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Our Story  作者: NeRix
水の章 第一部
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第五十九話 報い【ニルス】

 あれ・・・ここはどこだっけ・・・。

目が覚めるとベッドの上にいた。


 ・・・微かに明るい、まだ夜明け前か。

ああ、この天井は見覚えがある。・・・父さんの家だ。


 なんだか頭がぼやけている。

ここにいるってことは、さっきまでのは夢?

 旅に出たもんだと思ってたけど、ずっと寝てたのか?体・・・なんかだるいな・・・。

オレはまた目を閉じた。


 斬られて、骨も折られた。

でも体はなんともない。・・・まあ夢だったんなら当たり前か。

でなければここにいるはずがないしな。


 ・・・よく憶えてないけど、きのう夜に父さんからお酒でも飲まされたんだっけ?

・・・たぶんそうなんだろう。


 もう少しだけ寝よ・・・。


 

 ・・・眩しい。

また目が覚めた。

 今度はさっきよりも意識がはっきりしている。父さんは・・・まだ寝てるのかな?

・・・起こしに来るまでオレも寝てよう。


 夢では、オレと一緒に剣を作って死んでしまった・・・。

ふふ・・・剣を作って死ぬって何だよ。面白い話だからあとで教えてあげよう。


 ミランダとシロ・・・。

夢なのに名前もはっきり憶えている。あの二人は実際にいるのかな?

いるんなら・・・逢いたい。あんな仲間ならきっと旅も楽しいはずだ。


 アリシア・・・いや、人形だっけ。・・・ひどいこと言われた。

 『ルージュがいるからお前はもういらないんだ。帰ってきてほしいとも思っていない』『お前が出て行った日は、今までで一番嬉しかった』

オレが「もしそうだったら嫌だな」って想像していたこと全部・・・。

 

 父さん・・・早くこないかな・・・。

できれば、向こうから来てほしい。だから根比べだ。


 「・・・ニルスは起きた?」

「・・・まだみたい、でも寝返りはしてるから大丈夫だよ」

部屋の外からとても小さい声が聞こえた。

まどろみの中で、夢と現実が重なってる・・・そんな気分だ。



 目を閉じてしばらく経つ、瞼だけじゃごまかせないくらい明るくなってきた。


 父さん遅いな・・・もういい、オレが起こしに行こう。

体を起こすとベッドが軋む、いつも通りだ。


 「これ・・・」

起き上がって、まず目に入った腕には傷痕があった。

夢と同じ、たしか大きな狼の爪・・・。

 『・・・ごめんね』

治してくれた人・・・大切な記憶。


 『あはは、旅人は自由なんだよ。・・・ほら、あの白い雲も、空も、今吹いてる風も、一緒に行けって言ってるよ。だから・・・あたしたちはもう仲間だね』

『僕・・・戦うのは恐い!それでもいいならニルスと一緒に旅を・・・自由な旅をしてみたい!』

ミランダ・・・シロ・・・。

目の前の世界がぼやけ始めた。


 「ああ・・・」

壁には胎動の剣が立てかけられている。

 『ニルス・・・愛しているよ・・・』

父さん・・・。

 なにが夢だよ・・・。

全部・・・現実じゃないか。

 

 現実・・・ミランダとシロ!

すぐに部屋を飛び出した。

 泣いてる場合じゃない。あの後どうなった?なんでオレはここにいるんだ?

二人は・・・無事なのか?



