◆ シイナの素質
「お待たせしましたっ!!」
ロリエが河原へ戻ってきた。
袋を肩から下げ、息をきらしてきた。
「ロリエ、早速出発よ?ここに長居はできないわ。」
ロリエは息を整えると、はいっ!と返事をした。
すると後ろから一人の女性が現れた。
女性はロリエの姉である。
「すみませんっ!待ってください!!」
「姉さんっ!!どうしたの?」
「…お礼を…言わないと…。」
息を乱しながら、お姉さんは言った。
「シイナに??」
一度うなずいて、シイナの方に向いた。
「シイナさん、本当にありがとうございました!!妹が、これからお世話になります。」
礼儀正しくお辞儀をして、笑顔で言った。
「はい。責任をもって、お預かりします。」
「良かった。あなたになら、安心して預けられます。」
「お姉様はいいんですか?妹さんを見知らぬ旅人に任せてしまって…」
「ロリエは一度決めたら、曲げない子なんです。何を言っても無駄…だから、いいんです。この子が決めた事なら…」
お姉さんは楽しそうに話した。それを見て、シイナは決意した。ロリエを責任持って、預かろうと…
「分かりました。お姉様がそうおっしゃるんなら…。お預かりします。」
「はい。いろいろご迷惑をかけてしまうかもしれませんが、お願いします。」
「私達、旅の者としてはどんな事が起こるか分かりません。怪我をしてしまう事もあるかもしれません。覚悟はありますか??」
シイナはロリエとお姉さんに、真剣に聞くと……
「「はいっ!!」」
と、迷わず答えた。
「ルーカス?これからロリエも加わるけど、いいわね??最後の確認よ?」
「ああ、もうロリエに負けたんだ。別に俺は構わないから、シイナが決めろ。」
「分かった。じゃあ、ロリエ。出発よ??」
シイナとルーカスはお姉さんに一礼して、ジニーを置いた森の近くに向かった。
「ジニー〜!!」
シイナはジニーが見えると抱き付いて、飛び乗った。お姉さんはロリエとそこまできて、手を振って別れた。
ロリエとルーカスは、シイナの乗っているジニーの横を歩いていた。
「ねえ、ロリエ。」
「はい!?」
突然シイナから呼ばれたロリエは、驚いて声を裏返した。
「そんなに驚かなくても!!で、ロリエ。あなた馬に乗れる?」
「上手くはないですけど、少しは……」
「なら、馬に乗った方が早いわ。移動は馬にしましょ?いい??」
「はい……でも私、馬なんてもってないですよ。」
シイナを見上げて、言うロリエ。
「平気よ。森の中にだったら、いるわ。」
「そんな簡単に捕まるものじゃ…」
「ジニーも森の中で見つけたの。だから…」
フィィ〜!!
シイナはジニーを止め、口笛をふいた。すると茶色い毛の馬が一頭、走ってくるのが見えた。
軽く頭をなでると、ロリエのいる方へ移動させた。
「この子なら大丈夫!イイ子だわ。」
「凄いですねっ!!口笛一つで。」
「まあね。ロリエ、乗馬具が無くても平気??私、持ってないんだけど……」
「あっ!大丈夫ですよ!」
ロリエは少しぎこちなかったけど、なんとか乗れた。
「良かった。じゃあ、行きましょ。」
いつの間にか乗っていたルーカスはシイナにつかまっていた。シイナはジニーを足で軽く叩き走らせた。それに続き、ロリエも少し慣れない様子で馬を走らせた。
シェルハッタに向かって……
「ヒドいっ」
シェルハッタに着くには、4日がかかった。行きよりかは、馬に乗っていたせいか速く着く事ができた。
景色は戦後の最悪な状態。
シェルハッタを全て、焼けつくされた訳ではないが、野原がほとんど焼けてしまっていた。
運良く、城や町までは到達しなかったらしい。シェルハッタに入った時より、だんだんと景色が良くなっていく。
シェルハッタに着く前の森での4日間。夜はもちろん野宿。日が暮れると、火を炊いて…その生活に少しは慣れてきた。
その時にロリエから、たくさんの情報を得る事ができた。
―4日前 夜
「ふ〜。これから長旅ですね!」
「そうよ?耐えられる??」
「大丈夫です。お役に立てるように、頑張ります。」
ロリエとシイナが話している姿を、火を炊きながら見るルーカス。
「でも、森で野宿なんて初めてです。辺りは真っ暗ですね、やっぱり…」
「ええ。こればっかりは、どうしようもないわ。」
シイナが辺りを見渡していながら言った。
しばらく他愛もない話が続いたが、いきなりロリエがシイナの髪を見ながら言う。
