第八十八話 協力者たち【シロ】
ニルス、あんなこと言っちゃって・・・。
アリシアも、なんでちゃんと「違う」って言わないんだろう?
口出し・・・やっぱりしないとダメだよね。
◆
「アリシア、ウォルター、お前たちは守秘について話があるから残れ。ニルスたちは出てもらって構わない」
「はい、ありがとうございました」
ニルスが立ち上がって頭を下げた。
今日はこれからどうするんだろ?
「あ・・・すみません。手続きは・・・」
「・・・そうだったな。今いる場所と全員の名前を・・・これに書いていってくれ。私が済ませておく」
僕たちにまっさらな紙が一枚ずつ配られた。
名前・・・。
「騎士のしきたりがある。本名は明かせん」
おじいちゃんは何も書かずに紙を置いた。
「・・・困りましたね」
「軍団長さん、私とシロは家族の名前がありません」
ステラが僕の頭を撫でた。
・・・そういやそうだな。
「・・・わかりました。三人は王に伝えてからにします。事情がわかれば通るでしょう」
「助かります」
僕は紙に「シロ」ってだけ書いた。
寂しいからシルの絵も描いてあげよう・・・。
「じゃあ、お願いします」
「あた・・・私のもお願いします」
ちゃんと書けたのはニルスとミランダだけだ。
僕はもうちょっとかかる・・・。
「たしかに受け取った。・・・五人で住んでいるのか?」
「そうです。二日前に借りました」
「東区・・・ん?」
軍団長さんの顔が険しくなった。
どうしたのかな?
「この場所・・・首無しの家じゃないのか?」
「・・・そうですね」
「あ?おい大丈夫かよお前ら。憑りつかれてんじゃねーのか・・・」
「あそこは普通の家ですよ。では・・・失礼します」
ニルスは、振り返る前に一瞬だけアリシアを見た。
なにか言ってほしかったのかもしれない。
◆
訓練場の外に出てきた。
とりあえず、これで僕たちは戦士になれたってことだよね。
「ニルス・・・さっきは叩いてごめんね」
ミランダがニルスのほっぺを撫でた。
ああ・・・叩いてたな。
「いや、あれでよかった。ミランダが止めてくれなかったら他にも言ってたかもしれない。それに、オレも怒鳴ってごめん・・・」
他にもか・・・さっきの二人を思い出すとかなり不安だ。
アリシアが来るまではいつも通りだったんだけどな・・・。
「ニルス、これはどうする?」
僕は鞄から雲鹿の手袋を取り出した。
話すきっかけを見ればなにか変わるかもしれない。
「まだ・・・いい」
「・・・わかった。でも、君が持ってて。イナズマの輝石も一緒に渡すんだよ?」
「そうだな・・・」
ニルスは包みを受け取ると、優しく鞄にしまって目を閉じた。
わかってはいるんだろう。
だから、あんまり強くは言えない。
「外出ちゃったけど、鍛錬してくの?」
「いや・・・今日は知り合いに挨拶しに行くよ・・・」
「あたしたちもいい?」
「ごめん、一人で行く」
一人でか・・・。
「でもその人たちは夕方に紹介するよ。・・・中央区に夜の合図って名前の酒場がある。そこに来てもらおうと思うんだ」
「酒場・・・もしかしてルルさんって人の?あたし会いたかったんだけど」
「そうだよ。今書いてあげるから夕方の鐘が鳴る頃に・・・夕食もそこで取ろう」
「わかった」
ルルさんか・・・僕も早く会いたいな。
けど酒場だと今行ってもいないよね。
「じゃあ、あとでね・・・」
ニルスはケープの帽子を深く被って離れていった。
大丈夫かな・・・。
「ステラ様はどうされますか?」
「うーん・・・ニルスが心配だけど今は構わない方がいいわね。お洗濯したいし一度戻る。夕方にまた出ましょう」
「承知しました」
「ミランダとシロは思うようにしてみるのがいいかもね」
ステラたちも行ってしまった。
思うようにか・・・。
「ミランダ、さっきの所に戻らない?」
「おっ、和解派のシロも同じこと考えてたみたいね」
「うん、僕も仲直りしてほしいもん」
「だよね。じゃあ行こっか」
僕とミランダは訓練場の中に戻ることにした。
説明があるって言ってたからまだいるはずだ。
◆
訓練場の奥、さっきの部屋の前まで来てみた。
気配がわかるように隙を見て触っておけばよかったな・・・。
「あ・・・」
扉が開いてアリシアが出てきた。
ちょうどいい、話すしかないよね。
「君たちは・・・ニルスの・・・」
「僕はシロ、二日前におじいちゃんと一緒にいた時に会ったけど憶えてる?」
なにも言ってこなかったけど、短い時間だったし忘れてるかな?
