第四百四十話 わたしのお父さん【ルージュ】
わたしにはお父さんがいない。
物心がついた時からそうだったから、あんまり気にしたことは無かった。
セレシュの家はいいな・・・。
なんて思うこともあったけど、お母さんに抱っこされて寝ると次の日には忘れていた。
それくらいたくさんの愛を渡してくれていたんだと思う。
というか、もう死んでいるって教わってたからどうしようもないのはわかってたしね。
だけど、実はお兄ちゃんがいたことがわかってとっても嬉しかった。
それも、想像していた通りのお兄ちゃんだ。
それだけでも幸せだったのに、もっとずっと上があった。
・・・これが夢じゃないことを信じて眠ろう。
◆
「明日の朝にいなくなってたりしない?」
わたしはお父さんの胸に顔を埋めている。
そうなっていたら本当に怖い・・・。
だから言わずにはいられなかった。
「大丈夫、ちゃんといるよ」
「わたしがひとり占めしていいの?」
「ニルス君とはきのうまでにけっこう話してたからね。みんなのこと、たくさん教えてもらったよ」
「ずるい・・・あ・・・」
お父さんが頭を撫でてくれた。
剣だった時はできなかったこと、お兄ちゃんにはしてなかったこと。
こういう応え方は・・・好きだ。
「ごめんね。あ・・・明日の朝は、キノコがたくさん入ったスープがいいな」
「うん、約束ね。たくさん食べないとダメだよ?」
「うーん・・・まだお腹いっぱいなんだよね・・・」
「約束して・・・」
無いと不安だ。
「わかった、頑張って食べるよ。早く仕事を再開できるようにならないといけないしね」
「そうだよ。じゃあ・・・おやすみ?」
「そうしようか。おやすみルージュ、愛しているよ・・・」
ぎゅっとされていると頭の中がぼやけてきた。
お母さん、お兄ちゃん・・・同じだ・・・。
◆
夜が明けた。
お父さんはちゃんといてくれて、一緒に顔を洗うことができる。
「きゅ!」
「よろしくねカク君」
「きゅー」
カクが朝の挨拶をしに来た。
「ありがとうカク君、ルージュちゃんを守ってくれたね」
「きゅ」
「ふふ、この角は綺麗だね」
「きゅう」
カクも気に入ってくれたみたいだ。
うーん・・・ユウナギはなんで懐かれなかったんだろう?
◆
「まずは精霊の城に行きましょう」
朝食を食べ終わるとハリスさんが来てくれた。
ふふ、とってもいい笑顔だ。
「待って・・・食休みが欲しい・・・」
お父さんは本当にたくさん食べてくれた。
あれがお肉になっていくんだろうな。
「ハリス、精霊の城になんの用があるんだ?」
お兄ちゃんも明るい。
お母さんもこうなるよね。
「ずっと土の下にいた人間が本当に健康なのか・・・。紹介がてら医者に診てもらおうと思いました。ご家族も安心したいでしょう?」
「そうしようお父さん。病気とかあったらやだよ」
「え・・・ああ、わかった・・・診察か・・・」
「毎食ここまで詰め込むのであれば、消化を助ける薬もいただきましょう・・・」
病気とかは無いと思うけど、可能性があるってわかると不安だ。
でも、モナコさんなら信用できる。
◆
「しっかり掴まっていてください」
みんなで影の中に入った。
「へー・・・こんな感じなんだ・・・」
お父さんは初めてだからちょっとおどおどしている。
「ねえハリス、これって落ちたらどうなるの?」
「落ちるだけです。どこまでも・・・どこまでも・・・。そうなったら私ではどうしようもありません」
「えー・・・。ニルス君も僕をしっかり掴んでてね?」
「暴れなければ大丈夫だよ・・・」
お兄ちゃんは困り顔をしたけど、お父さんの腕をしっかりと握った。
いなくなってほしくないのはわたしと同じだ。
「ていうかなんで落ちたらどうなるか知ってるの?あ・・・誰か落としたことあるんでしょ?」
「どうでしょうね・・・」
本当に落としたことあるのかな・・・。
◆
「あれ・・・ここはどこだ?精霊の城ならひと息で行けるだろ」
影から出るとどこかの平原だった。
「・・・ベルは鳴らされなくともある場所はわかるのですよ」
ハリスさんは少し離れた所を指さした。
見覚えのある馬車が停まってる・・・。
「なるほど・・・嫌な奴・・・」
「ああ・・・そういうことか。たしかに嫌なことするね・・・」
お兄ちゃんとお父さんがハリスさんをじとっとした目で見た。
あれはお母さんたちだ。
外で火を焚いて、朝食を取っているみたい。
「もう少し近付きましょう」
わたしたちはまた影に潜った。
・・・大丈夫かな?
