第七十四話 聖女の騎士【ニルス】
不死の聖女が住む農漁村スナフ。
大陸南部の食料の三分の一がここで作られているから、アカデミーでの筆記試験にも出る名前だ。
海が近いから風も潮の香りが混じっている。
見渡すと大きな畑が目の前いっぱいに広がっていて、そのすべてで作物が育てられていた。
・・・なんだかのどかでいい場所だ。
収穫の時期までいれば、おいしい野菜がたくさん食べられるんだろうな。
ああ・・・秋まで滞在したいけど、楽しみはまた今度にしよう。
今回は聖女に会ったら連れてすぐに出る。
でも・・・どうなるかな。
◆
「どこまでいっても畑だらけ・・・。こんなとこ初めてだよ・・・」
ミランダが溜め息を零した。
「北部にもあると思うけど・・・」
「田舎は避けてきたの。でもいい風景、南部だからかなり暑いけど・・・落ち着く」
ミランダはこの村の景色が気に入ったみたいだ。
歩きながら畑や牧場を遠目に見ては微笑んでいる。
「ちょっとちょっと、あっちにあんの果樹園じゃない?もぎたて冷やして食べたーい」
「僕も食べたーい」
「オレも食べたい・・・」
でも、まずは聖女・・・。
◆
「お・・・兄ちゃんたち旅人か?」
長い田舎道の途中、荷馬車を引いたお兄さんと出くわした。
ちょうどいい、道を聞こう。
「はい、仲間で旅をしています。・・・不死の聖女に会いに来たんですけど、どこにいるんですか?」
「へえ、命知らずは久しぶりだな。村はずれだ、ずっとあっちだよ」
素直に答えてくれて感じがいい。
「ありがとうございます」
「いいよいいよ。この先にも村の奴いるから、わかんなくなったら聞きな」
「そうします」
「まあ・・・勝てないと思うよ。はい、これ残念賞。三人分な」
お兄さんは桃をくれた。
優しい・・・嬉しい・・・。
「仲間っつったけど、家族とか恋人とかじゃないんだ?」
「そうですね」
「ふーん・・・ねえねえ、お姉ちゃん子どもいっぱい産めそうだね。俺で五人くらい作んない?」
お兄さんがミランダを指さした。
こんな堂々と・・・。
「あはは、そんな真っ直ぐ言われたの初めてだよ」
「答えは?病みつきにさせる自信あるよ」
「あたしこの二人とずっと旅したいから無理。じゃ、ありがとねー」
「ああ、またなー」
ミランダは軽く断ったけど、お兄さんはずっと笑顔だった。
なんか・・・雰囲気いいな。
◆
『やめといたら?』『勝てないと思うよ』『無理無理』
村の人に声をかけながら歩いた。
でも、みんな同じようなことを言う。
どれだけ強いんだろう・・・。
「旅人なんかやめて、ここで畑仕事一緒にやらない?かなり稼げる・・・うちの芋畑、人手が足りなくて困ってんのよ」
声をかけたお姉さんに手を握られた。
・・・これもみんなに言われたな。
「申し訳ありませんが、遠慮しておきます」
「そんなこと言わないでよ。・・・そっちのおっぱいおっきい子は恋人?」
「いえ・・・旅の仲間です」
「そんならあたしのとこ来なよ。あんたの子だったら十人くらい産んでやるからさ」
なんなんだこの人は・・・。
「あの・・・できません」
「あたしじゃダメってこと?」
「違います。旅人は子どもの頃からの夢だったので・・・ごめんなさい」
「そっか・・・まあ気にしないで。はい、これ持っていきな」
今度は甘芋を三人分貰った。
みんなおおらかなんだな・・・。
◆
「ここの人は子どもがたくさん欲しいんだね。・・・はい」
シロが桃を冷やしてくれた。
「ありがとうシロ。さっきのお姉さんも言ってたけど、畑がたくさんありすぎて人手が足りないんだよ」
「そういうことか・・・。でも子どもだとすぐお仕事できないよね?それよりもよそからたくさん人を呼べばいいんだよ。稼げるっても言ってたし」
「たしかにそうなんだけど、農作業やりたいってのが少ないのよ。あたしも遠慮したいしね」
