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深夜のコンビニにて

 深夜三時、街灯しかない田舎道を車でぷるぷる走っていた。黒の軽自動車の後ろ座席で、揺られるがままになっている。深夜テンション――ではない。不思議と眠くはないが、テンションは全く上がっていない。かれこれ一時間は暗闇の窓に映る自分を見つめ続けている。頭がぼうっとして、音楽を聞く気にも、何かを考える気にもならない。宙ぶらりん――それが一番ぴったりな言葉だった。だから、ずっと暗闇を見続けられる。退屈だしつまらないけれど、苦ではない。

 最近はずっとそんな調子だった。

 いつからこんなふうになったのだろう。考えても分からない。何がきっかけでこんなふうになったのか、思い出せない。

 ただ、ざっくりと高校に入学した時からかなとは思っている。

 笠井可奈は鼻から息を吐いた。

 高校に入学してから半年以上過ぎている。それなのに、この宙ぶらりんな気持ちは何一つ変わらない。友達がいないからか?と、考えたことがある。確かに、可奈には友達と呼べる友達はいない。休み時間は大体一人でスマホをいじるか、本を読んでいる。だが、そのことに不満を感じたこともなければ、寂しく思ったこともない。無論、クラスメイトに話しかけられれば相槌は打つし、面白ければ笑う。それくらいの適応力は可奈にだってあるのだ。客観的に見ても、可奈がいじめられたり、仲間外れにされているという事実はない。――若干クラスから浮いている気はするけど。それじゃあ、勉強面で不安があるのか?と考えたことがある。不安がないとは言わない。将来のことは色々考えなければと思っている。だが、それが長期的な精神のストレスに関わるほどかと言われれば、否、そんなことはない。飛び抜けて勉強ができるわけではないが、落ちこぼれてもいない。多少手を抜いても、根本的に真面目な性格なので、常に中の上くらいを維持できている。

 結局、思春期だからという結果に終始することになる。思春期だから葛藤もある、悩みもある。可奈の虚な精神も、それと同類なのだろうと丸めて捨てるように結論づけた。

 トイレに行こうという話になったのがその数分後で、深夜四時、コンビニに到着した。

 気怠げな店員が一人いるだけで、他には誰もいない。

 トイレだけさっさと済ませ、何も買わずに車に戻った。再び窓に目を向けた。両親と弟が戻ってくるまで待つ。

 今は、一泊二日の旅行の道中である。

 こんな夜中に車を走らせているのは、仕事からの帰宅が遅い母親を待ってから出発したためだった。

 母親は塾の先生である。日常的に帰りが遅いわけではない。夏期講習が近づいていて忙しいのだ。

 父親は凡々たるサラリーマンである。だが、本人が極端に寡黙であり、実際に会社でどのような仕事をしているのかはよく知らない。

 弟は小学五年生である。同じ親から生まれている筈なのに、顔も頭も運動神経も可奈より出来がいい。それは、自分が弟に馬鹿にされ続ける未来を示唆するものであり、幼心に早くもそれに気づいた可奈は、完璧に弟を調教していた。

 突然、怒鳴り声が聞こえた。虚な心に浸っていた可奈は、思わず後ろを振り返った。

 遠くに大男たちが数人、こちらを向いて立っていた。距離が離れているせいで、男たちの顔はしかと見えない。だが、それでも可奈のいる方面に向かって怒鳴っていることは分かる。

 男たちはこちらに向かって歩みを進めた。手に何かを持っている。あれは、ハンマー、金槌、バット。

 背筋が凍った。

 どれも十分に殺傷能力を持った代物である。

 不安が恐怖を加速させる。額と脇の下から嫌な汗が大量に吹き出した。

 歯にぐっと力を入れた。そうでもしなければ、歯の根が合わず、かたかた鳴ってしまいそうだった。

 可奈はコンビニに目を走らせた。家族が出てくる気配はない。

 今すぐ家族のもとへ駆けつけたかった。手足が震えるほど怖いし、危険な状況にあることを知らせたかった。だが、可奈の下半身は全く言うことを聞かず、腰は座席シートにくっついたかのように離れない。

 恐怖と焦燥に混乱する五感の中で、比較的正常を保っている視覚が、可奈に迫ってくる男たちの姿をとらえた。

 あっという間に男たちは、可奈が乗っている車を囲んでいた。

 誰かが、トランクの窓を叩き割った。

 あまりの混乱に、こんな近距離でも男たちの顔は判然としない。男に遮られてコンビニの明かりも届かず、視界は真っ暗闇だ。

 恐怖に腹が冷える。

 ひたすら身を縮めていると、一人の男が腕を振り上げた。金槌の先端が、可奈の脳に狙いを定めた。

 どうして、どうして、どうして。

 それしか考えられない。

 どうして、どうして、どうして――?


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