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Our Story  作者: NeRix
水の章 第二部
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第七十四話 聖女の騎士【ニルス】

 不死の聖女が住む農漁村スナフ。

大陸南部の食料の三分の一がここで作られているから、アカデミーでの筆記試験にも出る名前だ。


 海が近いから風も潮の香りが混じっている。

見渡すと大きな畑が目の前いっぱいに広がっていて、そのすべてで作物が育てられていた。

・・・なんだかのどかでいい場所だ。


 収穫の時期までいれば、おいしい野菜がたくさん食べられるんだろうな。

ああ・・・秋まで滞在したいけど、楽しみはまた今度にしよう。


 今回は聖女に会ったら連れてすぐに出る。

でも・・・どうなるかな。

 


 「どこまでいっても畑だらけ・・・。こんなとこ初めてだよ・・・」

ミランダが溜め息を零した。

 「北部にもあると思うけど・・・」

「田舎は避けてきたの。でもいい風景、南部だからかなり暑いけど・・・落ち着く」

ミランダはこの村の景色が気に入ったみたいだ。

歩きながら畑や牧場を遠目に見ては微笑んでいる。


 「ちょっとちょっと、あっちにあんの果樹園じゃない?もぎたて冷やして食べたーい」

「僕も食べたーい」

「オレも食べたい・・・」

でも、まずは聖女・・・。



 「お・・・兄ちゃんたち旅人か?」

長い田舎道の途中、荷馬車を引いたお兄さんと出くわした。

ちょうどいい、道を聞こう。


 「はい、仲間で旅をしています。・・・不死の聖女に会いに来たんですけど、どこにいるんですか?」

「へえ、命知らずは久しぶりだな。村はずれだ、ずっとあっちだよ」

素直に答えてくれて感じがいい。

 「ありがとうございます」

「いいよいいよ。この先にも村の奴いるから、わかんなくなったら聞きな」

「そうします」

「まあ・・・勝てないと思うよ。はい、これ残念賞。三人分な」

お兄さんは桃をくれた。

優しい・・・嬉しい・・・。


 「仲間っつったけど、家族とか恋人とかじゃないんだ?」

「そうですね」

「ふーん・・・ねえねえ、お姉ちゃん子どもいっぱい産めそうだね。俺で五人くらい作んない?」

お兄さんがミランダを指さした。

こんな堂々と・・・。

 「あはは、そんな真っ直ぐ言われたの初めてだよ」

「答えは?病みつきにさせる自信あるよ」

「あたしこの二人とずっと旅したいから無理。じゃ、ありがとねー」

「ああ、またなー」

ミランダは軽く断ったけど、お兄さんはずっと笑顔だった。

なんか・・・雰囲気いいな。



 『やめといたら?』『勝てないと思うよ』『無理無理』

村の人に声をかけながら歩いた。

 でも、みんな同じようなことを言う。

どれだけ強いんだろう・・・。 


 「旅人なんかやめて、ここで畑仕事一緒にやらない?かなり稼げる・・・うちの芋畑、人手が足りなくて困ってんのよ」

声をかけたお姉さんに手を握られた。

・・・これもみんなに言われたな。


 「申し訳ありませんが、遠慮しておきます」

「そんなこと言わないでよ。・・・そっちのおっぱいおっきい子は恋人?」

「いえ・・・旅の仲間です」

「そんならあたしのとこ来なよ。あんたの子だったら十人くらい産んでやるからさ」

なんなんだこの人は・・・。

 「あの・・・できません」

「あたしじゃダメってこと?」

