― プロローグ
【雪よ舞う、桜散る】
とにかく楽しんでいただければ、嬉しいです。
時は1000年前。
常に戦が絶えないこの時代に、一時戦無き日々が続いた。
ある四つの国が、東西南北に分かれて位置している。それらの国々は、元は一つの大国であった。
大国は四人の権力者によって分裂し、東西南北に領土がわかれる。権力者を王として、200年にわたって国々が完成していった。
そして200年後
東の国・ジェーヌ王国
西の国・ヴィリアン王国
南の国・ノマネフ王国
北の国・シェルハッタ王国
各国はそれぞれ名を改めた。この四国が分裂する以前にそびえていた大国『キャルロット帝国』に伝わる伝説の魔法石・キルラを手に入れる為、四国の戦いがまた始まろうとしていた。
北の国・シェルハッタ王国
頑丈な外壁に包まれ、中心部には大きな石造りの城が建っている。
清々しい春の日。太陽が広い大地を照らし、風は暖かく穏やかに流れる。大地に広がる草花はそよそよと揺らめき、辺り一面に満開の桜が広がる。
四国の中で最も穏やかで豊かな国、シェルハッタ。桜に包まれた城の中で、二人の子が誕生した。王・シュナフと王妃・ビアンカの間にできた子。その子を一目見ようと、多くの民が待遠しそうに城の周りを覆った。
早朝の城に響き渡る幼い泣き声。元気に泣くその声は、城の外までも響いた。
「うぎゃー!うぎゃー!」
「おんぎゃー!おんぎゃー!」
城を囲むようにして待っていた大勢の民達が、喜びの歓声を上げた。その声はシェルハッタ王国が揺れるほどのものだった。
ワァー!!!
生まれたぞー!!
シェルハッタ王国の跡継ぎ、誕生だー!
そんな歓声が上げられていた。
―その時だった。
空から白い結晶が一粒降ってきた。また一粒、また一粒と小さな小さな白い結晶はだんだんと量を増した。
「雪…雪だ!」
一人、男が声を張り上げた。
そう。その白い結晶の正体は、"雪"だった。無論、今日のような暖かな陽気の日には降る事は…まずない。その上、季節は春。冬を通り過ぎた春に、雪が降るのは有り得ないとされていた。…が、しかしこのシェルハッタには、春に雪が降るという珍しい光景が稀にあるのだ。
「何という事…これは奇跡じゃ!」
しわがれた声で言った。その声の主は城の中から現れた一人の老婆だった。歳は70代ぐらいで、腰を曲げて杖をついて歩いている。老婆は、目を輝かせながら空を見上げた。
「ユラ婆さま!」
ユラ婆さま。シェルハッタ王国、老巫女として先代の王から現在の王まで支え続けている。
「"スノースプリング"じゃ。」
スノースプリングとは、春に雪が降るという奇跡の日のことをいう。本当に稀にしか見られない為、スノースプリングが起こる日は"幸運の日"と呼ばれていた。
そしてユラ婆さまやシェルハッタの民達は、王の子誕生の日に起こったという奇跡を信じられずにいた。
すると、城の中から一人の大臣が姿を現した。
「皆の者!シュナフ王とビアンカ王妃のお子は、双子の姫であるぞ!」
その言葉は何よりの幸福であった。
奇跡の子が、お二人もいらっしゃるぞ!
わあー!
それから、歓声は止まなかった。
―城内 王室―
王と王妃の間に子が生まれてすぐに、スノースプリングは起こった。
「まあ、あなた!スノースプリングですわ。」
窓からの景色を見ていたビアンカ王妃が言った。
「ビアンカ。わたし達の娘は天からの祝福をうけたようだな。」
「ええ。」
シュナフ王はベッドで寝ているビアンカ王妃の横に座り、子を抱き抱えながら空を見上げて言った。
「そうですわ。この子達の名前…サクラとユキ…というのはどうかしら。今までスノースプリングが起こった事はありましたけど、王の子が誕生した日に起こったのは初めてです。」
「そうだな。これは運命かもしれない。」
「姉をサクラ、妹をユキ。幸運の日に生まれた姫。今日、桜と雪が同時に見えるように、二人はいつも一緒に…。」