◆
「・・・お前の目はいつ乾くんだ?」
「でも、きのうよりは落ち着いてるよね」
馬車の裏に回って顔だけを出した。
姿は見えないけど、お母さんはずっと泣いていたみたいだ。
「泣いてるぞ。父さん、心は痛まないの?」
「・・・」
「今出て行ってもいいんじゃないの?」
「・・・」
お父さんは切なそうに微笑んでいた。
会いたいんだよね・・・。
「わかっていたけど、ずっと想っていてもらえたのは嬉しいね」
「・・・どういたしますか?」
「再会は劇的に・・・そうしたい。だから泣いていてもらおう」
数日後、お母さんに大きな幸福があるのは約束されている。
だけど・・・今泣いているのを見たら放っておけないって気持ちもあるんだよね・・・。
「意地の悪さは変わりませんね」
「君ほどじゃないよ。わざわざ僕の心をえぐらなくてもいいだろ?」
「実は生きていた・・・。ひどい裏切りです」
「僕だってそうなってから知ったのに・・・もう行こう。嬉しいけど、心も本当に痛いんだ・・・」
顔しか見えないけど、お父さんは胸を押さえているみたいだ。
わたしもちょっと苦しいな・・・。
「本当にいいのですね?」
「うん。再会は・・・出逢った場所がいい。ここじゃないよ」
ああそうか・・・うん、それがいい。
ごめんねお母さん。
でも、絶対大丈夫だよ。
◆
精霊の城に着いた。
いつぶりだろう・・・。
「だから記憶が見つからなかったのね・・・」
「痩せすぎだけどいい男だな」
「わあ・・・幽霊じゃないですよね?」
「死人が戻るってあるんだ・・・」
みんなは説明を聞いてもそんなに驚かなかった。
受け入れるの早いな・・・。
「ん・・・ということは、ケルトさんはわたしのお義父様になりますね」
バニラさんが手を鳴らした。
あ・・・そうなるのか。
「どういう意味かな?」
「シー君のお母さんはアリシアさんになるので、必然的にそうなります。ニルスさんとルージュちゃんとは義兄妹になりますね」
「シロ君がどう思ってるかはまだわからないよ」
「きっと喜びます。ね、メピルさん?」
「あ・・・うん・・・」
メピルさんはもじもじしている。
なんかかわいい・・・。
「ふふ」
お父さんが優しい笑顔でメピルさんに近寄った。
「まだイナズマとリラちゃんしか見たことないけど、精霊はみんな綺麗なのかな?」
「あ・・・えっと・・・」
「アリシアがお母さんなら、僕も君のお父さんになりたいな」
お父さんはメピルさんの手を取った。
そうしたいって思うくらいかわいいもんね。
「えっと・・・いいの?」
「うん、よろしくねメピルちゃん」
「あ・・・うん」
「普段の感じでいいよ」
「じゃあ・・・ぎゅっとして」
メピルさんは幸せそうだ。
いいな・・・。
わたしもまたしてもらおう。
◆
「この城いいな・・・」
診察のために、ベッドのある部屋へ移動することになった。
「僕綺麗なものが好きなんだよね」
お父さんは壁を触りながら歩いている。
「その割に家の掃除はあまりしませんでしたね」
「う・・・いいんだよ・・・」
そうなんだ・・・。
お父さんのこと、もっとたくさん知っていかないとな。
「この間来た時も思ったけど、なんかけっこう変わったね」
お兄ちゃんも周りを眺めながら歩いている。
「メピル、夜会の準備ってこと?」
お城は宿みたいにお部屋が増えていた。
間取りもけっこう変わってる。
「そうだよ。みんなお泊まりするからお部屋を増やしたり、調理場も大きいのを作って、お風呂は来た人みんなで入れるくらいもっと大きくしたんだからね」
メピルさんはお兄ちゃんにべったりだ。
かわいい・・・わたしもみんなからああいう感じで見られてたのかな?