「ブロンドの髪はやっぱり目立ちますね。」
「そ、そお?」
「はい。珍しいですもん。だいたい、身分の高い方がブロンドだと聞きますけど…。稀にいるんですね!シイナみたいな旅人で、ブロンドの人。」
「先祖の身分が高かったのかも!!」
シイナは笑いながら、そう誤魔化した。
―3日前 夜
「ロリエ、少し疲れたでしょう。今日もゆっくり休んで。」
「はい。ニッキーもだいぶ私になついてくれているみたいで…。」
ニッキー。
ロリエが馬につけた名前である。
ニッキーはジニーとも仲良くなり、私達三人にもなついてくれる。
ニッキーはメス。
ジニーはオス。
「ねえ、ロリエ?あのノマネフ王国の大臣。あんなに偉そうにしていて平気なの?」
「ああ。アイツはいつも好き放題やっているんです。王様のお体が弱いからって…」
「そうなの?」
「はい。王様が一度お倒れになった事があったんです…。それ以来、公の場には顔を出さず、大臣が国の全てを任されるようになりました。王様は寝室にこもったままで、歩く事すらままならないと聞いています。」
「それなら、王のお世継ぎを即刻決めるべきだわ。あの大臣に全てを任せているようでは、滅びるのも時間の問題。確か王様の子は、お二人いらっしゃったでしょ?王子と姫が…」
「はい。シイナと同じくらいの年の王子様、そして三つ下の姫様がいらっしゃいます。ですが、お二人には世継ぎとしては地位が低すぎるんです。」
「どういう事だ?」
ロリエの話を聞いて気になったのか、ルーカスも話に入ってきた。
「お二人は王妃様のお子ではないんです。」
「「えっ!?」」
ルーカスとシイナがそれを聞き、驚いた声をあげた。
「王妃様との間には、お子が生まれる事はなかったんです。それから王様はある商人の娘を気に入り、側室として迎え入れました。もちろん最初、側室に迎える事は誰もが反対しましたが、王様は断固として諦めようとはしませんでした。心優しい王妃様は、自分に子ができない事を責め、王様が気に入ったのならと、側室を認めたんです。それによって、大臣達や側近の者達は諦めざる負えませんでした。そして側室との間に生まれたのが、お二人の王子様と姫様です。前に姉から、聞きました。」
「なるほどね。それで身分に合わないお子二人を、世継ぎとして認める訳にはいかない。だから、大臣が任されているのね。」
「その通りです。王妃様に国を任せるという案もあったようですが、それほどの力がないという事で、王様が大臣に…と。」
「多分、次にノマネフ王国へ訪れる時は…すでに滅びているかもしれないわ。」
「そんな…」
シイナの言葉を聞き、ロリエは悲しそうな目で言った。
「あの大臣のやり方では、国はまとまらない。これ以上暴走し続ければ、国の力は弱まるばかり…。それを聞いた他の国は、戦を始めようと攻め込むはず。今一番しなくてはならないのは、大臣の全ての権限を剥奪し、新たな世継ぎを決める事ね。」
シイナの考えにうなずくルーカスに、尊敬の目で見ながらも真剣に聞くロリエ。
シイナの話は、二人の眠気を覚ますほど、素晴らしい意見だった。
「私は王子様にも姫様にもお会いした事がないから、どんな方だかは知らないけど…。大臣を野放しにするよりかはいいと思うわ。たとえ身分が合わなくても、王様との血縁関係にあるのは間違いない。だとしたら、どちらかが継ぐ事が先決よ。自分の国を守りたいと思うのならね??」
「でも、大臣がそれを聞いて黙っているかしら。あの大臣ですもん。何か企むに決まってる。」
「なら、追放するしかないわね。それに大臣が黙っていなかったとしても、側室として迎える事を王妃様は認めてる。王妃様なら世継ぎとして、認めてくれると思うわ。」
「凄いです!!シイナは国の政務を完璧に理解して、こんなにも正しい意見がある。ただの旅人なのに、素晴らしい頭を持っていますね。シイナが王族の身分にいて、王妃として国を納める人なら、その国はどんな国より大きな大国になると思います!」
ロリエはキラキラと目を輝かせ、シイナに言った。
「そんな事ないわ。」
「いえ。シイナがノマネフ王国の王妃だったら、良かったのに。」
それから二日後、シェルハッタへ着いた。
ルーカスは着いた瞬間、すぐに馬から飛び降りた。どうしたのかと聞くと、すぐに戻ると言って行ってしまった。
シイナとロリエは馬から降り、ルーカスを待つためにまだ焼けていない野原の上に座った。