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Our Story  作者: NeRix
水の章 第三部
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第八十六話 秘密【ステラ】

 あれ・・・もう朝か。予想していたよりも眠ってしまったみたいだ。

シロもいたけど、全部の部屋と外壁、浴室に廊下に窓、屋根まで綺麗にしたからかな・・・。

 まあ楽しかったからいいか。

ニルスもミランダも喜んでくれたし、なにより家は清潔な方がいいもんね。



 「あ・・・ステラ、おはよう」

シロがベッドの横に立っていた。

起こしにきてくれたのかな? 


 「おはようシロ。あれ・・・ニルスがいない」

隣にいたあなたが消えていた。

 「ミランダと市場に行ったよ」

「・・・そうなんだ」

いいな・・・私も一緒に行きたかった。

もっと早くに寝ておけばよかったな。


 「シロが行かないのは珍しいわね。あ・・・さては私を襲おうとでもしたのかしら?」

「違う、少し気になっただけ・・・」

シロは真面目な顔で返してきた。

・・・なるほどね。

 「気になったのは・・・私の身体?」

「そう・・・人間と同じ作りなのに、力を僕らと同じように使えるから・・・」

もう視られたあとって感じだ。

気にしなくていいことだったんだけどな。


 「君は基本的には眠らないって言ってたけど・・・」

「疲れると別よ。きのうは家中のお掃除をしたんですもの。ミランダだってぐっすりだったんじゃない?」

このやり取りは、偽りを暴けるシロ相手には意味が無い。でも、これで誤魔化せたらって思ってしまう。

 「うん、気持ちよさそうに眠ってたよ。それと・・・君が寝ちゃってたからニルスの様子は僕が見てた」

「あ・・・きのうの夜はどうだったの?」

「心配しないで、珍しくうなされてなかった。久しぶりに静かに寝てたんだ」

「よかった・・・」

ああ・・・これも考えなきゃいけなかったな。

 たしかにきのうは機嫌が良かった。理由は今日聞こうと思って寝ちゃったんだ・・・。


 「・・・ステラ、君の体は全部視た。だから、戦場に出ても何もしない方がいい」

シロの声が低くなった。

 あ・・・やっぱり誤魔化せてなかったか。

・・・ちょっと隙を見せすぎたのが原因かな。

 「・・・どうして調べようと思ったの?」

「さっきの続き・・・初めて会った日の夜、基本眠らなくていいって君は言ったでしょ?・・・その時から気になってた」

見た目で油断してたわね。

 余計なことを言った・・・・。他には言ってなかったかな?思い出せない・・・。


 「眠っている時に勝手に視てほしくはなかったわ」

「ごめん・・・実は精霊の城に連れて行ってもらった日も視たんだ」

「・・・すでに知っていたのね」

「うん、だけどもう一度確かめたかったんだ」

シロは大人びた顔で私を見ている。

知られてしまったんなら、この子に隠す必要はもう無いか。


 「あなたが視た通りの身体よ。ちなみに、必要であれば戦場での手助けもする」

「でも!!」

「ニルスとミランダの負担を減らしたいの・・・」

「じゃあ、せめてニルスたちには・・・」

今この部屋には私とシロだけ、ニルスたちは買い物からまだ帰ってこない。

 あの二人に話してほしいっては思っているけど、私の意思も尊重したいってことだろうな。


 「お願いシロ、このことはニルスたちには言わないでほしいの」

「僕は・・・話した方がいいと思う」

「ダメ、私に気を遣ってほしくない」

戦いに集中しないといけない時に「ステラは・・・」なんて考えてほしくない。できれば、シロにも知ってほしくはなかった。

 

 「おじいちゃんも知ってるんだよね?」

「ええ、ヴィクターはすべて知っているわ」

「君の考えは尊重する。でもニルスやミランダが悲しむことになるかもしれない・・・だから、できれば戦場ではジナスの所への転移だけにしてほしい」

この提案は、私の未来を気遣ってくれているものだってことはわかる。

でもそれは状況次第、なにが起こるかわからないから約束はできないことだ。


 「わかった・・・とは言えない。でも、シロの思いは受け取っておくわ。考えておきます」

「・・・」

「大丈夫よ。私も二人を悲しませたいっては思っていない。もちろんあなたもよ」

これは偽りじゃない。だからシロもわかってくれたはずだ。


 「そして、黙っててごめんね。全部うまくいけば、話す必要のないことだから教えなかった。・・・ちょっとずるかったと思う。そして、そうしてしまったから話しづらくなっちゃったんだ」