「・・・ああ、ぶつかった子か。あの時は黙っていたんだな・・・」
「ごめんね」
あの時は、おじいちゃんも話すつもりは無かったみたいだからやり過ごした。
別に嘘をついてたわけでもないけど、なんか悪いなっては思う。
「あの・・・あたしミランダ・スプリングって言います。ずっとアリシア様を尊敬していました。会えて嬉しいです」
ミランダは緊張した顔で頭を下げた。
「私は・・・尊敬されるような人間ではないよ・・・」
アリシアは困った顔だ。
こんな感じになってるのは、ニルスに言われたことが原因だよね?
「ねえ、なんでニルスが戦場に出るのを止めたの?」
戻ったのはこれを聞きたかったからだ。
ニルスの思うような答えなのかを確かめたい。
「・・・あの子を戦場に出したことでずいぶん苦しめた。大事な息子に・・・もう嫌な思いはさせたくないんだ・・・」
ほら、やっぱりそうじゃないか。
「なんでそれをニルスに言わないの?」
「言いたかったさ・・・でもあの子を前にするとダメなんだ・・・」
アリシアは苦しそうに目を閉じた。
親子二人だけで解決は無理そうだな・・・。でもこれは僕たちから伝えても意味が無い、お母さんから直接言ってあげないと。
「・・・すまないが、私はこれから鍛錬がある。失礼するよ・・・」
「アリシア様、今夜ニルスはルルさんって人の酒場で夕食を取るって言ってました。あたしたちもいるので、よければ来てください」
「・・・ありがとう」
アリシアは切ない顔で去って行った。
・・・来てくれるかな?
「やっぱそうだよね。あのまま言ってあげればよかったのに・・・」
ミランダも悲しそうだ。
「まだ時間はあるよ。酒場に来てくれるかもしれないし」
「いや・・・来てもらわないとダメでしょ。どうにかなんないかな・・・」
うん、来てほしい。まずは少しずつでも顔を合わせないといけない。
そうすれば、言葉も増えてくるはずだ。
「ん・・・よう、ニルスの仲間たち」
また扉が開いて、さっき案内してくれたおじさんが出てきた。
そういえば娘に会ってほしいって言われたな・・・。
「えっと・・・ウォルターさんだっけ?」
「そうだよお嬢ちゃん。ニルスの女か?」
「あはは・・・ニルスの女はステラだよ」
「え・・・聖女を・・・やるなあいつ。まあ・・・顔はいいからな」
おお、なんか明るくて話しやすそうな人だ。
できれば一緒にいてほしい。
「あいつからここでのことは全部聞いたのか?」
おじさんはにやけ顔を崩さずに言った。
僕たちが普通に話せるように気を遣ってくれてるみたい。
「全部かはわかんないけど、ほとんどは聞いたと思う」
「ふーん・・・なんとなくわかるぞ。どうにかしてやりたい・・・そうだろ?」
「あたしもなんとなくわかるよ。・・・そっちもそうでしょ?」
「ニルスは・・・いい奴だからな。ちょっと話そうぜ」
おじさんは隣の部屋の扉を開けた。
そうだよね、嫌われてるニルスって全然想像できない。
◆
「・・・で、一人で危なそうな隊まで駆けつけて助けたりしてた。なんも食わないで嫌々出てたくせに、誰よりも速かったんだぜ」
おじさんが話してくれた戦士のニルスは、僕たちの知っている旅人ニルスとあんまり変わらなかった。
戦場ではもちろん早く終わらせることを優先していたけど、目に見える危なそうな人たちは助けていたらしい。
だからニルスを知っている人たちは、旅立ってからもずっと気にかけてくれてたみたいだ。
「妹に存在を隠したいって話をされた。・・・あいつとの約束を破った奴はいない。みんなニルスが好きなんだ」
「僕たちもニルスが好きだよ。優しいんだ」
「そうだろ?でもルージュはちょっとかわいそうだ。兄貴がほしいって、前にアリシアに話したらしい」
「ん・・・複雑ね」
あ・・・ルージュへのおみやげ渡すの忘れてた。
・・・まあ、今日会いに行くはずがないし帰ってからでいいか。
「お前らに聞きたいんだけどさ。あいつ・・・笑ってるか?」
「笑い合ってる。心配ないよ」
「・・・そうか、ありがとな。よし、訓練場を案内してやる。あいつの話を聞かせてくれ」
おじさんが立ち上がった。
今みたいなことって、アリシアから出ないとダメなんじゃないかな?