 「ミランダもスープ作れるんだね」

「あのさ・・・あたしだってこれくらいできるよ」

「ちょっと食べていい?」

「あっダメ。ニルスが起きてから」

炊事場から二人の声が聞こえた。

大切な存在・・・生きていてくれた・・・。


 「二人とも・・・無事だったんだな・・・よかった」

そっと近づいて声を出した。

 「あ・・・」「ニルス・・・」

すぐに二人が気付いてくれて・・・抱きしめられた。

暖かくて柔らかい、そして心地いい・・・。


 「ニルス・・・よかった・・・」

「ミランダ・・・シロ・・・ごめん、オレは二人を守れなかった・・・」

「・・・」

ミランダはオレの胸に顔を埋めて泣き出した。

ていうか、オレが泣かせたのかな?・・・情けない。



 ミランダが落ち着いて、三人でテーブルに座った。

記憶がおぼろげだ。恐いけど、どうしてここにいるのかを知る必要がある。


 「ジナスの剣を受け止めて・・・それから憶えてない。あのあと何があった?」

たしか・・・ミランダの危機を見て・・・体が動いたんだっけ・・・。

あれは人生で一番痛かったな・・・。


 「ニルス、その前に一つ聞きたい。とても痛くて、辛かったと思う。・・・君はこれからどうするの?」

シロがオレの目をじっと見つめてきた。

いつもの幼い雰囲気は無く、真剣な顔だ。

 「どうする・・・なにが言いたいの?」

「・・・僕は、君から立ち向かう勇気を貰った。・・・だから一人でも戦える」

「はっきり言ってほしい」

「・・・ニルスがもう辛いなら・・・一緒にいるわけにはいかない。これ以上苦しいことはしなくていい」

真っ直ぐな瞳、しっかりと結ばれた口元、色々覚悟してるって感じだ。

それでも底知れない不安を抱えているのを隠せないほど震えた声だった。


 どうしてそんなことを思うんだろう。何を不安になっているんだろう。

 

 「オレは・・・早く自由な旅に戻りたいんだ。二人と風を追いかけて、まだ見たことのない景色を探して・・・」

「ニルス・・・」

「シロもミランダもいないとそれができない。だから一緒に戦うよ。・・・仲間だろ?次は勝つさ」

なにか策があるわけでもないけど、オレの心のよりどころはこの二人だ。絶対に離れたくない。


 いや、思っているだけじゃダメだ。ちゃんと伝えないと気持ちは届かない・・・。


 「勝手だけどさ、オレは二人とずっと一緒にいたい。なんていうか・・・恥ずかしいけど・・・愛しているって言うのかな。・・・そう思ってる」

胸を押さえながら話した。

ミランダが濡らした部分はもう乾いている。


 「ニルス・・・。あたしもそう思ってるよ・・・勝手にね」

ミランダも自分の胸を押さえた。

 「ありがとう・・・僕もそうだ・・・勝手にそう思ってるよ」

今度はシロが泣き出した。

それでいい、色付けてずっと残るようにしてほしい。 


 思いを伝える勇気、昔のオレにそれがあれば違った今になっていたのかな?

だけど、臆病者の自分がいたから二人と出逢うことができた。

 それに気付けた今から、自分が選んだ道は正しかったと信じていこう。

仲間を大切にしたいから・・・。


 「オレは二人のためなら戦える。だから、全部話してほしい」

二人が悲しむようなことは絶対にあってはいけない。

どうにかできるように必死で考えるんだ。



 「・・・一方的に決めてジナスはいなくなったんだ」

シロが重く低い声で教えてくれた。

なるほどね・・・。

 「そうか・・・まあ、殺しはしないって言ってたからな・・・。」

オレが気絶した後、ジナスは条件を付けて二人を見逃してくれたらしい。

 一年以内に三人で戦場に出ること、そうしなければオレに近しい存在を殺していく。まずは・・・ルージュ・・・。


 「ニルスが逃げられないようにしたんだ。人質なんて卑怯なことを・・・」

「オレはそう思わない。弱い所を突くのは当然だし、要求を通したいなら選択肢を奪うのが普通だ。・・・例えばオレがシロと敵対することになったら、まずメピルを奪うよ」

「だけど・・・」

「胎動の剣が恐いと言っていた。きっと本心からの言葉、自分の存在がかかってるんだから綺麗も汚いもないよ。・・・まあ安全な隠れ場所があるらしいけど、消えるくらいならなんだってやるだろ」