「違います。旅人は子どもの頃からの夢だったので・・・ごめんなさい」

「そっか・・・まあ気にしないで。はい、これ持っていきな」

今度は甘芋を三人分貰った。

みんなおおらかなんだな・・・。



 「ここの人は子どもがたくさん欲しいんだね。・・・はい」

シロが桃を冷やしてくれた。


 「ありがとうシロ。さっきのお姉さんも言ってたけど、畑がたくさんありすぎて人手が足りないんだよ」

「そういうことか・・・。でも子どもだとすぐお仕事できないよね?それよりもよそからたくさん人を呼べばいいんだよ。稼げるっても言ってたし」

「たしかにそうなんだけど、農作業やりたいってのが少ないのよ。あたしも遠慮したいしね」

「ふーん、色々あるんだね」

シロは無邪気な顔で笑った。

 みんなやりたいことをやっていいとは思う。

けど・・・食料が無くなるのは嫌だな・・・。


 「あんたの種だけあげればよかったじゃん。二、三日くらい待つから溢れるくらい注いであげればいいよ」

ミランダが桃に唇を付けていやらしく笑った。

人のことだと思って・・・。

 「なに言ってんだよ。そんな無責任なことできるわけないだろ」

「僕はニルスの子どもだったら見てみたいな」

「あたしも見たい」

「・・・早く行くよ」

まったく・・・。



 「この先の分かれ道を左に行けば聖女様の屋敷だ。・・・勝てないからやめとけよ。それよりも右に行けば市場に出る。デカくはないけど商店通りもあるから買い物してけって」

もうすぐ着くってところでまた言われた。


 「ここまでやめとけって言われるとちょっと心配だね。たとえばだけど・・・戦わなきゃいけなくなって、もし勝てなかったらどうするの?」

「そうよ。もし本当にあんたより強かったらどうすんのよ?お前に聖女は任せられない・・・とか言われちゃったりするかもよ?」

シロとミランダは不安になってきたみたいだ。

 「同じ村に住んでるんだから、旅人のオレたちより信頼は厚いに決まってるよ。だけど、本当に勝てなかったら・・・」

「勝てなかったら?」

どうするかな?転移は絶対に必要だし・・・。


 「三人で協力しよう・・・えっと、聖女誘拐大作戦・・・。真夜中に忍び込んで、そのまま連れてく」

「え・・・大胆ね。・・・本気?」

「どうかな・・・」

「やりそう・・・」

最終手段だけど、勝てなければそうするしかない。

シロもいるから、屋敷に侵入して連れ出すのはそんなに難しくないはずだ。



 「あれか・・・。古めかしいけどいい雰囲気・・・住んでみたい」

「オレたちじゃ無理だろ」

「言っただけじゃん・・・」

聖女の屋敷が見えてきた。

村の奥の奥・・・隠されてるって感じだな。


 「僕の城の方が綺麗だと思うよ」

「ああ・・・虫部屋以外はね」

「みんないい子なんだけど・・・」

「多すぎんのよ。ああ・・・思い出したら鳥肌が・・・」

ミランダが腕を見せてきた。

忘れてたのに・・・走って振り払おう・・・。



 「ニルスーちょっと待ってよー・・・」

後ろからミランダの声が聞こえた。

急いだから二人を遠く離してしまったみたいだ。


 「ゆっくりでいいよ。ちょっと走りたかっただけ」

オレは二人に声をかけて振り返った。

 屋敷の門は開かれていて、誰でも入ってよさそうだ。

門の先には石畳の広場があって、左右にはよく手入れがなされた庭園が見える。


 「あっちは・・・また別の家か」

屋敷の外壁を目で追っていくと、右手側の奥に小さな家が見えた。

近いし・・・使用人の家とかなのかな。

 