◆
おじさんの案内で、宿舎に食堂、休憩室、そして広い鍛錬場を見させてもらった。
時間が立つほどに戦士の姿が増えて、気合の入った声が響いている。みんな「次は負けられない」って思っているんだろう。
「あ?エディに会ったのかよ・・・」
「うん、いい男って感じ」
「じゃあジーナはきのうの朝からニルスが戻ったことを知ってたのか・・・」
「ニルスの気持ちを汲んだんでしょ」
僕たちは鍛錬上の端に座って話していた。
おじさんとミランダはけっこう気が合うみたい。
「あ・・・そういやお前ら首無しの家住んでんだよな?本当に大丈夫かよ?」
「エディさんからも言われたけど・・・まあ今のとこなんにもないかな」
「大丈夫だよ、僕が全部確認した。あそこはただの大きな家だね」
「精霊が言うなら間違いないのか・・・噂だけだったのかな」
本当はいたけど、別に言わなくていいよね。
「まあいい・・・そういやお前らは千人に選ばれたわけだよな?戦場までの間は金が入るぞ」
「あ・・・たしかに。シロのお小遣いどころじゃない額貰えるね」
「なに買ってもいいの?」
「無駄遣いはダメよ」
じゃあ・・・ニルスが喜ぶようなおいしいお菓子をいっぱい買おう。
「けっこう増えてきたけど、やっぱ戦士って恐そう・・・。みんな殺気立った顔してる」
ミランダが打ち合ってる人たちを見つめた。
「・・・きのうの敗北のせいだ。戦士が大勢死んで、次はその弔い・・・気合も入る」
認めたくはないけど、ジナスの言った通りか・・・。
たぶん次はそれを見越して人形を作るはず。
◆
おじさんと話していると、時の鐘が鳴った。
十・・・お昼はまだだな。
「ウォルター、風神が戻ってきたって本当か?」「今どこにいるんですか?」「風神が次の戦場に出るって聞いたぞ」
おじさんに話しかけに来る人がどんどん増えている。
ニルスのことを聞かれてるのかな?
「まただ・・・ねえ、風神ってもしかしてニルスのこと?」
「そうだ。アリシアが雷神ならニルスは風神。疾風のように戦場を走り、吹き抜けた後は敵が消えている。豪快なアリシアと違って静かだったんだよ」
「あたしその話聞いたことない。あだ名は隠してたのかな?」
「いや、ルージュにバレないようにだな。あいつのことを話す時は、みんなそう呼んでる」
なるほど風神か・・・ニルスに合ってる。
「ルージュ・・・。おじさん、あたしちょっとまずいことしたかも・・・」
ミランダが不安そうな顔になった。
なんかしたっけ?
