても兵士たちの間に混乱はほとんど走らなかった。無論例外はおり、皇帝直属の者たちは大混乱。その混乱のあまり変な踊りを披露していたが。
それでも戦いの均衡が大きく崩れた理由は、アダム+魔法隊による弱体化の魔術だった。強化された公国兵士、弱体化した帝国兵士。一人一人の戦力では、既に僅かだが公国側が逆転していた。そして帝国側は、その差を覆すことができなかった。そもそも帝国は兵の数の時点で負けていたのだ。さらに個々のスペックでも上回られているとなると、戦略を考える事などできない大角族に勝ち目がないのは火を見るよりも明らかだ。
ここに、負けを認めるべきだと唱える賢い大角族がいた。そう、賢かった。きっと遺伝子変異した個体なのだろう。そうでなければあり得ない。彼の名はシルヴァ。後の重要人物である。
彼はその時点での戦場での最高権力者、軍の副将にこう提言した。『ここで諦めなければ、あの救世主が大角族を滅ぼしてしまう。皇帝(笑)などはどうでもよいが、種族を根絶やしにされるのは耐えられない。彼を敵に回すのはまずい』、と。副将はなんの疑いも持たず、その提言を受け入れた。まぁ流石のシルヴァでも人を騙すなんて芸当は出来ないため、受け入れたことに何も問題はなかったが。
大角族たちは「にげる」コマンドを選択した。自分たちの種族のトップ(笑)を放って。そして、これによって実質的に戦争の決着が付いたのだった。
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大角戦争(1011)・・・廻暦1011年、テリア公国と大角帝国の間で起こった戦争。大角帝国第52代皇帝、ガロア=バルアが領土拡張を狙って起こした戦い。だがテリア公国に救世主アダム=マーシーが加勢したことで敗北。1ヶ月足らずで終戦した。またこの戦いで大角族の英雄、『首刈り』カサラ=アグリゴスが救世主アダムに討ち取られた。
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アダムは部屋に戻ってきていた。彼の顔からは、疲労と安堵が感じられる。戦争が終わった(正しくはまだ終わっていないが)。戦争で死ななかった。その事実を噛み締める。終戦後の会議やらなんやらに彼の出番はない。しばらくはゆったりと過ごすことができるだろう。
「……ふぅ」
平和って、素晴らしい。そして、人々をその『平和』へ導くのが自分の役割なのだと、改めて決意を固める。
「アダム、お疲れ様」
イザベラは部屋に入ってくるなり労いの言葉をかけた。
「ありがとうございます。イザベラさんも本当にお疲れ様です」
「ああ、ありがとう。にしても、アダムの魔術はとてつもなかったな……今回の戦い、私たち兵士はほぼ役にたたなかったかも知れないな」
「そんな事ないですよ。直接敵を追い詰めたのはイザベラさんたちです」
「ああ、そうだな」
戦争が始まる前、アダムは彼女に「アダムさん」と呼んで欲しいと伝えていた。しばらくはそう呼んでいたのだが、戦争が始まった瞬間呼び方が「アダム」になった。彼女の頭はかなり良い方のはずなのだが……
「後の処理はお偉いさんに任せたらいいからな、もう楽だ」
あれ?彼女の言葉に疑問を覚えたアダムは数日前の会話を思い出す。
『戦後の対応とかって、どうするんですか?』
『ああ、ロウ様と一部の貴族たち、あとそういう役職に就いている者たちが行う。私は今回から会議に参加することになっている』
『へぇ、大変そうですね』
戦後処理、アンタの仕事じゃねえか!!!!
アダムは心の中で思い切りそうツッコんだ。
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やあみんな、俺だ!!なぜか国のトップに呼び出されたアダムだ!!心当たりは無い!!
かなりやばい。いや、戦争への功績を褒め称えられるとかならいい。嬉しい。けど、救世主の強大すぎる力を恐れた『公』に罠に嵌められるとか、ありそうじゃん。怖いよ。万が一の為にあれを……
「救世主様?」
メイドさんが心配そうな声をかけて来た。
「あ、ああはい、大丈夫です」
いつの間にか謁見の間の扉が開いていたようだ。もし、本当に『公』が俺を危険視していたら?排除しようと企んでいたら?その時はどうすればよいのだろうか。殺すか?だが……
「どうした?救世主殿。入ってくるが良い」
声を掛けられ、慌てて部屋に入る。ロウの顔からは敵意は一切感じられなかった。
「ごほん、救世主殿、此度の活躍、実に見事であった……まぁ、気遣いなしで話し合おうじゃないか、救世主殿」
彼の声は実に友好的そうだったが、俺はまだ緊張を緩めない。
「……はい」
驚くほど鋭い、糸をぴんと張ったような声が出た……と感じたのは俺だけのようだ。誰も不快な顔をしたりはしていない。
「して、これからはどうするつもりかな?」
「……と言うと?」
「どこで暮らすか、ということだ。わが家に帰るか、それとも、このまま宮殿にいるか」
その問いに一人で答えを出すことは出来なかった。確かに家族が恋しい。だが、ここで過ごすということはつまり、ロウに仕え、この国の民を救う、そういう事だ。救世主としてはやはり後者を選ぶべきだろうが。
「……ここに残り、ロウ様に仕えるつもりですが……」
「が?」
カルフォが口を挟んだが、ロウに制止される。
「……家族に手紙だけ送らせてください」
少しばかりの沈黙の後。
「ありがたい!手紙は、書いてさえ貰えば後はこちらで送り届ける。よし、救世主殿。これからも……」
ロウがその言葉を最後まで言うことはなかった。
何故かって?
俺が彼に向かって飛びかかったからだ。
毎日投稿はいったん明日で終わりとさせていただきます。頻度を下げる分文字数を増やしていくつもりなので、これからも応援よろしくお願いします!!
では、また次のお話で。




