◆ 新たな付き人
10年が経ち、ユキは17歳となった。
「サクラ様、ユキ様。お誕生日おめでとうございます」
毎年行われる誕生日会。今年は珍しく姉も出席した。
「お姉様が出席なさるなんて珍しいですね」
ユキは横に座る姉・サクラに言った。
サクラは病弱でほとんど外には出られない。小さい頃から、活発に遊んでいたユキとは正反対の生活で、常に寝室のベッドにいるのが基本だ。
ユキと同じようなブロンドの髪は、左下で一つに結われて肩に垂れ下がる。透き通るような青く緑混じりの瞳。少しかすれた消えそうなほど繊細な声。そして華奢な体。
ユキと見分けがつかないほど似ている、一卵性の双子である。
「最近は調子が良くて。久し振りに出席してみたの。たまにはベッドから出て、気分転換でもしなさいってお医者様から言われているしね!」
サクラは笑顔で言った。
いつも優しい自慢の姉。体は弱くても、たくさん相談にのってくれる、笑顔が絶えない頼れる存在。こんな姉をもったユキは、自分を誇らしく感じていた。
「お姉様、無理はなさらないでね」
ユキが心配そうにサクラを覗き込む。だが、返ってきたのは満面の笑みを浮かべたサクラの顔だった。
「大丈夫よ。ありがとう」
そう言うと、サクラはユキの頭を撫でた。
「寝室からだけど、ユキの走り回っている姿。ずっと見ていたのよ。ルイくんと楽しそうに、遊ぶあなたを。」
ユキの頭から手を放すと遠くを見つめ、いきなり話し始めた。
「でも…。いつもユキがくるのを、待ち遠しそうに待っていたあのルイくんが。今ではあなたの付き人として、毎日会いに来るんですものね」
サクラはニコッと笑うと、ユキの方を向き
「良かったわね」
それだけ言って立ち上がった。
サクラは少し咳こみながら、女官達と共に寝室へと戻っていった。
パーティーが終わり、ユキは寝室へ戻る。ベッドに寝転がると、ドアがノックされた。飛び起き、
「誰?」
と声を裏返す。
「俺だよ」
一人の青年が入ってきた。
茶髪が目立つその青年は、小さい頃ユキと共にあの河原で遊んでいたルイである。長身で切れ長の目にスッとした鼻。誰が見ても美男子である。
「ルイね。脅かさないでちょうだい。」
「なんだよ。一応、付き人だぞ?」
ルイの両親は城に仕えている。父は大臣として実務をこなし、母は女官長として女官達を指導している。
ルイは10歳になった時、両親に無理を言って頼み込み、城に仕える許しを得た。だが、付き人として覚えるべき事は山程あり、それは全て重要なことだ。そのための修行として6年もの時間をついやした。
そして今、17歳のルイはユキの付き人として仕えて1年がたった。
二人は同い年で、家柄は違えど小さい頃から親友のような仲だ。
「ごめんなさい。まだ慣れなくて…。いつも私が会いに行っていた方だったから、不思議な感じ。」
「もう1年はたつけどな。」
そう言いながら、ベッドに腰をかける。
「でも、あんなに嫌っていたお城での仕事を、自分から進んでやるとはね…。驚いたわ!」
ルイは幼い頃から両親を城にとられ、一人で暮らしていた。毎日一人の生活が続き、両親との思い出が何もないためか、だんだんと城を嫌っていくようになった。
「仕方ないだろ。」
「何が仕方ないのよ?」
「うるさい!」
ユキが顔を覗き込むと、ルイは少し顔を赤らめながら言った。
そして立ち上がると部屋からでようとした。
「ちょっと!結局、何しにきたのよ!」
「お姫様はそんな言葉遣いではいけませんよ」
「ちょ、ちょっと!」
バタンッ。
ユキの問いかけに答える事なく、部屋をあとにした。