やり方に関して責める気はない。それが当然なんだ。

 だから、こっちだってどんな手でも使わせてもらう。

ただ、憤りはある。ルージュを巻き込んだ・・・。


 「シロ、ジナスが出した条件はそれだけ?」

「うん、それだけ。ニルスがもう戦いたくないって言ったら話さないつもりだった。あれだけ痛めつけられたんだもん・・・」

「まあ・・・そう思うのは仕方ないよ。必ず守るって言ってできなかったからな。けど、もうそういう気遣いはしなくていい。なんでも話して」

二人がいるからオレは立ち上がれる。だからもっと信頼してほしい。


 「ニルスは・・・やっぱり強いね・・・僕ももっと・・・」

シロが俯いた。

強くなんか無いよ。さっき打ち明けたんだけどな・・・。

 「目覚めて・・・二人がいたからだよ」

「・・・あたしたち?」

ミランダがシロの頭を撫でた。

 「もしいなくなっていたら、もう無理だったと思う・・・」

止まっていたオレの世界が回り出した時、すぐそばにいてくれた仲間。これからも一緒にいたい。


 「・・・そうだ。なんでこの家にいるんだ?二人に場所を教えたことは無かった。あ・・・鍵もかかってたはずだ」

ちょっと恥ずかしくなったから話を進めた。

なんにしても、聞いておかなければいけないことだ。

 「鍵は・・・シロに触ってれば、壁をすり抜けられるから・・・」

「そうなんだ・・・じゃあ、この場所は?」

「ジナスが去ったあと、女神様と会ったんだ」

「え・・・」

女神・・・。

 「あたしも一緒に聞いてた。これからどうすればいいか、道も全部教えてくれたんだよ」

ミランダの顔が明るくなった。

希望はあるらしい。・・・でも女神って、封じられてたんじゃないのか?



 「精霊鉱と輝石と不死の聖女ステラ・・・」

「そう、女神様が用意した対抗策。精霊鉱の剣はもうある。残りを全部揃えて、戦場の終わりにジナスの所に攻め込む。あとは弱らせて、聖女の転移で女神様の作った結界の中に連れてけばあいつは終わり」

聞かされたのは、とても大きな話だった。

オレはいつからこの流れに入ってしまったんだろう・・・。


 「で、アリシアも・・・」

「うん、本当はアリシア様をジナスにぶつけるつもりだったって」

「・・・老けないのは理由があったのか」

「そう・・・雷神じゃなくて、女神の隠し子だったってこと。ニルスは孫だね」

そんなに衝撃は無かった。

孤児院出身・・・それ以上は気にしたことなかったからな。


 「あんま驚いてないね」

「一緒に生活してきたからかな。母親が聖女みたいな存在だったって言われても・・・」

「ああ・・・近すぎてか。たしかにそう思うかも」

寝る姿も、食べる姿も見てきたし・・・。

 「そういうことだと思うよ。オレにとっては・・・普通の人間だ」

「普通ではないでしょ・・・。叫びとか」

「ああ・・・毎朝起きたら叫んでたな。だから周りに誰も引っ越してこなかった」

「あんたも使えればね。あ・・・でも、妹のルージュとかはできるかも」

叫びの力はオレには無いけど、戦闘能力は受け継いでいるらしい。

オレの場合は戦うためじゃない、守るために使おう。


 「輝石はあと二つ、イナズマとチルに会わなくちゃいけない」

シロが話を戻した。

 「それでシロは精霊の力が使えるようになるんだな?」

「そう聞いた。ニルスとミランダも体の自由を奪われたでしょ?それも防げるようになる」

シロが持っていたもの、オレがオーゼから受け取ったもの。残りはイナズマ、そしてまだ会ったことのないチルという精霊が持っている。


 「オーゼじゃなくて、イナズマを最初にしてれば変わってたかな?」

「今考えても仕方ないよ。僕は後悔してない」

「そうだよニルス、オーゼを先にしたからシルを助けられたんじゃん」

「シル・・・たしかにそうだね」

それにアリシアとロイドさんも救えた。

そう・・・前だけを見よう。


 「イナズマにはもう会ったの?」

「まだよ。あたしたちだけより、ニルスが起きてからって二人で話してたんだ」

「あとで呼んでみる」

イナズマか・・・なんか不思議な気持ちだ。

 すべてを女神から伝えられていた精霊・・・。

父さん・・・やっぱりなにか聞いていたの?