「ふーん、色々あるんだね」
シロは無邪気な顔で笑った。
みんなやりたいことをやっていいとは思う。
けど・・・食料が無くなるのは嫌だな・・・。
「あんたの種だけあげればよかったじゃん。二、三日くらい待つから溢れるくらい注いであげればいいよ」
ミランダが桃に唇を付けていやらしく笑った。
人のことだと思って・・・。
「なに言ってんだよ。そんな無責任なことできるわけないだろ」
「僕はニルスの子どもだったら見てみたいな」
「あたしも見たい」
「・・・早く行くよ」
まったく・・・。
◆
「この先の分かれ道を左に行けば聖女様の屋敷だ。・・・勝てないからやめとけよ。それよりも右に行けば市場に出る。デカくはないけど商店通りもあるから買い物してけって」
もうすぐ着くってところでまた言われた。
「ここまでやめとけって言われるとちょっと心配だね。たとえばだけど・・・戦わなきゃいけなくなって、もし勝てなかったらどうするの?」
「そうよ。もし本当にあんたより強かったらどうすんのよ?お前に聖女は任せられない・・・とか言われちゃったりするかもよ?」
シロとミランダは不安になってきたみたいだ。
「同じ村に住んでるんだから、旅人のオレたちより信頼は厚いに決まってるよ。だけど、本当に勝てなかったら・・・」
「勝てなかったら?」
どうするかな?転移は絶対に必要だし・・・。
「三人で協力しよう・・・えっと、聖女誘拐大作戦・・・。真夜中に忍び込んで、そのまま連れてく」
「え・・・大胆ね。・・・本気?」
「どうかな・・・」
「やりそう・・・」
最終手段だけど、勝てなければそうするしかない。
シロもいるから、屋敷に侵入して連れ出すのはそんなに難しくないはずだ。
◆
「あれか・・・。古めかしいけどいい雰囲気・・・住んでみたい」
「オレたちじゃ無理だろ」
「言っただけじゃん・・・」
聖女の屋敷が見えてきた。
村の奥の奥・・・隠されてるって感じだな。
「僕の城の方が綺麗だと思うよ」
「ああ・・・虫部屋以外はね」
「みんないい子なんだけど・・・」
「多すぎんのよ。ああ・・・思い出したら鳥肌が・・・」
ミランダが腕を見せてきた。
忘れてたのに・・・走って振り払おう・・・。
◆
「ニルスーちょっと待ってよー・・・」
後ろからミランダの声が聞こえた。
急いだから二人を遠く離してしまったみたいだ。
「ゆっくりでいいよ。ちょっと走りたかっただけ」
オレは二人に声をかけて振り返った。
屋敷の門は開かれていて、誰でも入ってよさそうだ。
門の先には石畳の広場があって、左右にはよく手入れがなされた庭園が見える。
「あっちは・・・また別の家か」
屋敷の外壁を目で追っていくと、右手側の奥に小さな家が見えた。
近いし・・・使用人の家とかなのかな。
「おおー、いい感じっぽいね。・・・なんか誰もいない気もするけど、入っちゃおうよ」
「うん、そのために来たんだしね」
二人も追い付いた。
よし、入ろう。
◆
「わあ・・・すごく綺麗、あたしここ好き」
「そうだね、お花の香りでいっぱいだ」
広場を抜けて、向かって右の庭園へ来てみた。
本当に人の気配が無い。このまま騎士と話さず屋敷に入っちゃってもいい気がする。
・・・でも、とりあえずはちょっと見学させてもらってからにしよう。
聖女の屋敷も未知の世界だったからな。
「あっ、東屋があるよ。誰もいないしちょっと休憩させてもらおうよ」
「そうだね。座りながら庭園を見させてもらおう」
綺麗な花が色ごとに分けられ、奥には魚が跳ねる池もある。
・・・ああ、なごむな。
観光に来たわけじゃないけど、めんどうなことをひと時だけ忘れさせてくれる場所だ。
「・・・お客さんかな?この庭は自由に見ていって構わないよ。ただし、汚したらお引き取り願うがな」
突然後ろからおじいさんが現れ、ミランダの肩を叩いた。