「どうした?」
「今日の夜はルルさんって人の酒場でって決まったんだけど、アリシア様もさっき誘ったの。来るってなったら、妹のルージュも連れてきちゃうよね?」
あ・・・それはまずい。ニルスは、まずアリシアのことを解決してからって考えてそうだから、今ルージュに会うことはしたくないはずだ。
「まだ五歳だ、一人にはできないな。そして今日はそのルルちゃんに預けてる」
「どうしよー・・・。あたしのせいでめちゃくちゃになるかも」
ミランダは頭を抱えてしまった。
たしかに困ったな。
「そんなに心配ねーよ。ルージュは今日うちに泊まってもらえばいい。うちの娘と仲がいいから喜ぶはずだ」
「え、いいの?」
「そのかわり・・・俺も酒場に行く」
「ウォルターさんも誘おうとは思ってたんだけどね。繋げる人は多い方がいいもん」
ミランダはおじさんの腕を軽く叩いた。
これで問題は無いな。
「そうと決まったら・・・おいアリシア!!ニルスが来るからお前も酒場来いよ!!」
おじさんが走っていたアリシアに大声で呼びかけた。
「すご・・・かなり通る声だね」
「雷神はもっと出るよ。バートンってのはそれ以上」
戦場は広いから、みんな大声出すのは慣れてるんだろうな。
◆
「ウォルターさん!私はまだ行くとは・・・」
アリシアはすごい速さで走ってきた。
さっきの暗い感じは薄れている。
体を動かして少し落ち着いたらしい。
「じゃあ俺に付き合え。早めに出て、エイミィに事情を話してルージュを預けてこい」
「・・・それであれば」
返事をしたアリシアはちょっとだけ嬉しそうだった。
なにか理由が欲しかったのか・・・。
「ちょっとウォルターさーん、今ニルスって・・・」
「あいついるんですか?」
アリシアの後ろから女の人と男の人が少し遅れて走ってきた。
ああ、憶えがある。戦場でニルスと一緒に戦ってた二人だ。
「なんだアリシア、話してないのか?」
「あとで話そうと・・・」
「あれ・・・この子たちは?」
「ニルスの仲間だ。仲良くしてやってくれよ」
おじさんは僕たちの背中を叩いた。
・・・簡単な紹介だな。
「ニルス君の・・・」
「アリシア様、ちょっと休憩しましょう」
「・・・そうだな」
三人は少しだけ僕たちに付き合ってくれるみたいだ。
◆
「私はティララ、こっちはスコット、アリシア隊なの。前はニルス君もいてね・・・」
「戦場の時も一緒にいたのか?」
スコットさんとティララさんは、僕たちに色々話してくれている。
「シロ君は本当に十二歳?」
「嘘つくと大変なことになるぞ」
僕の見た目のことはやっぱり言われた。
早く正体を明かせればいいんだけど・・・。
「あ、そういえばティララさんとスコットさんはスナフ出身ですよね?」
「そうだよ」
「おじいちゃん・・・ヴィクターも来てますよ」
「え・・・」「は?」
ミランダがおじいちゃんの名前を出すと二人の顔が引きつった。
今言ってよかったのかな?
「聖女を連れてきたんです。騎士だから付いてくるに決まってるじゃないですか」
「ミランダ!!まだ教えるなって言われたろ!!」
おじさんが焦ってミランダを注意した。
たしかに言われたな・・・。僕は黙ってよ・・・。
「え・・・あ・・・」
「嘘だろ・・・なんで・・・」
「まだ言えない・・・が、騎士と顔を合わせればお前らは気付いちまうか・・・」
「あはは・・・じゃあ、まあそういう感じで・・・」
この二人だからよかった。
他に知られてたら、僕たちはかなり叱られてたかも・・・。
「お前も残って詳しい守秘の話を聞いとくべきだったな・・・」
「もう言っちゃったのは仕方ないじゃん」
「反省しろ・・・。べモンド怒らすとやばいからな?」
「・・・はい」
軍団長さんは恐い人なのか。
そうは見えなかったけどな。
「なあシロ、まさか・・・師匠がニルスを認めたのか?」
スコットさんがそっと僕の耳に近付いてきた。
ふふん、そりゃ気になるよね。
「うん、おじいちゃんに勝ったよ」
「そこまで腕を上げてたんだ・・・」
「うん、ニルスは強いよ」
僕は自分のことのように胸を張った。
ニルスが褒められてるとなんだか誇らしい。
「・・・二人とも、休憩は終わりだ。・・・そろそろ戻るぞ」
アリシアが立ち上がった。
僕とミランダをじっと見ているだけで、話に入ってこなかったな・・・。
「じゃあアリシア様、私たちも酒場に行きますね」
「な・・・なぜだ」
「アリシア様だけじゃうまく話せないでしょ?俺たちがそばにいた方が気持ちを保てるんじゃないですか?」
「・・・」
アリシアは恥ずかしそうに頷いた。
「はい、じゃあ再開しましょう」
「夕方が楽しみですね」
「私は早めに抜ける。ルージュをエイミィさんに預けなければならない・・・」
三人は穏やかな顔でまた走りに出た。
心強いな、こんなに協力してくれる人たちがいるんだ・・・あれ?