「モナコちゃんは、いっつも僕と一緒に入りたがるよね・・・」
「別にいいだろ。それにメピルとバニラも一緒じゃねーか」
とんでもない話だ・・・。
「あの・・・四人でお風呂入ってるんですか?」
意外・・・。
メピルさんは精霊だから気にしないだろうけど、バニラさんまで・・・。
「うーん・・・なんかニコルさんって大丈夫なんだよね。なにもしてこないし、それに押し倒されても絶対に勝てそうだし」
「見られるのは平気なんですか?あ・・・湯浴みとかですね?」
「裸だよ。女の人に興味無いみたいだし、ルージュちゃんも大丈夫だよ」
たしかに押し倒されたとしても確実に勝てる自信はある。
だけど、わたしは抵抗があるな・・・。
「あれ・・・ちょっと待ってください!夜会の日はどうするんですか!」
「心配しなくて大丈夫よ。みんなのお部屋に湯浴みを置いておくからそれで入ればいいの。えーと・・・ロレッタっていうところと一緒」
「なんだ・・・」
それなら大丈夫かな。
というか、自分のを持ってこよう。
「見てハリス、ここの細工がいい。月明かりと舞い落ちる雪・・・そんな感じだね」
お父さんはこっちの話は聞こえてないみたい。
「ケルト様、見学はまたあとにしましょう」
「つーかイナズマとリラはどーしたよ?あいつらがいればここに連れてくることなかっただろ」
「イナズマ様はお役目でしょう。リラさんは仕事がありますので」
「嫁にばっかやらせんな。おめーも働け」
ハリスさんはちゃんとお仕事してると思う。
きっとリラさんが気を利かせてくれたんだよね。
◆
「で・・・結果はどうかな魔女さん」
お父さんの診察が終わった。
「栄養が足りねー。もっと食え」
モナコさん・・・いや、お医者さんが言うならそうしないとだよね。
「まあ・・・そこは大丈夫だよ」
「しばらくは酒飲むな。そのかわりスープ飲め」
「え!!!」
いい事だ。
そうすればお肉が付く。
「こんな体で鍛冶なんてよくやってましたね。食べて運動、まずは体を作らないと」
「あはは・・・昔は違ったんだよ」
「スープじゃなくても、ミルクとか絞った果実とか、栄養になるものを飲んでね」
「そっかあ・・・」
ニコルさんとメピルさんも一緒に診てくれた。
知らなかったけど、ニコルさんも特級のお医者さんらしい・・・。
「病気の類いは?父さんはどこも悪くないのか?」
「ああ、ちゃんと食わねーとやべーってだけだ。ニコルより軽いのは相当だからな」
「うーん・・・精霊鉱を使ったからなのかな?それなら、戻ったら体も元通りになってほしかった」
「ちゃんと食えんだから文句言うな。精霊に吸収を助けてもらえば、肉が付くのも早まるはずだ」
あ、そっか。
シロとかカゲロウさんに協力してもらおう。
「ああそれと・・・ちゃんと種はあるからな」
「さっき触ってたね・・・」
「全部診てやったんだよ。雷神が欲しがるかもしれねーだろ?・・・まあ体力付けてからだ」
「そうだね・・・」
お父さんはお兄ちゃんに目を移した。
「・・・気にしてないって言っただろ」
「知ってるよ。どんな顔してるか見たかっただけ」
ああそうだった。お兄ちゃんはもう・・・。
お父さんはそばにいたから知ってるんだったね・・・。
◆
「この子が一番かわいいですね」
みんなの紹介と診察も終わったけど、私たちはまだ精霊の城を出れないでいた。
「へー、これが太陽蜘蛛・・・」
お父さんが動かないからだ。
早くみんなに・・・ユウナギに会ってほしいんだけどな。
「天井に張り付いてたら恐いけど、見てる分には綺麗だね」
「この子たちは刺激しなければ噛んだりしません。でも、主食が水晶なので顎はかなり強いですよ。なのに、どうして巣を作ったりするのか気になりませんか?」
「ああ・・・それは今度で。・・・糸もすごくいい。紡いでなくても芸術品だ」
「わかります?魅力はそれだけじゃなくて・・・」
でも・・・まあいいか。
もういなくならないもんね。
◆
「じゃあ、またねメピル」
お兄ちゃんがメピルさんに微笑んだ。
