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Our Story  作者: NeRix
水の章 第二部
80/481

第七十六話 ステラ【シロ】

 あとはテーゼに行って、戦士になって・・・殖の月の戦場へ。


 今回は準備を整えた。

輝石、精霊鉱、聖女、ニルス、ミランダ・・・僕の勇気。

女神様、きっと助け出します。



 来てすぐだけど、明日にはスナフを発つ。

聖女とその騎士、新しい仲間も連れて・・・。


 「ステラ、この屋敷に張ってある結界はどういうものなの?これ輝石って言って、結界とか呪いを防ぐものだって聞いたんだけど・・・」

なんとなく気になったことを聞いた。

 屋敷に入ってすぐに力が使えなくなって、おかげで尻もちをついちゃったからな。


 「それが輝石なんだ・・・」

「ジナスの結界を気にしなくてよくなるはずなんだけど・・・」

「女神の結界は防げないようになっているんだと思う。万が一、ジナスにそれを奪われたら困るでしょ?」

なるほど、それなら納得だ。

・・・聖女誘拐大作戦は結局無理だったな。


 「ジナスは、本当にここには入ってこれない?」

「無理よ。この屋敷で力が使えるのは、私と女神だけ。だからなにも心配しなくていいわ」

「・・・ジナス、ここに来たことあるよね?」

「ええ、一度だけ来た。破れないのは知ってたから強気で煽ってあげたの」

ステラはニコニコしている。

煽ったのか・・・だけどその後放っておいてるなら、なにも手立ては無いってことだな。

 誰かを人質にして引きずり出すとかもしなかったっぽいし、放っておいても害は無いって甘く考えていたんだろう。


 「ああそれと・・・私が転移を使えることと、ここに連れてくる作戦は看破されているわね」

「え!」

「は?」

「どうすんのよ・・・」

僕たち三人は顔を見合わせた。

軽く言われたけど、けっこうまずいぞ・・・。

 「あら・・・予想してなかったの?この場所と私・・・察するのは容易だと思う」

考えてみればそうかもしれない。なにかあるって思わないわけがない・・・。

 それでも放っておいたんだから、後手に回っても対処できる自信があるんだ。

たしかにそうだけど、その甘さがあいつの敗因になる・・・はず。


 「いや・・・まあ、時間はある。考えよう」

ニルスはすぐに立ち直った。

それしかないよね。

 「とりあえず、ヴィクターさんが来てからにしようか」

「そうね、騎士にも知恵を貰おっか」

たしかにおじいちゃんは頼りになりそうだ。

それまでは、お喋りして・・・。


 「待たせたかな?」

ちょうどよくおじいちゃんが入ってきた。

 「ちょっとちょっと一大事よ。早く座って」

「若者はせっかちじゃな・・・」

戦ってない時は普通のおじいちゃんだな。


 「どうしたんじゃ?まさか・・・胸が張って苦しいのか?」

「あのさ・・・」

「触っていいならほぐしてやろう」

「場の雰囲気くらい読みなよ・・・」

普通・・・なのかな?

 まあ気にしなくていいか。それよりもみんな揃ったから真面目な話をしなければ。


 「まずは、僕たちで用意していた計画をステラとおじいちゃんにも教える。ただ、ちょっと問題があるかもしれないことがわかった。だから・・・」

「あ、待って。ねえ、この部屋に入る前に聞こえちゃったんだけど、アリシアって誰?」

ステラがニルスを見つめた。

出逢って間もないけど、かなり気に入ってるみたいだ。


 「ニルス、教えてあげて」

僕もニルスを見つめた。

あとでもよかったけど、繋がる話ではある。

 「アリシアは・・・ミランダ、お願い」

「は?自分で話せばいいのに・・・アリシア様はニルスのお母さんなの。ステラと同じで、女神様に作られた聖女って聞いたよ」

「え・・・なにそれ・・・」

ステラが目を細めた。

 少し焦った女神様が蒔いた最後の種、だいたい三十年前だから知らなくて当然か・・・。



 「・・・私と違う所はあるけど妹ってことなのかな?雷神の隠し子って呼ばれている女性がいるっていうのは聞いてたけど・・・」

「どう考えるかはステラの自由だと思うよ」

ミランダが知っている限りを説明してくれた。

 ・・・言われてみれば姉妹みたいなものだな。違いは目的を知っていることと、今の姿で作られたってとこくらい?