「ひゃあ!なによ・・・びっくりした・・・」
オレも気付かなかった。
「儂はずっとこの庭にいた。驚かれるのは心外じゃ」
ここの雰囲気で油断してたな・・・。
「おじいちゃんはここで何してるの?」
「儂は庭師じゃ、名前はヴィクター。・・・ぼうやにはこれをやろう」
ヴィクターさんはシロの頭を撫でて、ポケットからお菓子を取り出した。
「それと、冷たい飲み物でも出そうかの」
「え・・・いいの?」
「お嬢さんには帰りに花を持たせてやろう」
庭師って言ってたけど、観光客をもてなすのも仕事なのか。
あ・・・いけない。人がいたんなら・・・。
「ヴィクターさん、ここは不死の聖女の屋敷なんですよね?」
のんびりした空気に飲まれてしまいそうだったけど、目的を忘れてはいけない。
「そうじゃよ。すまんが掟で屋敷の中には通せん」
「知っています・・・オレたちはステラに会いに来ました」
「・・・」
ヴィクターさんから優しいおじいさんの顔が消えた。
「その名前・・・誰から聞いた?・・・いや、その髪・・・」
「女神から聞きました。隠し事はしません、すべて話すのでステラ・・・聖女に会わせていただきたい」
「・・・付いてきなさい」
「はい」
オレたちはヴィクターさんのあとに続いた。
まあ、正攻法で会えた方が一番いいか・・・。
◆
「聖女には守り手の騎士がいる。知っているな?」
「はい、その騎士を倒さなければ聖女には会えない」
「・・・ここで待っていなさい」
広場まで移動すると、ヴィクターさんは屋敷に入っていった。
ふーん・・・中にいるのか。
「やっと騎士の登場ね。緊張するー」
「やっぱり戦わないとダメなんだね」
「・・・まずはオレがやってみるよ」
自分の力を試してみたい、戦場は嫌いだったけどこういうのは好きだ。
「ニルス、楽しみなのは変わらない?」
「うん、誰かにやらされるわけじゃない。自分で決めた戦いだからな」
戦場に出ていた時とは違う、すべてオレ自身で選択した。
だから昂ってもいい。そして、心を冷やさなければ・・・。
「たぶん、ラッシュくらいデカい男よ」
「どうかな?騎士って女の人でもいいんだよね?」
「じゃあ雷神みたいなの?」
「うーん・・・もっと大きい女の人」
シロとミランダは楽しそうに騎士の予想をしている。
よく考えたら当代の騎士って、スコットさんから聞いた人とは別なんじゃないのかな?
たしかあの人がスナフを出た時点で、五十歳くらいだったって聞いた記憶がある。
さすがに代替わりしてるだろうし・・・けっこう若いのかも。
歳が近かったらいいな・・・。
◆
「え・・・」
「嘘・・・」
騎士はどんなのか、想像していた姿を三人とも外した。
「待たせたな・・・」
ヴィクターさんは庭師の恰好はそのままで槍を持ち、オレたちの前に戻ってきた。
ああ・・・当代は、そのままだったんだな・・・。
「十二代目聖女の騎士、ヴィクター・メイプルじゃ」
・・・メイプル?
「聖女に会いたければ力を示せ!」
上着が大袈裟に脱ぎ捨てられ、鍛えられた肉体が姿を現した。
胸には短剣も付けている。
・・・いい装飾だ。
「ニルス・・・」
「うん、やってみよう」
「笑ってんじゃん・・・」
「楽しみだからね。二人は下がってて・・・」
胎動の剣を抜き、一歩前に出た。
「ニルス・クラインです。・・・戦士以上に鍛えていそうですね」
「戦えばわかる」
「もう一つ・・・メイプルは王家の・・・」
「問答は無用じゃ!!」
戦いのあとでいいか・・・。
「かかってこい!!!」
ああ、いい気合だ。
アリシアもいないから、もう抑えなくていい。
・・・感情、解き放ってやろう。
◆
「斬り崩す・・・」
石畳をおもいきり蹴った。
胎動の剣がいつもより軽い気がする。
「石畳を割るか・・・随分鍛えたな」
ヴィクターさんが槍を構えた。
払い?突き?