お父さんもお城を堪能して、ここでの用事はおしまい。
次はテーゼ。
「うん・・・待ってるからね」
「ありがとう」
お兄ちゃんはメピルさんの頭を優しく撫でた。
二人でお出かけの約束をしていたらしい。
「メピルちゃん、君に似合う首飾りを作るね」
お父さんがメピルさんの首筋に触れた。
「本当?」
「もちろん。女の子だし、外に出るならおしゃれしないとね」
「ありがとうお父さん」
メピルさんはとてもいい笑顔だ。
つまり、シロもそうなるよね。
◆
「本当に周りになにも無いんだね・・・」
テーゼに着いた。
「こんな小さい家だったのか・・・」
お父さんの希望で、まずはわたしたちの家だ。
いったいどんなところを想像してたんだろう?
「急いではどうですか?みなさんにお礼がしたいと言ったのはあなたですよ」
「まあまあ、せっかく火山から出れたんだし」
「今開けるね」
家の鍵を開けた。
ユウナギはミランダさんの所にいるから、今この家は無人だ。
◆
「わあ・・・アリシアの匂いがする・・・」
寝室に入ると、お父さんがベッドに倒れ込んだ。
「ずっとこうしてたい・・・」
こういう人でもあるのか・・・。
「変態だな・・・」
「ふふ、そうかな?愛しているなら求めるのは普通だと思うよ」
「・・・」
お兄ちゃんが黙った・・・。
「ああ・・・直接触れたい。あのお尻に顔を埋めたい・・・」
「我が子の前でよく言えますね・・・」
「ハリスはおっぱいだもんね。愛している人のならそうしたいって思わない?」
「・・・」
ハリスさんまで・・・。
そういうことにかなり堂々としてる人だ。
堂々とし過ぎてていやらしく感じない。むしろ、恥ずかしがることが変だって気持ちが湧いてきた。
たしかに、わたしもユウナギの香りとか好きだし・・・。
・・・お父さんと一緒に暮らしていたら、男の子が苦手にはならなかったような気がする。
◆
「ここは・・・書斎か」
「・・・オレの部屋だよ」
お兄ちゃんの部屋に入った。
「わざとだよ。ふーん・・・」
お父さんは優しい顔で中を眺めている。
なにを思ってるのかな?
「なんか普通だね。大きな大陸の地図が壁に張ってあったり、馬車とか船の模型があったり・・・そんな部屋を想像してたんだ。・・・ごめんね」
「なにに謝ってるの?」
「いろいろ・・・ルージュちゃんもごめんね」
頭を撫でられた。
別にいいのに・・・。
◆
「ここがミランダちゃんの・・・大きいな」
やっと商会に着いた。
もうすぐお昼になってしまう。
「ステラちゃんとリラちゃんは僕のこと話してないよね?」
「そのはずだよ」
「・・・」
「お父さんどうしたの?」
なんだか憂鬱って顔だ。
「恥ずかしい・・・。やっぱり帰りたい・・・」
「えー・・・。でもきのうはそんな感じじゃなかったよ?」
「なんか・・・緊張しちゃって」
お父さんはハリスさんの腕を抱いた。
「精霊の城は平気だったでしょう・・・」
「あそこは綺麗だったからそっちで気が紛れたんだよ。それにお医者さんに行くって感じだったし・・・」
「ニルス様・・・」
「行くよ」
二人がお父さんの腕を引っ張った。
わたしも背中を押してあげよう。
◆
「そうそう、わかってんじゃん。いい子にはあとでご褒美あげないとねー」
「え・・・ど、どんな・・・」
「これ・・・踏んでほしいんでしょ?靴と素足・・・どっちがいい?」
「素足が・・・指でなじってほしいです・・・」
談話室の扉の前まで来た。
中からはミランダさんと男の人の声がする。
「・・・何やってんだ?」
お兄ちゃんが目を細めた。
「第二王子への指導中ですね」
あ・・・そっか、そういえば聞き覚えのある声だ。
でも「踏んでほしい」って・・・なんの話だろう・・・。
「なら入ろう。父さん、大きく息を吸って」
「うん・・・」
「吸えよ・・・もういい開ける」
「あ・・・」
扉が開かれた。
◆
「あ?なによあんたら、あっちはもう飽きちゃったの?」
「お邪魔しています・・・」
談話室にはミランダさんとミルネツィオ王子の二人だけだった。
みんなお仕事してるのかな?
