28話 雲泥の差
自信喪失。
〜〜〜数十分前のこと〜〜〜
「『炎陣:渦』!!」
『炎陣:渦』は俺がこの前新たに覚えた魔術だ。炎魔術と風魔術を組み合わせている。
ん?俺が前に炎魔術を使うのは可哀想って言っていなかったか、って?気のせいでしょ。
そうそう、今イザベラさんはいない。最前線で兵を指揮するらしい。つまり、俺は今単独行動をしている。だからちょっと心細い。『首刈り』みたいな化け物が襲来してこないのを祈るばかりである。
……よく考えたら救世主に護衛の一人もいないのっておかしくね?おかしいよね。まあいい、敵を殲滅しつつ味方を回復させる。自分の役割を全うしよう。
(ヤバそうなのが近くにいないか、ちょっと見てみるか)
頭の中でそう呟き、神経をそこに集中させる。1年くらい前に習得した、オーラ探知能力みたいなものだ。
(うーん、人が多すぎて分からん…………っ!?)
異様な気配が感じ取られた。『首刈り』に匹敵すると思われるほどのオーラ。それの側にもかなり強いオーラを放つ人物がいる。
(この2人、仲間なのか……?だとするとかなり面倒だ……)
だがその予想は外れていることがすぐに分かった。片方のオーラが急激に減少したのだ。間違いない。この2人は戦っている。そして片方がやられたのだ。
「……どっちが味方か分からないけど、行ってみるか」
敵陣にデカい風魔術を放ってから、オーラの漂う方に向かった。
〜〜〜〜〜〜
オーラの濃いところに近づいてきた。と、俺の目にとんでもない光景が映った。
「あれは……!?」
視線の先には、図体のデカい大角族がいた。そいつの前には両腕のない人間が蹲っている。大角族が握った剣が、人間に向かって、一切無駄のないかのように思える軌道を描いて、振り下ろされる。
くっ、どうすればいい!?考えるより先に口が動く。
「『植手』っ!!」
地面に触手状のよくわからない植物が生え、大角族の方に伸びてゆく。
「なっ!?」
植手が男を捕まえた。よし、そのまま地面に叩き付け……って、うわぁ!?
「よくも戦いを邪魔しやがって!!許さないぞ、このガキ!!」
クソッ、もう植手から抜け出したのかよ!
「『首刈り』の配下であるこの俺に挑んだ事を後悔するといい!!」
「『首刈り』?そいつを殺したのは俺だよ……正しくはイザベラさんだけど」
相手が血相を変える。まあ、自分の主を殺した奴が目の前にいたらそりゃ怒るし、俺ならばすぐ殺すね。けど、男はすぐ冷静になった。
「ふん、確かに『首刈り』様は討ち取られた。だが、お前みたいなガキが?『首刈り』を倒した?ハッ、そんなわけないだろう。俺を挑発しようったってそうはいかないぞ」
んー、事実なんだけどなぁ。まぁいいや。『首刈り』以上にムキムキだし、気を付けて戦おう。あっ、その前に腕を失ってる男を回復させないと。
「『回復』」
俺の回復魔法の質はどんどん上昇している。と自負している。
「……ちっ」
「残念だったな、この男は死なせない」
「ふん、お前ごと殺せばよいだけだ!」
いやその考え方間違ってはないと思うけど、なんか脳筋感が拭えないn
とてつもない衝撃音が体に直接響いた。
肺の中の空気が外に吸い出される。内臓が潰れる感覚がする。苦しい。痛い。
何が起こったんだ、と疑問を抱く暇もなく、意識が闇に消えて行く。
五感が消えかけた瞬間、体に強い衝撃を受けて意識が戻ってくる。
「かひゅッ」
なんとか起き上がり、思い切り腹を殴られたのだと理解するが、口から胃液と血が混ざった吐瀉物が吐き出される。
「がッ……あ……ぁ……」
そうだ……敵……はどこだ……どこにいる……?
っ……さっき倒れていた男の前だ……トドメを刺すつもりか……?させるか……そうはさせるか……!
でも、立ち上がれない。指一本も動かせない。
一体どうすれば……。
答えを出した。
もうどうしようもない。
俺が追っている傷は自分の回復魔術でも太刀打ちできないだろう。
もう何をしたって無意味、いや何もできないんだ。
その時。
《サブスキル『身体損傷回復』を手に入れたよ……ゴホン、手に入れました》
は?
やけに人間味のある声が脳内に響き渡り、その次の瞬間には、痛みが完全に消えていた。
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恐怖のあまりに閉じていた目を開くと、僕の目にとんでもない光景が映った。
そこには緑髪の男の子がいた。先程の大角族の男と戦っているらしい。じゃあ、この子は僕を助けてくれたの?
そして、男の拳が少年の腹部に直撃した。
「……えっ?」
少年は血を吐きながらふっ飛ばされていった。
「嘘でしょ……」
その子が普通の少年だったらここまで絶望することはない。あぁ、かわいそうに、で済む。
けど、今の子は多分……
救世主様だ。
緑髪に小さい2本角。前聞いた事のある救世主の容姿と寸分の違いもない。
希望の象徴。そんな少年が……
負けた。
信じられない。
「さあ」
呆然としているうちに、自分の命を奪うであろう男が歩み寄ってきた。
「死ね」
剣が再び振り下ろされる。
僕を助けてくれる人物はもういない。
ーーー訳ではなかった。
さっきの少年が大角族の懐に突っ込んでいくのを、確かに僕の目は捉えた。
大角族の男は、声も上げずに倒れた。
自分は特別なのだと思っていた。それが間違いなのだと今日初めて気がついた。
この世には僕では到底敵わない人物などいくらでもいるのだ。
僕とそいつらじゃ、まさに雲泥の差なのだ。
では、また次のお話で。