「もう間合いじゃよ」
「ぐ・・・」
腹に重い衝撃を受けた。
騎士が繰り出したのは一瞬前まで槍だった。
それなのにオレの腹には堅い肘がめり込み、内臓を押し潰している。
老人のくせになんて速さだ・・・。
でも大丈夫・・・耐えきれる。
「まだじゃよ・・・受け止めてみせろ!」
重く後を引くのが内臓の痛み・・・それを気遣う暇もなく槍が振り下ろされた。
これくらい・・・アリシアとはよくあったよ・・・。
「おお、受け止めて耐えられるのか!強靭な足腰じゃ、大体の奴はこれで膝が粉々になる」
おそらく渾身の一撃、胎動の剣でなければ砕けてしまっただろう。
「・・・そのようです。膝が悲鳴を上げたのは初めてだ」
より足に力を込めて、ヴィクターさんを弾き飛ばした。
「負けられません!あなたは強い、全力でいきます!!」
「それはお互い様じゃ!さっさと本気を出せ!!」
体温はどんどん上げていい。
でも、心はキビナのように冷たく・・・。
◆
「恐ろしい男じゃ・・・疲れ、痛みは無いのか?」
何度ぶつかったか、騎士の呼吸が乱れ始めた。
そろそろだな・・・。
「疲れや痛みはあります。不安も焦りも・・・戦闘の時に顔に出すなと教わってきました」
ジナスとの戦いの時は出してしまったけど・・・。
「そうか・・・いい師じゃ」
「はい・・・戦いに関しては誰よりも尊敬しています」
「その蹴りは・・・もう受けたくない」
「頑張って躱してください」
騎士の動きにキレが無くなっている。
体力は年齢的に仕方ないか・・・。
◆
「背中を取られたか・・・儂の負けじゃな」
騎士が片膝を付き、敗北の宣言をした。
かなり強かったな。本当に戦士以上・・・アリシアにも匹敵する。
敗因は、老体って所かな。
「いい腕じゃ。急所は一度も狙わなかったな」
騎士は負けたのに清々しい顔だ。
「殺し合いならそうしていました。あなたは力を示せと言ったので・・・」
「その通り・・・最初に儂の一撃を耐えた時点で認めていたよ。・・・血が騒いだんじゃ」
「あなたがあと十歳若かったらやられてましたね」
「・・・歳には勝てんのじゃよ。手を貸してくだされ・・・ニルス殿」
「・・・はい」
・・・恥ずかしい呼び方はやめてくれよ。
「胸の短剣は使いませんでしたね。投げたりするのかと警戒していました」
「これは・・・そういうものではない」
まあいい、なんにしても・・・。
「やったー、これでステラに会えるんだね」
「あたしたちの応援が効いたわね」
振り返ると、二人がオレに手の平を向けていた。
応援か・・・集中してて聞こえなかったな。
なんて言ってたのか聞きたかったけど・・・。
「ありがとう」
二人と手を打ち合った・・・いい感じだ。
だけどジナスとの戦いは殺し合いになる。その時、今回みたいな状態でいけるかな?
体は熱く、昂った心は冷やし固める・・・そんな感じがオレには合っている。できなくてもやるしかないんだけどな・・・。
「ねえねえおじいちゃん、ステラに会うには騎士を倒すんじゃなくて認められればいいの?」
シロが治癒をかけていたヴィクターさんに近付いた。
「そうじゃよ。実力は見るが、勝たずとも儂が会わせてもいいと判断すれば問題ない」
勝たないとってのは間違いだったのか・・・。
「さて・・・ニルス殿、ステラ様の元へ案内しよう」
早いな、素質があるのか・・・。
「ねえ、僕たちも・・・いいかな?」
「もちろんじゃ・・・名前を教えてくれるかな?」
「僕シロ」
「あたしミランダ」
いよいよか、あとはテーゼに一緒に来てもらうように頼む・・・いや、連れ出す。
ああそうだ、女神の考えていた作戦が変わったことも教えなければいけないな。
◆
「待ってください!」
屋敷に入ろうとした時、大きな声にオレたちの足が止められた。
振り向くと、幼い男の子が背筋を伸ばし、真っ直ぐな瞳でオレを見ている。
「今の戦いを見ていました。俺に剣を教えてください!!」
その子は跪き、また大声を出した。
なんだ・・・どういうこと?