 「・・・ニルス殿を鍛えたのは雷神じゃったか。武勇はここまで届いている。スコットとティララを知っておるか?新聞でもたまに名前を見かける・・・雷神の隊にいるんじゃろ?」

「はい、とてもお世話になりました。オレも共に戦ったことがあります」

「そうか・・・テーゼに着いたら様子を見に行ってやるかの」

戦場でニルスに付いていた二人のことかな?

 たしか・・・すごい息が合ってたな。ニルスに付いていけるくらい実力のある人たち・・・。


 「あとね、ニルスにはルージュっていう・・・」

「ミランダ、テーゼの話は着いてからでいいだろ?オレはこれからのことを話したい」

ニルスは少しだけ困った顔をしていた。

たぶん、この二人に自分の弱い所を知られるのはまだ抵抗があるんだろう。


 「あ、でもどうやって移動するのか気になるわ。歩いて行くの?」

ステラは呑気な顔で聞いていた。

ニルスの気持ちが暗くなりそうだから、こっちに合わせよう。

 「移動は僕の作った馬車だよ。ニルス、どのくらいかかるかな?」

「寄り道して遅くなっても、風の月の終わりくらいには着くよ」

ええと・・・風の月の次が凪の月だったっけ?


 「戦場に出ると言っておったが、次の凪の月の話になるのか?」

おじいちゃんはいつの間にか鋭い目になっていた。

戦ってる時の雰囲気だ。

 「いえ、出るのは来年の殖の月です。それまでは鍛えたい」

「なるほど、その方がいいかもしれんのう。この話は大地奪還軍だけではなく、大陸全体の問題じゃ。三百年以上続いた戦場が終わるかもしれん・・・王も交えた話にしなければならん」

「王に・・・たしかにそうですね」

ああそうか、女神様を助けて終わりってわけじゃない。人間の方は色々あるだろうから時間は少しでも多い方がいいんだ。

 僕たちは勝手に殖の月って決めてたけど、それでよかったのかもしれないな。


 「なら王には私も話すわ」

ステラが胸を張った。

 「あ・・・そういや初代王を導いたんだっけ?」

「私は魔法と知恵を授けただけよ。大陸を統一できたのは、彼が揺るがない意志を持っていたからかな」

「アカデミーでは、二人で手を取り合ってみたいに教わったけど・・・」

「え・・・私はずっとここにいたからそんな感じではなかったわね」

人間の王様か・・・僕も会った方がいいのかな?


 「そうなんだ・・・。あたし子どもの頃さ、聖女は騎士と王様二人の恋人だったって思ってた」

「あはは、全然違うよ」

「今は王家と交流とかないの?」

「少しだけあるわ。王が変わる時に秘密で私にお目通りをしにくるの。騎士の生活の支援もしてくれてる。あ・・・これは絶対内緒よ。本当に一部の人しか知らないんだから」

ステラは指で唇を押さえた。

人間の王だけは騎士に認められる必要は無いのか。


 「ステラに秘密は話さない方がよさそうね・・・」

「そんなことないわ。あなたたちは大丈夫だと思ったから話したの」

「ほんとにー?」

「信じてミランダ・・・」

ステラがミランダの手を握った。

誤魔化すためだ・・・だから少しだけ怪しい。



 「・・・戦場の終わりにジナスの気配を探って捕まえる」

「それで、私が転移を使って洗い場に送ればいいのね?」

「・・・不意打ちか、たしかにニルス殿の言う通りじゃ。ギリギリまで鍛えて可能性を上げた方がいい」

二人に計画を話した。

ただ・・・ステラをどうするか・・・。

 

