◆ 南の国へ
ユキとルイはシェルハッタを出ると、『南の国・ノマネフ王国』へ向かっていた。
フィイィー!!
パカン、パカン、パカン、パカン
ある早朝に奇麗な口笛と動物の足音が聞こえる。
森で過ごす事1週間。シェルハッタからでて村にも町にも出会わない二人は、森で野宿する日々が続いた。歩いても歩いても、森から抜ける事はなかったのだ。
ルイは早朝に口笛の音で起きた。
「…んぅ…」
ルイは目をこすりながら草布団から起き上がると、横にユキがいない事に気付く。ルイは飛び起き、辺りを見渡した。
近くに水の音が聞こえるのに気付き、そこへ歩いていった。
「あら、ルイ起きたの?」
そこには湖に足を投げ出して、馬の毛を優しくなでているユキがいた。
黒毛の馬は目をとじて、ユキの横に座っている。
昔からユキには不思議な力があった。ユキが口笛をふくと、動物達が安心して寄ってくるのだ。
「驚かすな…」
「だってこんなに気持ちのいい朝ですもの。誰だって起きてしまうわ」
「そろそろ行こうか。」
「もう?ジニーはどうするの?」
「……ジ、ニー?」
ルイはビックリした表情。
目を大きく見開いていた。
「この子の名前よ。ねぇ、ジニー。」
ヒヒィーン!!
ジニーは気持ち良さそうに、いなないた。
「ほらっ!ジニーって名前、気に入ってるみたいよ!嬉しそう!!」
ニコニコしながら、足を水の中で動かした。
「ジニーは置いてけよ?」
「嫌ぁ〜!!ジニーは私の相棒よ?」
「へー。お前の相棒は、数分間の付き合いでできるようなもんなのか?」
「ん…。」
ユキはルイの言葉に、言いかえせず黙ってしまった。
「行くぞ。もうそろそろ、森を抜けられるはずだ。」
「じゃあ、ジニーに乗ってく。その方が断然速いと思うけど??」
「乗馬なんてできたか??」
「姫として必要な事は、マスターしてるつもりよ!!」
「へ、へぇー。まっ、どうせ下手くそなんだろ??」
「何なのよ〜!自分が出来ないからって、ひがまないでよね??」
そう言って、持っていた乗馬具を付け始めるユキ。
付け終えると、ジニーにまたがった。
「ジニーは置いてく約束だろ?」
「約束した覚え、ないから!」
「何言って…」
「早く乗って??」
ユキがルイの話を遮って、言った。
「乗らねえ…」
「ふん、じゃあ先に行く!」
ジニーはユキに手綱を引っ張られ、パッカパッカと歩き出す。
それから、だんだんと速さを増していく。
それを見たルイは慌てて、追いかけた。
「ユキ、乗るよ!勝手に行かれたら困る!!」
ユキはルイに気付き、手綱を引いた。
ジニーはそれに応えるかのように、足を止める。
「最初っから素直になればいいのに!!」
ルイは渋々乗る事を決め、ジニーにまたがった。
ユキは手綱を思いっきり引き、ジニーは森を走り出した。
「きゃー!きっもちい!!」
「ユーキー。スピードを落とせー!!」
ジニーはどんどん、どんどん森の中を走る。
それから15分ほど走り続け、今までなかった光が見えてきた。
ユキが手綱を引く事によって止まる、ジニー。
森を抜けた先に見えたのは、多くの人がにぎわう大きな町。
シェルハッタの穏やかさとは違い、にぎやかで活気がある。
ここは…
『南の国・ノマネフ王国』
ユキとルイはマントをサッと羽織り、ジニーを木に結んだ。
「ジニー、ここから動かないで。いいわね??」
ユキはにっこり笑うと、ジニーに別れを告げる。
「まずは町で服を買うぞ。流石にこの格好じゃあ、貴族って事を気付かれかねない。」
ルイは近くにあった店に立ち寄った。服を適当に選び、お金を払った。
「ユキも好きなものを選べ!!」
「うん。どれがいいかな?動きやすいのは…」
ユキはクリーム色の動きやすそうな、軽い服を手にとった。
それは、一国の姫という事を感じさせられないような服だ。
「ユキ…それにする気か??」
「だって動きやすそうだしっ!お婆ちゃん。これ、ください。」
ユキはしゃがんで、お婆ちゃんの目線に合わせた。
お金を払い、町の片隅で着替えた。
「ほらっ!いいでしょ??やっぱり動きやすいのは、いいわよね♪」
「まあな。それより、くれぐれも正体がバレないように気をつけろ?なるべくシェルハッタの事も話すな。仮の姿として…俺らは旅人という設定だ。いいな??」
「う、うん。旅人…」
「名前も変えた方がいい。俺はルーカスだ!いいな?」
「ルーカス、か。ってねー、ルイも変える必要あるの??」
「シェルハッタで姫の付き人をやっていたのが、ルイだって分かったら…。たとえお前が名前を変えたとしても、バレちまうだろ??」
「そっか…。そういえば、私の名前は??」
「シイナ…」
「シイ、ナ??」
「あぁ、そうだ。エダチヴ語でシーナ。『愛』という意味だ。お前は誰にでも愛をそそぐ。だから、シイナ。」
「…シイナ…愛…。凄くいい名前♪ありがとー!!」
エダチヴ語とは、シェルハッタ王国で使われている言葉である。
他の国では、エダチヴ語は伝わらない。
その為に、小さい頃から他国の言葉の教育を受ける。
ユキとルイ、改め…シイナとルーカスは町を探検する事に決めた。