「ん・・・誰連れてきたの?」
ミランダさんが立ち上がった。
でもお父さんはお兄ちゃんの背中に隠れてしまっている。
「紹介したくて連れてきたんだ」
「紹介?誰を雇うかはハリスに任せてるからあたしはいいんだけど・・・」
あ、寄ってきた・・・。
「ちょっと顔見してよ」
「・・・」
「おーい、聞いてんの?」
「・・・」
「ふーん・・・」
ミランダさんの口元が妖しく歪んだ。
「おら、顔見せろ!」
「ああ・・・」
簡単に引き離された・・・。
生き返った次の日だし、まだまだなんだな・・・。
「あらあら・・・痩せすぎで・・・しょ・・・」
「な、なにか・・・」
「え・・・」
ミランダさんは、お父さんとわたしたちの顔を交互に見ている。
・・・気付いた?
「似てる・・・。親戚?」
「く・・・」
ハリスさんが噴き出した。
お父さんの顔も赤くなってきてるし教えてあげよう。
◆
「生きてたって・・・嘘だあ・・・」
ミランダさんはお父さんの体をまさぐりだした。
信じてないな・・・。
「あはは・・・そりゃそうだよね。よし、じゃあ次はシロ君に会いに行こう」
お父さんはこれで済まそうとしているみたい。
・・・そんなのダメだよ。
「待って・・・笑った顔も・・・似てる・・・」
「まあ・・・親子だし・・・」
「・・・」
「・・・」
時間が止まったみたいに静かだ。
「あれ・・・みんな何してるの?」
「お昼はもう少しなので待っていてください」
食堂からシロとカゲロウさんが顔を出した。
シロの口は少し動いてて、なにかをつまみ食いしてた感じだ。
「あら・・・連れてきたのね」
ステラさんもふわっと現れた。
この人だけは知ってたんだよね・・・。
◆
「嘘ついてない・・・」
「仰っていることは真実ですね」
シロとカゲロウさんのおかげで、お父さんの言葉が本当だって証明された。
「今、女神様にも聞いてみた・・・。間違いないよ・・・」
そして決定的な事実も。
「ちょ・・・え・・・いや・・・ま・・・」
それでもミランダさんだけは混乱している。
「大丈夫?驚くよね」
「あんた・・・え・・・いや・・・」
「ふふ、きのうのハリスみたいな顔になってるよ」
逆にお父さんの緊張は解けたみたい。
ちょっと慣れれば平気になるんだね。
「ねえ・・・お母さんには会ってないの?」
シロが寂しい顔で近付いてきた。
「そ、そうよ!今のが本当なら、あんたが一番に行かないといけないのはアリシア様のとこじゃない!!」
ミランダさんも頭がまとまってきたみたいだ。
・・・説明は本人からしてもらおう。
◆
「会いたい・・・会いたい・・・たくさん泣いて、諦めきれなくて・・・そして本当に再会・・・。場所は僕とアリシアが始まった場所・・・」
お父さんは、シロたちの顔を見て真剣に話してくれた。
こういうところはかっこいい。
「なんだかわかる・・・。きっとそれが一番いい」
「ありがとうシロ君」
「あ・・・うん」
「ふふ、メピルちゃんと似てるね」
シロももじもじしている。
なら、わたしがそうしてあげよう。
「シロのお父さんだよ」
「え・・・」
「メピルさんはもう娘になったよ」
「あはは・・・シロ君がよければだけど」
お父さんはシロの小さい手を取った。
「お父さんじゃなくても仲良くしたいな。君も美しい魂を持っている」
「僕も・・・お父さんがいい。ニルスたちと一緒で安心する・・・」
