◆ 二つの国の関係は…
―インシェナ王国
インシェナでは、シイナ、ルーカス、ロリエが宿を探そうと歩いていた。
「なかなか、見つからないな。」
「奥の方へ行けば、あるかもしれないわ。」
ルーカスとシイナが話していた。
その時、ロリエが大声をあげた。
「あー!!!あったー!!!」
二人が驚いてロリエの方を見ると、どこかを指差していた。
その指の先を見てみると、一軒の宿があった。
「シイナ、ルーカス。宿よ、宿!やっと休める!!」
ロリエは宿を見つけて大騒ぎだった。
「本当だ。良く見つけたな、ロリエ。」
「早速、中に入りましょう。」
ルーカスとシイナはそう言うと、宿に入ろうとした。
すると、中から食器が割れる音がした。
それに続いて、大声で叫ぶ男の声もした。
「てめぇ、何しやがんだよ!!」
「そっちが、ぶつかってきたんだろ!!」
シイナ達が中に入ると、男二人がつかみ合いの喧嘩になっていた。
見た所、一階は食堂らしい。
「お客様、お止めください。」
「うるせえんだよ!関係ないやつは黙っとけっ!!」
「お客様、喧嘩は外でやってくださいよ!!マトピスの兵士に見られたら、どうしてくれるんですか。」
宿屋の主人が急いで止めに入り、怯えた様子で言った。
「ふっ、わかったよ。俺だって、アイツらに掴まるのだけはごめんだからな。」
「ありがとうございます。他のお客様、ご迷惑おかけしました。ごゆっくりお休みください。」
喧嘩していた男二人は、宿屋から立ち去っていった。
「あの…」
主人がシイナ達に気付くと、恐る恐る声を掛けてきた。
騒ぎのせいで、シイナ達が入ってきた事に気付かなかったようで、少し怯えていた。
「はい。」
「お見掛けしない方ですが、どなたでしょうか…。」
「あっ、私達宿を探してて。泊めていただけますか??」
「えっ、あの…マトピス王国の方でしょうか。」
「マトピス王国?違いますよ、旅をしている者です。」
「そ、それは…本当でしょうか。」
「ええ。」
シイナと宿屋の主人が話していると、後ろからロリエが質問をした。
「あの…どうしてマトピスの人か調べる必要があるんです??」
「そ、それは…」
主人がおどおどと困った様子を見せた。
それを見たシイナは…
「宿に泊めていただければ、構いませんから。」
「あ、はい。鍵をお渡ししますので、二階へどうぞ。」
案内され、部屋を一部屋借りた。
ベッドが3つあり、少し古びた部屋だった。
「わー、ベッドだ!!」
ロリエがベッドに飛びこんだ。
「まずは、マトピス王国を恐れている理由を調べなくっちゃ。」
「私、叔父に会ってきます。叔父なら何か知っているかもしれない。」
「そうね。聞いてきてくれると、助かるわ。」
「じゃあ、探して来る!!」
ロリエはベッドから飛び起きて、部屋を出ていった。
「私も情報収集のために、探検してくる。」
「じゃあ、俺も行くよ!」
「ルーカスはダメよ。乗馬訓練でしょ?」
「マジかよ…」
「いつまでも私の後ろに、乗ってるわけにはいかないでしょう。」
「はい、はい。わかりましたよ。」
シイナとルーカスは下へ降りて、宿屋から出た。
ルーカスはそのまま馬屋へ行った。
シイナは情報収集のために探検。
「いつまでマトピス王国の言いなりになっているつもりです!!皆さんは、これからもマトピス王国の操り人形として生きていくつもりですか??」
「サリヲ、いい加減にしろ!!そんな事言ったって、俺達に何ができるって言うんだよ。」
「だけど、親方っ!!」
工場のような所で、たくさんの男の人達が昼食をとっていた。
サリヲという青年が、男の人達に訴えかけていた。
サリヲは
背はルーカスより少し低いが、長身で茶色い目。
髪は短く、色は茶。
工場で働いていたせいか、服は黒ずんでボロボロ。
体は筋肉がありガッチリとしているが、痩せている。
昼食を終えた男の人達は、全員が仕事に取り掛かり始めた。
「くそっ!!」
サリヲは地面にあった小石を蹴って、工場から離れるように歩き出した。
「おい、サリヲ!!どこ行くんだよ!仕事しろ、仕事ー!!」
親方と呼ばれていた男の人が、サリヲを呼び止めた。だが、その言葉も届かず立ち去ってしまった。
シイナは少し気になって、立ち去ったサリヲを追った。
「なんだよ、皆してビクビクと…。マトピスにインシェナを取られてたまるか。」
サリヲは木にもたれかかって、愚痴をはいていた。
「この国がマトピス王国に取られるとは、どういう事かしら。」
サリヲは、後ろからした声に驚いた。
声の正体は、サリヲをこっそり追ってきたシイナ。
「だ、誰だよ!」
「私はシイナ。マトピス王国の人間じゃないから安心して?」
「じゃあ、誰なんだよ。ここら辺じゃ見掛けない顔だ!!」
「私は旅の途中に立ち寄っただけ…。それより、マトピス王国とインシェナ王国の間に何があったか知りたいの。教えてくれない?」
「旅人か…。この国に立ち寄って、運が悪かったですね。」
サリヲはシイナが旅人だと知り、安心して腰をおろしながら言った。
「どういう事??」
シイナはサリヲの隣りに、腰をおろしながら言った。
「ふっ!今インシェナ王国は、マトピス王国の言いなりさ。」
「言いなり?長年、友好関係を築いていたと聞いたけど…」
「そんなもん、いつの間にか破棄されちゃったよ。マトピスの王にね。」
「破棄??そんな馬鹿な…。こことマトピスの友好関係は永久だと、言われていたはず。」
「二つの国の友好関係は、先々代の王により築かれた。」
「先々代の王二人が、古くからの友人だったとか…」
「そうだ。お二方の意思により、友好関係は築かれ同盟国ともなった。先々代から先代へとその意思は受け継がれ、次の王にも受け継がれるはずだった。だけど、マトピス王国は裏切ったんだ。」
「インシェナは友好関係を守ろうとした。けれど、マトピスは友好関係を守ろうとはせず、インシェナを乗っ取った。そういう事??」
「そうです。」
「裏切った理由はなんなの?」
「マトピスに、姫しか生まれなかった事が原因です。」
「姫しか生まれないという事が、なぜ裏切りの理由になるの??」
「姫しか生まれなかったという事は、王になる世継ぎがいないという事になる。」
「なるほどね。その姫と結婚した他国の王子が、インシェナ王国を嫌っていた。」
「少し違うな。他国の王子はインシェナを嫌っていたのではなく、インシェナの王、一人を嫌っていた。」
「王とはどういう関係??」
「実の兄弟だよ。マトピスの王は、元はインシェナの王子。兄であるマトピスの王が、弟であるインシェナの王をヒドく嫌っていたんだ。」
「兄弟が、どうしてそんな仲になったの??」
「さあ、そこまでは知らないよ。それより…なんでそんな事、知りたいんだよ。」
「あまりにも、この国の人達に疑われるから。気になっちゃって!」
「ふーん。まあ、いいや。俺はそろそろ仕事に戻るよ。じゃあ、またな!」
サリヲは立ち上がり、木々の間を歩いていった。