「儂の息子じゃ、次の・・・十三代目のヴィクターとなる」
「え・・・ヴィクターって名前じゃないの?あたしたちに嘘ついた?」
「騙してはおらん。初代はその名じゃったが、二代目からは襲名することになった。本来の名は別にあるが、掟でステラ様と家族にしか教えられん。アカデミーでは偽名を使っている」
・・・ややこしい一族だ。いや・・・そうじゃない、この子をどうにかしてほしい・・・。
「ヴィクターさんが鍛えているんじゃないんですか?」
「強い者には教えを請えと儂が言った」
「お願いします!あなたの風のような剣を俺に伝授してください!」
男の子は引きそうにない。今教えている時間は無いけど、がっかりさせたくもないな。
「・・・君の歳は?」
「八つです!」
じゃあ、バニラと同い年かな?・・・真っ直ぐないい目だ。
・・・きっと強くなる。
「条件がある」
「はい、なんでもします」
「まずは父親に認められるくらいになること。そうなったら剣を教えよう」
「く・・・はい!」
この子は純粋に聖女の騎士として強くなりたいんだろう。昔のオレみたいに嫌々じゃなさそうだ。
「不満があるの?」
「いえ、鍛錬を積みます!」
戦いが終わったら・・・かな。
「・・・あとで大事な話がある。それと・・・今夜はご馳走を食べたいとナツメに伝えておいてくれ。お前の好きなものも頼んでおくといい」
「あ・・・はい!」
「今日の鍛錬はほどほどでいい。夕方の鐘までには帰ってくるんじゃぞ」
ヴィクターさんが息子の頭を撫でた。
ちゃんと父親もやってる・・・。
「わかりました!では失礼します!」
男の子は走って屋敷の庭を出て行った。
あのまま成長してほしいな。
◆
「あ、そうだ。ニルスも気になってたけど、メイプルってどういうことよ?」
ミランダは遠ざかる男の子を見ながら言った。
そういえば、それも聞きたかったな。
「初代騎士ヴィクター・メイプルには弟がいた。それが初代王じゃ」
そうだったのか・・・。
「嘘・・・そんなのアカデミーで教えてもらってないよ」
「隠しておいた方がかっこいいと初代が決めた。理由はそれだけらしい」
「うわ・・・変な一族」
王家と繋がりがあるなんて・・・だからどうだって話だけど。
「ちなみにメイプルの名も普段は隠している」
「まあそうよね・・・。なんで今回は名乗ったの?」
「ステラ様の名を知っていたこと、女神様も出してきたこと、それと・・・ニルス殿の髪の毛じゃな。信用に値すると思ったんじゃ」
「あ・・・なるほど、たしかに女神様もおんなじ髪の毛だって言ってた」
シロが呟いた。
その話は聞いてないぞ・・・。
あ、そういえばヴィクターさんが見てたっけ・・・。
「もう案内してよろしいか?」
「もう一個、今何歳?」
ミランダがヴィクターさんの顔を覗き込んだ。
「・・・七十一じゃ」
「え・・・なんでこんなおじいちゃんになるまで子ども作んなかったのよ?」
「なかなか授からなかっただけじゃ・・・」
ヴィクターさんは溜め息をついた。
まあそういうことも無くはないか・・・。
「相手ってさっき言ってたナツメって人?何歳?」
「ナツメは妻で間違いない。・・・三十八じゃな」
「え・・・三十三も離れてんの?やばいでしょ・・・」
「あまり詮索するものではないぞ・・・」
オレも気になったけど・・・たしかに失礼な話だな。
「もしかして若いの好き?さっきからあたしのお尻見てるよね?」
「・・・触りたい」
「奥さんに言うよ」
「じょ、冗談じゃよ。・・・もういいな?付いてきなさい」
ヴィクターさんが屋敷の扉を開けた。
緊張してきたな・・・。
・・・アリシアに似ていないでくれ。
心配事はそれだけだ。




