◆ 旅の仲間
「勝手なマネを…」
ルーカスは川の水をくみながら言った。
今二人は、市場から少し離れた林の中。
シイナは河原にあった石の上に腰を下ろし、ムスッとしながらルーカスの姿を眺めていた。
「腕を切り落とす姿を、黙って見ていろという方がおかしいわ。私には無理っ。」
パシッ!!
シイナは水の入ったボトルを、ルーカスに投げられキャッチした。
「これからは少し控えてくれよ?」
「分かったわよ。」
シイナはボトルの水を半分ほど飲み、ルーカスに投げ返した。
ルーカスはボトルの中を満タンにする為、水を再びくんだ。
するとガサッという音が、後ろから聞こえた。ルーカスとシイナはその音に気付き、後ろを振り返ったが、誰もいない。二人は顔を見合わせた。
ガサ、ガサッ
今度はさっきよりも音が大きくなっていて、近付いているのが分かった。
二人は立ち上がり、音のする方を見つめた。
「そんなに警戒しないで下さい!」
音の正体は……
「あなた…さっきの、」
腕を切り落とされそうになっていた女の子であった。
「すみません。驚かせてしまって…」
ルーカスとシイナはホッとして、石の上に腰をおろす。女の子は二人の前にあった石に。
「あなた、追ってきたの??」
「はい。お願いしたい事があったので…」
「お願い??」
「旅のお方だと、おっしゃっていましたよね?」
「ええ。」
「私もその旅に、お供させていただきたいんです。」
シイナとルーカスは、突然の願いに驚いた。
「お供すると言っても。私達にはお金だってないし、行く宛てすらないのよ?ただの旅人。」
「分かっています。あなた方がお金持ちに見えたとか、そういう事ではありません。むしろ、お金持ちには見えませんし…」
二人の姿を交互に見て、そう言った。
「でも、あなたには大切なご家族がいるでしょう?得体の知れない旅人と一緒に、旅をすると言っても許してくれる訳ないわ。」
「私が幼い時に、父は戦に兵隊としてかりだされ、戦死。母は戦の被害によって死にました。残ったのは、姉と私だけです。姉はもう、心に決めた方がいるので…その方と暮らすでしょう。私は自由の身。たった一人で人生を送るより、お二人と一緒に。」
「じゃあ、そのお姉さん達と暮らせばいいじゃない。その方が断然良いと思うけど…」
「もう…姉に迷惑をかけたくないんです。さっきみたいに、土下座なんてさせられません。」
うつむきながら言う女の子に、ルーカスが一言告げた。
「俺らだって、迷惑をかけられたくない。今日みたいな事は、お断りだ。」
「ルーカス……」
シイナは呆れたように、言った。
「迷惑はかけません。命の恩人ですもん!裏切るような事はしません!!」
「どうだか…。」
ルーカスは女の子に疑いの目を向ける。
あまりにもルーカスが信じようとしないので、少し怒ったのか声に力が入った。
「この方は、自分の身が危なくなるかもしれないのに、私を助けてくれました!!私はこの方の役に立ちたいのです。」
ルーカスに真剣に訴えかける女の子。
はぁ…
ルーカスは負けたというように、ため息をついた。
「ルーカス。あなたの負けね。」
「口で勝てる気がしない。」
「ふふ。昔っからルーカスは、口が弱いんだもの。」
「あ、あの…」
話していたルーカスとシイナを遮って、女の子は話しかけた。
「なあに??」
「私、お供して宜しいのでしょうか。」
少し申し訳なさそうに、体を小さくして聞いた。
「ルーカスが負けを認めたんだし…。良いと思うわ!!」
女の子はシイナからの言葉に、顔をパァッと明るくさせて、ガッツポーズ。
「やったー!!ありがとうございます!宜しくお願いします!!」
「宜しく。あなた、名前は??」
「ロリエ!!ロリエと言います。」
女の子は笑顔でそう名乗った。
ロリエはキャッキャと騒いで、河原の周りを走り回った。
「本当に嬉しそうだわ!!」
「これからは一つ一つの言葉に、気をつけるんだぞ?」
シイナはその姿を笑顔で見ていると、ルーカスが小声で言った。
「はい、はい。」
シイナはルーカスの言葉を軽く受け流した。それによって、少し不機嫌になってしまったルーカス。
「ごめんって!気をつけるわよ。」
不機嫌になっていた事に気付いて、慌てて言った。
すると、ロリエが騒ぎ終わって帰ってきた。
「あのっ!名前、聞いてなかったんですよ!教えてもらえますか??」
「私はシイナ。こっちがルーカス。」
「シイナとルーカス。宜しくお願いしますね!!」
「改まらなくていいのに!気軽に話して?」
「はい!!あっ、私。姉に知らせてきます。」
ロリエはいきなり立上がり、風のように林の中へ消えていった。
「そういえば、ルーカス!何でルーカスって名前にしたの??」
「お前っ!!!」
ルーカスは慌ててシイナの口を押さえた。
だが、シイナはゆっくりとルーカスの手を、自分の口から外した。
「大丈夫。誰も聞いちゃいないわ。」
「はあ…。ルーカスは俺の兄貴の名前なんだよ。」
空を見上げて言う。
「え…。ルーカスはお兄さんがいないはずでしょ?」
「ああ、実際にはいない…。母さんが流産したって言ってた。これは、俺ら家族だけの秘密なんだ。今まで俺と両親しか知らなかった。なぜか誰にも言うなって、言われてきたんだけど…。お前になら大丈夫だろ。」
「そっか…。」
「母さんが、生まれてくる前に付けたんだと。それがルーカス。」
「なるほど。それで、すぐに浮かんできた名前を使ったって訳。納得ね…。」
それからロリエが河原へ戻って来るまで待っていた。