20話 救世主の悩みとエスパー・カリン
こんなに悩んだのはいつぶりだろうか。心にモヤがかかって晴れない。嫌な感じだ。前世でもこんな感覚に陥ったことがあったような……そうだ、『死』とは何か考えた時だ。死んだら全て消えてしまうんだと言う虚無感、やるせなさ、それらが心にこびりついて離れなかった。数日もしたら消えていったが……その時の感覚と一緒だ。
自分の、救世主アダム=マーシーの、存在理由。それがわからなくなってきた。
コンコン。
ドアを叩く音がする。少女、今の俺と同い年か少し下くらいの年齢に見える。そんな女性が部屋に入ってきた。
「救世主様、初めまして。私の名前はカリン=ノーヴェンバー、この宮殿の召使です。救世主様の案内係を務めさせていただきます、ぜひよろしくお願いします!」
彼女は明るい声でそう言った。俺も無理して明るい声で返す。
「アダム=マーシーです。カリンさん、こちらこそよろしくお願いします」
彼女は、はいと返事をし、俺をじっと見つめてきた。もしや、俺に一目惚れしちゃったか?いやそんなわけないですねはい。調子乗ってスミマセン。
「ものすごく悩んでますね!」
彼女は俺の目をまっすぐ見ながらそう言った。悩みが顔に出てたか。心配させちゃったかな?
「はい、実は」
「分かってます、救世主である自分はなんのために生きているのか、と言うことでお悩みですよね!!」
言い終わる前に彼女が喋り出した。何で悩んでいたかまで当てられた。どうして彼女はここまでお見通しなんだ?もしや。
「カリン、さんの能力って、もしかして……」
「ええ、ご創造通り『読心者』です」
やっぱり。能力で心を読んでいたんだな。
「カリンは別にそれで良いと思いますけどね」
彼女が突然そう言った。
「あっ、飲み物を準備しなくっちゃ!ちょっと待ってて下さーい!」
カリンはそう言うとあっという間に部屋を出ていった。
「良いのかな、これで」
自分自身に問うように呟く。だが答えが返ってくることはなかった。俺の意識は自己弁護の方に向いていった。救世主だって完璧じゃないんだから、自分のために動くこともある。そもそも今回は国を守るだけだし、相手国を滅ぼすわけでもない。一方的に侵攻してきた大角族は、俺が滅ぼすべき悪だ。そのことで悩む必要はない。
本当か?それは本当にか?分からない。それが分からないから悩んでいるんだよ。
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「アダムさーん、お飲み物でーす!」
「あぁ、ありがとう、ございます」
「もう、救世主なんだから私なんかに敬語は使わなくていいですよ!」
「そう、か」
「それにしても、まだ悩んでるんですか……」
「はい……」
「あなた、自分を過大評価してますよね」
「え?」
「自分は世界を救える、そう信じて疑ってませんよね」
「だって、そのための救世主……」
「確かにそうです!!けど、まだあなたは11歳なんですよ!成人してすらいない子供だ!今の状態で世界を救うなんて、いくら救世主でもできません!」
「けど、先代の救世主は……」
「あれはあくまでも伝説です!確かに実在はしたらしいですが、後世で付け加えられた話ばかりです!しかもあなたとあの人じゃ世界の情勢も違う!あれと比べるのは無意味です!」
「でも……!!」
「完璧な人間なんか、この世界にいません!いくら救世主でも!!」
「……」
無言のまま数分が経った。
『……』
カリンも黙ってしまっている。俺は彼女が持ってきた飲み物に手を伸ばす。味がしなかった。さらに無言が続いた後。
「あなただって人間なんだから、自分勝手に行動することだってありますよ。救世主だとしても」
「残念ながら俺は亜人族なんだ」
「はは、そうでした」
場に和やかな空気が流れた。と同時に、頭の中で悩みに終止符が打たれた。俺が飲んでいた飲み物はミルクティーのような味だった。
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「『公』の間はこっち。ついてきて!」
カリンは俺が年下だと知った瞬間、明らかに態度が変わった。わずか半年の差だと言うのに。
「ちょっと静かにしたほうがいいんじゃ……」
「だーいじょうぶ、いつもここら辺で騒いでるから!」
「あっ、そう」
「でも、そろそろ静かにしたほうがいいかも」
「分かった」
と、カリンが誰かとぶつかった。屈強な人物はこちらを睨む。だが悪意はそこまで感じられなかった。
「カリン、気をつけろよ。こっちは訓練終わりで疲れてんだ」
「ごめーん、ギールさん。これから気をつける」
「はぁ、全く……お前は何回そう言った?」
「うーん、数え切れないくらい?」
はぁ、と男はため息をつく。
「ええと、救世主のアダム=マーシーです。ギールさん?よろしくお願いします」
相手は一瞬固まった。
「そうでしたか!!いや、救世主様を見ることができて光栄でございます!!」
カリンが少しドン引きしている(?)。いつもは寡黙な人物なのだろう。俺に対して色目を使っているようだ。
「ギールさん、今急いでるから」
「あ、あぁ。ではさらばだ、救世主様!」
はいはい、さよならー。
少し歩くと、急に雰囲気が変わった。なんというか、厳かだ。
「そろそろ謁見室だよー。気を引き締めてね」
「分かった」
そうして、俺は『公』との謁見に臨むのだった。
そろそろ1話あたりの文字数増やそうかな?
では、また次のお話で。