 「おおー、いい感じっぽいね。・・・なんか誰もいない気もするけど、入っちゃおうよ」

「うん、そのために来たんだしね」

二人も追い付いた。

よし、入ろう。



 「わあ・・・すごく綺麗、あたしここ好き」

「そうだね、お花の香りでいっぱいだ」

広場を抜けて、向かって右の庭園へ来てみた。


 本当に人の気配が無い。このまま騎士と話さず屋敷に入っちゃってもいい気がする。

 ・・・でも、とりあえずはちょっと見学させてもらってからにしよう。

聖女の屋敷も未知の世界だったからな。


 「あっ、東屋があるよ。誰もいないしちょっと休憩させてもらおうよ」

「そうだね。座りながら庭園を見させてもらおう」

綺麗な花が色ごとに分けられ、奥には魚が跳ねる池もある。

 ・・・ああ、なごむな。

観光に来たわけじゃないけど、めんどうなことをひと時だけ忘れさせてくれる場所だ。


 「・・・お客さんかな?この庭は自由に見ていって構わないよ。ただし、汚したらお引き取り願うがな」

突然後ろからおじいさんが現れ、ミランダの肩を叩いた。

 「ひゃあ!なによ・・・びっくりした・・・」

オレも気付かなかった。

 「儂はずっとこの庭にいた。驚かれるのは心外じゃ」

ここの雰囲気で油断してたな・・・。


 「おじいちゃんはここで何してるの?」

「儂は庭師じゃ、名前はヴィクター。・・・ぼうやにはこれをやろう」

ヴィクターさんはシロの頭を撫でて、ポケットからお菓子を取り出した。


 「それと、冷たい飲み物でも出そうかの」

「え・・・いいの?」

「お嬢さんには帰りに花を持たせてやろう」

庭師って言ってたけど、観光客をもてなすのも仕事なのか。

あ・・・いけない。人がいたんなら・・・。


 「ヴィクターさん、ここは不死の聖女の屋敷なんですよね?」

のんびりした空気に飲まれてしまいそうだったけど、目的を忘れてはいけない。

 「そうじゃよ。すまんが掟で屋敷の中には通せん」

「知っています・・・オレたちはステラに会いに来ました」

「・・・」

ヴィクターさんから優しいおじいさんの顔が消えた。

 「その名前・・・誰から聞いた?・・・いや、その髪・・・」

「女神から聞きました。隠し事はしません、すべて話すのでステラ・・・聖女に会わせていただきたい」

「・・・付いてきなさい」

「はい」

オレたちはヴィクターさんのあとに続いた。

まあ、正攻法で会えた方が一番いいか・・・。



 「聖女には守り手の騎士がいる。知っているな?」

「はい、その騎士を倒さなければ聖女には会えない」

「・・・ここで待っていなさい」

広場まで移動すると、ヴィクターさんは屋敷に入っていった。

ふーん・・・中にいるのか。


 「やっと騎士の登場ね。緊張するー」

「やっぱり戦わないとダメなんだね」

「・・・まずはオレがやってみるよ」

自分の力を試してみたい、戦場は嫌いだったけどこういうのは好きだ。


 「ニルス、楽しみなのは変わらない?」

「うん、誰かにやらされるわけじゃない。自分で決めた戦いだからな」

戦場に出ていた時とは違う、すべてオレ自身で選択した。

だから昂ってもいい。そして、心を冷やさなければ・・・。


 「たぶん、ラッシュくらいデカい男よ」

「どうかな?騎士って女の人でもいいんだよね?」

「じゃあ雷神みたいなの?」

「うーん・・・もっと大きい女の人」

シロとミランダは楽しそうに騎士の予想をしている。


 よく考えたら当代の騎士って、スコットさんから聞いた人とは別なんじゃないのかな?

たしかあの人がスナフを出た時点で、五十歳くらいだったって聞いた記憶がある。

 さすがに代替わりしてるだろうし・・・けっこう若いのかも。

歳が近かったらいいな・・・。



 「え・・・」

「嘘・・・」

騎士はどんなのか、想像していた姿を三人とも外した。


 「待たせたな・・・」

ヴィクターさんは庭師の恰好はそのままで槍を持ち、オレたちの前に戻ってきた。

ああ・・・当代は、そのままだったんだな・・・。


 「十二代目聖女の騎士、ヴィクター・メイプルじゃ」

・・・メイプル?

 「聖女に会いたければ力を示せ!」

上着が大袈裟に脱ぎ捨てられ、鍛えられた肉体が姿を現した。

 胸には短剣も付けている。

・・・いい装飾だ。


 「ニルス・・・」

「うん、やってみよう」

「笑ってんじゃん・・・」

「楽しみだからね。二人は下がってて・・・」

胎動の剣を抜き、一歩前に出た。


 「ニルス・クラインです。・・・戦士以上に鍛えていそうですね」

「戦えばわかる」

「もう一つ・・・メイプルは王家の・・・」

「問答は無用じゃ!!」

戦いのあとでいいか・・・。


 「かかってこい!!!」

ああ、いい気合だ。


 アリシアもいないから、もう抑えなくていい。

・・・感情、解き放ってやろう。



 「斬り崩す・・・」

石畳をおもいきり蹴った。

胎動の剣がいつもより軽い気がする。


 「石畳を割るか・・・随分鍛えたな」

ヴィクターさんが槍を構えた。

払い?突き?

