再会
少年は心配そうに可奈の顔を覗き込んでいた。
その瞬間、安堵にも似た怒りが湧き上がってきた。
「あんたどこに行ってたの。 何で勝手に消えるのよ。 私がどれだけ怖い思いをしたことかわかってんの?」
可奈はしゃにむに少年に掴み掛かって、揺さぶった。
少年は戸惑ったように言った。
「勝手に消えたって……君の方が消えたんだよ」
「……は?」
この期に及んで責任転嫁か、と可奈はねちっこく考えた。
「僕が一瞬、ほんの一瞬目を離した隙に、ぱっと消えちゃったんだ――それよりもねえ、大丈夫?」
少年は再び可奈の顔を覗き込んで、背中をさすった。
「顔、真っ青だよ」
まだ、恐怖の余韻が残っていた。だいぶ震えも治まって気分もまともになっているが、まだ怖い。
「何があったの?」
少年が聞いた。
少年に話すべきか否か、可奈は迷った。あの恐怖体験は思い出したくもない。口にすると、再び甦ってくる気がする。
だが、じっと可奈を見つめる少年の圧力は耐え難く、渋々話し始めた。
最初はところどころかいつまんで、簡潔に説明と思っていたが、話し始めたら止まらなくなった。
堰を切ったようにまくしたてて、全てぶちまけた。
「……怖かったね」
少年は落ち込んでいる。
「ごめん、役に立たなくて」
「何で謝るの。 あなたのせいじゃないでしょう」
「そうだけど……」
このままでは埒が開かない。可奈は話題を変えた。
「ところで、これからどうしよう」
「……とりあえず歩いてみようよ」
二人で歩き出した。
歩道の脇にはビル群がある。あの学校に辿り着くまでの道とは打って変わり、都会的になっている。だが、先程と違うのは、歩いても歩いても道に変化はないことだ。
「何でさ」
少年がゆっくりと口を開いた。
「何で君はそんな怖い目に遭ったんだろう」
可奈は考えた。先程の体験は自分に関係のあることなのかも――そんなはずはない。何も身に覚えはなかった。――ないはずだ。なのに、何でこんなに違和感を覚えるのだろう。
頭がガンガンと痛み始めた。最初は知らんふりしていたが、しまいには目も開けられなくなり、可奈はしゃがみ込んだ。
「だ、大丈夫?」
少年は慌てて可奈の背中をさする。しかし、すぐに手が止まった。
「誰?」
それがけっこう緊張した声だったので、可奈は顔を上げた。
目の前には、あのメルヘン女性だった。可奈も身体が強張る。
「あなたはまだ何も思い出さないの」
メルヘン女性はその恰好に似つかわしくない、低く鋭い声でそう言った。
「……何を思い出すっていうの」
声が震えた。何で、何でこんなに怖いのだろう。
メルヘン女性は言った。
「真実から目を背けないで、現実を直視しなさい」