エピローグ
「・・・悪いけど、オレたちの物語はこれで一旦終わり」
語らいはここまでにしよう。
もう、行かなければ・・・。
◆
「全部・・・思い出せたんだよね?」
「そうだよ・・・ありがとう」
目の前の少女には妹の面影があった。
だから気にかけていたんだと思う。
「ごめんなさい。引き留めるつもりは無いんですけど、今聞いた歴史は・・・誰も知らないです」
「・・・この星は一度砕けた。作り直されたのさ」
「砕けた・・・なにがあったんですか?」
「・・・またの機会にしよう。オレは・・・仲間を待たせている。遠く・・・遠く・・・遠く・・・早く会わなければならない」
この少年には悪いけど、今優先するのは仲間たちだ。
でも探究心はわかる。
・・・ちゃんと教えるよ。
「会いに・・・行くんですね?」
「早く行った方がいいですよ」
かわいらしい少女二人は察してくれた。
そう、会いに行くんだ。
「また来るんだよな?」
「すぐに戻るさ」
「すぐはひどいな。ゆっくりしてきた方がいいよ」
「いや・・・仲間を紹介したいんだ」
背の高い少年二人は、立ち上がるオレを微笑んで見ていた。
旅人は自由なのさ。
「どこにいるか・・・場所わかんの?」
「どうにか私たちで探してあげられればいいんだけど・・・」
「繋がりの話があったわ。呼びかければいいんじゃないかな」
大人びた少女と老婆、そして成熟した女性がその心配をしてくれた。
「繋がり・・・一度切れたんだ。それから会っていない・・・」
「じゃあどうするのよ・・・」
「・・・これを使う」
鞄からベルを取り出した。
「あ・・・不死者の?」
「そう・・・じゃあまたね」
オレは妹の頭を撫でて、その場を離れた。
これでよかったのかはわからない。
だけど、あの子は幸せそうだった。
◆
「ハリス・・・。すぐに来てくれよ・・・」
ベルを鳴らした。
オレの心を抱えて、世界の果てまで届く音色・・・。
◆
遅いな・・・。
◆
・・・夜明けまでに来なければ、他の土地に移動しよう。
そこにいる者たちから伝えてもらえばいい。
◆
・・・そうか。
探すしかないな。
◆
「ふふ、お待たせしました・・・ニルス様」
旅立とうとした時、懐かしい声が耳に入り込んできた。
なんだ・・・ちゃんと来るじゃないか。
「億を越えての再会・・・私も待っていました」
「なら・・・もっと早く来てくれよ」
皮肉を言いたかったわけじゃない。
ただ、あの頃と変わらないやり取りの方がいいだろう。
「先にみなさんへ報告をしてきたのです。・・・あなたが一番最後です」
「そう・・・みんな役目は終わっていたのか・・・」
「はい。あなたは時間をかけ過ぎです」
仕方無いことだ。
愛のある命を探していたからな。
でも・・・それだけじゃない。
「記憶が流れていたせいもある・・・」
「シロ様もミランダ様も・・・みなさんそうでした。果ての彗星、運命戦争・・・戦いの代償ですね」
そうだったな・・・。
「・・・憶えてる。いや、思い出したよ」
「ちなみに、女神とジナス様はまだ目覚めていません。仲良く眠っています」
「なにも事が起こらない限りはその方がいい」
「・・・仰る通りです」
まあ・・・感謝はしている。
「では、早く行きましょう。ステラ様の氷の棺は、あなたが到着したら解くそうです。ただ・・・目覚めには、あなたの口づけが必要だと仰っていました」
腕を引かれ、影に沈んだ。
口づけ・・・。
そうだな、それで目覚めるんだった。
◆
「ルージュの魂を持つ少女がいたんだ」
影の中、記憶と感情を取り戻すきっかけを話したくなった。
「オレはその子を・・・精霊にしてしまった。終わるまで待たずに・・・」
「・・・」
「気付いたのはさっきなんだ。残酷な言葉もぶつけてしまった・・・。いい子なんだよ・・・。記憶を探してくれたんだ」
「引かれ合ったのでしょうね」
そうなのかもしれない。
あの子がいなければ、オレはずっとこの土地をさまよっていただろう。
「シロ様たちも仰っていました。精霊にした者の一人が助けてくれたと。・・・なぜか感情を持ったままだったとも」
「・・・偶然じゃ・・・ない?」
「そうです。ルージュ様や他の弟妹たち・・・ああ・・・アリシア様もそうですね。どなたかの魂だと思われます。・・・いいお兄様だったのでしょう?」
「なるほどな。母さんやあの子たちがみんなの力になってくれたのか」
気が遠くなるほどの昔・・・たまに戻った時に遊んだり、相談に乗ってやっただけ・・・。
それが今返ってきたわけか。
「・・・オレが一番最後って言ってたけど、みんな終わってたの?」
「はい」
「リラとチルも?」
「はい」
他には・・・。
「バニラも?」
「はい」
「モナコも?」
「はい」
「・・・ニコルさんも?」
「しつこいですね。あなたが一番最後です」
からかわれそうだ・・・。
「そういえば、オレの土地に知らない精霊がいたんだ。位が低いのにオレを認識できた。口も割らなかったから、知ってる精霊が作ったんだと思うんだけど・・・誰がやったか聞いてる?」
「知りません。人間である私は多忙なのです」
「今は何をしてるの?」
「もう到着ですよ」
教えてくれないのか。
まあいい、すぐにわかるだろう。
◆
「この扉の先でお待ちです。再会ののちはどうされるのですか?」
出た場所は精霊の城だった。
ハリスは何年経っても嫌味な笑い方のままらしい。
「旅をするんだよ。まずはオレの土地を見てもらおう。そのあとはみんなの任された場所だな」
「なにかあればお呼びください。では、再会の邪魔はできませんので失礼いたします・・・」
一人で扉の前に残された。
どうせ影に隠れて見てるんだろうな。
まあいい、また世界が回り始める。
思い出を語り合い、もう一度色濃く染めていこう。
◆
「待たせた。旅を再開しようか」
勢いよく扉を開けた。
「準備はできてるよ」
「遅すぎー」
そこには、変わらない仲間たちが旅支度を済ませて待っていた。
「氷の棺はもう解けてるよ」
「ふふ、早く起こしてやんなよ」
「そうだな・・・」
あとは目覚めの口づけだけ・・・。
「ん・・・ふふ、おはよう」
「おはよう。すぐ動ける?」
「もちろん」
「じゃあ・・・出発だ」
新しいオレたちの物語。
早く続きを見に行こうか。
Our Story【完】
約一年、ありがとうございました。
次の物語も書き進めています。
秋から春にかけてのお話で、すべて書き終わったら投稿していきますのでよろしくお願いします。




