30話 戦争中にこんなにゆっくりする救世主がいても良いものか
コルミナに『俺の実験台になれ(意訳)』と言われた後、アダムはすぐに寝た。だって眠かったもん。まだ疲労が取れてないもん。まだ戦争が続いているというのにゆっくりと睡眠を取ることを少し後ろめたく思いながらベッドに入る。
「はー」
救世主の戦争での出番は思ったより多くなかった。なんせ公国も大角族たちもそこまで大きい国ではない。なので大規模な戦闘をそんな高い頻度では起こせないのだ。小規模な戦闘では彼の広範囲の攻撃魔術を使うと味方にまで被害が出る可能性もあるし、彼がいなくとも回復は間に合う。彼にとってそのことは少し悲しく、また歯痒く感じていたのだった。
「次の戦いで、終わらせられるといいな」
本心からそう呟く。戦争を終わらせるためには敵の皇帝を生け取りにする必要がある。捕獲するだけなしかしまず皇帝が戦場に出て来ることはあまりない。なのでまずかなり相手を追い詰める必要がある。
まあ恐らく次の戦いで皇帝が出陣するだろう、というのがイザベラの意見であった。アダムもそれに賛同した。 彼が魔法で殺した兵の数は数千どころでは済まないだろう。1人が与えた被害としてはまさに規格外だ。そんなことを考えながら、彼の意識は夢の世界へと誘われていった。
そして翌日。よく睡眠をとったからか彼の疲労は取れていた。
彼のモーニングルーティーンはこうだ。まず部屋に備え付きの容器に魔術で水を溜め、顔を洗う。自らで生み出すこの水は他の水より質が良い、と彼は言うが、普通の水と比べてどこがどう良いのかは誰にも言わない。まあ救世主なのだからよくわからない理由をつけて優越感に浸るなんて愚行はしないだろう。救世主なのだから。
そして部屋のトイレで用を足し、着替えてから食事へ向かう。アダムはここでの食事をいたく気に入っていた。高級食材をふんだんに使った朝食。昼食。夕食。ああ、ここが天国なのだなという幸せを食事と一緒に噛み締めるアダム。
そんな彼の幸せそうな表情を見つめるのが最近のカリンの日課なのだが、その目線が側から見るとかなり気持ち悪いのだ。恋する乙女の目とはとても思えない。まあそんなことは放っておいてもいい。その思いが叶うことはないのだから。
この日はアダムに出番は無かったため、彼は1人で剣技の特訓をしていた。リドラが出陣していたためである。剣が振るわれると斜めに両断され、崩れ落ちるカカシ。アダムはそろそろ物足りなさを感じてきた。
「……もういいか」
呟き、屋内に戻る。すると、そこにはカリンが立っていた。
「カリン、どうしたの?」
彼女はやけにニヤニヤしている。明らかに何か企んでいるようだ。
「いや、アダムも戦いで疲れてるんじゃないかって思ってね」
「いや、よく寝たら治ったよ」
あれ?と少し焦るカリン。アダムが彼女の考えを察せていたらこんなことは言わなかっただろう。ただ彼はカリンが普通に自分を心配してくれたのだと思ってしまったのである。鈍感。アダムがそう言われたことは前世を含めても無かったが、実際はそうだったのかもしれない。ただ彼もデリカシーがかけらもないわけではない。
「あ、あの……」
「あれ?もしかして俺のために色々考えてくれてたのか?」
やっと察したようだ。カリンはぱあっと顔を輝かせ、頷く。
「そう!」
「そうだったのか、気付けなくてごめんな」
「そんなの大丈夫!それじゃ、付いてきて!」
いつもならカリンに腕を掴まれ引っ張られるように移動するアダム。しかし今回はよほど嬉しいのか早歩きのカリンの少し後ろをついていった。
〜〜〜〜〜〜
「ここは……」
目の前の景色に息を呑むアダム。彼らが今いるのは所謂ベランダだ。そこから見えるのは首都の街並み。綺麗に四角く整備された街並み。この宮殿並みの細かく豪華な装飾を持つ建物たち。夕焼けに照らされて綺麗、なんて言葉では済ませられない。爽やかな風が吹く。
ね?すごいでしょ?そう言わずとも顔でカリンが何を伝えたいか理解できる。
「ほんと、すごいな……」
少し遠くを見るとちょっとした畑が点在している。都市と田園の境、あるいは調和。それは美しいものだった。ふと、昔仙台やら山形やらで登ったタワーの展望台からの景色が思い出される。あっちは100メートルは余裕で超えていたはずだが、こちらはせいぜい数十メートルくらいの高さしかないだろう。だが、こちらからの景色の方が綺麗に見えるような気がする。前世の記憶が薄れているだけの可能性もあるが……
「ふふ、私に感謝しなさい」
ここだけ聞くと救世主に対する言葉だとは誰も思わないだろう。救世主アダムに敬語を使わないのは現時点では彼の家族とカリン、イザベラとコルミナくらいである。アダムもタメ口くらいなら許すが、こう上から目線で来られると少し腹が立つものだ。くすぐってやろうかとも思ったが、彼の精神年齢は17歳。絶賛思春期なので女子とのスキンシップは厳しいのだ。と思っていると、カリンの方からアダムにくっついてきた。
「うわっ!?」
「ふぁ〜、眠い……」
突然のことにアダムの心臓がありえない速さで鐘を鳴らす。くっついているのはまだ肩だけなのにこれである。そんなアダムをよそに、カリンは体勢を変える。彼女の頭がアダムの膝に乗せられる。そう、膝枕の体勢だ。ベランダからの美しい景色が彼の脳内から吹き飛んで消えていき目の前のカリンの顔で上書きされる。アダムの顔は前世を含めても過去で一番赤くなっていた。
そしてこの時、自分がカリンに恋愛感情を抱いていることに気がついたのだった。
ーーーーーーーーーーーーーーー
アダムは緊張のあまり疲れたのか、カリンと一緒にすやすや眠っていた。と、そこに人影がやってくる。
「……おお」
その人物はカリンを膝枕したアダムを見て驚いた様子だ。そして、
「……小さい子の恋愛は応援したいなぁ」
と呟く。そしてなにやら小型の結界のようなものを掌の上に発生させ、アダムとカリンの2人をそこに入れ、どこかへと去って行ったのだった。
ーーーーーーーーーーーーーーー
おまけ(?)
コルミナ「実験させろ」
アダム 「っ……!!研究者の人っていつもそうですね……!私たち(?)のこと何だと思ってるんですか!?」
カリン 「なんこれ」
戦争中に日常回だと!?イカれてやがる……っ!!しかも恋愛……っ!!
では、また次のお話で。