「シロ君もそんな感じだよ。こうやって手を繋ぐと安らぐ」
「ふふ、ありがとう」
シロはもう大好きになったみたいだ。
すごくわかる、そういう魅力があるよね。
「驚かせてごめんねミランダちゃん。君は一番最初にニルス君と出逢ってくれた。勇気づけてもくれたし、暖かい言葉も・・・ありがとう」
「別にー、仲間だし普通だよ」
「ふーん・・・魅惑の体つきだね。あんまり近付かれると手が勝手に動いちゃうかも」
「お・・・わかってんじゃん。ニルスとは違うね」
ミランダさんも受け入れてくれた。
お父さんは普通の男の人なんだな・・・。
わかる気がするけど、お母さん以外の女の人をそういう感じで見てほしくない。
「ずいぶん痩せたわね・・・。夢に出てきた時はそんな感じじゃなかったわ」
ステラさんはもう受け入れているけど、この姿は意外だったみたいだ。
「食べれば大丈夫だよ。・・・アリシアとは違うけど、やっぱり綺麗だね」
「一緒なのは髪の毛くらいよ」
「・・・やっとこうやって話せる。改めて・・・ありがとう」
お父さんは顔を引き締めた。
あれには色んな意味が含まれてると思う。
「私はあなたが夢に出てこなくてもニルスを助けていたわ」
「ふふ、恥ずかしいから誰にも言わないでねって約束したんだけどな」
「してないわ。勝手に言ってただけよ」
「そうだったかな・・・。まあ、これからもニルス君をよろしくね」
ステラさんはとっても信頼されているみたいだ。
ユウナギも同じくらいだと嬉しいな
◆
「えー!!!」
「嘘だー!!!」
「ルージュの・・・」
「亡くなってるって・・・」
ノアさん、エストさん、シリウス、セレシュたちも呼んで紹介した。
やっぱりこういう反応になるのが普通だ。
精霊の城の人たちはちょっと変・・・。
「何度も説明するのもな・・・。シロ君、みんなにさっきの会話の記憶を」
「うん・・・特別だからね」
「いい子だね。火山にも遊びに来てね」
「うん」
ふふ、シロはずっといい子だもんね。
◆
「なるほど・・・剣に・・・」
「なんか羨ましいかも」
ノアさんとエストさんはすぐいつも通りに戻った。
あの二人はあんまり揺れなくなってるんだな・・・。
「精霊鉱の物語を知りたいです」
「ルージュのこと、たくさん教えてあげますね」
シリウスとセレシュも受け入れてくれた。
わたしの話は・・・自分で言いたいんだけど・・・。
「僕もたくさん話がしたいな。みんなから見た三人のことを聞きたい」
「とりあえず昼食の用意ができましたのでご一緒いたしましょう」
「あ、カゲロウちゃん・・・。銀の髪っていいよね。とっても綺麗だ」
「そ、そうでしょうか・・・」
お父さんは美しいものが好きだって言っていた。
それもかなり・・・なにかきっかけがあったのかな?
「そうだ・・・。ユウナギ君に会いたいんだ。ご両親もいるよね?」
お父さんはシリウスに聞いた。
あ・・・そうだよ、わたしもそうしてほしい。
「ユウナギはティムさんが配達の研修をしています。カザハナさんご夫婦は、弟子の三人と一緒に訓練場へ行きました」
「ありがとう。じゃあ、待ってようかな」
「ユウナギたちはもう戻るはずです。食べていれば来ますよ」
ふふ、ひと月会えないって思ってたからわたしも嬉しいな。
「戻りましたー」
ユウナギの声が聞こえた。
わたしのお父さんを見てどんな顔するんだろう?