 「行くのは誰になるんじゃ?」

「あたしとニルスとシロは必ず行く。輝石はこれで三つ、あと一人は・・・ステラの予定だったんだけど・・・」

「ニルス殿、どうする気じゃ?」

「・・・」

ニルスは俯いた。

四人目をどうするか、これは真剣に考えなければならない。


 「私も行くと・・・たぶんどこかに逃げるわね。何度も追わないといけなくなるわ」

「追いかけ続けるのはどうなの?」

「その間にどこかの街が消されるかもしれない。脅されたけど、本当にやると思う。まあ・・・戦場に出るのは許してくれるって言ってたけど・・・」

「消えるくらいならやると思う。そうなると僕たちは何もできなくなっちゃう・・・」

ステラを連れていければ、弱らせなくても隙を見て転移でここに飛ばせるんだけどな・・・。


 「そうなると・・・オーゼを連れてくしかないよね。弱らせるんじゃなくてその場で倒す・・・ていうかシロの精霊封印もあるし、弱ってんならとどめ刺しちゃえばいいんだよ」

「それであれば・・・精霊鉱を扱える雷神が最適じゃと思うぞ」

「あ・・・そういやそうだけど・・・」

ミランダはニルスに目を向けた。

 「それに、女神様も勝算があって生み出したのではないのか?」

「たしかに・・・その予定だったらしいけど・・・」

「ニルス殿から話せば協力してくれるじゃろ」

「それがいいかもしれないわね」

ニルスはどう思っているだろう・・・。


 「・・・まだ時間はある。・・・オレの力量次第では、四人目は必要ない」

ニルスは胎動の剣を握った。

 「・・・」「・・・」「・・・」

部屋が凍り付いたように静まり返った。

 誰も口を出せない。それくらい鋭く冷たい殺気と共に生まれた言葉だったからだ。



 「たしかにまだ時間はある・・・シロ殿、できれば馬車に荷物を積んでおきたいんじゃが」

誰よりも早く氷を溶かしたのはおじいちゃんだった。

 さすが騎士だ。

僕もこの結界が無ければ、もっと早く喋れていたんだけどな・・・。


 「荷物なら僕の鞄に入れればいいよ。食料も、調理道具も、ニルスとミランダの着替えもぜーんぶ入ってるよ」

僕は精霊の手織り袋を見せた。

この雰囲気を変えないと・・・。

 「ニルス、使い方を二人に教えてあげてよ」

「シロ・・・うん。・・・なんなら、衣装棚ごと入れることもできます。ちょっと見ててくださいね」

ニルスも心を溶かし始めた。

たぶん反省しているんだろう。


 「・・・こんな便利なものがあったのか。なるほど、ニルス殿たちが身軽なわけじゃ」

「明日の朝でも間に合います。ステラ・・・荷物はどれだけ入れても大丈夫だよ」

「・・・そしたらもっと持っていくことにするわ。ヴィクター、お酒もたくさんいれられるわね」

「そうですね」

おじいちゃんとステラは特に触れなかった。

ただ、ニルスの様子を見て、なにか事情があるっては勘づかれたはずだ。


 「気を付けないといけないことがあるよ。なにを入れたか忘れちゃったら取り出せなくなるからね」

僕はわざとミランダの方を見た。

 「あたしは大丈夫よ。なにか思うところでもあるの?」

乗ってくれた。これで部屋の中が暖まる。

 「自分で食べちゃったお菓子をしまったと思い込んでたこともあったから・・・」

「あはは、あったな」

「ちょっと、あたしに恥かかせてどうする気よ?」

これでいい・・・とりあえずはだけど。


 「なるほど・・・記憶と同じね」

「うん、取り出す時には思い出さないといけない」

「忘れたら?」

「二度と出せない」

ステラも気を遣ってくれているのがわかる。

なにか聞かれるかもな・・・。



 「さて、今晩は家族一緒にいることにする。しばらく離れるからのう・・・」

陽が傾いてきた頃、おじいちゃんが立ち上がった。

そっか、子どもも小さいしその方がいいよね。


 「え・・・騎士が帰っていいの?ていうかここに住んでるんじゃないんだ・・・」

「家はすぐそこじゃ。結界もあるが、ニルス殿がここにいれば問題ない。頼んでもいいかな?」

「はい、家族との時間を・・・大切にしてください」

ニルスは優しい声で一晩だけの騎士を引き受けた。

 自分に言っているようにも聞こえる。おじいちゃんの言葉で、思い出が浮かんできてしまったんだろう。


 「ふーん・・・ニルスが守ってくれるんだ。じゃあ私の部屋で二人きりってこと?」

ステラはミランダを見ながら言った。

ニルスに聞かないといけないんじゃ・・・。

 「おおー、いいじゃん。あたしはシロと一緒でいいから行ってきなよ」

ミランダはいやらしい顔で乗っかった。

・・・本気でそう思ってるんじゃないのか?