「ステラ・・・。もし二人に話す時が来たら僕も一緒にいることにする。だから恐がらなくていいからね」

「ありがとう。覚えておくわ」

「ごめんね・・・勝手に視たのは悪いと思ってる」

シロは途端にしょげた顔になった。

・・・もう男の子に戻っちゃったのか。


 「でも人間とほとんど一緒だったでしょ?」

「うん、不思議な身体・・・そして、消失の結界が君の体内にあった」

「ああ・・・」

そっちもシロには隠せないか・・・。

 「この結界は女神が施した。大事な時に煩わしいことが無いように」

「病気とか排泄とか、戦う時に不便な機能はそうしたみたいだね。でもそのせいで生殖もできない。繋がることはできるだろうけど・・・」

「そう、それもニルスには黙っていてほしい・・・離れてほしくないの」

知られたくない・・・もし知られたら私を愛してくれなくなるかもしれない。


 「ニルスはそんな人じゃないよ。心配し過ぎ」

「ええ、知ってるわ。ニルスはとても優しい・・・だからアリシアにも自分の気持ちを言えなかった。そしてあなたたちに不安を伝えるのも躊躇いがあったでしょ?・・・それは私にだってありえる」

「ステラ・・・」

「私にも恐いものがあるの。わかってねシロ」

これから半年、ニルスはどんな私でも受け入れてくれる・・・そう思えれば話そう。

 でも、もし拒絶されたら・・・どうしようかな。

優しさにつけこんで、泣きながら「一緒にいて」って言っちゃうかも・・・。

 

 「アリシアは与えられたのに、ステラにできないのはかわいそうだね」

「そうね・・・私、アリシアのことを良く思えないの。たぶんそのことで嫉妬も・・・あるのかな・・・」

私が持てない子ども、それを二人も授かっている。

ニルスへの仕打ちが許せないっていうのもあるけど、我が子に愛を渡せないあなたは好きにはなれなそうだ。

 私はすべて欲しいなんて思ってはいない。子どもは無理でも、せめて愛する人くらいは許してほしい・・・。


 「ケンカ・・・しないでね」

「仕方がないのは知ってるわ。アリシアは赤ん坊で作ったみたいだし、女神にはもう力が無かった。そういうことでしょ?」

「そうだけど・・・」

「大丈夫、意味なく突っかかったりはしないよ」

意味なくはね。・・・ニルスを苦しめているなら話は別だ。


 「でも、私に戦ってほしくないなら、戦場はシロが何とかすることもできるんじゃない?」

熱くなってきたから話を戻した。

ジナスの前の戦いはどうするのか・・・。

 「あなたの力なら千の人形くらいすぐ終わるでしょ?」

精霊ならそれくらいできる。

戦士たちに早い所伝えれば、もう鍛錬の必要も無いから遊んでいてもらえばいい。

 「あ・・・ごめん、これは話してなかったね。結界の中で力が使えることはギリギリまで知られたくないんだ。・・・ニルスもそう思ってる」

シロは拳を握った。

 「待って、ジナスの気配を追うのは結界の中でになるはずよ。行く前に知られてしまうわ」

「大丈夫、あいつは戦いが終わればすぐに結界を解く・・・だから知られることはない」

ふーん、それなら問題ないか。絶対ではないだろうけど、ほぼそうしているってことかな。

 まあ、バレてもすぐに攻め込む。シロが気配を探って転移・・・までは予想してないだろうから奇襲はできるよね。

一番いいのは知られないことだけど、そうなったらなったでやるしかない。

 

 「とにかく、ステラは転移だけでいい・・・約束して」

「戦士たちが私の力を必要としないくらい強ければそうするつもりよ」

心配してくれるのは嬉しいけど、ニルスたちが戦うのに自分は何もしないなんて絶対にいやだ。

代償は受けるけどそんなに多くは無い・・・はず。



 「どうやって食べるの?」

「焼くか煮るかだな」

「あたしは焼いて。野菜と一緒にパンに挟んでかぶりつきたい」

「それいいな。じゃあ味付けして、小麦粉をまぶして焼こう」

ニルスとミランダの声が聞こえてきた。

二人きりのお買い物は楽しかったみたい。


 ミランダ・・・もし私が現れなければ、ニルスはその内あなたを女性として見るようになったと思う。

ニルスが欲している母性と愛・・・体つきも魅力的だしね。けっこうギリギリだったみたいよ。

 でも、ミランダだったらいいかなっても思っちゃう。もし・・・ニルスと愛し合う夜があったとして、ミランダが「まぜて」って言ってきたら受け入れちゃう気がするのよね・・・。

