26話 因縁
「アダム、おい!アダム!!」
イザベラの呼び掛けに答える者はいない。
「アダム、おい!!」
辺りは静寂に包まれている。
「おい、嘘だろ……?返事してくれよ」
「おい……おい!!」
彼女も内心ではアダムが生きているとは思っていない。あそこまで強い炎が直撃したのだ。しかしまだ可能性はある。辛抱強く声をかけ続ける。
しかし、未だに答えは返ってこない。
「アダム……本当に……死んだのか……?」
「そんな……救世主が……?」
「信じられない……」
彼女の目の前が真っ暗になったその時。
「……さん、……ラさん…………こだよ…………きて……よ……」
微かに声が聞こえた。
「アダム!!生きてるのか!!」
彼女は声のした方に駆け寄る。そこにはツノの生えた緑髪の少年がいた。
「アダム……!良かった、本当に良かった……」
「イザベラさん……心配かけました」
「そうだ、今『特級回復薬』がある。これで良くなるはずだ」
そう言って彼女はポーションをアダムにかける。
「どうだ?」
「ありがとうございます……少し痛いけど」
彼女はほっと安堵の息を吐く。
「良かった……にしても、よく耐えられたな」
「魔術を使った後、防御結界を張ったんです。けどそれが破れたから、ヤバいと思って回復魔術を自分にかけまくりました」
「そうか、すごいな」
「何がですか?」
「回復魔術の質がだよ。大火傷に対抗できるなんてすごいじゃないか」
「そうですかねぇ、って、そういえばあの大男は!?」
「そうだ!あいつの姿がまだ見えていない。流石に死んでいると思うが、探しておこう」
「その辺りにいるはずだけど……あ」
「いたか?」
「はい。そこに。まだ死んでないけど、もう虫の息だ」
そこにはアダムの数倍大きなツノを生やした男が横たわっていた。
「あれほどの攻撃を喰らって尚生きているのか……まさに化け物だ」
彼女の言葉には恐怖が混じっているようだった。
「何だ……クソガキ、クソアマ…………?」
「トドメを刺しに来たんだよ。ええと、名前なんだっけ?」
「カサラ……カサラ=アグリゴスだ」
「そうそう、カサラ、お前みたいなクソ脳筋はとっとと殺しておかないと危険だ」
「……それは、俺の強さを認めてくれた……ということか……?」
相手の意外な言葉にアダムは少し戸惑った。
「そうかもな」
「少なくともお前を弱いなんて言う奴はこの世にいないと思うぞ」
「それが、いたんだよなぁ……確か、人族の……なんだったか……」
「逃した敵はいないんじゃなかったか?」
イザベラが挑発するように言う。
「そいつだけだ……いや、お前もなのか……」
「そうだ。私はお前のせいで何もかも失った。自身、名声、愛する人、そして何よりも生きる理由。お前を許すわけには……っ!!」
彼女は急に感情的になった。あまりに辛い、思い出したくないような過去を思い出してしまったから。
「イザベラさん、こいつにトドメを刺してください」
「ああ……」
「イザベラ……そうか、そうか……」
カサラが急に不敵に笑い出す。
「何だ?」
「いや、何でもねえ。早く……殺せ」
「こいつはもう十分苦しんだ。ひと思いにやっちゃってください」
「……ッ!!」
イザベラは剣を振り上げる。
そして。
ザシュッ。
肉の裂ける音がした。
「イザベラさん……」
「アダム、ありがとう。憎いやつを、憎くてたまらなかった奴を、この手で殺すことが出来た」
「……はい」
「戦線に戻ろう。待っている兵士がたくさんいる」
「……そうですね」
「そうだ、その前に」
彼女は目の前に転がる死体に剣を向け、振る。
「『首刈り』の首だ。晒し者にでもするかな」
彼女の声はどこか悲しげだった。
〜〜〜〜〜〜
『首刈り』が討ち取られた。その知らせはあっという間に戦場中に広がっていった。
戦争はもう少し続くんじゃよ。
では、また次のお話で。