 「いや・・・それならここで一緒に休もう。ベッドは三つだけど、シロとミランダが一緒に寝ればいいし・・・」

ニルスはほっぺを赤くしていた。

 「あはは、せっかくのお誘いなんだからそうすりゃいいのに」

「みんなでいた方がいいだろ・・・。ステラ、それでいい?」

「まあ・・・いいかな。そっちの方が楽しそうだし・・・」

ステラは少しだけ残念そうだった。

僕はみんなと一緒がよかったからこれでいいと思う。



 「ステラって料理上手よね。お肉の焼き加減なんかあたし好み」

「ありがとう、退屈だったから色々やってたの。・・・だから自然とかな」

「オレも・・・おいしいと思った・・・」

「え・・・ありがとうニルス。ふふ・・・さあ、早く休みましょう」

みんながベッドに入って明かりが消えた。


 「じゃあ・・・みんなおやすみ・・・」

「おやすみー・・・」

「おやすみなさい」

ニルスとミランダの寝息が聞こえてきた。

ミランダはいつも通りだけど、ニルスはおじいちゃんとも戦ったし疲れてたんだろうな。



 眠くない、どうしよう・・・。

しばらく時間が経ち、深夜の鐘が聞こえてきた。

 今の僕は人間の状態だから寝た方がいいんだろうけど、外に出れば元に戻る。・・・村の中でも見てこようかな。

ミランダの腕をすり抜けて、ベッドから下りた。

畑に続く水路があったから、水を清めてあげよう・・・。

 

 「待って・・・すぐ・・・」

部屋を出ようとした時、ニルスの苦しそうな声が聞こえてきた。

 うなされてる・・・久しぶりだ。火山を出てからは無かったのに・・・。もしかして、テーゼに行くことを意識しだしたからか?

 安らぎの魔法・・・ダメだ、ここでは使えない。

ミランダは向かいのベッド・・・起きてもらうか?


 「・・・ニルス、どうしたの?」

考えていると隣のベッドにいたステラが起き上がった。

なんとかなるかも・・・。

 「ステラ、安らぎの魔法は使える?」

「シロ・・・ええ、ニルスにかけてあげればいいのね」

起きててくれてよかった。

女神様の結界の中で自由にできるのは彼女だけだから・・・。


 「ニルス、大丈夫よ。安心して眠りなさい」

ステラは、うなされるニルスを胸に抱いて安らぎの魔法をかけた。

僕のよりも優しい力を感じる。

 

 ◆


 「・・・」

「よかった。治まったみたいね」

ニルスはすぐに落ち着いたみたいで、苦しそうな声は聞こえなくなった。


 「・・・シロ、ちょっと外に行きましょう」

「・・・うん」

僕はステラに誘われて部屋を出た。

話した方がいいかな・・・。



 「ステラが安らぎの魔法を使えて助かったよ。ありがとう」

扉を閉めて、まずお礼を言った。

廊下の窓から月明かりが射しこんでいて、精霊の目が使えなくても見える。


 「まあ人形を作るとか精霊の力は無理だけど、それ以外の魔法はすべて使えるわ」

「僕たちと同じで無尽蔵に使えるの?」

「・・・私はほとんど人間なの。だから反動がちょっとあるだけかな」

そうなのか・・・。でも言い方は軽いし、そこまででもなさそうだ。

 