 「もう間合いじゃよ」

「ぐ・・・」

腹に重い衝撃を受けた。


 騎士が繰り出したのは一瞬前まで槍だった。

それなのにオレの腹には堅い肘がめり込み、内臓を押し潰している。

 老人のくせになんて速さだ・・・。

でも大丈夫・・・耐えきれる。


 「まだじゃよ・・・受け止めてみせろ!」

重く後を引くのが内臓の痛み・・・それを気遣う暇もなく槍が振り下ろされた。

これくらい・・・アリシアとはよくあったよ・・・。


 「おお、受け止めて耐えられるのか!強靭な足腰じゃ、大体の奴はこれで膝が粉々になる」

おそらく渾身の一撃、胎動の剣でなければ砕けてしまっただろう。

 「・・・そのようです。膝が悲鳴を上げたのは初めてだ」

より足に力を込めて、ヴィクターさんを弾き飛ばした。

 「負けられません!あなたは強い、全力でいきます!!」

「それはお互い様じゃ!さっさと本気を出せ!!」

体温はどんどん上げていい。

でも、心はキビナのように冷たく・・・。



 「恐ろしい男じゃ・・・疲れ、痛みは無いのか?」

何度ぶつかったか、騎士の呼吸が乱れ始めた。

そろそろだな・・・。


 「疲れや痛みはあります。不安も焦りも・・・戦闘の時に顔に出すなと教わってきました」

ジナスとの戦いの時は出してしまったけど・・・。

 「そうか・・・いい師じゃ」

「はい・・・戦いに関しては誰よりも尊敬しています」

「その蹴りは・・・もう受けたくない」

「頑張って躱してください」

騎士の動きにキレが無くなっている。

体力は年齢的に仕方ないか・・・。



 「背中を取られたか・・・儂の負けじゃな」

騎士が片膝を付き、敗北の宣言をした。

 かなり強かったな。本当に戦士以上・・・アリシアにも匹敵する。

敗因は、老体って所かな。

 

 「いい腕じゃ。急所は一度も狙わなかったな」

騎士は負けたのに清々しい顔だ。

 「殺し合いならそうしていました。あなたは力を示せと言ったので・・・」

「その通り・・・最初に儂の一撃を耐えた時点で認めていたよ。・・・血が騒いだんじゃ」

「あなたがあと十歳若かったらやられてましたね」

「・・・歳には勝てんのじゃよ。手を貸してくだされ・・・ニルス殿」

「・・・はい」

・・・恥ずかしい呼び方はやめてくれよ。


 「胸の短剣は使いませんでしたね。投げたりするのかと警戒していました」

「これは・・・そういうものではない」

まあいい、なんにしても・・・。


 「やったー、これでステラに会えるんだね」

「あたしたちの応援が効いたわね」

振り返ると、二人がオレに手の平を向けていた。

 応援か・・・集中してて聞こえなかったな。

なんて言ってたのか聞きたかったけど・・・。

 「ありがとう」

二人と手を打ち合った・・・いい感じだ。


 だけどジナスとの戦いは殺し合いになる。その時、今回みたいな状態でいけるかな?

 体は熱く、昂った心は冷やし固める・・・そんな感じがオレには合っている。できなくてもやるしかないんだけどな・・・。


 「ねえねえおじいちゃん、ステラに会うには騎士を倒すんじゃなくて認められればいいの?」

シロが治癒をかけていたヴィクターさんに近付いた。

 「そうじゃよ。実力は見るが、勝たずとも儂が会わせてもいいと判断すれば問題ない」

勝たないとってのは間違いだったのか・・・。


 「さて・・・ニルス殿、ステラ様の元へ案内しよう」

早いな、素質があるのか・・・。

 「ねえ、僕たちも・・・いいかな?」

「もちろんじゃ・・・名前を教えてくれるかな?」

「僕シロ」

「あたしミランダ」

いよいよか、あとはテーゼに一緒に来てもらうように頼む・・・いや、連れ出す。

 ああそうだ、女神の考えていた作戦が変わったことも教えなければいけないな。



 「待ってください!」

屋敷に入ろうとした時、大きな声にオレたちの足が止められた。

振り向くと、幼い男の子が背筋を伸ばし、真っ直ぐな瞳でオレを見ている。


 「今の戦いを見ていました。俺に剣を教えてください!!」

その子は跪き、また大声を出した。

なんだ・・・どういうこと?