 「まあ、すぐ会えるだろうから輝石はあと一つみたいなもんだな。チルっていう精霊はキビナにいるのか?」

「そうみたいだよ。シロ、地図」

「うん」

テーブルに大陸の地図が広げられた。

ミランダがいくつか印をつけてくれている。


 「ここ・・・ニルスが言ってるのも間違いない?」

「うん、間違いない。キビナ山脈・・・霊峰キビナは大陸一高い山だ」

シロの小さな指がさしたのは、行ったことはないけどオレの記憶の中にあった場所だ。


 『北部のずーっと奥の方にあるんだよ。どの季節でも雪の帽子をかぶってて、いつ行っても冬みたいに寒いの』

『その山のどこかに、精霊の輝石っていうお宝があるんだって』

セイラさんが教えてくれたことは本当だった。 

 『じゃあオレがそれを見つける』

ああ、そうだったな。幼い自分が思い描いていた景色を見に行くことができる。


 「チルは僕より恐がりだから隠れてるかも、最悪山の中を探さないといけない・・・」

「それだと準備がいるな・・・」

ずっと雪の帽子・・・寒さに負けないくらい暖かくしないといけない。

・・・オーゼみたいにすぐ出て来てくれればいいな。


 「輝石はすべて北部で揃うか・・・」

「うん、だから聖女は・・・一番最後」

ミランダの指が南部の一番下まで這っていく・・・スナフ、大陸の最南端だ。

そしてスコットさんとティララさんの故郷でもある。

どんな風景なんだろう・・・。


 「魔法を初代王に伝えたのが聖女・・・誰も知らない歴史だね。たしか・・・死者を蘇らせるくらいの力もあるって話だけど、今まで信じてなかったんだよね」

ミランダが顔を上げて微笑んだ。

 「うーん、そういう人の方が多いと思うよ。王の手助けをした人ってしか教わってないからな」

「だよね・・・外出てこないし。不死ってのも嘘かと思ってた」

「でも、全部本当だった」

スコットさんたちも「会ったことない」って言ってたし、信じてない人がいるのも仕方ない。

まあ・・・オレは夢があるから信じてたけど・・・。



 「じゃあまずはイナズマ、次にチル。そして最後に聖女ってことね。騎士は事情を話せば会わせてくれるかな?」

ミランダがこれからのことをまとめてくれた。

近いところから・・・どのくらいかかるか・・・。


 「騎士・・・女神様が言ってたね。ニルス、どんな人か知ってる?」

「聖女をずっと守ってて、とても強いってくらいかな」

「え・・・ニルスよりも強いの?」

「どうだろうな・・・」

話してわかってくれるならそれが一番いいけど・・・スコットさんが言うには勝たなければ通してくれないらしい。

・・・この事情でも同じなのかな?


 「まあとりあえず全部集めよう。・・・長く見ても一年はかからないな」

歩きじゃ間に合わないから、馬車を手に入れないとダメだけど。

 「長くって・・・一年じゃ遅い。あんた・・・ルージュの話忘れてない?」

ミランダが眉間に皺を寄せた。

会ったことないあの子を案じてくれてるのは嬉しい。


 「忘れてないよ。・・・凪の月の方が楽だ」

「そうだよ。間に合わなかったら殖の月になっちゃう。そしたら戦場に出てジナスの声を待たないといけなくなるんだよ?」

ジナスがオレを待つ猶予は一年、来年の殖の月に出なければルージュが殺されてしまう。

 半年後の凪の月に間に合えば、今回みたいに安全な場所で戦いが終わるのを待っているだけでよくなる。

けど・・・。


 「戦場・・・出ようと思ってる」

「え・・・」「・・・は?」

シロとミランダが目を丸くした。

 「どっちにしろジナスと戦うんだ。それなら・・・少しでも鍛えた方がいい」

「でも・・・戦場は・・・」

「出たくないよ・・・。だけど、確実に剣が届くかどうか自信が無い。輝石があっても、精霊と聖女がいても、精霊封印の結界があっても・・・オレが強くならなくちゃいけない」