 「そんなことよりあれは何?対処を知ってるってことはよくあるの?」

「うん・・・たまにある。ニルスは不安とか寂しさとかを感じるとああなるんだ」

ステラにとっては初めてのことで驚いただろうな。

 「不安・・・寂しさ・・・あんなに強いのに・・・。普段はシロが安らぎの魔法をかけていたの?」

「そうだよ。僕が一緒に旅をする前まではミランダが何とかしてたみたい」

「ミランダはどうしていたの?」

「抱きしめてあげると治まるんだって」

ニルスのお父さんもそうしてあげていたらしい。


 「・・・原因はわかってるの?」

「うん、でも・・・このことはあんまり踏み込まれたくないみたいなんだ」

「これから一緒にいるのよ?私も知っておきたいの」

「・・・わかった。そしたら結界の外に行こう。話と・・・記憶も渡す」

ステラは僕たちに近い存在だから大丈夫だよね・・・。


 ニルスの不安はたくさんあると思う。

ジナスに勝てるのかとか、テーゼでアリシアとどう接していくかとか、ルージュと会った方がいいのかとか・・・。

 寂しさは、家族を想うおじいちゃんを見て・・・かな。

今までは先送りにできていたこと。だけど、あとはテーゼに向かうだけってなったからどうしても考えないといけなくなった・・・って感じだと思う。



 「・・・どんな接し方をしてきたのかしら。女神に作られたのに愛を与えられないなんて・・・」

とりあえず知っている限りを話して、記憶も渡した。

今になって思うけど、もっともっと考えないといけないことだ。


 「・・・僕も昔のニルスがどんなだったかは詳しくわからないんだ。アリシアも実際どんな人か知らない。だけどニルスは、女神様と同じように愛のある人だよ」

「負けてしまったじゃない・・・。また心の弱さに付け込まれたらどうするの?」

「しばらくああなることはなかったんだ。きのうまではなんとも無かったんだよ・・・」

僕たちがいるから「次は大丈夫だ」って言ってくれたけど、まだその弱さは残っている。もしまたアリシアを出されたら同じようになってしまうかもしれない。

そうなったら次は・・・無いだろう。


 「安らぎの魔法は言ってしまえばまやかしよ。根本的な解決にはならない」

「・・・わかってるよ」

そう、安らぎの魔法は気休めくらいにしかならない。ひと時だけ、不安や悲しみをやわらげるものだ。

 やっぱりニルスはアリシアと仲直りしないといけない。手袋を買っていたけど、ちゃんと渡せるかも不安だ。


 「たしかにニルスは勝てる可能性がある。胎動の剣はジナスにとってかなり脅威だろうし」

「うん・・・」

「でも・・・わかってるんでしょう?」

「うん・・・今の状態が続くなら、その可能性に光を感じない」

ニルスには言えないこと・・・。

もちろん僕の希望ではあるけど、その先にある道はぼやけている。

本当は・・・言わなきゃいけないこと・・・。


 「それなら・・・ねえシロ、ニルスのこと・・・私に任せてくれないかしら」

ステラは自分の胸を押さえた。

月明かりに照らされていた顔は、優しかった女神様と似ている。

 「え・・・どうするの?」

「まだちゃんと考えてはいないけど、私は女神の愛も授かっている。できるだけやってみるわ」

女神様の愛・・・それなら信用できる。

 「でもシロとミランダにも協力してもらうわよ」

「うん、もちろんだよ。なんでもする」

「じゃあ・・・まず教えてほしいんだけど」

「なに?」

渡した記憶以外でも知っていることは話そう。


 「ニルスとミランダは・・・恋人なの?」

「え・・・そういうんじゃないよ。でもとっても仲良しだね」

「なるほど・・・やっぱりそうか」

ステラはより優しい微笑みを浮かべた。

 「ありがとうシロ、積極的に動いてみるね」

「こっちこそありがとう。あと・・・起こしちゃってごめんね」

「ああ・・・実は、私は基本的に眠らなくても平気なの。だから心配いらないわ」

「眠らなくていいなら僕と一緒だね」

ニルスの苦しみが無くなるなら、僕だってできることはしてあげたいと思う。だって君は、僕に手を差し伸べてくれて、勇気や希望を見せてくれた。

 「ミランダにも私が協力するってことを伝えてね。たくさんお喋りしようっても」

「うん、明日の朝に」

それに、大切な仲間だからね。



 二人で部屋の前まで戻ってきた。

ニルスの声は聞こえない・・・落ち着いて眠っているみたいだ。


 「やれるだけやってみるけど、私でもなんともならなかったら・・・妹を叱りつけて動いてもらうしかないわね」

ステラは拳を堅く握った。

あれ・・・そうだよ、それなら最初からアリシアに協力してもらえばいいんだ・・・。想っていることを伝えれば、ニルスの迷いは簡単に無くなるはず・・・。


 「ねえ、テーゼに行ったらアリシアにも相談しようよ。仲直りが一番いいと思う」

「私の中では最終手段なの。・・・話を聞く限りだけど、悪い印象しかない。正直・・・嫌い」

ステラはとても恐い顔になっていた。

これも女神様と似てる気がする。・・・一度だけしか見たことないけど。


 「・・・ケンカはしないでね?一度戦ってる姿を見たけど、アリシアはとっても強いよ」

「あら、私は人間だけど、あなたたちと同じくらいの力で魔法を使えるわ。・・・妹に負けるはずないじゃない」

・・・感情的になるところも似ているな。大地を沈めた時は、本当に恐かった。


 ステラとアリシア・・・二人が争ったらどうなるんだろう?

余計ニルスが苦しむような気もする。もしそうなったら、僕が全力で止めなきゃ・・・。

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