勝てない部分がけっこうあるからなのかな・・・。


 「食べたら何する?」

「オレは庭の雑草を手伝うよ。ミランダは瞑想だね、守護の強度を少しでも上げてほしい」

「わかった。朝のあんたと同じくらいガチガチにするよ」

「変なコト言うな・・・ステラ、起きてる?」

ニルスが扉を叩いた。

ああ、早く顔が見たい。


 「起きてるよ」

「おはよー」

「おはよう、魚を買ってきたんだ」

二人が入ってきた。

 こういうのいいな・・・。

目を覚まして大切な人たちがいる。もう前の暮らしには戻れなそうだ。


 「けっこう寝てたよね。きのうの夜はニルスといいコトしてたんでしょ?」

「なにも無いって言ってるだろ」

「あはは、一緒に寝てただけだよ」

戦いに来たっていうのに、こんなに緩くていいのかな?・・・私はこういう方がいいけど。



 「では、そろそろ買い物に出るかのう。シロ殿、支度はできているか?」

朝食が済むとヴィクターが上着を羽織った。

 「うん、いつでも行けるよ」

ヴィクターとシロは、庭の手入れに必要なものを買ってくるらしい。

私はお洗濯をしよう。


 「ねえシロ、よく考えたらさ。あんたメピルと一緒でなんでも作れんでしょ?道具なんか買ってこなくていいんじゃないの?」

「あ・・・たしかにそうだな。それだったら家具も全部作ってほしい」

ミランダとニルスがシロを止めた。

 「そうよね。ベッドも綺麗にはなったけど、やっぱり新しいのがいいし」

「門も直してほしいな。どこかに頼まなくてよくなる」

二人はゆっくりとシロに近付いた。

たぶん、やらないと思うけど。


 「水みたいに緊急なら仕方ないけど、そうじゃないのはできればしたくない」

「なんで?便利じゃん」

「ベッドを作ったり、門を直して生活してる人もいるでしょ?人間でなんとかなることはできるだけ手を貸したくないの」

シロははっきりと断った。

前にも言ってたし、それでいいと思う。


 「掃除はやってくれたじゃん。それで生活してる人もいるよ」

「う・・・と、とにかく、僕は人間の仕事をなるべく奪いたくないの」

「わかったよシロ、たしかに言う通りだ。道具なんかも作る人がいる」

「まあ・・・あたしも無理にとは言わないよ。ちょっと残念だけど」

二人はそこまで詰めることは無かった。

 シロは思ってることをちゃんと言ってくれたから、その気持ちを尊重する方が大事なんだろう。

 