あいつの条件を飲まないといけないのは腹が立つけど、もっと・・・もっと鍛える必要がある。そして、誰よりも前に立つ・・・。


 「本当にいいの?」

「まあ・・・死守隊にしてもらうよ。戦うのはジナスだけにしたいし・・・」

「あたしたち二人も?」

「そうだね。一番安全な場所だ」

戦場に出たとしても戦わない。これだけは通させてもらう。


 「ねえニルス、戦場に出るならアリシア様とも協力するんだよね?」

ミランダが遠慮した感じで笑った。

協力・・・。

 「・・・必要ないよ。軍団長にだけ話すつもりだ。訓練場にも顔を出す気ないし。名前を伏せてもらって、当日も顔を隠して出る・・・」

「なんで意地張んのよ。アリシア様も強いし、それに精霊鉱の剣も持ってる。女神様も言ってたから一緒に戦ってもらった方がいいって。・・・負けらんないでしょ?」

意地か・・・そうなんだろうな。

仲間には、思ってること言わないと・・・。


 「人形に言われたことがずっと残ってる・・・。会うのが・・・話すのが恐いんだ。それにアリシアがいなくても倒せるくらいまで鍛える」

「それをまた利用されたらどうするのよ!」

「大丈夫だ。もう・・・揺らがない」

「もう・・・ちょっとお湯沸かしてくる」

ミランダが立ち上がった。


 あの時は急に出されて戸惑っただけ、来るとわかっていれば準備ができる。・・・挑む前に心を凍らせて、アリシアの幻影に今度は勝ってみせる。


 『君の心の傷・・・忘れさせることはできても、治すのはアリシアにしかできない。・・・どうしようもなくなったら会いに行くんだよ』

平気だって思ってるのになんで思い出すんだろうな。


 「ねえニルス、鍛えるなら時間は多い方がいいと思う。・・・だから僕だけキビナに行く。二人はステラの所に向かってほしい」

シロが小声で囁いた。

不安そうな顔・・・させるわけないだろ。 

 「大丈夫だよ。一緒がいいんだ」

「ニルス・・・」

「絆・・・思い・・・共にいる時間が強くしてくれる」

「・・・うん、僕もそうしたい」

気持ちを高めること、シロもわかってくれたみたいだ。

まあ、どんな理由があっても離れないけどね。



 「あんたの考え、尊重するよ。・・・はい」

ミランダが戻ってきた。

オレとシロの分の紅茶も用意してくれてる・・・。


 「ありがとう。もっと強くなるから」

「ニルスは攻めることだけ考えてていいよ。今度は・・・あたしが守るからさ」

「・・・守護?」

「そう、あたしも前に出る。・・・いい師匠もいるしね」

シロの紅茶に砂糖が入れられた。

 ミランダには守護の高い素質があったらしい。

女神に教えてもらって、これからシロと一緒に鍛えていくみたいだ。


 ジナスとの戦いにミランダを連れて行きたくないんだよな。

それに輝石は四つしかない、敵の巣にそれ以上の人数を連れて行くのはどうなんだろう?

 オレと聖女と精霊封印の使えるシロとチル・・・が最適な気がする。

でも、どう言っても付いてきそうな雰囲気だから・・・鍛えるしかないか。


 「鍛錬はした方がいいと思うけど、とりあえずミランダは後ろに・・・」

「それ以上言ったら、あんたが窒息するまで顔の上に座るからね」

「でも・・・」

「もう後ろに隠れてるのは嫌なの」

守護・・・心強い力だとは思うけど、集中力は持つのかな?

オレが助ける前、ジナスに近付かれて震えていたように見え・・・。

 「ミランダ!」

その時の記憶が鮮明に蘇ってきた。

オレがあの状態で立てたのは・・・。

 

 「な、なにニルス・・・急に立ち上がって」

「服の下・・・見せてほしい」

近付いて、答えを聞かずに捲った。


 肩から腹にかけて大きな傷痕、あの時付けられたもの・・・。

そうだ・・・見た瞬間、痛みを超えて動くことができた。


 「女神でも治せなかったのか・・・」

傷一つ付けさせずに・・・それもできなかった。

 「平気だよ・・・こんなの・・・」

ずっと残る傷痕、それを見る悲しそうな顔・・・。


 「この借りは、必ず返す・・・」

「ニルス・・・」

闘志、それは大切な存在を思えば湧いてくる。


 『なあニルス、お前がこんなに弱いはずないだろ?』

その通りだジナス・・・。

仲間の傷と流れた血、報いは必ず受けてもらう!

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