22話 はじめてのせんそう
は じ め て の せ ん そ う
何故だろう。
今から戦場に行くというのに、死体まみれの場所に行くというのに、人を殺しに行くというのに、あまり恐怖がない。最早そんな自分に軽く恐怖していた。
「イザベラさんは、どれくらい戦争に行ったことがあるんですか?」
「さあ、分からない。多すぎて数えてないな」
「人を殺すのって、怖いですか?」
「私はもう、人を殺すのに慣れてしまった……いつだったか、初めて人を殺したのは。その時は怖かったな」
「……殺されそうになったことは?」
「それも何度もある。例えば……」
「あ、いいです」
「そうか」
死ぬかもしれない。今更そう考えると少し怖くなった。
「もうすぐ本陣に着く。覚悟しておいてくれ」
「はい」
生臭い血の匂いが漂ってくる。毎日獣のそれを嗅いでいるため吐き気はしない。
「イザベラ様!!間も無く戦闘が始まります!!お急ぎください!!」
「分かってる。ルナ、急げ!!」
ヒヒーン!!
この世界でも馬の鳴き声は変わらない。
〜〜〜〜〜〜
本陣に到着した。
「おお、救世主様!!」
「救世主様!?」
「救世主様だ!!救世主様が来た!!」
俺が救世主だとイザベラが説明した瞬間、本陣中が沸いた。
「救世主様がいるなら、怖いものはないな!!」
「ああそうだな!!」
「あ、あのみなさん、命は大事にしてくださいね?」
俺の回復魔法で全員をカバーすることはできない。救世主様がいるからと言って無理をして死なれては困るので一応言っておいた。
「そろそろ始まるか?」
「はい。準備をお願い致します」
「きゅうせ……アダムさん、こっちに来てくれ」
イザベラさんについていく。
外に出ると、すでに隊列が組まれていた。すごい人数だ。何人いるのだろう。
「アダムさんは、陣のちょうど中央あたりで敵に魔術を撃って欲しい。そして怪我人の回復もできる限りやってほしい」
「わかりました。できる限り頑張ります」
「ああ、頼むぞ」
果たして期待に応えられるかどうか。緊張する。
すると誰かの大声が響いた。
「敵だ!!!敵が攻めてきたぞおおおお!!!!」
場の雰囲気が急変する。そこにいる誰もが殺気を放っていた。俺にはそう思えた。
「始まるぞ、アダム」
イザベラがいつもに増して真剣な声で言った。
ーーーーーーーーーーーーーーー
俺は大角族を初めて見るのだが、角の大きさ以外は本当に小角族と変わらない。少し筋肉がゴツめなくらいか。こんな奴らを殺すのは流石に躊躇われるな……けれど仕方がない。久しぶりに本気で魔法を放つ。
「『炎陣:塔』!!」
敵陣のど真ん中に魔法陣が現れ、そこから炎が塔状に吹き上がる。50人くらい巻き込んだだろうか。焼死って苦しいって聞くし、ちょっとかわいそう。ってか救世主を敵に回した時点で可哀想ではあるけど。
「うわぁ、えぐい……」
1人の兵士がそんなことを言った気がしたが、気のせいだろう。まだまだ魔法を撃つ。
「『乱土』!!」
地面が大きく揺れ、相手が足元を取られた間に公国の戦士が攻撃を仕掛ける。
「『竜巻』!!」
えげつない強風が巻き起こり、大勢の兵士を空に持ち上げ、回転させ、地面に叩きつける。本当は『炎竜巻』を使おうと思っていたが、さっきの炎魔術を喰らった兵士が可哀想だったので、やめておいた。
戦闘開始して10分ほどだが、すでに相手に大損害を与えられている。だから少し油断していたのだろう。
次の瞬間、前方で先ほど自分が起こしたような竜巻が起こり、何人もの兵士が空に浮かんだ。考えるより先に回復魔術を使用したため彼らは奇跡的に助かったようだ。そうだ、相手側にも魔法が使える奴がいるんだ。当たり前だ。この世界では魔法が活躍しているのだ。魔法隊は基本陣の後方にいる。俺は先にそちらを狙うことにする。しかし。
「うわっ!?」
飛んできた矢が頭を掠める。あっっっっっぶな。防御魔法を使用していたハズだが、いつの間にか破れていたようだ。くそ、油断は禁物だ。
「アダム、あっちに怪我人がいる!」
「わかっ、りましたぁ!!」
少し移動し、回復魔法を使用する。俺以外にも回復役はいるため、俺は基本瀕死の怪我を負ったものだけを回復する。そして攻撃の手を緩めず、
「『水斬』!!」
鋭い水の波動が相手兵士の体を切り裂く。ちょっと気持ち悪くなった。
「アダム、敵の前線を崩すことに尽力してくれ」
「はい!!『炎陣:壁』!!」
そこそこ大きい炎の壁が敵の前線を蹂躙する。
「よくやった、アダム……む?妙だぞ?」
イザベラが何か違和感を感じたらしい。なんだろうか。
「……!!アダム、気をつけろ。ヤバいのが来る!!」
彼女が言い終えた瞬間、前にいた兵士の首が飛んだ。
「・・・へ?」
俺は絶句した。
そして目の前には一際大きい角を持つ男がいた。
「それが救世主かあ?ただのチビじゃねえか。おうちに帰ったほうがいいんじゃあないか?おっと!」
彼はイザベラの攻撃を難なくかわした。
「救世主さんよぉ、あんた俺が誰か知ってるか?知らないだろうな、そのちっちゃいツノが生えた頭じゃ。俺の名はカサラ=アグリゴス。『首刈り』のカサラ=アグリゴスだ」
「『首刈り』……だと……?」
イザベラさんが青ざめている。
俺は、今異常事態が起きているということしか把握できなかった。
では、また次のお話で。