 だから・・・私は二人とも好きなんだ。



 「あ・・・ねえねえ、シロってこんな見た目だけど訓練場に入れてもらえるの?」

夕食が済んでひと息つくと、ミランダがシロを抱き上げた。

 えっと・・・たしか訓練場に入れるのは十二歳からだったはずよね。シロは・・・ちょっと幼い。


 「え・・・入れてもらえないの?それなら勝手に入るしかないな」

「壁を抜けるの?」

「うん、それか空から入ってもいいし」

「たぶん大丈夫だと思うよ。赤ん坊のオレが入れてたらしいし、ルージュも連れていってた」

それはまた別な気もするけど・・・。まあ、最悪正体を明かせば問題ないか。


 「軍団長さんはすぐに信じてくれるかしら?」

「話は聞いてくれるはずだ。・・・テーゼを出る時に挨拶に行ったら、なにか困ったことがあったら力になってくれるって」

そっか、みんなニルスが好きなんだろうな。

 本当は私が王のところに行って話せば済むけど、ニルスがやりたいようにさせてあげよう。


◆ 


 「はあー、鍋もいいけど普通のお風呂もいいわねー」

ミランダが湯気を纏いながら戻ってきた。

・・・もうなにもかも隠さないらしい。


 「ほーらおじいちゃん見ていいのよー」

「もう見とるよ。そこまで晒すなら一緒に風呂に入ってくれ」

「・・・それはちょっと抵抗あるから無理。でも、洗ってはあげる」

「では、頼もうかの」

一緒に浴室までは行くのよね・・・。

入るのとそんなに変わらない気がする。


 「ねえニルス、夜だったら飛んでもいいかな?」

シロがお絵描きの手を止めた。

かわいいのを買ってきたわね。

 「まあ、暗いなら大丈夫だと思うよ」

「じゃあみんなが寝たらお出かけしてくるね」

精霊の王様は遊び好きだ。女神に似たってことかな。



 「待って・・・夜は飛んでもバレないから街を見てきたいの・・・」

「今日この家の話を聞いたの。あたしが安心するまで夜は離さないからね」

ミランダがシロを強引に連れていった。

お出かけはまた今度になりそうね。



 夜が深くなる前、私とニルスもベッドに入った。

二階の一番奥、前の住人が夫婦の寝室として使っていただろう部屋だ。


 「ニルス、そろそろ眠りなさい」

「そうするよ・・・おやすみステラ」

今ニルスは私の胸の中にいる。

ひとりじめ・・・とてもいい時間だ。


 「ねえニルス、まだ起きてる?」

「・・・どうしたの?」

「・・・なんでもない。おやすみニルス、愛してるわ」

「ステラ、愛しているよ・・・」

ニルスが唇をくれた。

 なんて幸せな夜なんだろう。あなたがアリシアに何を言われても私が守ってあげるからね・・・。


 

 「さあ、行こうか」

夜が明けて、朝の鐘が鳴る前にみんなで外に出た。

今日から私たちも戦士になる。


 「いい天気だ・・・しばらく晴れの日が続くな」

ニルスが空を見上げて微笑んだ。

 昨晩もうなされなかった。私が一緒だったからかな?そうだと嬉しい。

違ったら嫌だからこれは聞かないでおこう。


 「ステラ、戦いが終われば女神様と話せる。僕から君の結界を解けないか頼んでみるよ」

シロがこっそり私の耳元で囁いた。

考えてくれてたんだ・・・。

 「シロ・・・期待しないで待ってるわ」

どうなるかは・・・戦いの行方によるけどね。


 「ねえニルス、僕もケープを買った方がいい?」

「え・・・シロは大丈夫だよ。とりあえずはオレとステラだけ髪の毛を隠せればいい」

アリシアとまったく同じ色らしいからね。

 ニルスの場合は妹のこともあるから隠さないわけにはいかない。

こんなの被らないで過ごせる日々が早く来るといいな。



 「ウォルターさん、しばらくぶりです」

訓練場に着くと早速戦士の一人に出くわした。


 「え・・・ニルス・・・」

大きくて強そうな人だけど、ニルスの姿を見て固まってる。

この人にとっては、それくらいの衝撃なんだな。


 「・・・なんでお前がここにいる?・・・アリシアには会ったのか?」

「あと一度だけ・・・戦士に戻るためです。アリシアは・・・ここにいれば会えるでしょう」

「戦士に・・・そういえば半年前もいつの間にかいやがったな」

「それは知りません。別人だと思います」

ニルスの声が優しい、ずいぶん親しい人みたいだ。


 「・・・そいつらは?」

「この四人も戦士になるために来ました。・・・べモンドさんに会わせてください」

「お前なら問題ないと思うけど・・・爺さんに、戦う姿が想像できない女二人、それにまだ子ども・・・本気かよ」

変に思われるのは仕方ないわね。私たちが口を出しても信用は無いし、ニルスに任せよう。


 「本気です。オレたちは次で戦場を終わらせるために来ました」

「・・・普通はそんなバカな話に付き合ったりはしない。・・・けど、お前ならべモンドも聞いてくれるはずだ。・・・昔何もできなかった罪滅ぼしもある。全員案内してやるよ」

「あの・・・オレは誰も恨んでいませんよ。でも、ありがとうございます」

「いいから行くぞ」

詳しく事情を聞かずに通してくれるんだ・・・。

ニルスはみんなに好かれているみたいね。


 話せるなら説明は私からも必要だろう。

軍団長か、きっとその人もニルスを見たら驚くんだろうな・・・。

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