 「儂の息子じゃ、次の・・・十三代目のヴィクターとなる」

「え・・・ヴィクターって名前じゃないの?あたしたちに嘘ついた?」

「騙してはおらん。初代はその名じゃったが、二代目からは襲名することになった。本来の名は別にあるが、掟でステラ様と家族にしか教えられん。アカデミーでは偽名を使っている」

・・・ややこしい一族だ。いや・・・そうじゃない、この子をどうにかしてほしい・・・。

 「ヴィクターさんが鍛えているんじゃないんですか?」

「強い者には教えを請えと儂が言った」

「お願いします!あなたの風のような剣を俺に伝授してください!」

男の子は引きそうにない。今教えている時間は無いけど、がっかりさせたくもないな。


 「・・・君の歳は?」

「八つです!」

じゃあ、バニラと同い年かな?・・・真っ直ぐないい目だ。

・・・きっと強くなる。


 「条件がある」

「はい、なんでもします」

「まずは父親に認められるくらいになること。そうなったら剣を教えよう」

「く・・・はい!」

この子は純粋に聖女の騎士として強くなりたいんだろう。昔のオレみたいに嫌々じゃなさそうだ。

 「不満があるの?」

「いえ、鍛錬を積みます!」

戦いが終わったら・・・かな。


 「・・・あとで大事な話がある。それと・・・今夜はご馳走を食べたいとナツメに伝えておいてくれ。お前の好きなものも頼んでおくといい」

「あ・・・はい!」

「今日の鍛錬はほどほどでいい。夕方の鐘までには帰ってくるんじゃぞ」

ヴィクターさんが息子の頭を撫でた。

ちゃんと父親もやってる・・・。

 「わかりました!では失礼します!」

男の子は走って屋敷の庭を出て行った。

あのまま成長してほしいな。



 「あ、そうだ。ニルスも気になってたけど、メイプルってどういうことよ?」

ミランダは遠ざかる男の子を見ながら言った。

そういえば、それも聞きたかったな。


 「初代騎士ヴィクター・メイプルには弟がいた。それが初代王じゃ」

そうだったのか・・・。

 「嘘・・・そんなのアカデミーで教えてもらってないよ」

「隠しておいた方がかっこいいと初代が決めた。理由はそれだけらしい」

「うわ・・・変な一族」

王家と繋がりがあるなんて・・・だからどうだって話だけど。


 「ちなみにメイプルの名も普段は隠している」

「まあそうよね・・・。なんで今回は名乗ったの?」

「ステラ様の名を知っていたこと、女神様も出してきたこと、それと・・・ニルス殿の髪の毛じゃな。信用に値すると思ったんじゃ」

「あ・・・なるほど、たしかに女神様もおんなじ髪の毛だって言ってた」

シロが呟いた。

 その話は聞いてないぞ・・・。

あ、そういえばヴィクターさんが見てたっけ・・・。


 「もう案内してよろしいか?」

「もう一個、今何歳?」

ミランダがヴィクターさんの顔を覗き込んだ。

 「・・・七十一じゃ」

「え・・・なんでこんなおじいちゃんになるまで子ども作んなかったのよ?」

「なかなか授からなかっただけじゃ・・・」

ヴィクターさんは溜め息をついた。

まあそういうことも無くはないか・・・。


 「相手ってさっき言ってたナツメって人?何歳?」

「ナツメは妻で間違いない。・・・三十八じゃな」

「え・・・三十三も離れてんの?やばいでしょ・・・」

「あまり詮索するものではないぞ・・・」

オレも気になったけど・・・たしかに失礼な話だな。


 「もしかして若いの好き?さっきからあたしのお尻見てるよね?」

「・・・触りたい」

「奥さんに言うよ」

「じょ、冗談じゃよ。・・・もういいな?付いてきなさい」

ヴィクターさんが屋敷の扉を開けた。

緊張してきたな・・・。


 ・・・アリシアに似ていないでくれ。

心配事はそれだけだ。

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