「ねえおじさん、みんなニルスのこと好きなんだよね?」
「そうだな」
「じゃあ、なんで二年前は動かなかったの?」
「あ・・・そうよそうよ。周りに大人いっぱいいたでしょ」
普通に考えればおかしいことだ。
「・・・なにもすんなってニルスに言われてたんだよ」
「そんなん守ることないじゃん。だからこうなってんのに・・・」
「そうだよ。好きなら何とかしてあげないと」
「・・・」
おじさんは空を見上げた。
「・・・そうした方がいいってのはみんなわかってた。でも、なんていうのかな・・・裏で動くこと、あいつを裏切るような気がしたんだ。それを知られたら保てなくなる・・・そんな状態だったんだよ」
「そうは言ってもさ・・・」
「あいつはアリシアを待ってた。・・・俺たちがどうこう言ってから動かれても嬉しくないんだよ。誰かに言われたから・・・そういう感じにはしたくなかったんだ」
「なるほどね・・・」
じゃあ僕の考えと同じか。
やっぱりアリシアが動かないとダメなんだ。
「けどさ・・・やっぱ無理があったんだよ。アリシアは不器用だからな」
「ニルスもだよ。ここに来る前に話したんだけど、自分一人で解決するって感じだったもん」
「あいつらは似てんのさ」
だから二人だけじゃ仲直りはできない。
「でもあたしは裏で動くけどね。裏切るとかじゃない、好きだからそうする」
「・・・できそうなのか?」
「あたしに任せときなよ。全部うまくいくからさ」
「あはは、言うじゃねーかよ。・・・なんかあったら言え、あいつを知ってる奴は全員協力してくれる。今夜紹介するよ」
そう、これがいい。ミランダの言う通り、好きだから・・・。
◆
「さて、せっかく来たんだし、汗流してこうぜ。二人は何ができるんだ?」
おじさんが槍を取り出した。
僕は汗かかないんだけどな・・・。
「あたしは守護の結界、守るだけだよ」
「僕はなんでもできるよ。ニルスは僕の人形相手に修業してた。おじいちゃんが仲間になってからは二人でやってたけどね」
「うーん・・・シロのはみんなに伝えるまで待った方がいいな」
ああ、たしかにそうかも。僕が精霊だってこともまだ秘密だった。
「夕方まで付き合ってやる。守護がどのくらいか見せろ」
「じゃあ・・・ウォルターさんの攻撃に耐えられたら、あたしたち五人の酒代奢ってよ」
「おもしれーじゃん。そうだな・・・昼まで耐えられたら出してやる」
「・・・あたしの勝ちだね」
ミランダはニルスの攻撃にも耐えられるくらいになっている。つまり、今日の夕食はタダになるってことだね。
まあ、僕はなにもできないし見てよ。
◆
「かてー・・・全然疲れてねーのか?」
「退屈なんだけど」
「てめー・・・」
「もっとガンガン突いてきていいよー」
僕は楽しそうな二人をずっと見ていた。
でも・・・退屈だな。
「あ・・・」
辺りを見渡すと、軍団長さんが出てきたのが見えた。
お城に向かうのかな?・・・ちょっと追いかけてみよ。
◆
「ねえねえ、王様の所に行くの?」
僕は軍団長さんの大きな背中に声をかけた。
この人もニルスに「協力する」って言ってくれたから仲良くなりたい。
「シロ殿・・・。そう、王の所にな・・・」
「疲れてるの?じゃあ・・・僕のお菓子あげる」
「・・・ありがとう。ニルスのこと・・・感謝しているよ」
軍団長さんは膝を付いて、僕の高さに合わせてくれた。
なんだか、たくさんの思いが混ざっているような気がする。
「お礼を言うのは僕たちだよ。信じてくれてありがとう」
「私は・・・ニルスが望むことはなんでもするつもりだ」
「軍団長さんもニルスが好きなんだね」
「・・・そうだな」
なんか暗い・・・元気になってもらいたいな。
「あのね、ニルスは軍団長さんのことを大切な人だって思ってるみたいだよ」
だから教えてあげよう。
「・・・あいつは男が好きなのか?」
「へ・・・そういうんじゃないよ。僕ね、初めてニルスと会った日に聞いたんだ。大切な人っていっぱいいるの?って」
あの夜のことはよく憶えている・・・。
「ニルスは大切に思っている人たちの名前を教えてくれた。軍団長さんの名前も言ってたよ」
「・・・」
「その人たちが悲しんでたら戦うっても」
「私も・・・そうだ・・・」
軍団長さんは少しだけ声を震わせた。
ニルスとなにかあったのかな?
「・・・すまないが失礼する。王に早く話したいんだ」
遠ざかっていく大きな背中は、泣いているようにも見えた。




