表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/13

◆ 7歳の祝い



「嫌よ!私に近付けないで!」


「何だよ。ただの蛙だぞ?」


「嫌なものは嫌なの!」



穏やかに風が流れ、木々が生い茂っている。聞こえるのは揺れる木々や葉の音。川に流れる水の音。鳥のさえずりや動物の足音。


少年は河原で蛙を捕まえると、少女の前に突き出した。少女は必死で少年から逃げた。河原の石を飛び越え、川を渡り必死で走り回った。でも、どこか楽しそうに…

風になびく長いブロンドの髪。透き通った青い瞳に良く通る高い声。華奢な体に貴族らしいドレス。

少女はシェルハッタ王国の姫、ユキであった。

ユキが野原をかけあがると、そこにいたのは杖をつく70代ぐらいの老人。老人はいかにも頑固そうな顔つきだった。



「ルイ、その辺にしておきなさい。姫様はこれから誕生日パーティーにご出席なさる。主役がいなくては、話しにならぬのでね。」



この老人はシェルハッタ王国に代々仕えているラーセン家の一族。フイズリー・ラーセンであった。元はユキの母、ビアンカ王妃に仕えていた執事だった。



「フイズリー。もうそんな時間ですの?」



ユキは少し悲しそうな声で言った。



「はい。そろそろお支度をなさらなくては、パーティーに間に合いません!」



ユキはフイズリーを見て、諦めたように言った。



「はぁ…わかったわ…。城に戻りましょう。ルイ、ごめんなさい。もう行かなくてはいけないの。」


「ユキ、また遊びにおいでよ。待ってるからさっ!」



ユキは笑顔でうなずいた。

だが、ルイの瞳はどこか寂しそうだった。

ユキはフイズリーに連れられて、ルイといた河原からだんだんと離れていった。

ユキは後ろを振り返り、ルイに向かって叫ぶ。



「ルイ!パーティーが終わったら、すぐに来るわ。」



するとその言葉を遮るようにして、フイズリーが険しい顔で言った。



「ユキ様、いけません!パーティーが終わっても、稽古があることをお忘れですか。くれぐれもユキ様のお立場は…」


「うるさい、うるさい、うるさい!私が来ると言ったら来るのです!」



ユキはフンッ!と言い、野原をかけていった。



ユキは城の門をくぐり、寝室に向かって走った。寝室に入ると、真っ先にベッドに飛び込む。うつぶせになり、顔を枕に押し付ける。

すると、いきなり後ろから何人もの女官が寝室に入ってきた。腕には多くのドレスが垂れ下がっていた。



「何をしてるの!?」



ユキは飛び起きて部屋を見渡した。

部屋中には、たくさんのドレスや宝石が置かれている。



「王妃様に頼まれて、ユキ様のお支度を命じられました。」



女官長・ナターキアが深々と頭を下げながら言う。



「お母様に…」



ユキは渋々ベッドからおりると、着せ替え人形のように次から次へと着せられ、脱がされの繰り返しだった。

女官達は15分間の末、やっと自分達が満足のいく盛装(せいそう)ができたらしい。

長いブロンドの髪は頭の上で一つにまとまり、赤い髪飾りでとめられた。白い純白のドレスに、時折見せる宝石の輝き。首と腕には水色の宝石。足にはほのかな水色の宝石がちりばめられた白い靴。



「姫様、素敵ですわ。」



女官達は口々に褒め出した。



「では、姫様。広間で皆さんお待ち兼ねですわ。」



ナターキアはユキの背中に少し手をあてながら、広間へ誘導する。

広間に着くと大勢の民達であふれていた。


ユキが広間に現れると、歓声が響き渡った。

すると、歓声に混じり聞こえてきた声。その声の主をユキは何も言わずとも当てることができた。



「ユキ。」


「お父様!お母様!」



先に盛装をすませ、待っていたシュナフ王とビアンカ王妃の声であった。二人の元へ駆け寄り、飛び込むように抱きついた。


ユキは後ろから急に響く声に驚き、振り返る。振り返る先に見えたものは、大勢の民達の笑顔だ。



「ユキ様!7歳のお誕生日おめでとうございます!」



広間に集まった民達は声をそろえて言った。


それからパーティーは何時間も続き、にぎやかな一日となった。

この素晴らしい一日から月日が経つこと10年…




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