◆ 戦の始動
ひゅぅー.......
ドアァーン!!!
ある日の朝。
いきなり大きな音がシェルハッタを襲った。
「何!?」
ユキはベッドから飛び起き、窓に向かって走った。窓を勢いよく押し開き、窓から身を乗り出した。
「ひどい…、」
ユキの目に映ったのは…
広い大地に花畑。透き通る川にざわめく森。森で暮らす動物達と人々が賑わう町。
そんな姿はなく、面影は全く見られなかった。
シェルハッタは火の海になり、民は大騒ぎであった。
ユキはうっすら涙を浮かべると、勢いよくルイがドアを開けて入ってきた。
「ユキ!直ちに避難する。すぐに着替えろ!」
そう言うと、すぐに部屋から出ようとした。
「待って、ルイ。どうしてこんな事に…」
「戦が始まったんだ。」
ルイは静かに部屋をあとにした。
ユキは急いで着替えると、ルイの元へと走った。
「ルイ!」
ルイはシュナフ王とビアンカ王妃、そしてルイの両親である大臣と女官長と共に何やら深刻な話をしていた。
ルイの両親とユキの両親は無二の親友であり、幼い頃からの付き合いである。
ルイはユキの声に気付き、後ろを振り返った。すると険しい顔でユキに近付き、両肩に手をおいた。
「ユキ、すぐにこの城をでるぞ!」
「どうしてです?なぜ急に戦が始まったのですか?」
「ユキ、とにかく城をでる事が先だ!一度避難して、様子を見る。」
「……わかりましたわ……」
ユキはルイの強い目に負けて、渋々城をでることを決意した。
ユキはルイに手を握られながら、歩き始めた。すると、ユキがいきなり止まった。
「どうした?…ユキ。」
ルイが心配そうに覗き込むと、ユキが後ろを振り返った。
「お父様とお母様は行かないのですか?なぜついて来られないのですか?」
「ユキ、行きなさい。わたくし達もすぐに向かいますわ。」
ビアンカ王妃は優しい笑顔で言った。
「でわ、お姉様は?」
「サクラもわたくし達と一緒に行きますよ。とにかくあなたは、ルイと共に行くのです。」
ルイに手を引っ張られ、ユキは無理矢理連れられた。
城をでたユキとルイは、外の景色を見ると言葉を失った。ユキの目には涙が浮かんだ。
「……ひどい……こんな……」
「…ユキ…行くぞ…」
二人はうつむいたまま、歩きだした。
「…ルイ、どこに向かっているのですか?」
「……」
ルイは何も答えず、歩き続ける。
「答えて下さい!」
ユキはルイに握られている手を振りほどこうしたが、びくともしなかった。
「ルイ!!」
「……」
「ルイ!!」
「……」
何も答えないまま、ルイは歩き続ける。ユキは何度も抵抗したが、どうにもならず…
……パンッ!!……
ユキはルイの前まで走り、頬を叩いた。
ルイは目を丸くして、ユキを握っていた手を放した。
「…ユ、キ…」
「ルイ、どこに向かっているのですか?どうして黙っているのですか?分からないことだらけです。」
「……」
「もうすぐシェルハッタの境界が見えてきますよ。」
「……」
「まさか…シェルハッタをでるつもり…」
「ユキ…頼む。ついてきてくれ。」
ルイはやっと口を開いた。
だがユキの目を見る事なく、歩きだそうとする。
「本当にシェルハッタから!?ルイ、ちゃんと説明してちょうだい!どういう事なの?ねぇ!」
「ユキ!!ちょっと黙っててくれ!黙ってついてくればいいんだよ!」
「黙ってついてくれば?ふざけないで!私にだって聞く権利はあるはずよ!どうしても教えてくれないというならば、私は城へ戻ります!」
ユキはルイとは反対方向に歩きだした。
「ユキ!わかったよ。話すから待ってくれ!」
「本当に?」
ユキは振り返った。ルイがうなずくのを見て、ルイの方へと走った。
「じゃあ教えて。」
ユキは真剣にルイの目を見る。
ルイは一息つくと話しだした。
「ユキ…お前は狙われているんだ…」
「え…」
少し沈黙が続いた。
最初に沈黙を破ったのは、ルイだった。
「…シェルハッタにいる…お前を狙った…だから…お前は…このシェルハッタから…でる必要が…ある…」
「シェルハッタから…でる?…」
「俺はシュナフ王に頼まれた…シェルハッタから…ユキを…だしてほしいと…」
「なぜ最初から、そう言わなかったの?…どうして黙っていたの?」
「口止めされていた。ユキには理由を告げずに連れ出してくれと…」
「嫌よ?私はこのシェルハッタからは一歩もでないわ!」
「お前は狙われているんだぞ!」
「お父様やお母様…お姉様だって、狙われているなら助けなければ…」
ユキは城に戻ろうと、後ろを向き走りだした。ルイは慌てて追いかけ、ユキの腕を掴んだ。
「たく、ちゃんと話を聞けよ!狙われているのは、お前だけだ。」
「どうして私だけなの?私を狙っても何の得にもならないわ!」
ユキはルイに腕を捕まれ、振り返りながら言った。
「それはわからない…。だけど、一人の男が早朝、城へ訪れた。
『この国の姫であるユキを差し出せば、シェルハッタに危害はくわえない。だが応じないと言うならば、シェルハッタがどうなるかわかっているな!』
そう言われたと言いにきたんだ。なぜかユキだけを渡せと…」
「だったらなおさら、出ていけないわ!私を渡さなければ、シェルハッタが…」
「いい加減にしろよ!王様と王妃様がユキをどんな気持ちで、この国からだそうとお決めになったかわからないのか?」
「嫌です!ここは、私の国です!守らなくては…」
ユキは目に涙を浮かべて、その場に崩れ落ちた。
「ユキ、頼む。俺はお前をシェルハッタからださなくては、シュナフ王に合わせる顔がないんだよ…」
「ん゛…わか…た…わ…」
ユキは泣きながら、ルイの後ろについていった。